SFマガジン2018年4月号
わたしの名はフェランテ、軍艦百卒長(センチュリオン)771の指揮官を務めている。
――アダム・ロバーツ「9と11のあいだ」内田昌行訳「今のような自動化による最適化が進んだ世界は、結局は元々抱えていたリソースの量で勝負が決まるためです」
――長谷敏司「1カップの世界」「…何とかなると思う。オフィスの人たちと、それに、私とあなたなら」
――冲方丁「マルドゥック・アノニマス」
376頁の標準サイズ。
特集は2本。まずベスト・オブ・ベスト2017として、「SFが読みたい! 2018年版」でベストSF2017の上位に選ばれた飛浩隆/小川哲/赤野工作/柞刈湯葉/アダム・ロバーツの短編を収録。次に『BEATLESS』&長谷敏司特集。
小説は豪華14本。
うち連載は5本。椎名誠のニュートラル・コーナー「謎の周回飛行物体物」,神林長平「先をゆくもの達」第2回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第19回,三雲岳斗「忘られのリメメント」最終回,藤井太洋「マン・カインド」第4回。
読み切り&不定期掲載は9本。
ベスト・オブ・ベスト2017で5本、飛浩隆「『方霊船』始末」,小川哲「魔術師」,赤野工作「邪魔にもならない」,柞刈湯葉「宇宙ラーメン重油味」,アダム・ロバーツ「9と11のあいだ」内田昌行訳。
『BEATLESS』&長谷敏司特集で1本、BEATLESSのスピンオフ長谷敏司「1カップの世界」。
加えて待ってました菅浩江「博物館惑星2・ルーキー 第二話 お開きはまだ」,上遠野浩平「憎悪人間は怒らない」,エンミ・イタランタ「骨のカンテレを抱いて」古市真由美訳。
飛浩隆「『方霊船』始末」。ワンダ・フェアフーフェン、<轍>世界では知らぬ者のいない女傑。最近は公の場に顔を出さない彼女が語る、美鷺との出会い。それは名門私立の寄宿舎学校。ワンダに半年ほど遅れてやってきた美鷺は、まさしく「鳥頭」な風貌で…
噂の大作「零號琴」のスピンオフ。いや読んでないけど。ワンダさん、雰囲気は星界シリーズのスポール様をガサツにした感じかなあ。ええトコのお嬢さんが集まる寄宿舎学校で起きる怪異って舞台設定は映画「サスペリア」みたいなホラーなんだけど、なにせ役者がワンダなんで、妙な安心感があったりw
アダム・ロバーツ「9と11のあいだ」内田昌行訳。遠未来、人類は宇宙でトレフォイル族と戦っていた。人類の軍艦百卒長771とサムライ10は、トレフォイル族の手負いの超大型艦ET13-40に攻撃を仕掛けたが…
似た部分も多いが、根本的に異なる点もあり、時として話が通じないエイリアンとの戦い。宇宙空間を舞台としたスペースオペラ…かと思ったら、バリトン・J・ベイリーばりのお馬鹿な発想が炸裂する、とっても愉快なお話。宇宙すごいw
小川哲「魔術師」。師から授けられた、マジシャンの三つの禁忌。敢えてそれを破ることで、新しいマジックを生み出せるのではないか。そう考えたマジシャン竹村理道は、空前のマジックに挑む。
掲載誌がSFマガジンかミステリ・マガジンかで解釈が違ってくる作品。私はミステリ・マガジン派で解釈した方が面白いと思う。なんたって、ウケるためには何でも犠牲にする芸人の業が伝わってくるし。それと、あの三つの禁忌って、文章書きにも使えそう。
赤野工作「邪魔にもならない」。RTA、Real Time Attack。ゲームをクリアするまでの実際の時間を競うプレイ。途中の食事・トイレ・睡眠、すべてタイムに含む。病気の発作や自然災害でも、中断は許されない。これから私が挑むのはファミリーコンピュータの「スペランカー」。
RTA とはだいぶ違うけど。私が大好きなガンパレード・マーチには、一年に一度しかできない、少し変わった遊び方があって。3月4日に始めて、毎日1日分だけ進めてセーブ。すると現実とゲームが同じ時間経過で話が進む。メーカーが用意した戦車兵・歩兵・司令・整備兵・靴下の他に、ファンが様々な遊び方を生み出し、中には仲人プレイなんてのもあり、ゲームは創造力で遊び方も広がると教えてくれた作品だった。
柞刈湯葉「宇宙ラーメン重油味」。太陽系エッジワース・カイパーベルトにある時空間移動ポータル。トリパーチ星系行きの開門まで、地球時間であと1日ある。出張からトリパーチ星系に帰る部長と課長は、近くの「エキチカ」に「どんな星系の客でも対応できる」ラーメン屋があると聞き…
部長と課長とかエキチカとかヤタイとか、命名センスが抜群。宇宙空間での調理の苦労など、細かい所へのこだわりも楽しい。かと思えば、多種多様なエイリアンの生態と、それに合わせた素材や調理用具・調理方法なども、なかなかの読みどころ。にしても、よく採算が取れるなあw
長谷敏司「1カップの世界」。2027年、16歳の時に難病で冷凍睡眠に入り、未来の医療技術に望みを賭けたエリカ・バロウズ。目覚めたのは2104年。既に災害で血縁者は全滅した。残された信託財産は膨大で、退院後は財団の理事長となる予定だ。
私たちに比較的に近い2027年の人間を、BEATLESS 世界に放り込むとどうなるかって発想が上手い。たいていの事は人間よりAIの方が巧みにやってしまう世界の違和感が、エリカの目を通してヒシヒシと伝わってくる。アナログ・ハックのバグも見事。
エンミ・イタランタ「骨のカンテレを抱いて」古市真由美訳。相棒の予告通り、すぐに依頼人がやってきた。夫を喪ったH夫人は、貸し部屋の賃貸収入で暮らしていたが、店子が居つかない。どうも隣に住む小うるさい婦人が原因らしい。相談を受けたヨハン・Sとわたしは…
貴重なフィンランドSF。解説によるとカンテレは「日本の琴にも似た多絃の民族楽器」とあるが、演奏法はバラエティに富んでいて、多様な音色を出せるみたい(→Youtube)。リズミカルだけど哀愁漂う音楽は、この物語の終幕で響く残響みたい。
椎名誠のニュートラル・コーナー「謎の周回飛行物体物」。ラクダの子宮に潜り旅するわたし。その惑星はパイプ型で、中にも内惑星があった。
今回はガングリ酒のエピソードが好きだ。人間ってのは、どこに住んでも酒は造る生き物で、「アフリカが発展しないのはヤシ酒のせいだ」なんて話もあるぐらい。だもんで、ごれぐらいの執念をかける奴もいるだろうなあ。
冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第19回。ウフコックの辛抱強い潜入捜査の成果が実を結び、また市の有力者たちの協力も得て、イースターズ・オフィスは<クィンテット>への攻撃に出る。しかし、この土壇場になって事態は急転し、乱戦模様となり…
今回は派手なバトル・アクションが楽しめる。重戦車のごとくパワーと装甲で攻めるレザーも見物だが、単純な力押しでトレヴァーと張り合うラファエル・ネイルズもなかなか。そして、終盤ではついに…
上遠野浩平「憎悪人間は怒らない」。合成人間を生み出す合成薬を作り出す製造人間、ウトセラ・ムビョウ。彼と同居するコノハ・ヒノオは、犬の散歩の途中で老人と出会う。ボンと名乗る老人は、公園のベンチに座っているだけなのに、鳩が集まってくる。ばかりか、ヒノオの犬も…
改めて考えると、ブギーポップの時から、この人の描く特殊能力の持ち主って、とっても「ヒーロー」らしいくないのが多いよなあ。ブギーポップは自覚がないし、ウトセラは面倒くさそうだし、今回の憎悪人間も…。
三雲岳斗「忘られのリメメント」最終回。額に貼るだけで他人の記憶を体験できる疑憶素子メメントが普及した未来。メメント・アーティストの深菜は、脱法MEMの調査を頼まれる。かつての連続殺人鬼・朝来野唯の模倣犯の犯行記録が出回っているという。
誰かが苦労して身に着けた技能をコピーできるってのは、やっぱり魅力だ。私としては是非パコ・デ・ルシアの…って、しつこいかw
神林長平「先をゆくもの達」第2回。火星への使者に選ばれた若生は、月へ行くシャトルに乗っていた。生まれ育ったのは安曇野原。二度と地球には戻れない。だが、若生は淡々と受け入れる。なぜ若生が使者に選ばれたのか、説明はなかった。
今回は地球の様子が語られる。言われてみれば、確かにあの作品に客室乗務員は要らないよなあ。にしても、マタゾウたちの生態は愉快というか楽しいと言うか。野良〇〇かあ。どうも地表の多くが水没してるらしいけど、ヒトはそれなりに平和にやっている様子。
菅浩江「博物館惑星2・ルーキー 第二話 お開きはまだ」。博物館惑星の新米警備員、兵頭健。今回の仕事は、若きミュージカル評論家として名高いアイリス・キャメロンの警護だ。『月と皇帝』の初演を見にきたアイリスには、脅迫状が届いていた。
録画・録音と生ってのは、やっぱり色々と違ってて。音楽でも、70年代あたりまでのライブ盤は、演奏ミスもそのままはいってたけど、80年代あたりからは録音し直してたり。でもラジオ放送とかだと、ミスもそのまま流してて、なかなか貴重な音源になる。とは別に、マシンと人間の違いも重要なテーマ。
藤井太洋「マン・カインド」第4回。ジャーナリスト迫田城兵は、軍事衝突の取材中、チェリー・イグナシオが捕虜を殺す場面を報じた。しかし、このスクープは事実確認プラットフォーム<コヴフェ>にガセネタと判断される。チェリーに頼まれ、犠牲者の遺族を訪ねる迫田は…
トレッキーはやはり「ヘイ、コンピュータ」と呼びかけるんだろうか。「第二内戦」も読みたいなあ。同じ戦争でも南と北で視点が違うのは、言われてみれば当たり前だけど、今でもくすぶってるんだろうか。レナード・スキナードのライブじゃ、今でもサザン・クロスを振り回す奴がいるし。
筒井康隆自作を語る 第6回 『虚人たち』『虚航船団』の時代。やっぱり『虚航船団』は発表当時に大騒ぎになったのか。そりゃなるよねえ。
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