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2018年3月30日 (金)

新井素子「カレンダー・ガール」出版芸術社

あずかった。ついては我々の支示に
察に連落した場合女の命の保
  ――カレンダー・ガール

「あの二人、たたき殺してやる」
  ――カレンダー・ガール

【どんな本?】

 デビュー作「あたしの中の…」から、若い女の子の話ことばをそのまま書き起こしたような文体で、喧々囂々の議論を巻き起こした新井素子による、初期の長編シリーズ第三弾。長編「カレンダー・ガール」に加え、書き下ろし短編「熊谷正浩は“おもし”」を収録。

 人類が宇宙へと積極的に進出している未来。森村あゆみは19歳で地球から家出し、火星で職と住処にありつき、間もなく21歳になる。

 職場は水沢総合事務所。所長の水沢良行、事務担当の田崎麻子、元ベテラン商社マンの熊谷正浩、自称腕利き探偵の山崎太一郎、あゆみと同期で情報屋の中谷広明、そして森村あゆみの小さな所帯だ。職務内容は、やっかいごとよろず引き受け業、平たく言えば私立探偵兼なんでも屋。

 仕事中毒の所長・水沢良行がやっと折れ、めでたく麻子さんと挙式とあいなった。一カ月の予定で太陽系をめぐる新婚旅行に出かけた二人。だが、さっそく困った事態に陥ってしまう。どうも麻子さんが誘拐されたらしい。しかし、残された脅迫状とおぼしき紙片には…

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 元は集英社文庫コバルトシリーズ「カレンダー・ガール」として1983年に発行した作品。これの一部を手直しし、短編「熊谷正浩は“おもし”」を加え、2016年11月25日に出版芸術社より第一刷発行。

 単行本ソフトカバーで縦一段組み、本文約334頁に加え、定番の書き下ろしのあとがき7頁。9.5ポイント42字×17行×334頁=約238,476字、400字詰め原稿用紙で約597枚。文庫本なら普通の厚さの一冊分。

 文章は例の新井素子調。かなり個性が強いが、最近のライトノベルに慣れていれば問題はないだろう。内容はSFとはいえ、特に難しい理屈は出てこないので、理科や数学が苦手でも大丈夫。

【感想は?】

 わはは。新井素子版スペース・オペラだ。

 謎めきつつもスピーディーな展開は相変わらずで、結婚式からケッタイな誘拐とその真相まで、テンポのいいコメディを織り交ぜながら、お話はポンポンと進む。

 このコメディ、特に男女がセットになると、夫婦漫才よろしく、口のまわる女性陣に、モゴモゴと話す男性陣がタジタジとなる展開が多いのは、この人の芸風なんだろうかw 前の村田とあゆみのように素っ頓狂な会話も健在で、この事務所は常識じゃ測れない事件に巻き込まれる運命らしい。

 ゲストのヒロインが魅力的なのも、前の「通りすがりのレイディ」と同じで。あんな無敵にカッコいいお姉さんを出しちゃったら、もう後がないだろうと思ったら、そうきたかあ。きっと彼女にとっては、麻子さんが「レイディ」に見えるんだろうなあ。

 その麻子さんのカッコよさには、レイディが不可欠だったりするあたり、仕込みの巧みさが光ってる。なまじデキる人が身近にいると、どうしても自分の存在意義に不安を感じるもので。

 もっとも、オッサンになった今から思うと、そういう「上を見る姿勢」を持ち、自分に足りない物を知ってる人って、伸びるんだよね、ジリジリと。何より、伸びようとするからこそ、不安感を持つんだし。そういう所も含めて、今回のヒロインも滅茶苦茶カッコよくて可愛い。

 とかに加えて、コッソリとオッサン好みの隠し味まで仕込んでるから、この人は憎い。

 目次を見てスグのわかるのは、書き下ろし短編「熊谷正浩は“おもし”」。

 今までの所は、なんか冴えないが気のいいオッサンに見える熊谷さんが主役を務める作品。緊張すると腹を下す人には、身に染みる話です。いやホント、ヒトゴトじゃないのよ。初対面の人相手に、いきなり「トイレどこですか?」なんて聞く時の体面の悪さったら。

 やはり身につまされるのが、近藤さん。きっと、あんまし見た目は良くないんだろうなあ。それだけに、「これしかない」と思っちゃったんじゃなかろか。生い立ちもあって、どうすりゃいいか、わかんなかったんだろうなあ。切ないねえ。でも、顧客の事情もよく知ってるあたりは、さすがと言うか。

 にしても、理想とステテコってのは…。先の熊谷さんも同じなんだけど、理屈と生の現実って、違うんだよね、どうしても。最近読んだ統計の本なんてのは、完全に理屈の世界で、それはそれで大事なんだけど、現場はまた違ってて…。

 加えて怪談やら忍法帖やら、オッサン向けのクスグリをコッソリ仕掛けてあるのは、どういう事なんだろうw 確か初出は高校生向け雑誌の連載のはずなんだがw

 いや、ちゃんと若者向けの話でもあるんだ。何より、視野が広がっていく感覚。

 開幕編の「星へ行く船」では、主に狭い個室でドラマが終始した、続く「通りすがりのレイディ」は、火星の市街へと舞台が広がる。そしてこの作品では、火星軌道の外側までビュンビュンと飛び回る。この「広さ」を感じさせるあたりが、とっても心地いい。

 そして、逆襲に転じてから始まる、パワフルなアクション。もっとも、最後の最後までパワフルなのはアレだけどw 近藤さんの気持ちが、少しはわかったんじゃないかなw

 と、ニヤニヤして読みながらも、入念な仕込みに舌を巻いた第三弾。この先、どう翻弄してくれるんだろう。

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