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2018年5月13日 (日)

ジャック・ヴァンス「魔王子シリーズ2 殺戮機械」ハヤカワ文庫SF 浅倉久志訳

狼星からコースをとろう
アケルナルの北寄りに
いちばん外まで飛んでいけ
サンバーの光、ほら真正面
  ――p119

【どんな本?】

 センス・オブワンダーあふれる異境を描かせたらピカ一の作家、ジャック・ヴァンスによる5巻に渡るスペース・オペラ・シリーズ第二幕。

 人類が恒星間宇宙へと進出した遠い未来。人類はオイクメーニ宙域に発展した社会を築くが、その権威が及ばない<圏外>へと向かう者も多い。

 五人の魔王子の襲撃により<圏外>の街マウント・プレザントは滅びた。祖父と共にからくも生き延びた少年カーズ・ガーセンは復讐を誓い、祖父は少年を殺人者として鍛え上げる。最初の標的「災厄のアトル・ラマゲート」を殺したガーセンは次の獲物ココル・ヘックスの足取りを追うが…

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は The Killing Machine, by Jack Vance, 1964。日本語版は1985年10月31日発行。文庫本で縦一段組み、本文約270頁に加え訳者あとがき3頁。8ポイント43字×19行×270頁=約220,590字、400字詰め原稿用紙で約552枚。文庫本としては普通の厚さ。

 文章はこなれている。内容も特に難しくない。半世紀の作品だけあって、あまり凝ったSFガジェットは出てこないので、理科が苦手でも大丈夫。前巻と同様に登場人物が多くいので、できれば登場人物一覧が欲しかった。

【感想は?】

 著者のエンジンが、だんだん暖まってきた感じ。

 今回の標的はココル・ヘックス、人の不安と恐怖を煽る天才だ。その居場所も正体も掴めないのは、前巻と同じ。だもんで、ガーセンはヘックスの手がかりを追い星々を駆け巡る。

 ただし、荒っぽくさびれた<圏外>が主な舞台で、西部劇の面影が残っていた前巻とは違い、この巻では都市部の印象が強く、ハードボイルド風味のタフな探偵物の空気が漂う。でもって、これが、あの傑作「宇宙探偵マグナス・リドルフ」で見せた、ヴァンスならではの底意地の悪さの萌芽を感じさせる。

 まず楽しいのが、IPCCとイタチ駆除部隊の関係。

 IPCCは星際保安協力機構、今の国際刑事警察機構=インターポールに近い。文明世界オイクメーニの広域警察機構で、<圏外>に逃げた凶悪犯を追う任務もある。ただし<圏外>だと捜査員はイタチと呼ばれ、忌み嫌われる存在。きっとお尋ね者がウジャウジャいるんだろうなあ。

 対するイタチ駆除部隊は、イタチを始末する組織。これが<圏外>唯一の星際的組織ってあたりが、ヴァンスらしい皮肉。もっとも、今のところは噂だけで姿は見せないけど。

 ガーセン君、今回はそのイタチ役を仰せつかる羽目になる。オヂサンは「何の因果かマッポの手先」なんて台詞を思い出したりして。そんなこんなで、探偵よろしく聞き込みを始めたガーセン君と、胡散臭い酒場にいる後ろ暗い心当たりが山ほどありそうな輩との、しぶとく陰険な駆け引きが楽しい。

 やはり駆け引きの妙が楽しめるのが、工場主マイロン・パッチとのやりとり。

 あの手の仕事に気が進まないあたりは悪い人じゃなさそうなんだが、秘密保持の手段を悪用するあたりっは、ちょっとw にしても、ケッタイなメカが出てくるSFは多いけど、その製造場面が出てくるのは珍しいし、ちょっと嬉しい。かなりワクワクすると同時に、ちょっと間抜けな感じが漂うのも面白い。

 などの次に、いかにもヴァンス的なのが、<交換所>ってシステム。確かにこういうのがあれば、スポンサーも滞在客にも有り難いけど、いいのかw しかもキチンと在庫処理まで考えているあたりが、ビジネスの国アメリカで書かれたSFらしいというか。

 そして最後の舞台が、ある意味じゃお馴染みの様式。読者も慣れてるもんだから、そういうモンだ、とか思いながら読んでいると…。ホント、こういう所にまで罠を仕掛けておく底意地の悪さが、いかにもジャンク・ヴァンスらしいと言うか。

 少し懐かしい感じのする、軽く読める娯楽作品。

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