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2018年3月29日 (木)

新井素子「通りすがりのレイディ」出版芸術社

「わたしはそう簡単に殺されてあげるような素直な女じゃありません」
  ――通りすがりのレイディ

【どんな本?】

 SF・ホラー・コメディ・エッセイと多彩な分野で活躍し、またライトノベルの祖の一人でもある新井素子による、初期の長編シリーズ第二弾。長編「通りすがりのレイディ」に加え、書き下ろし短編「中谷広明の決断」を収録。

 人口過密な地球から家出した19歳の森村あゆみは、トラブルに巻き込まれた末、火星に住居と職を得る。水沢総合事務所、俗称やっかいごとよろず引き受け業。なんでも屋と私立探偵を兼ねたような仕事で、所長を含め六人の小さな所帯だ。

 勤め始めて一年ほどたち、仕事にも職場にも慣れたころ。先輩の山崎太一郎の家を訪ねたあゆみは、魅力的な喪服の美女に出会う。思わず見とれていたあゆみの目の前で、美女は崩れ落ちた。撃たれたのだ。

 これをきっかけに、あゆみは大騒動のド真ん中に放り込まれ…

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 元は集英社文庫コバルトシリーズ「通りすがりのレイディ」として1982年に発行した作品。これの一部を手直しし、短編「中谷広明の決断」を加え、2016年9月16日に出版芸術社より第一刷発行。

 単行本ソフトカバーで縦一段組み、本文約317頁に加え、お待ちかね書き下ろしのあとがき9頁。9.5ポイント42字×17行×317頁=約226,338字、400字詰め原稿用紙で約566枚。文庫本なら普通の厚さの一冊分。

 文章は例の新井素子調。一人称「あたし」で、親しみやすい話ことばっぽい文体。内容はSFだが、特に難しい理屈は出てこないので、理科や数学が苦手でも大丈夫。

【感想は?】

 これぞ若者向け娯楽小説の王道。

 読みやすく親しみやすい文章で、テンポよくストーリーが転がってゆく。お話の構成も見事で、序盤から中盤に向け謎が深まってゆき、と同時に事件の規模も雪だるま式に膨れ上がってゆく。「おいおい、ここまで風呂敷を広げて大丈夫か?」と不安になりながら読み進むと…

 なんといっても、レイディがいい。あゆみより少し年上ながら、可愛らしさを充分に残している。なんて見とれてたら、実はとんでもない武闘派のスーパーレディで、悠々と主役のあゆみを喰っちゃっう大活躍。

 「星へ行く船」にもちょろっとチャンドラーが出てきたけど、彼女は女版マーロウとでも言うか。単にバトルに強いだけでなく、頭の回転も速く機転が利き、洒落た台詞を連発するのに加え、とんでもなくタフで前向き。

 こんなん年頃の娘さんに読ましたら、そりゃ惚れてまうやろ。当時、レイディに憧れた女の子は多いだろうなあ…と思って Amazon のレビューを見たら、やっぱりいた。そりゃそうだよねえ。決して完璧じゃない所まで、愛しくなってしまう。

 なんて謎めいた美女は、かつて水沢総合事務所と縁があり、しかも彼女が関わっている事件はやたらと深い闇につながっていて…

 とかの謎解きも面白いが、それを彩るアクションが派手なのも、今回の読みどころ。「星へ行く船」でのアクションの多くが、狭い船内の限られた空間で展開するのに対し、今回は市街地・高級ホテル・郊外、果ては〇〇にまで飛び出すバラエティ豊かな舞台。

 これもレイディの登場あってのものだろうなあ。一応はあゆみのアクションもあるんだけど、なにせアレあゆみなんで、どうしてもアクションというよりドタバタ・ギャグになってしまうw 特に宇宙服騒ぎのあたりは、読んでて笑いが止まらなかった。そりゃビビるわなあw しばらく悪夢にうなされるんじゃなかろか。

 可笑しいと言えば、あゆみと村田とのかけあい漫才も楽しいところ。村田さん、ノリがいいというか乗せられやすいというか。きっとモノゴトを論理的に考える人なんだろうなあ。だから、脱線だらけのあゆみには意表をつかれて足元をすくわれちゃう。いや悪役なんだけどね、本来はw

 どうも私の脳内じゃ村田は「すすめ!パイレーツ」の村田になっちゃって、なまじ具体的にイメージが沸く分、余計にギャグのキレが増してしまう。

 裏社会の空気を漂わせつつ、その道のプロ意識があって、冗談が通じそうにない、そんな役者さんを想像して読んでみよう。私のようなオッサンは、若い頃の渡哲也や高倉健を思い浮かべるけど、そこは読む人のお好みに合わせて。

 とかのキャラクターもいいが、ストーリーも中盤以降は怒涛の展開。特に事件の構造が明らかになり、あゆみが解決に向けて突っ走り始めるあたりから、「ここまでやっちゃってシリーズが続けられるんだろうか?」と変に心配しちゃったり。

 きっと「図書館戦争」の有川浩も、これ読んでるんだろうなあ…と思ったら、やっぱりお気に入りだった(→週刊現代)。若い娘さんが主役で、職場の先輩が頼れるオトナってあたりが、似た匂いを放ってて。堂上の背がアレな所も太一郎とカブったり。

 そんなわけで、有川浩が好きな人にもお薦め。にしても、当時、新刊で読んでいた人は、さぞかし次巻が待ち遠しかったろう、と思える幕引きだった。

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