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2018年3月27日 (火)

ジョエル・ベスト「あやしい統計フィールドガイド ニュースのウソの見抜き方」白揚社 林大訳

この本は、私が「スタット・スポッテング」と呼ぶ作業、つまり、疑わしい統計を見分ける作業のための指針を示している。
  ――A 疑わしい数字を見分ける

それほど深刻でない事例はたくさんあり、たいへん深刻なものは比較的少ないのだ。
  ――B 背景知識

数字は自然界には存在しない。数字は人間の努力の産物だ。だれかがわざわざ数えなければならないのである。だからまず数字の出所を特定しようとしてみればいい。
  ――D 出所 だれが、なぜ数えたのか

問題を広く定義することには利点があるので、社会問題は時がたつにつれて徐々に定義が広がり、前より広い範囲の現象に当てはまるようになりがちだ。
  ――E 定義 何を数えたのか

何かによってリスクが上がるという報道は、上昇率が200%未満ならまず無視してもかまわないと述べる専門家もいる。
  ――H 論争 意見が一致しなかったら

統計は、偏りなく事実を述べているという雰囲気をただよわせているため、政策論争で重要なのだ。
  ――H 論争 意見が一致しなかったら

「弾丸が後頭部を貫いていれば宗派間の攻撃です。前頭部を貫いていれば犯罪なのです」
  ――H 論争 意見が一致しなかったら

私の経験では、ある数字を注意深く検討すべきだという目印のひとつは、それを聞いたときにショックを受けるということだ。
  ――K あとがき

【どんな本?】

 「日本の自殺者が十万人」などと言われる。かなりショッキングな数字だ。だが、ネットで流布する話が怪しいのは、多くの人が知っている。実際はどうなんだろう?

 実は今まで、なんとなく信じていたのだが、この記事を書くために調べたら、意外や意外。

 などと、巷に流布する数字、特に統計に関わる数字は、奇妙なものがよくある。なぜ変な数字になるのか。どんな数字が怪しいのか。見破るにはどうすればいいのか。逆に信頼できる数字には、どんな特徴があるのか。

 「統計という名のウソ」に続く、ニュースや噂などの数字の受け止め方をレクチャーする、一般向けの解説書。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は Stat-Spotting : A Field Guide to Identifying Dubious Data, by Joel Best, 2008。日本語版は2011年12月20日第一版第一刷発行。単行本ハードカバー縦一段組みで本文約183頁に加え、訳者あとがき3頁。10ポイント40字×15行×183頁=約109,800字、400字詰め原稿用紙で約275枚。文庫本なら薄い一冊分。

 文章は比較的にこなれている。内容も特に難しくない。書名に「統計」が入っているが、数学が苦手でも大丈夫。加減乗除がわかれば充分についていける。

【構成は?】

 各章は比較的に独立しているので、面白そうな所だけを拾い読みしてもいい。

  • 第1部 さあ始めよう
  • A 疑わしい数字を見分ける
  • B 背景知識
    • B1 統計のベンチマーク
    • B2 重大さと頻度
  • 第2部 さまざまな種類の疑わしいデータ
  • C 間違い
    • C1 危なっかしい小数点
    • C2 間違った言い換え
    • C3 誤解を招くグラフ
    • C4 不注意な計算
  • D 出所 だれが、なぜ数えたのか
    • D1 大きな、きりのいい数
    • D2 誇張
    • D3 ショッキングな主張
    • D4 問題を名づける
  • E 定義 何を数えたのか
    • E1 広い定義
    • E2 広がる定義
    • E3 変化する定義
    • E4 勘定に入らないもの
  • F 計測 どうやって数えたのか
    • F1 尺度をつくりだす
    • F2 奇妙な分析単位
    • F3 誘導質問
    • F4 ハードルを上げる
    • F5 専門的な選択
  • G パッケージ 何を言っているのか
    • G1 印象的な形式
    • G2 誤解を招くサンプル
    • G3 好都合な時間枠
    • G4 特異なパーセンテージ
    • G5 選択的な比較
    • G6 統計数字の大台
    • G7 並みの値
    • G8 蔓延
    • G9 相関関係
    • G10 発見
  • H 論争 意見が一致しなかったら
    • H1 因果関係論争
    • H2 平等論争
    • H3 政策論争
  • 第3部 自分でスタット・スポッティング
  • I まとめ 疑わしいデータの目印
  • J よいデータ いくつかの特徴
  • K あとがき そんなにひどいとは思ってもみなかったというなら、そんなにひどくはないのだろう
  • L スタット・スポッティングを続けたい人のための助言
  • 謝辞/訳者あとがき/註

【感想は?】

 だいたいの方向性は、「統計という名のウソ」と同じだ。本書の方が薄いので、分厚い本が苦手な人は、本書の方がいいかも。

 先の構成にあるように、ケッタイな数字となる原因ごとに章をわけている。それぞれに具体的な例を挙げ、ケッタイな数字が出てきたメカニズムを明らかにしてゆく。

 前著と違うもう一つの点は、大雑把に数字を確かめる手段を、具体的に数字を挙げて書いている点だろう。この本で出ているのは、アメリカの例だ。

  • 人口:約3憶人
  • 出生数:約400万人
  • 死亡数:約240万人
  • 交通事故死者数:約4万3千人
  • 自殺者数:約3万2千人
  • 殺人被害者数:約1万7千人
  • アフリカ系アメリカ人:約13%弱≒約4千万人
  • ヒスパニック系アメリカ人:約14%≒約4千2百万人
  • GDP:約13兆ドル(2017年は18.6兆ドル)

 うち幾つか、日本の数字も調べてみた。

  • 人口:約1憶2千万(→総務省統計局、2018年3月概算)
  • 出生数:約100万人(→総務省統計局、2016年、.xls)
  • 死亡数:約130万人(→総務省統計局、2016年、.xls)
  • 交通事故死者数:約4千人(→警察庁交通局、2016年、PDF)
  • 自殺者数:約2万1千人(→警察庁、2017年、PDF) 男が約1万5千、女が約6千5百
  • 殺人被害者数:752人(→警察庁、2016年、PDF)
  • GDP:約5兆ドル≒約500兆円(→内閣府、2017年、PDF)

余計なおせっかいだが、ネットで数字を調べる際は、サイト名の末尾が go.jp または ac.jp の物を使うといい。go.jp は政府関係、ac.jp は大学・高校など教育・研究機関のサイトだ。

 で、「日本の自殺者が十万人」って数字は、どこから出てきたんだろう? というのは置いといて、これらが判ると、他の数字も「だいたいのところ」が判る。

 例えば選挙権を20歳から18歳に引き下げた場合、有権者は何人増えるんだろうか?

 年間の出生数が100万人だから、18歳の人の数も同じぐらいだろう。新しく選挙権を得るのは18歳と19歳だから、2年分、つまり100万×2で約200万人増えると考えられる。なお実際は約250万人ぐらい。

もっとも、この数字、年金の受給年齢の引き下げ/引き上げには当てはまらないのが痛い。というのも、少子化と「団塊の世代」の問題で、66歳~69歳は、各年齢ごとの人数が200万人を超えているからだ(→総務省統計局、xls)。

 ちょっと笑っちゃったのが、「太りすぎ」の話。BMIで正常とされる人の死亡数と比べると、そうでない場合はどれぐらい亡くなっているかを計算すると…

  • やせすぎ(BMIが18未満):+3万4千
  • 太りすぎ(BMIが25~29):-8万6千
  • 肥満(BMIが30以上):+11万2千

 へ? これを見る限り、少し太りすぎなぐらいが最も長生きできるって事になる。なら「正常」の値を見直した方がいいんでない?

 他にも、「大台に乗った」のがニュースになるのに冷や水を浴びせてる所では、昔の「ホームページ」の「キリ番」を思い出して、ちょっと苦笑いしちゃったり。でも気になるんだよなあ。

 やはり「数字の出し方」が気になるのが、所得。お金持ちの人は少なく、貧乏人は多い。だもんで平均はあまし意味がなくて、大事なのは中央値。ってんで、厚生省労働省(pdf)のサイトを見ると、平均所得は547.5万円、中央値は427万円、最頻値は200万円~300万円。

 「皆さん、案外と稼いでるのね」と思ったが、単位が大事。これ所得の単位が「世帯」なのだ。最近は共働きも多いから…と思って共働きの割合を調べたら、やっぱり増えてて、約6割(→厚生労働省、pdf)。

 などと、何かと自分で調べたくなる本だった。

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