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2018年3月の13件の記事

2018年3月30日 (金)

新井素子「カレンダー・ガール」出版芸術社

あずかった。ついては我々の支示に
察に連落した場合女の命の保
  ――カレンダー・ガール

「あの二人、たたき殺してやる」
  ――カレンダー・ガール

【どんな本?】

 デビュー作「あたしの中の…」から、若い女の子の話ことばをそのまま書き起こしたような文体で、喧々囂々の議論を巻き起こした新井素子による、初期の長編シリーズ第三弾。長編「カレンダー・ガール」に加え、書き下ろし短編「熊谷正浩は“おもし”」を収録。

 人類が宇宙へと積極的に進出している未来。森村あゆみは19歳で地球から家出し、火星で職と住処にありつき、間もなく21歳になる。

 職場は水沢総合事務所。所長の水沢良行、事務担当の田崎麻子、元ベテラン商社マンの熊谷正浩、自称腕利き探偵の山崎太一郎、あゆみと同期で情報屋の中谷広明、そして森村あゆみの小さな所帯だ。職務内容は、やっかいごとよろず引き受け業、平たく言えば私立探偵兼なんでも屋。

 仕事中毒の所長・水沢良行がやっと折れ、めでたく麻子さんと挙式とあいなった。一カ月の予定で太陽系をめぐる新婚旅行に出かけた二人。だが、さっそく困った事態に陥ってしまう。どうも麻子さんが誘拐されたらしい。しかし、残された脅迫状とおぼしき紙片には…

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 元は集英社文庫コバルトシリーズ「カレンダー・ガール」として1983年に発行した作品。これの一部を手直しし、短編「熊谷正浩は“おもし”」を加え、2016年11月25日に出版芸術社より第一刷発行。

 単行本ソフトカバーで縦一段組み、本文約334頁に加え、定番の書き下ろしのあとがき7頁。9.5ポイント42字×17行×334頁=約238,476字、400字詰め原稿用紙で約597枚。文庫本なら普通の厚さの一冊分。

 文章は例の新井素子調。かなり個性が強いが、最近のライトノベルに慣れていれば問題はないだろう。内容はSFとはいえ、特に難しい理屈は出てこないので、理科や数学が苦手でも大丈夫。

【感想は?】

 わはは。新井素子版スペース・オペラだ。

 謎めきつつもスピーディーな展開は相変わらずで、結婚式からケッタイな誘拐とその真相まで、テンポのいいコメディを織り交ぜながら、お話はポンポンと進む。

 このコメディ、特に男女がセットになると、夫婦漫才よろしく、口のまわる女性陣に、モゴモゴと話す男性陣がタジタジとなる展開が多いのは、この人の芸風なんだろうかw 前の村田とあゆみのように素っ頓狂な会話も健在で、この事務所は常識じゃ測れない事件に巻き込まれる運命らしい。

 ゲストのヒロインが魅力的なのも、前の「通りすがりのレイディ」と同じで。あんな無敵にカッコいいお姉さんを出しちゃったら、もう後がないだろうと思ったら、そうきたかあ。きっと彼女にとっては、麻子さんが「レイディ」に見えるんだろうなあ。

 その麻子さんのカッコよさには、レイディが不可欠だったりするあたり、仕込みの巧みさが光ってる。なまじデキる人が身近にいると、どうしても自分の存在意義に不安を感じるもので。

 もっとも、オッサンになった今から思うと、そういう「上を見る姿勢」を持ち、自分に足りない物を知ってる人って、伸びるんだよね、ジリジリと。何より、伸びようとするからこそ、不安感を持つんだし。そういう所も含めて、今回のヒロインも滅茶苦茶カッコよくて可愛い。

 とかに加えて、コッソリとオッサン好みの隠し味まで仕込んでるから、この人は憎い。

 目次を見てスグのわかるのは、書き下ろし短編「熊谷正浩は“おもし”」。

 今までの所は、なんか冴えないが気のいいオッサンに見える熊谷さんが主役を務める作品。緊張すると腹を下す人には、身に染みる話です。いやホント、ヒトゴトじゃないのよ。初対面の人相手に、いきなり「トイレどこですか?」なんて聞く時の体面の悪さったら。

 やはり身につまされるのが、近藤さん。きっと、あんまし見た目は良くないんだろうなあ。それだけに、「これしかない」と思っちゃったんじゃなかろか。生い立ちもあって、どうすりゃいいか、わかんなかったんだろうなあ。切ないねえ。でも、顧客の事情もよく知ってるあたりは、さすがと言うか。

 にしても、理想とステテコってのは…。先の熊谷さんも同じなんだけど、理屈と生の現実って、違うんだよね、どうしても。最近読んだ統計の本なんてのは、完全に理屈の世界で、それはそれで大事なんだけど、現場はまた違ってて…。

 加えて怪談やら忍法帖やら、オッサン向けのクスグリをコッソリ仕掛けてあるのは、どういう事なんだろうw 確か初出は高校生向け雑誌の連載のはずなんだがw

 いや、ちゃんと若者向けの話でもあるんだ。何より、視野が広がっていく感覚。

 開幕編の「星へ行く船」では、主に狭い個室でドラマが終始した、続く「通りすがりのレイディ」は、火星の市街へと舞台が広がる。そしてこの作品では、火星軌道の外側までビュンビュンと飛び回る。この「広さ」を感じさせるあたりが、とっても心地いい。

 そして、逆襲に転じてから始まる、パワフルなアクション。もっとも、最後の最後までパワフルなのはアレだけどw 近藤さんの気持ちが、少しはわかったんじゃないかなw

 と、ニヤニヤして読みながらも、入念な仕込みに舌を巻いた第三弾。この先、どう翻弄してくれるんだろう。

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2018年3月29日 (木)

新井素子「通りすがりのレイディ」出版芸術社

「わたしはそう簡単に殺されてあげるような素直な女じゃありません」
  ――通りすがりのレイディ

【どんな本?】

 SF・ホラー・コメディ・エッセイと多彩な分野で活躍し、またライトノベルの祖の一人でもある新井素子による、初期の長編シリーズ第二弾。長編「通りすがりのレイディ」に加え、書き下ろし短編「中谷広明の決断」を収録。

 人口過密な地球から家出した19歳の森村あゆみは、トラブルに巻き込まれた末、火星に住居と職を得る。水沢総合事務所、俗称やっかいごとよろず引き受け業。なんでも屋と私立探偵を兼ねたような仕事で、所長を含め六人の小さな所帯だ。

 勤め始めて一年ほどたち、仕事にも職場にも慣れたころ。先輩の山崎太一郎の家を訪ねたあゆみは、魅力的な喪服の美女に出会う。思わず見とれていたあゆみの目の前で、美女は崩れ落ちた。撃たれたのだ。

 これをきっかけに、あゆみは大騒動のド真ん中に放り込まれ…

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 元は集英社文庫コバルトシリーズ「通りすがりのレイディ」として1982年に発行した作品。これの一部を手直しし、短編「中谷広明の決断」を加え、2016年9月16日に出版芸術社より第一刷発行。

 単行本ソフトカバーで縦一段組み、本文約317頁に加え、お待ちかね書き下ろしのあとがき9頁。9.5ポイント42字×17行×317頁=約226,338字、400字詰め原稿用紙で約566枚。文庫本なら普通の厚さの一冊分。

 文章は例の新井素子調。一人称「あたし」で、親しみやすい話ことばっぽい文体。内容はSFだが、特に難しい理屈は出てこないので、理科や数学が苦手でも大丈夫。

【感想は?】

 これぞ若者向け娯楽小説の王道。

 読みやすく親しみやすい文章で、テンポよくストーリーが転がってゆく。お話の構成も見事で、序盤から中盤に向け謎が深まってゆき、と同時に事件の規模も雪だるま式に膨れ上がってゆく。「おいおい、ここまで風呂敷を広げて大丈夫か?」と不安になりながら読み進むと…

 なんといっても、レイディがいい。あゆみより少し年上ながら、可愛らしさを充分に残している。なんて見とれてたら、実はとんでもない武闘派のスーパーレディで、悠々と主役のあゆみを喰っちゃっう大活躍。

 「星へ行く船」にもちょろっとチャンドラーが出てきたけど、彼女は女版マーロウとでも言うか。単にバトルに強いだけでなく、頭の回転も速く機転が利き、洒落た台詞を連発するのに加え、とんでもなくタフで前向き。

 こんなん年頃の娘さんに読ましたら、そりゃ惚れてまうやろ。当時、レイディに憧れた女の子は多いだろうなあ…と思って Amazon のレビューを見たら、やっぱりいた。そりゃそうだよねえ。決して完璧じゃない所まで、愛しくなってしまう。

 なんて謎めいた美女は、かつて水沢総合事務所と縁があり、しかも彼女が関わっている事件はやたらと深い闇につながっていて…

 とかの謎解きも面白いが、それを彩るアクションが派手なのも、今回の読みどころ。「星へ行く船」でのアクションの多くが、狭い船内の限られた空間で展開するのに対し、今回は市街地・高級ホテル・郊外、果ては〇〇にまで飛び出すバラエティ豊かな舞台。

 これもレイディの登場あってのものだろうなあ。一応はあゆみのアクションもあるんだけど、なにせアレあゆみなんで、どうしてもアクションというよりドタバタ・ギャグになってしまうw 特に宇宙服騒ぎのあたりは、読んでて笑いが止まらなかった。そりゃビビるわなあw しばらく悪夢にうなされるんじゃなかろか。

 可笑しいと言えば、あゆみと村田とのかけあい漫才も楽しいところ。村田さん、ノリがいいというか乗せられやすいというか。きっとモノゴトを論理的に考える人なんだろうなあ。だから、脱線だらけのあゆみには意表をつかれて足元をすくわれちゃう。いや悪役なんだけどね、本来はw

 どうも私の脳内じゃ村田は「すすめ!パイレーツ」の村田になっちゃって、なまじ具体的にイメージが沸く分、余計にギャグのキレが増してしまう。

 裏社会の空気を漂わせつつ、その道のプロ意識があって、冗談が通じそうにない、そんな役者さんを想像して読んでみよう。私のようなオッサンは、若い頃の渡哲也や高倉健を思い浮かべるけど、そこは読む人のお好みに合わせて。

 とかのキャラクターもいいが、ストーリーも中盤以降は怒涛の展開。特に事件の構造が明らかになり、あゆみが解決に向けて突っ走り始めるあたりから、「ここまでやっちゃってシリーズが続けられるんだろうか?」と変に心配しちゃったり。

 きっと「図書館戦争」の有川浩も、これ読んでるんだろうなあ…と思ったら、やっぱりお気に入りだった(→週刊現代)。若い娘さんが主役で、職場の先輩が頼れるオトナってあたりが、似た匂いを放ってて。堂上の背がアレな所も太一郎とカブったり。

 そんなわけで、有川浩が好きな人にもお薦め。にしても、当時、新刊で読んでいた人は、さぞかし次巻が待ち遠しかったろう、と思える幕引きだった。

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2018年3月28日 (水)

新井素子「星へ行く船」出版芸術社

「俺たちは巨大なごみ捨て場――莫迦でかい墓場に囲まれていきているんだ」
  ――星へ行く船

【どんな本?】

 デビュー作から独特の文体で話題を呼び、SF・ホラー・コメディ・エッセイと多彩な分野で活躍し、またライトノベルの祖の一人でもある新井素子の、初期の長編シリーズ開幕編。中編「星へ行く船」「雨の降る星 遠い夢」の二編に加え、書き下ろし短編「水沢良行の決断」を収録。

 地球は人口過密に苦しみ、宇宙への植民が盛んになった未来。19歳の森村は、地球から宇宙へと旅立とうとしていた。乗り込むのは定期宇宙船ダフネ18号、目的地は惑星シイナ。ただし一つ気がかりがある。パスポートは、2歳年上の兄のものを失敬してきたのだ。

 なんとかゲートは通過したものの、出発早々に問題が起きた。事情があって異様に料金が高い個室を予約したはずなのだが、既に先客がいる。どうもダブル・ブッキングされたらしい。困った事にダフネ18号に個室はひとつだけ。先客は「俺のまわりにいると危ない」などと物騒な言葉を吐き、譲ろうとしない。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 元は集英社文庫コバルトシリーズ「星へ行く船」として1981年に発行した作品。これの一部を手直しし、短編「水沢良行の決断」を加え、2016年9月16日に出版芸術社より第一刷発行。

 単行本ソフトカバーで縦一段組み、本文約286頁に加え、お待ちかね書き下ろしのあとがき7頁。9.5ポイント42字×17行×286頁=約204,204字、400字詰め原稿用紙で約511枚。文庫本なら普通の厚さの一冊分。

 文章は例の新井素子調。一人称「あたし」が、若い娘さんの口調で語る形で話が進む。当時はこの文体が議論をかもした。新井素子によるライトノベルへの多大な貢献の一つだろう。内容はSFだが、特に難しい理屈は出てこないので、理科や数学が苦手でも大丈夫。

【感想は?】

 あれ? 一人称が「あたし」じゃない。

 なんて違和感を持てるのも、今ならではではだなあ、なんて感慨にふけってしまう。

 SF者としては、冒頭の宇宙船に乗り込むあたりから、細かい気配りに嬉しくなったり。例えば、肝心の定期宇宙船は「宙に浮かんで」いて、宙港にはない。デカすぎて地上との往復に耐えられないんだろう。だもんで、地球から定期宇宙船までは、小型の宇宙艇で往復する。

 とっても合理的な設定なんだが、そこんとこを理屈っぽくもしつこくも小難しくもなくアッサリと流し、SFに慣れない人にもアレルギーを感じさせないように処理してるあたりは、さすが売れる人は違う、と感じさせる。

 この「さりげなく作り込まれた設定」は、この記事を書くため改めて読み直すと、他にも色々と見つかる。「星へ行く船」の中ほどに描かれる、森村が過ごした地球の田舎の様子も、未来の風景を未来の子供の視点で描き、生活感がありながらもセンス・オブ・ワンダーを感じさせてくれる。

 とかのSF者のこだわりはおいて。

 お話として読むと、とにかく展開がスピーディーでコロコロ転がっていき、どんでん返しの連続になっているのも見事。こういう話は、どうも紹介しにくいんだよなあ。序盤から沢山の伏線が仕掛けてあるから、下手なことは書けないし。

 さすがに30年以上前の作品だけあって、今読むから感じる時代性みたいなのも色々と。私が一番感じたのは、煙草。困った事に個室がカチあっちゃった先客の太一郎、スパスパ吸いまくる。今ならきっと非難ごうごうだろう。当時は大らかだったなあ。

 コンピュータ関係が全く出てこないのも、当時ならでは。まあ、これは時を経たSFを読む際のお約束で、「そういうもの」としてスルーしよう。

 続く「雨の降る星 遠い夢」は、若い娘さんが自分の足で歩き始める物語。ちょっと自分が職に就いたばかりの頃を思い出し、「そういえばそうだったなあ」なんて気持ちになったり。

 なんたって、社会人になったのだ。いつまでもネンネ扱いされるのは、なんか納得いかない。ちゃんと「仕事をした」って手ごたえが欲しい。同期に差をつけられてるなら、なおさらだ。ってんで、張り切るのはいいが…

 とかの若者ならではの気負いには、ついつい遠い目になっちゃうが、舌を巻いたのが会話の巧さ。

 これがよく表れてると感じたのは、ターゲットの会社に突撃取材する場面。受付嬢の台詞が、単に読者に情報を伝えるだけでなく、それぞれの人物がそれぞれをどう見ているか、どんな気持ちを抱いているか、そういった「気持ち」や「空気」まで、短い文章に巧みに織り込んでいる。

 とか思って「これは若い娘さんを主役に据えた○○ビンビン物語なのね」などと油断してると、終盤で全体重を乗せた右ストレートを放ってくるから侮れない。

 なんて難しいことは考えず、「スラスラ読める楽しい物語」ぐらいに思って手に取ってみよう。楽しく読めるのは確実に保証できるから。

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2018年3月27日 (火)

ジョエル・ベスト「あやしい統計フィールドガイド ニュースのウソの見抜き方」白揚社 林大訳

この本は、私が「スタット・スポッテング」と呼ぶ作業、つまり、疑わしい統計を見分ける作業のための指針を示している。
  ――A 疑わしい数字を見分ける

それほど深刻でない事例はたくさんあり、たいへん深刻なものは比較的少ないのだ。
  ――B 背景知識

数字は自然界には存在しない。数字は人間の努力の産物だ。だれかがわざわざ数えなければならないのである。だからまず数字の出所を特定しようとしてみればいい。
  ――D 出所 だれが、なぜ数えたのか

問題を広く定義することには利点があるので、社会問題は時がたつにつれて徐々に定義が広がり、前より広い範囲の現象に当てはまるようになりがちだ。
  ――E 定義 何を数えたのか

何かによってリスクが上がるという報道は、上昇率が200%未満ならまず無視してもかまわないと述べる専門家もいる。
  ――H 論争 意見が一致しなかったら

統計は、偏りなく事実を述べているという雰囲気をただよわせているため、政策論争で重要なのだ。
  ――H 論争 意見が一致しなかったら

「弾丸が後頭部を貫いていれば宗派間の攻撃です。前頭部を貫いていれば犯罪なのです」
  ――H 論争 意見が一致しなかったら

私の経験では、ある数字を注意深く検討すべきだという目印のひとつは、それを聞いたときにショックを受けるということだ。
  ――K あとがき

【どんな本?】

 「日本の自殺者が十万人」などと言われる。かなりショッキングな数字だ。だが、ネットで流布する話が怪しいのは、多くの人が知っている。実際はどうなんだろう?

 実は今まで、なんとなく信じていたのだが、この記事を書くために調べたら、意外や意外。

 などと、巷に流布する数字、特に統計に関わる数字は、奇妙なものがよくある。なぜ変な数字になるのか。どんな数字が怪しいのか。見破るにはどうすればいいのか。逆に信頼できる数字には、どんな特徴があるのか。

 「統計という名のウソ」に続く、ニュースや噂などの数字の受け止め方をレクチャーする、一般向けの解説書。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は Stat-Spotting : A Field Guide to Identifying Dubious Data, by Joel Best, 2008。日本語版は2011年12月20日第一版第一刷発行。単行本ハードカバー縦一段組みで本文約183頁に加え、訳者あとがき3頁。10ポイント40字×15行×183頁=約109,800字、400字詰め原稿用紙で約275枚。文庫本なら薄い一冊分。

 文章は比較的にこなれている。内容も特に難しくない。書名に「統計」が入っているが、数学が苦手でも大丈夫。加減乗除がわかれば充分についていける。

【構成は?】

 各章は比較的に独立しているので、面白そうな所だけを拾い読みしてもいい。

  • 第1部 さあ始めよう
  • A 疑わしい数字を見分ける
  • B 背景知識
    • B1 統計のベンチマーク
    • B2 重大さと頻度
  • 第2部 さまざまな種類の疑わしいデータ
  • C 間違い
    • C1 危なっかしい小数点
    • C2 間違った言い換え
    • C3 誤解を招くグラフ
    • C4 不注意な計算
  • D 出所 だれが、なぜ数えたのか
    • D1 大きな、きりのいい数
    • D2 誇張
    • D3 ショッキングな主張
    • D4 問題を名づける
  • E 定義 何を数えたのか
    • E1 広い定義
    • E2 広がる定義
    • E3 変化する定義
    • E4 勘定に入らないもの
  • F 計測 どうやって数えたのか
    • F1 尺度をつくりだす
    • F2 奇妙な分析単位
    • F3 誘導質問
    • F4 ハードルを上げる
    • F5 専門的な選択
  • G パッケージ 何を言っているのか
    • G1 印象的な形式
    • G2 誤解を招くサンプル
    • G3 好都合な時間枠
    • G4 特異なパーセンテージ
    • G5 選択的な比較
    • G6 統計数字の大台
    • G7 並みの値
    • G8 蔓延
    • G9 相関関係
    • G10 発見
  • H 論争 意見が一致しなかったら
    • H1 因果関係論争
    • H2 平等論争
    • H3 政策論争
  • 第3部 自分でスタット・スポッティング
  • I まとめ 疑わしいデータの目印
  • J よいデータ いくつかの特徴
  • K あとがき そんなにひどいとは思ってもみなかったというなら、そんなにひどくはないのだろう
  • L スタット・スポッティングを続けたい人のための助言
  • 謝辞/訳者あとがき/註

【感想は?】

 だいたいの方向性は、「統計という名のウソ」と同じだ。本書の方が薄いので、分厚い本が苦手な人は、本書の方がいいかも。

 先の構成にあるように、ケッタイな数字となる原因ごとに章をわけている。それぞれに具体的な例を挙げ、ケッタイな数字が出てきたメカニズムを明らかにしてゆく。

 前著と違うもう一つの点は、大雑把に数字を確かめる手段を、具体的に数字を挙げて書いている点だろう。この本で出ているのは、アメリカの例だ。

  • 人口:約3憶人
  • 出生数:約400万人
  • 死亡数:約240万人
  • 交通事故死者数:約4万3千人
  • 自殺者数:約3万2千人
  • 殺人被害者数:約1万7千人
  • アフリカ系アメリカ人:約13%弱≒約4千万人
  • ヒスパニック系アメリカ人:約14%≒約4千2百万人
  • GDP:約13兆ドル(2017年は18.6兆ドル)

 うち幾つか、日本の数字も調べてみた。

  • 人口:約1憶2千万(→総務省統計局、2018年3月概算)
  • 出生数:約100万人(→総務省統計局、2016年、.xls)
  • 死亡数:約130万人(→総務省統計局、2016年、.xls)
  • 交通事故死者数:約4千人(→警察庁交通局、2016年、PDF)
  • 自殺者数:約2万1千人(→警察庁、2017年、PDF) 男が約1万5千、女が約6千5百
  • 殺人被害者数:752人(→警察庁、2016年、PDF)
  • GDP:約5兆ドル≒約500兆円(→内閣府、2017年、PDF)

余計なおせっかいだが、ネットで数字を調べる際は、サイト名の末尾が go.jp または ac.jp の物を使うといい。go.jp は政府関係、ac.jp は大学・高校など教育・研究機関のサイトだ。

 で、「日本の自殺者が十万人」って数字は、どこから出てきたんだろう? というのは置いといて、これらが判ると、他の数字も「だいたいのところ」が判る。

 例えば選挙権を20歳から18歳に引き下げた場合、有権者は何人増えるんだろうか?

 年間の出生数が100万人だから、18歳の人の数も同じぐらいだろう。新しく選挙権を得るのは18歳と19歳だから、2年分、つまり100万×2で約200万人増えると考えられる。なお実際は約250万人ぐらい。

もっとも、この数字、年金の受給年齢の引き下げ/引き上げには当てはまらないのが痛い。というのも、少子化と「団塊の世代」の問題で、66歳~69歳は、各年齢ごとの人数が200万人を超えているからだ(→総務省統計局、xls)。

 ちょっと笑っちゃったのが、「太りすぎ」の話。BMIで正常とされる人の死亡数と比べると、そうでない場合はどれぐらい亡くなっているかを計算すると…

  • やせすぎ(BMIが18未満):+3万4千
  • 太りすぎ(BMIが25~29):-8万6千
  • 肥満(BMIが30以上):+11万2千

 へ? これを見る限り、少し太りすぎなぐらいが最も長生きできるって事になる。なら「正常」の値を見直した方がいいんでない?

 他にも、「大台に乗った」のがニュースになるのに冷や水を浴びせてる所では、昔の「ホームページ」の「キリ番」を思い出して、ちょっと苦笑いしちゃったり。でも気になるんだよなあ。

 やはり「数字の出し方」が気になるのが、所得。お金持ちの人は少なく、貧乏人は多い。だもんで平均はあまし意味がなくて、大事なのは中央値。ってんで、厚生省労働省(pdf)のサイトを見ると、平均所得は547.5万円、中央値は427万円、最頻値は200万円~300万円。

 「皆さん、案外と稼いでるのね」と思ったが、単位が大事。これ所得の単位が「世帯」なのだ。最近は共働きも多いから…と思って共働きの割合を調べたら、やっぱり増えてて、約6割(→厚生労働省、pdf)。

 などと、何かと自分で調べたくなる本だった。

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2018年3月26日 (月)

ジョエル・ベスト「統計という名のウソ 数字の正体、データのたくらみ」白揚社 林大訳

人々は敵の述べるひどい統計の例は好きだが、自分の述べる数字を批判されるのは好まない。
  ――はしがき 人が数える

所得分布はしばしば数字のばらつきが大きいので中央値(→Wikipedia)が尺度として好まれ、平均的な値をよりよく表すものとして用いられる。
  ――2 混乱を招く数字

私たちが社会問題について語るとき――私たちが知っているような暮らしぶりをおびやかす大きな問題について語るときさえ――複雑なものを単純化してしまいがちだ。
  ――3 恐ろしい数字

私たちは、どんな数字も、数字がないよりはましだと信じているようであり、時として、手に入る数字ならどんなものにも飛びついて、自分の混乱を小さくしようとすることもある。
  ――4 権威ある数字

多くの人が、自分の見方を正当化するために科学者を名乗る。
  ――5 魔術的な数字

私たちが扱ったトピックは計算の問題ではない。(略)だれが数えているのか――誰が数字をつくりだすのか、なぜ数字をつくりだすのか、どんな人がそれを消費するのか、そうした数字はどのように理解され、利用されるのか――に焦点を合わせてきた。
  ――7 統計リテラシーに向けて?

【どんな本?】

 アメリカでは学校での銃乱射事件が後を絶たない。また、年間200万人の子供がいなくなるという。日本でも、児童虐待の件数は毎年のように最多を更新している。子供の環境は悪くなる一方

 …なんだろうか。

 厚生労働省の2016年の資料では、主な要因に「国民や関係機関の児童虐待に対する意識が高まったことに伴う通告の増加」を挙げている。つまりは、国民の児童虐待に対する目が厳しくなった、そういう事らしい。少なくとも、厚生労働省はそう考えている。

 私たちの周りには、数字が満ち溢れている。だが、その数字は何を意味しているんだろうか。どんな風に集めた数字なんだろうか。誰が、どんな目的で出した数字なんだろうか。

 社会学の教授を勤める著者が、ニュースや風聞や政策の根拠とされる数字について、「もう少し突っ込んで考えよう」と注意を促す、一般向けの解説書。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は More Damned Lies and Statistics : How Numbers Confuse Public Issues, by Joel Best, 2004。日本語版は2007年10月31日第一版第一刷発行。単行本ハードカバー縦一段組みで本文約244頁に加え、訳者あとがき3頁。9.5ポイント42字×15行×244頁=約153,720字、400字詰め原稿用紙で約385枚。文庫本ならやや薄めの一冊分。

 文章は比較的にこなれている。数学が苦手な人は、書名に「統計」が入っているので、ちとビビるかもしれない。が、心配ご無用。本書を読む上で最も難しい統計用語は「中央値」だ。順番に並べて、真ん中の値である。これと「平均値」の違いが判れば、充分に読みこなせる。

 あと、私は「アドボケート」がわからなかった。英語では Advocate、政策などを主張する人、みたいな意味らしい。

【構成は?】

 各章は比較的に独立しているので、気になった所だけを拾い読みしてもいい。

  • はしがき 人が数える
  • 1 抜け落ちている数字
    • 実例の力
    • 計算不可能なもの
    • 数えられることのないもの
    • 忘れられた数字
    • 伝説的な数字
    • 何が抜け落ちているのか
  • 2 混乱を招く数字
    • 単純な数字の複雑さ
      平均的な値/割合/相関の意味
    • グラフに混乱する
      見た目を重んじることの悪影響/選択
    • 混乱について
  • 3 恐ろしい数字
    • 恐ろしい用語で社会問題を記述する
      問題の規模を測る/動向の問題点/黙示録がまもなく現実に?
    • リスク
      リスクを推定する/離婚のリスク
    • トレードオフと思い込みに基づく悲観主義
  • 4 権威ある数字
    • 科学研究の成果を際立たせる
    • 公式記録の曖昧さ
    • 権威のもろさ
  • 5 魔術的な数字
    • 水着特集号のモデルになる
    • 魔術的な数字と組織的な数字のゲーム
    • 学校を査定する
    • 人権プロファイリング
    • 魔術の用意
  • 6 論議を呼ぶ数字
    • ジャンクサイエンス?
    • スピンとサクランボ摘み
    • 米国のイスラム教徒とユダヤ教徒の数を見積もる
    • 福祉改革の結果
    • 数字を巡って言い争う
  • 7 統計リテラシーに向けて?
    • すでに統計を教えているのではないか?
    • 統計リテラシー教育の責任を割り当てる
    • 統計リテラシー運動
    • 問題と展望
  • 謝辞/訳者あとがき/註/索引

【感想は?】

 繰り返す。これは数学の本ではない。そもそも、著者は数学じゃなくて社会学の教授だし。

 手前味噌で申し訳ないが、私もブログをやっているので、ちと考えたことがある。「普通、ブログって、どれぐらいの人が見てくれるんだろうか?」 で、こんな記事を書いた。

 当時、ココログには、アクセス数順で自分のブログが何位か調べる機能があった。これを使い、アクセス数ごとのブログの数を調べたのだ。予想通り、人気があるブログはごく一部で、大半のブログは閑古鳥が鳴いている。要は反比例の関係で、アクセス数が倍になると、該当するブログは半分になる。

 ここでは「半分以上のブログはアクセス数3以下」と挑発的なタイトルをつけた。が、色々と突っ込み所満載だ。例えば三日坊主で捨てられた野良ブログや、パスワードをつけて本人しか見れない日記代わりのブログは、勘定に入れていいんだろうか? そもそもブログの総数が分からないってのも酷い。

 と、数字の元が私なら、たいていの読者は「なんか怪しいよなあ」って目で見る。が、「~大学教授」とか「○○新聞」とかだと、なんか信用できそうに思えてしまう。

 そうでもないぞ、と警告するのが、この本の趣旨だ。そのために、多くの例を挙げて、それぞれの数字がどうやって出てきたか、どんな突っ込みどころがあるのか、なんでそんな数字になるのか、種明かししてくれる本である。

 やはり解りやすいのが、テレビや新聞のニュースだろう。アメリカでは、校内乱射事件が多発している。

 この本では「多発する」と訳してあるが、日本のニュースじゃ「相次いでいる」をよく使う。これ増えているように感じるけど、実はそうじゃない。増えてないけど、増えてるように思わせるために、「相次いでいる」と言うのだ(「日本の殺人」)。

 これは行内乱射事件も同じで、統計を見ると、実は増えちゃいない。が、それじゃ番組として面白くない。何より、ヒトは事件の裏にストーリーを求める。

者は、ニュースになる事件を、広がりを見せているパターンや問題の事例として描写できるよう、社会的状況との関連でその出来事のもつ意味を探るようになっている。
  ――1 抜け落ちている数字

 「キレたガキが暴れるなんて昔からよくある話」じゃ、つまんないし。近ごろは学校が荒れている、とした方が、番組としてエキサイティングだ。銃や暴力ゲームを規制する、いい根拠にもなるし。

にしても、校内乱射事件は昔からよくあったってのも、凄いよなあ。

 そんな風に、マスコミの報道には、どうしても偏りがある。マスコミだけじゃない。銃犯罪の多寡についてNRAと銃規制派は違う見解を示すだろう。そんな風に、様々な数字が、なぜ偏るのか、どんな風に偏るのか、または偏っているように感じるのかを書いたのが、この本だ。

 え?校内乱射事件は数字が出てないだろ? バレたかw これもトリックの一つだ。敢えて数字を出さず、「多発」「相次いでいる」とする。「抜け落ちている数字」というトリックである。

 ちゃんと数字が出ている例では、アメリカのイスラム教徒人口が凄い。曰く…

米国のイスラム教徒人口についての最近の見積もりは、200万足らずから1000万近くにまで及ぶ。
  ――6 論議を呼ぶ数字

 数え方によって200万人にもなるし、1000万人にもなる、そういう事だ。にしても、五倍もの違いが出るとは。ところで、この中には、マルコムXやモハメド・アリで有名なネーション・オブ・イスラムなども入っているんだろうか?

更に話は逸れるが、日本の宗教信者も不思議だ。文部科学省の2016年12月31日の発表によると、1憶8千万を越えてる(→宗教統計調査 平成29年度より、.xls形式)。日本の人口より多いじゃんw 元の数字は、各宗教団体が文部科学省に報告した信者数。とすると、一人の人が複数の宗教に属しているのか、宗教団体が過大に報告してるのか、他に事情があるのか、どうなんだろう?

 などと、著者が挙げる個々の例を見るもの面白いが、この本で鍛えた目で、自分なりに様々な統計を漁ってみると、更に楽しみが増す。数字ってのは、スルメみたく、噛めば噛むほど味が出てくるものらしい。

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2018年3月25日 (日)

アダム・ロバーツ「ジャック・グラス伝 宇宙的殺人者」新☆ハヤカワSFシリーズ 内田昌之訳

どの事件でも、殺人者は同一人物――言うまでもなく、ジャック・グラスその人です。

刑期のあいだ、七人の囚人たちは、ラミー306と呼ばれる小惑星の空洞に放置される。直径二百メートルのこの小世界に。

次に宇宙船がこちら方面へやってくるのは十一年後になる。
  ――第一部 箱の中

「ミスター・グラスの驚くべき点のひとつは」ジョードが真顔で言った。「巧みなわざでありえないことを現実にしてしまうところなの」
  ――第二部 超光速殺人

未解決の問題がなかったら、未来になんの意味が?
  ――ありえない銃

【どんな本?】

 イギリスのSF作家アダム・ロバーツの、本邦初紹介作品。

 遠未来。人類は太陽系全体に版図を広げている。幾つかの戦争や権力闘争を経て、厳しい階級社会となった。頂点にはウラノフ一族、次いで五つのMOHファミリー、その下に企業である公司・商社が支配階級として君臨していた。

 階級の底辺にいるのは、数兆もの貧しい民衆である。彼らは虚空を漂う数多の使い古した狭いボール状の居住施設にひしめきあい、乏しい資源とエネルギーでかろうじて命をつないでいた。

 ジャック・グラス、名高い殺人者でお尋ね者。彼の手で命を落とした者は数千とも数百万ともいわれる。孤立した小惑星の監獄からの脱走、持ち上げられない凶器による殺人、

 かれはなぜ、そしていかにして不可能と思える犯罪を成し遂げたのか。やや懐かしい雰囲気が漂う、SFミステリ連作集。

 2012年英国SF協会賞、2013年ジョン・W・キャンベル記念賞受賞。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は JACK GLASS : A Golden Age Story, by Adam Roberts, 2012。日本語版は2017年8月25日発行。新書版で縦二段組み、本文約476頁に加え、訳者あとがき9頁。9ポイント24字×17行×2段×476頁=約388,416字、400字詰め原稿用紙で約972枚。文庫本なら上下巻でもいい分量。

【収録作は?】

第一部 箱の中
 ラミー306、直径200メートルの小惑星。重犯罪人を収監する監獄。囚人たちは、最低限の物資と共に、ここに置き去りにされる。迎えが来るのは11年後。
 当初、囚人たちの居住空間は深さ10m×長さ15m×幅1mだけ。表面はシーリング材でコーティングされ、大気は漏れない。与えられるのは熱を出す核融合セル、光るライトボール、空気清浄機、食料の種となる芽胞パック、三個の削岩機、そして当面の食糧。
 囚人たちが自分で居住空間を広げ、鉱脈から水を確保し、芽胞を育てて食いつなげば、生き残れるだろう。そして刑期を終えた囚人を追い出した小惑星は快適な居住地となり、公司の有望な商品となる。その前に脱走しようにも、次にお迎えの船が来るのは11年後だ。
 今回、放り出された囚人は七人。まずは彼らと共に放り出された物資を確保し…
 閉鎖された極限状態に、ワケありの囚人どもをまとめてブチ込めばどうなるか。
 当然ながら「火星の人」のように理性的な判断と不屈の精神ってわけにはいかず、チームワークもヘッタクレもなしに、まずはツツキの序列が出来てゆく。改めて考えると、こういう序列付けって、秩序を保つ最も手軽な方法なんだなあ。
 まさしく息詰まるような狭い空間の中に、同居人としてもチームメイトとしても最悪な連中たちと一緒に閉じ込められ、生き延びるだけでも大変なのに、脱走までしなきゃいけないんだから大変だ。そんな中で生存環境を整えていくあたりは、けっこう生々しい。
 とまれ、最後のトリックはお馬鹿スレスレの大胆なもの。酷いw
第二部 超光速殺人
 成人と認められる16歳の誕生日を一カ月後に控えたダイアナと、その五歳年長のエヴァ。この世界を仕切る五つのMOHファミリーの一つであるアージェント家の跡取りと目される姉妹。二人はダイアナの誕生日パーティに備え、地球に降りてきた。
 普段は無重力の高所に住む姉妹に、地球の重力は厳しい。二人が連れてきた20人の召使や、指導教師のアイアーゴも辛そうだ。ボディガードの三人は、さすがに予め鍛えていたようだが。
 屋敷についてすぐ、事件が起きる。召使のレロンが殺されたのだ。凶器と目されるのは、プラズメタル製のハンマー。地球の重力に慣れなぬ召使たちは、こんな重い物を持ち上げられない。だが、召使たちを除き現場に出入りできる者はいない。
 ミステリに凝っているダイアナは、さっそく張り切って捜査にとりかかるのだが…
 ミステリおたくのダイアナ嬢を主役に据えた、ちょっとコミカルな一編。人が死んでるってのに、目を輝かせるってのはどうよw
 などの描写を通じて、作品世界の過酷な社会構造と、そこに君臨する者たちの世界観が見えてくるのも、この作品のポイント。CRFなんて技術を何のためらいもなく使い、そういう社会を当たり前だと感じる感性に恐れ入る。
 そういう無茶苦茶な倫理観の社会でありながら、犯罪の刑罰が異様に厳しいあたりも、この世界のいびつさを際立たせている。
 主人公がミステリおたくだけあって、そっちのネタも会話のアチコチにまぶしてある。とはいっても、私のようにミステリに疎い者でもわかるような、有名作ばかりだけど。なんか英国人の作品だけを選んでるような気がするがw
 とかに加えて、低位重力の環境に慣れたダイアナたちが、地球の重力に苦しむ描写は、読んでるこっちまで息苦しくなるようなリアルさ。
 とまれ、肝心のトリックも、これまたお馬鹿スレスレで。フィンって、そうきたかw
ありえない銃
 ウラノフ世界で最も有名な警察官、バル=ル=デュックが死んだ。正確には殺されたと見ていい。数人の目撃者の目の前で、蒸発したように撃ち殺されたのだ。目撃したのは人間だけではない。データの信頼性には定評のある、RACドロイドも現場を記録している。
 現場はボール状の居住施設。銃弾はバル=ル=デュックを蒸発させただけでなく、居住施設の外壁も切り裂き、加えて施設に係留してあった警察のスループ船まで引き裂いている。凄まじい威力だ。
 だが、解せない点が幾つもある。どこから、誰が撃ったのか。ボールの外から撃ったのなら、弾丸はボールを貫き、二つの裂け目を作るはず。しかし、ボールの裂け目は一つしかない。
 ボールの中から撃ったとすれば、異様に威力の大きい銃である。なにせスループ船を引き裂いくほどだ。とすれば、サイズも相応に大きい筈だが、ボール内に不審な物は見当たらない。
 今まで話だけは出てきた、貧しい数兆の民衆たちの暮らしを生き生きと描く、最終章。ヤケになって馬鹿やらかす愚連隊どももありがちだが、ワケありっぽくてクセの強く生活力に溢れたおババさんが、これまたいいい味出してる。
 また、遠未来の話だけあって、時を経てケッタイな形に変形しちゃった神話と宗教も、なかなか強烈なボケをかましてくれる。とはいえ、現代の宗教も、教祖が生きてた頃と比べたら、やっぱりグロテスクに変形しちゃってるように見えるんだろうなあ。
 ミステリとして見ると、肝心の「誰が、どうやって」は、やっぱりお馬鹿スレスレで、かなり無茶があるような気が。
 とはいえ、それだけじゃなく、事件の背景やジャックの目的なども明かされて、私はこっちの方が面白かった。また、終章でも鮮やかなどんでん返しが待っていて、これには完全に引っかかってしまった。お見事。

 訳者で見当がつくように、娯楽路線の作品だ。リラックスして著者の騙りに身を任せよう。

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2018年3月21日 (水)

アンドリュー・ロウラー「ニワトリ 人類を変えた大いなる鳥」インターシフト 熊井ひろ美訳

地球上には、常時200億羽以上のニワトリが生息している。
  ――はじめに ニワトリを見れば、世界が見える

太平洋上の人類の移住を再現するために最善の方法が、ニワトリを使うことなのだという。セキショクヤケイの行動圏の東端であるバリ島よりも東でニワトリの骨が発見されたら、それは人間が船で持ち込んだしるしなのだ。
  ――第4章 人類の移住ルートを知る鍵

闘鶏の最も古い記録の一つは、紀元前517年の中国で開催されたものだ。(略)西洋の最古の闘鶏を示す明白な記録も、同じ時代のものだ。
  ――第5章 闘鶏の熱狂

「(1844年の)ロンドンでは、ニワトリの一般的な価格は概してあまりにも高すぎるので、収入の乏しい人々は、たとえ町に住んでいても、それを食卓に並べられることはめったにない」
  ――第6章 女王の趣味から大流行へ

雄鶏(コック)にはコックがない。これは禅問答などではない。雄鶏にはペニスがないのだ。
  ――第8章 小さな王

最も近代的なコーシャやハラールの屠畜でさえ大規模工場で実施されており、祈祷は録音されたものをエンドレスで流す場合が多い。
  ――第9章 癒しの力

古代のエジプト人や中国人は早くも紀元前四世紀には人工孵化を実行しており、藁とラクダの糞を燃やして暖めた広い部屋で世話人が卵をひっくり返したり、腐りかけた堆肥で卵を覆って必要な熱を与えたりしていたのだ。
  ――第10章 産業ビジネスへの進展

アメリカ国内のブロイラーの実数は、第二次世界大戦開戦以降のどの時点でも驚くほど一定のままだった。だが、一羽ごとの体重は二倍に増えて、餌の量は二分の一に減り、成熟するまでの期間も半分に短縮された。そして養鶏場の数は、500万以上あったものが1970年までに50万カ所に激減した。
  ――第10章 産業ビジネスへの進展

私たちは(シーリア・)スティールの時代の人々よりもはるかに大量の鶏肉を食べているとはいえ、ニワトリについての知識ははるかに減っている。
  ――第11章 影の都市

ニワトリは、左右の目を別々の目的で使っていて、ある対象――たとえば、餌になりそうなもの――に焦点を合わせながら、もう一つの目で捕食動物が来ないか油断なく見張ることができる。
  ――第12章 快適で健康な環境を

【どんな本?】

 和食派であれ洋食派であれ、朝食に卵は欠かせない。フライドチキンはまたたく間に日本の食卓を席巻したが、その前からオジサンたちは帰宅途中に焼き鳥屋で一杯ひっかけていた。

 食事だけではない。洋の東西を問わず、古くからニワトリは生贄として供えられ、内臓や骨が占いに使われた。小説「ルーツ」では迫真の闘鶏場面が描かれていたが、今は大半の州で闘鶏は違法となった。でも大丈夫。フィリピンの World Slasher Cup は今なお熱気を保っている。またインフルエンザ・ワクチンの開発にもニワトリは欠かせない。

 ニワトリはどこから来たのか。ヒトとの関係はいつから始まり、どう広がったのか。ニワトリとヒトはどのように付き合い、互いをどのように変えていったのか。そして今、鶏卵と鶏肉のビジネスはどこへ向かっているのか。

 身近でありながら意外と知られていないニワトリの生態と特徴、そしてヒトとの付き合いの過去と現在を描く、一般向けのノンフィクション。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は Why did the Chicken Cross the World? : The Epic Saga of the Bird that Powers Civilization, by Andrew Lawler, 2014。日本語版は2016年11月30日第1刷発行。単行本ハードカバー縦一段組みで本文約354頁に加え、本書出版プロデューサーの真柴隆弘の解説4頁。9ポイント46字×19行×354頁=約309,396字、400字詰め原稿用紙で約774枚。文庫本なら厚めの一冊分。

 文章はこなれている。内容も特に難しくない。一部で南太平洋やアメリカ東部の地理が重要な役割を果たすので、地図帳か Google Map があると便利。

【構成は?】

 各章は比較的に独立しているので、美味しそうな所をつまみ食いしてもいい。

  • はじめに ニワトリを見れば、世界が見える
  • 第1章 野生の原種を探して
    謎めいた来歴/並外れた可塑性/荒野に消えた野鳥たち/世界で最後の生き残り/ジャングルから家の裏庭へ
  • 第2章 神の使いの鳥
    古代エジプトに登場/インダス文明とタンドリーチキン/メソポタミアへ渡る/古代ニワトリのDNA/宗教・儀式に欠かせない役割
  • 第3章 二本足の薬箱
    人間の健康を陰で支える/ワクチンを作る卵/宇宙よりも複雑な構造/医学の革命を促す
  • 第4章 人類の移住ルートを知る鍵
    太平洋を西から東へ横断する/線世界に最初に着いたのはポリネシア人?/太平洋を移動した二つのル-ト
  • 第5章 闘鶏の熱狂
    闘鶏のスーパーボウル/人間の身代わりとなって/宗教から娯楽へ/バトル・ロイヤル
  • 第6章 女王の趣味から大流行へ
    ヴィクトリア女王への贈り物/ロンドン初の家禽品評会/裏庭飼育という「道楽」
  • 第7章 ニワトリの起源と進化
    進化論の証拠となる/ディクソン牧師とダーウィン/最古の祖先/家畜化は食料にするためではなかった
  • 第8章 小さな王
    進化の真価が問われる場所/風見鶏からサタンの手先まで/「チキノサウルス」を作る/雌雄の違いはホルモンではなく、細胞が決める
  • 第9章 癒しの力
    生贄 信仰の中核/贖罪の日/平等な社会を築く/古代ローマの鳥占い
  • 第10章 産業ビジネスへの進展
    フライドチキンが広まったわけ/ニワトリ機械/女王たちの仕事、国家安全保障/「明日のニワトリ」コンテスト/スーパーマーケットやファストフードに最適
  • 第11章 影の都市
    鶏肉議員団の結成/数が増えるほど、姿が見えなくなる/絶滅よりも悪い運命/「家禽の女王」を育てる/消費者の食べ方を変える
  • 第12章 快適で健康な環境を
    天性の数学者にして直感物理学者/家禽の精神病院/アフリカ全土の農家へ
  • 第13章 新たな関係を築く
    地元のニワトリvs産業用ニワトリ/鳥インフルエンザの影響/小規模農業の復活/最後の大義
  • 謝辞/解説

【感想は?】

 幼い頃、あなたはこんな疑問を抱かなかったろうか。ニワトリは飛べるのか?

 どうも飛べるらしい。ニワトリの原種は東南アジアのセキショクヤケイ(→Wikipedia)と言われ、「約半マイル(約800メートル)ほどの谷の上空を渡る」さまを見た人の話が、冒頭に出てくる。

 ところがこのセキショクヤケイ、なぜ家禽になったのかよく分からない。臆病だし肉付きは悪いし卵を産む量も「毎年平均半ダース」。にも関わらず、今はバチカンと南極以外のすべての国にニワトリがいる。半端ない適応力だ。どうも宗教が絡んでいるらしい、と思わせる記述はある。

ピタゴラス「雄鶏を肥やしても、生贄として供してはならぬ。太陽と月に捧げられているのだから」
  ――第3章 二本足の薬箱

ベトナム、ラオス、ミャンマー、中国南部に散らばっているパウラン族の人々は、ニワトリを飼っているがその肉や卵は食べず、腸や臓器や骨を占いに使っている。
  ――第7章 ニワトリの起源と進化

 が、やはり美味しいんじゃないかと思われる部分も。というのも、セキショクヤケイは絶滅の危機に瀕しているのだ。と言っても、個体数云々じゃなく、遺伝子汚染。飼われたニワトリの遺伝子が混じって、純粋な野生の遺伝子が失われつつあるとか。

 だもんで、ベトナムじゃ「セキショクヤケイを狩ったり罠でとらえたりするのとは違法」になってる。にも関わらず、著者が青空市場でオバチャンと交渉すると…。わはは。日本でも軍鶏のファンは多いし、美味しいんだろうなあ、きっと。

 今みたく大量に鶏肉が流通するのは、やはりブロイラーに代表されるアメリカでの品種改良が関わってて。これに第一次・第二次世界大戦が関わってるから、戦争が食生活に与える影響は大きい。日系人を収容所に閉じ込めたため雛の雌雄鑑別師が足りなくなる、なんて話もあったり。

 ニワトリの家畜としての地位が独特なのは、なんといってもサイズが小さいこと。お陰で南部の奴隷や、家庭の主婦が飼えた。ここで語られる、西アフリカのレシピがフライドチキンへと受け継がれ全米を席巻する過程は、時代の皮肉というか。

 やはり手軽だからか、かつて太平洋の島々へ渡った人々もニワトリを連れて行った。ってんで、ニワトリを手掛かりに人類の太平洋進出の歴史を解き明かそう、なんて面白いプロジェクトも出てくる。ただし、困った事に、鶏の骨は気軽にポイ捨てされるんで…。

 などの、学問と生活習慣が交差するあたりは、ちょっとしたミステリの趣もある。ここではニワトリのルーツを巡る秋篠宮文仁親王殿下の研究の話も出てくる。東南アジアによく出かけるのは、そういう事かあ。専門はナマズじゃなかったんだ。

 などと、ニワトリの学問への貢献も計り知れない。インフルエンザ・ワクチンの製造には鶏卵が必要なのだ…少なくとも、2012年までは。

 そもそもワクチンって発想や、脚気の原因究明にも、ニワトリが関わってたり。曰く、「ニワトリのタンパク質の作り方は驚くほどヒトと似ているのだ」。ヒトにとってはラッキーだが、ニワトリにとってはどうなんだろう?

 当然ながら昔は科学なんてなかったわけで、それでもヒトはニワトリを連れて行った。その理由は闘鶏じゃないか、って説も面白い。ヒトが闘鶏にかける情熱は凄まじいもので。

 フィリピンの World Slasher Cup は堂々たる国民的娯楽ながら、その会場の風景は野郎ばっかしってのも、なんか分かる気がするw アメリカじゃ非合法ながらもブリーダー(育成者)が細々と生き残り、またアパラチアの山岳地帯でコッソリ開催してるとか。だから男ってのはw

 残酷だと言われるものの、養われる雄鶏たちの暮らしは、工場で「生産」されるブロイラーに比べたら、遥かに贅沢で、むしろフランスのブランド地鶏であるブレス鶏に近い。このブレス鶏、屋外で飼ってるんだけど、「一番の問題は、ニワトリを襲う捕食動物でしてね」。

五羽に一羽はキツネやタカに襲われて死ぬ。けれども、最も危険な捕食動物は人間だ。ブレス鶏の肉は一ポンドあたり30ドルもして、去勢鶏一羽で合計257ドルも稼げる可能性があるため、盗まれる恐れは常にある。
  ――第12章 快適で健康な環境を

 一羽で三万なら、札束が歩いているようなもんだしなあ。

 などと、人類史や生物学など学問の話から、アメリカの不気味な養鶏ビジネス、アパラチアやベトナムの生活に密着した非合法、そして神話や宗教との関わりやバシリスクやコカトリスの謎など、バラエティ豊かな話題が詰まった本だった。

 ただし夜中に親子丼が食べたくなるのが大きな難点。

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2018年3月19日 (月)

大森望・日下三蔵編「年刊日本SF傑作選2011 拡張幻想」創元SF文庫

「この世界にはどこまでも先へ行きたいと思う人間がいる。岬へたどり着いたらその先の水平線まで、どこまでも漕ぎ出したいと願うような――」
  ――瀬名秀明「新生」

「我が脳ながら、不可解だね」
  ――伴名練「美亜羽へ贈る拳銃」

「街には規則が存在している。ただし規則は把握できない」
  ――円城塔「良い夜を持っている」

君に想像できたろうか?
よろしい。君が観測者だ。
  ――理山貞二「<すべての夢 | 果てる地で>」

【どんな本?】

 2011年に発表された日本のSF短編から、大森望と日下三蔵が選び出した作品に加え、第三回創元SF短編賞受賞作の「<すべての夢 | 果てる地で>」を収めた、年間日本SF短編アンソロジー。

 2011年の世相を強く反映し、「はやぶさ」の帰還と東日本大震災を扱う作品に加え、SF界のニュースとして、亡くなった小松左京と伊藤計劃へのオマージュも多い。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2012年6月29日初版。文庫本で縦一段組み、約644頁。8ポイント42字×18行×644頁=約486,864字、400字詰め原稿用紙で約1,218枚。上下巻に分けても厚めになる大容量。

【収録作は?】

 それぞれ 作品名 / 著者 / 初出。

序文:大森望
宇宙でいちばん丈夫な糸 The Ladies who have amazing skills at 2030. / 小川一水 / ポプラ文庫「妙なる技の乙女たち」
 カリフォルニアの人里離れた土地、一本杉のたもとにあるレンガ建ての家に、青年は住んでいた。多層カーボンナノチューブ(CNT)連続紡出法の発明者、バンブラスキ・チーズヘッド。桁外れの強靭さを誇るCNTを求め、彼を訪ねる者は多かったが、滅多に彼は首を縦に振らず…
 初の軌道エレベーターの麓、赤道直下のリンガ島周辺を舞台とする連作短編集「妙なる技の乙女たち」の前日譚。CNT製造技術の提供を頑なに拒む青年と、軌道エレベーター建設のためあの手この手で彼を口説こうとする交渉役アリッサ・ハービンジャーの駆け引きを描く。
5400万キロメートル彼方のツグミ / 庄司卓 / ファミ通文庫「ショートストーリーズ 3分間のボーイ・ミーツ・ガール」
 地球から約5400万km、約3光分の距離にある小惑星ミチカワ。そこからサンプルを持ち帰る予定の探査機には、シナプスのように自己成長する高分子体でできた自省大人工知能アドバンスAIツグミを搭載した。ツグミを作ったのは当時中学生の関口。ミチカワとの通信は片道3分かかり…
 幾つものトラブルを克服し、満身創痍となりながらも小惑星イトカワから見事にサンプルを持ち帰った探査機「はやぶさ」に触発された作品。これぞ王道のSFと叫びたくなるような、切なく爽やかなエンディングが心に染みる。だれか漫画化してくれないかなあ。
交信 / 恩田陸 / 小説新潮2011年1月号
 これまた「はやぶさ」をテーマとした切ない作品。小説新潮の特集「800字の宇宙」の一作だけに、たった一頁の掌編。短いながら、明らかにレイアウトを強く意識している。執筆から掲載まで、どんな手順で作業が進んだのか、やたら気になるw
巨星 / 堀晃 / 月刊アレ!2011年10月号
 宇宙空間に誕生した<知性>。物質から解き放たれ、半径6千キロメートルに及ぶ球体。目覚めた<知性>は、ある巨大な天体を眺めている。長さ2光年、直径1.2光年の円筒。中心軸はニュートリノを吸収すうる。既に内部には幾つかの知性体が侵入しており…
 小松左京の未完の遺作「虚無回廊」に捧げた短編。小松左京らしい壮大なスケールのオリジナルに、堀晃らしい科学知識を織り交ぜて堀晃なりの解釈をした上に、ちょっとしたオチまでついているのが嬉しい。
新生 / 瀬名秀明 /  月刊アレ!2011年10月号
 ポリネシア、フィジーの小島。ラーメン屋で働いていた遠藤は、発掘チームにコックとして加わる。その日、島に客が訪れる。遠藤は南の高台にある灯台へと向かい…
 これまた小松左京の傑作「ゴルディアスの結び目」に捧げた作品。改めて太平洋の地図を見ると、南太平洋ってのは実に広い。いったい何を考えて人類は、GPSもエンジンもない時代に、こんな所まで進出したんだか。そのバイタリティにはひたすら恐れ入る。
Mighty TOPIO / とり・みき / 東日本大震災チャリティーコミック「僕らの漫画」
 何度もの失敗を乗り越え、やっと完成したロボットのトピオ。だが起動は…
 お馴染みのキャラクター、たきたかんせいや小松先生が出てくると安心しちゃうなあ。やっぱりコンピュータにはオープンリールのテープが必須だよねw
神様2011 / 川上弘美 / 群像2011年6月号
 「あのこと」以来、肌が出る服を着て弁当を持って出かけるのは初めてだ。三つ隣に越してきたくまに誘われたのだ。作業をしている人たちは、この暑いのに防護服で完全防御している。まだ累積被爆量には余裕があるし…
 東日本大震災に伴う福島の原発事故や、その後の騒ぎへの強烈なメッセージがこもった作品。7年が過ぎた今になって読んでも、いやむしろ被災した方々の証言が積み重なった今だからこそ、込められたメッセージは鋭さを増している。
いま集合的無意識を、 / 神林長平 / SFマガジン2011年8月号
 <さえずり>のTLの流れが勢いを増し、お手上げ状態になった。ばかりか、画面が真っ白になってしまう。そこに現れた、投稿者不明の文字列。「いま、なにしてる?」
 これまた東日本大震災と、惜しくも夭折した伊藤計劃に触発された作品。特に「虐殺器官」と「ハーモニー」のテーマに深く踏み込み、著者の肉声が聞こえてくるような生々しさが漂っている。米大統領選げのロシアの介入などを考えると、既にヤバい事になってるよなあ。
美亜羽へ贈る拳銃 / 伴名練 / 特殊検索群i分遣隊「伊藤計劃トリビュート」
 脳マップ完全解読を掲げる神冴脳梁。中心である神冴家の長男、和弥は対外交渉を仕切る地位に就く。次男の光希はインプラント治療を発案するなど才能を期待されたが、出奔して東亜脳外を設立、神冴脳梁の商売敵となる。光希の養女・美亜羽も天才の呼び声高く…
 初出でわかるように、「ハーモニー」の影響を受けた作品。タイトルは梶尾真治の「美亜へ贈る真珠」にひっかけたのかな? 人物の動きは穏やかながら、どんでん返しに次ぐどんでん返しで目まぐるしく構図が変わってゆくストーリーが、実に濃い。
黒い方程式 / 石持浅海 / ミステリマガジン2011年3月号
 わたしも夫もフルタイムで働いているので、掃除ができるのは日曜日ぐらい。わたしの担当のトイレに入ったとたん、困った事に気がついた。なんとゴキブリがいる。スプレー殺虫剤を探したが、いつもの所にはない。もしやと思い、夫の書斎を探すと、やはりあった。トイレにひき返し…
 トム・ゴドウィンの古典的傑作「冷たい方程式」のトリビュート作品。3LDKに住む夫婦が、どう宇宙船の密航者と関係あるのかと思ったら、そうきたか。
超動く家にて / 宮内悠介 / 清龍10号
 所長のルルウと、事務方のエラリイ、二人きりの探偵事務所。二人は、メゾン・ド・マニの平面図を見ながら、話し合っている。メゾン・ド・マニには十人が住む。が、平面図をどう見ても、出入り口が見当たらない。
 コロコロと進むルルウとエラリイの会話が、ドツキ漫才のようで楽しい作品。先の「美亜羽へ贈る拳銃」とはまた違った意味で、次々とどんでん返しが繰り返され、「なんじゃそりゃあ~!」と叫びたくなるw
イン・ザ・ジェリーボール / 黒葉雅人 / SF Japan 2011年春号
 惑星パライバには水族・空族・地族の三種が住む。惑星上、最大にして唯一のテーマパーク「パラダイス・パライバ」で、水族のオスビトが殺された。死体の発見者は、パラダイス・パライバの従業員である地族オスビト。彼の証言によると、被害者は地族のメスビトと一緒におり…
 「宇宙細胞」の人で水族・空族・地族の三種だから…と思ったら、全然違った。一件の殺人事件をめぐる、四人の証言から、事件の真相と彼らの生態が浮き上がってくる。
フランケン・ふらん OCTOPUS / 木々津克久 / チャンピオンRED2011年8月号
 クラス委員の楠ノ木は、最愛の妹・あずさを病気で喪い、絶望に沈み込む。
 漫画。色々とおかしいだろ!と突っ込みたくなるが、細かい事は気にしない一途な楠ノ木君。クッキリとした描線が、少し懐かしい雰囲気で、私のようなオジサンには大変にとっつきやすい。
結婚前夜 / 三雲岳斗 / SF Japan 2011年春号
 明日、嫁いでゆく娘の詩帆が、訪ねてきた。かつては千五百万もの人が住んでいた都市も、今は民家もまばらだ。たった20年ほどで、気候変動や生物の絶滅などの問題も解決しつつある。
 あったね、レコード・プレイヤーのカートリッジ。MM と MC があって…って、どうでもいいか。雑誌<SF Japan>最終号に掲載ってのが、なんか意味深な符号のような気さえしてくる、静かで穏やかな××物。
ふるさとは時遠く / 大西科学 / SFマガジン2011年2月号
 故郷の一石海岸への里帰りは、六年ぶりだ。姉が駅舎まで出迎えにきてくれた。故郷を離れ、私にとっては14年だが、姉にっとっては三年半。背後には山肌が迫り、見あげた水平線の手前には、貨物船が浮かんでいる。
 作品名はウォルター・テヴィス「ふるさと遠く」にかけたのかな? 本当に世界がこんな風になったら、情勢は大きく変わるだろうなあ。ネパールやブータンが躍進し…なんて生臭い話じゃなく、しんみりとしたファミリー・ドラマが展開する。
絵里 / 新井素子 / yom yom vol.23
 あたし矢沢絵里は、四国の田舎で妹の留津といっしょに、児童養育施設で育った。担当の“おばあちゃん先生”はいい人で、あたしは大好き。月に一回、“親”という人から、メールが届く。おばあちゃん先生は、そんなあたし達を「恵まれている」っていう。
 新井素子ならではの、子育てSF。文化人類学の本を漁ると、意外と子育ての形はバラエティに富んでいて、もちっと選択の余地があってもいいかな、と思ったり。とりあえず今の日本だと、保育所の充実や多様化から始めるのが現実的かなあ。
良い夜を持っている / 円城塔 / 新潮2011年9月号
 20年前、突然父が亡くなった。そろそろわたしも父が亡くなった歳に近づいている。前触れもなく「俺は今喋っているか」などと子供に問いかけたりする、素っ頓狂な父だった。そんな父に連れ添った母も変わった人だ。今なら、父の患っていた症候群も多少は判明していて…
 息子が語る、超人的な記憶力を持っていた父の話。物覚えの悪い私には羨ましくて仕方がない能力だが、それはそれで苦労も伴うようで。気のせいか、文体は夏目漱石に似ているような。にしてもAPLは懐かしい。いやもちろん名前しか知らないけど。
<すべての夢 | 果てる地で> / 理山貞二 / 第三回創元SF短編賞受賞作
 インターネットによる為替と株式の取引で稼ぐ個人投資家は、マンションの一室を根城にしていた。そこに襲撃をかける数人の男たち。どうやら投資家の手口を頂戴するつもりらしい。だが、襲撃者たちの目論見は…
 「こういうのが読みたかったんだあぁぁっ!」と叫びたくなるような、骨太の本格サイエンス・フィクションに、テンポのいいアクションとオーウェル効果などオリジナリティのあるガジェットをまぶした、新人とは思えぬ読み応えのある作品。壮大なスケールにヒトの情念を絡め、それこそ小松左京を思わせるズッシリした手ごたえを備えた傑作。
第三回創元SF短編賞選考過程および選評 / 大森望・日下三蔵・飛浩隆
2011年の日本SF界概況 / 大森望
後記 / 日下三蔵
初出一覧
2011年日本SF短編推薦作リスト

 「5400万キロメートル彼方のツグミ」はなんとかヴィジュアル化して欲しいなあ。「交信」は短いながらもジンジンきた。「いま集合的無意識を、」はこの著者には珍しい生々しさ。「超動く家にて」の掛け合い漫才には笑った。「良い夜を持っている」は円城塔のわりにわかりやすい。そして「<すべての夢 | 果てる地で>」はトリを飾るにふさわしい重量級の作品だった。

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2018年3月15日 (木)

ジェシー・ベリング「ヒトはなぜ神を信じるのか 信仰する本能」化学同人 鈴木光太郎訳

「神を信じる本能」のようなものがあったりするのだろうか?
  ――はじめに

私たちヒトは――そして多少はゴリラやチンパンジーもかもしれないが――「生まれついての心理学者」になるように進化してきた。(略)ほかの人間の側から見るとどう見えるのかというストーリーをもたらす脳を発達させなければならなかった。
  ――1章 ある錯覚の歴史

私たちは、実際には心をもたないモノに対しても、心の状態を帰属してしまうのだ。
  ――2章 目的なき生

目的とは人間が作ったものだ。
  ――2章 目的なき生

本当の謎は、なぜ生命の目的というこの疑問が、論理的な科学をまえにしても、これほど気をそそり、強固なのかにある。
  ――2章 目的なき生

激論を引き起こすような問題に関係している時にはつねに、私たちの大部分は、神も自分たちと意見を同じくしているという強い確信をもっている。
  ――3章 サインはいたるところに

科学的心理学の研究者からすれば、中心となる問題は、死後の世界があるかどうかではなく、なぜそもそもそんな疑問が生じるのかである。
  ――4章 奇妙なのは心の死

一般には他者についてより多くの情報をもてばもつほど、彼らについて適応的判断を下すうえで有利な立場になる。
  ――6章 適応的錯覚としての神

自分の正体を隠して戦闘に臨んだ戦士は、隠さない戦士よりも、相手を殺し、切り裂き、苦しめることが多い。
  ――6章 適応的錯覚としての神

【どんな本?】

 科学が進歩してインターネットが普及しても、神の名の下にテロに走る若者は後を絶たない。わかりやすい品種改良のサンプルである犬を飼っている人でも、進化論を拒む人は多い。そして地震や洪水などの災害があれば、「神の怒りだ」とl決めつける者もいる。

 なぜ「神」という概念は、これほどまでに根強いのか。

 心理学の研究者からコラムニストに転身した無神論者の著者が、ヒトの持つ心理的な傾向から「神を信じる気持ち」について分析する、一般向けの解説書。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は The Belief Instinct : The Psychology of souls, Destiny, and the Meaning of Life, by Jesse Bering, 2011。日本語版は2012年8月25日第1刷発行。単行本ハードカバー縦一段組みで本文約257頁に加え、訳者あとがき4頁。9ポイント45字×18行×257頁=約208,170字、400字詰め原稿用紙で約521枚。文庫本なら標準的な厚さの一冊分。

 文章は普通、かな。エッセイにしては硬いが、哲学書にしてはこなれている。内容は特に難しくない。国語が得意なら中学生でも読みこなせるだろう。

【構成は?】

 原則として前の章を受けて後の章が展開する形なので、できれば頭から読む方がいいい。

  • はじめに
  • 1章 ある錯覚の歴史
  • 2章 目的なき生
  • 3章 サインはいたるところに
  • 4章 奇妙なのは心の死
  • 5章 神が橋から人を落とす時
  • 6章 適応的錯覚としての神
  • 7章 いずれは死が訪れる
  • 謝辞/訳者あとがき/註/参考文献/索引

【感想は?】

 まずお断りしておく。これは宗教書じゃない。

 なんたって、著者は無神論者だ。よって、信心深い人には向かない。特にアブラハムの宗教を硬く信じている人には、不愉快な本だろう。

 ただし、「反★進化論講座 空飛ぶスパゲッティ・モンスターの福音書」のように、信仰心を茶化して面白がる本ではないし、リチャード・ドーキンスのように、理詰めで神を否定し、「これだけ言ってもまだわからないのか!」と信者を追い詰めるわけでもない。

 最近の本には珍しく、書名が見事に内容を表している。なぜ人は神なんてシロモノをデッチあげるのか。そのメカニズムを探る、そういう姿勢の本だ。

 ちなみに「神」と言っても、聖書の神と天神様じゃだいぶ違うが、あまり気にしなくていい。本書では神の他にも、死後の世界や創造主、神の怒り(または祟り)なども重要なテーマとなる。つまりは、「そういう世界観」の代名詞として、「神」と言っているのだ。

 だから、所によっては、UFO や守護霊や星占い、差別主義者や陰謀論に至るまで、多くのトンデモさんにも当てはまりそうな理屈を順々と説いてゆく。

 そのキモとなるのが、「心の理論」(→Wikipedia)だ。

 なんか難しそうだが、幼い子供じゃない限り、たいていの人が持っている能力である。例えば、人通りの多い道で、私が立ち止まって空を見あげ指をさしたら、他の人もつられて私と同じ方向を見てしまう。なぜか。

 「アイツが指をさしている。ソッチに何かがあるからだろう」と、私の心を推し量るからだ。ヒトは、他のヒトの心を「読む」能力がある。というか、意図して読もうとしなくても、反射的に読んでしまう。役者や手品師、そしてペテン師はこれを巧みに操る。

 この能力は本能的なものだ。だから、制御が難しい。読む対象がヒトだけならともかく、他の動物やモノにまで、心があるように感じてしまう。

 お陰で私はアニメやゲームや漫画が楽しめるんだが、ソコに居るのはヒトじゃない。ドットやインキがパターンを成しているだけだ。わかった「つもり」になっちゃいるが、もちろん勘ちがいである。そして、ヒトって生き物は、勘違いするようにできているのだ。

 勘ちがいは、「ソレに心がある」だけに留まらない。「ソレには何か目的/意図がある」「私に向けたメッセージがある」「そうなった原因がある」と、勝手に決めつけてしまう。

 この決めつけにも、強弱がある。道を歩いていて信号が赤になった程度なら、決めつけは弱いので、理性が勝つ。しかし、大切な人が亡くなるなど、感情を大きく揺さぶられると、「単なる偶然」や「わからない」では納得できない。どうにかこうにかして、原因や目的をデッチあげようとする。

 ヒトの脳ミソには、そういう癖があるのだ。

 と書くとヒトゴトみたいだが、もちろん私にも色々と心当たりがある。比較的に認めやすいのが、「わからない」じゃ納得できない気持ち。入れ込んじゃった物語は、ちゃんとケリがついて欲しい。榊版ガンパレは唖然としたし、三浦健太郎はベルセルクをちゃんと完結させてほしい。

 理性が勝るように見えるSF作家も、やっぱり「わからないじゃ納得しない」に囚われてる。グレッグ・イーガンにしても、数学や物理学の探求にドップリ浸かってたり。とか人を引き合いに出す前に、私自身が「宇宙の秘密を探る」類のお話が大好きだし。

 そこで「わからない」に納得せず安易な解に飛びつくと、原理主義やトンデモさんや差別主義に行きついてしまうのだ。

 ってな事を、5章まで多くの例を挙げて検証していく。多くの例が学術研究による統計数字なのに対し、ときおり幼い頃に亡くなった母親の話が混じっていて、これが結構しっとりきたり。

 熱心なクリスチャンであるC・S・ルイスの「沈黙の惑星より」を読んだとき、絶望的なまでの世界観の違いを感じた。ソレが何なのか、私は巧く語れなかったが、この本はスッキリと説明してくれたように思う。と当時に、本書の著者の仮説が当たっていれば、会話や説得、まして嘲笑は無駄だろうなあ、とも。

 とまれ、手品はタネを明かせば一気にシラけるわけで、今後も研究を続けて欲しいなあ。

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2018年3月12日 (月)

セス・S・ホロウィッツ「『音』と身体のふしぎな関係」柏書房 安部恵子訳

私がこの本を書こうと決めたのは、30年以上のあいだ、あらゆる種類の音に魅了されてきたからだ。(略)すなわち、音と聴覚が、どのようにして進化し、発達して、心の日常的な働きを形作ってきたか、というものだ。
  ――前書きと謝辞

世界の物理的性質は、感覚器とニューロンのレベルでの心理状態とは別個のものだ。だから、それを説明するための新たな用語を必要とする――それを心理物理学という。
  ――第1章 始まりは爆音

音は1日24時間私たちの警告システムとして働いている。聴覚システムは唯一、眠っているあいだでも信頼できる感覚システムだ。
  ――第5章 下側に存在するもの 時間、注意、情動

第一に、ネガティブな感情価が含まれる音は、同じ振幅(音量)でも、より大きい音だとして知覚されがちだということ。
第二に、最も強い評価は、感情的にポジティブなものに分類された音と関連があること。
そして最後に、どの分類においても最も強い感情反応を引き起こした音は、人間の発した声ということだ。
  ――第5章 下側に存在するもの 時間、注意、情動

説明に「時空間の」というような専門用語を使いだすととたんに、聴衆の九割を失うことになる。
  ――第6章 誰か、「音楽」を定義してください

「最善のサウンドトラックは、それが存在していることに気づかれさえしないものだ」
  ――第7章 耳にこびりつく音

ギャンブルに対する騒音の影響を調べる研究によって、興味深い統計的影響が示された。大音量の中では、ギャンブルをやりつけない人は掛け金が増える傾向があったが、深刻なギャンブル依存症が認められる人は、賭ける額が減る傾向があった。
  ――第8章 耳を通して脳をハックする

上から自分に向かって落ちてくるものからは、警告として役に立つような音がすることはめったにない。その結果、何か上空から自分をめがけて落ちてきながら音を立てるものは何でも、とりわけ恐ろしく感じる。
  ――第9章 兵器と奇妙なもの

脳は歌う。
  ――第11章 あなたに聞こえるものがあなたなのだ

【どんな本?】

 耳は常に起きている。眠れば何も見えないし、嫌な匂いにも気づかない。だが、目覚まし時計はあなたを叩き起こす。音は、そして聴覚は、優れた警告システムなのだ。だからパトカーや救急車はうるさくサイレンを鳴らすし、火災報知機もやかましく鳴り響く。

 そういった警告音は往々にして不愉快で、私たちをドキッとさせる。赤ん坊の泣き声や下手糞なピアノはイライラするし、黒板を爪でひっかく音は総毛が逆立つし、鳥のさえずりは心地よい気分になる。音は、ヒトの心を動かすのだ。

 聴覚神経科学者として研究に勤しむ傍ら、バンド・ミュージシャンや音楽プロデューサーや音響エンジニアとして働いた著者が、音とソレが人の心と体に及ぼす影響について綴る、ユニークな一般向け科学解説書。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は The Universal Sense : How Hearing Shapes Mind, by Seth S. Horowitz, 2012。日本語版は2015年5月10日第1刷発行。単行本ハードカバー縦一段組みで本文約310頁に加え、訳者あとがき3頁。9ポイント46字×19行×310頁=約270,940字、400字詰め原稿用紙で約678枚。文庫本なら少し厚めの一冊分。

 文章はやや硬い。元の文章はイタズラ心あふれるユーモラスなものだと感じるのだが、訳文はそれを活かしきれていない。内容は特に難しくない。大抵の楽器の音は倍音を含む、ぐらいが判っていれば充分。

【構成は?】

 各章は比較的に独立しているので、気になった所だけを拾い読みしてもいい。正直言って、最初の方は少しとっつきにくいので、特に映画が好きな人は「第7章 耳にこびりつく音」から読み始めてもいいだろう。

  • 前書きと謝辞
  • はじめに
  • 第1章 始まりは爆音
  • 第2章 空間や場所 セントラルパークを歩く
  • 第3章 ローエンドタイプの聴覚を持つ動物たち 魚類とカエル
  • 第4章 高周波音を聞く仲間
  • 第5章 下側に存在するもの 時間、注意、情動
  • 第6章 誰か、「音楽」を定義してください(そして、その定義について音楽家と心理学者、作曲家、神経科学者、それからアイポッドを聴いている人の同意をもらってください……)
  • 第7章 耳にこびりつく音 サウンドトラック、「スタジオ視聴者」の笑い声、頭から離れないCMソング
  • 第8章 耳を通して脳をハックする
  • 第9章 兵器と奇妙なもの
  • 第10章 未来の音
  • 第11章 あなたに聞こえるものがあなたなのだ
  • 参考文献/訳者あとがき/索引

【感想は?】

 聴覚は不思議だ。「ウォーリーをさがせ」で赤白帽の眼鏡男を見つけるのは難しい。でも、ザワザワしたパーティーで自分の名前や馴染みの声は簡単に聞き分けられる。

 裸足でステージに立つミュージシャンと聞くと、私は中島みゆきを思い浮かべるのだが、この本に出てくるのはデイム・エヴェリン・グレニー。パーカッショニスト(→Youtube)。この動画で、彼女はピアノと合奏している。なんと、彼女、「ほとんど耳が聞こえない」。なぜそれでピアノとタイミングが合うのだろう?

 タネの一つは素足。足でステージの振動を拾い、マリンバの共鳴パイプの音波を下半身で捉え、または頭蓋骨の共鳴で音を「聴いて」いるとか。中島みゆきの裸足にも、もしかしたら同じ理由があるのかも。音というと耳ばかりに注目しがちだが、ヒトは体全体で音を聴いているのだ。

 これは有難くもあるが、時として困った効果を及ぼす事もある。車を運転する人なら、長距離ドライブで眠気に襲われた経験もあるだろう。あれは睡眠不足だけが原因ではない。車は揺れる。整った道路だと、「低振幅で低周波数の偽ランダム振動」、つまり穏やかで小さな揺れが続く。

 これがヒトの疲労感と眠気を引き起こすのだ。困った話だが、役に立つ時もある。泣き止まない赤ちゃんも、ドライブすると眠りついたりするのだ。この性質を利用して、著者は子供を寝付かせるCDを作ったのだが…

 サウンド・エンジニアとしての著者の腕はなかなかのもので、某メタルバンドから、いかにもな依頼を受けている。曰く、「誰もが恐怖で金切り声をあげる」よう修正してくれ、と。著者の仕事は見事に当たり…

スタジオエンジニアが叫びながら部屋を飛び出して、私たちとは二度と一緒に働きたくないといった。

 いったいどんな音だw ちなみに「『スラッシュ』というイギリスのメタルバンド」とあるが、G'N'R の Slash なのかスラッシュメタルなのか、または本当にスラッシュって名前のバンドなのか、少し調べたがわからなかった。メタルに詳しい人、教えてください。

 なんいせよ、視覚によるサブリミナル効果は胡散臭いが、聴覚にうったえる手段はあるようだ。ただし本書に紹介されているのは、不愉快なものばかりだけど。そういえばキューバのアメリカ大使館に音響攻撃ってニュースがあったけど、実際はどうなんだろ?

 軍事関係の話もチラホラ。昔のSFじゃギャオスをはじめ超音波は必殺兵器だったが、実際に作るとなると難しい。周波数の高い音はすぐに減衰するので、遠くまで届かないのだ。ただし役に立つ使い方もあって、尿路結石などを砕くのに使われている(→Wikipedia)。

 逆に怖いのが低周波。どうも一部の幽霊の正体は、これかもしれない。ヒトの目の共鳴周波数は19ヘルツなので、同じ周波数の音が鳴り響くと、「視野の周辺部に色づいた光が見えたり、視野の中心に影のような灰色の領域が現れ」る。上手くアレンジすれば、遊園地のお化け屋敷で使えるかも。

 とかもあるが、実は既に音響兵器はあった。第二次世界大戦でドイツ空軍が使ったスツーカだ。「[戦争]の心理学」に曰く、「戦闘ではより大きな音をたてたほうが勝つ」。音でビビらすだけでも、大きな効果があるのだ。どころか、鏑矢(→Wikipedia)もビビらせる効果があったとか。ホンマかいな?

 など、後半は人間に関する話題が中心なので、とっつきやすいネタが多い。

 対して前半は、熱気球で地上の音を拾うなど、音そのものの性質や、ウシガエルのラブコールの分析など、ちと人間から離れたネタが中心だ。中でもケッサクなのが、ニシンのコミュニケーション方法。優れた聴覚を持つが発声器官のないニシン。この矛盾は何かと思ったら…。そりゃ予想外だよなあ。

 と、尻上がりに面白くなる本だった。ちと文章は硬いが、音楽が好きな人は第6章あたりから読み始めるといいかも。

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2018年3月 8日 (木)

A・V・バナジー+E・デュフロ「貧乏人の経済学 もう一度貧困問題を根っこから考える」みすず書房 山形浩生訳

本書は、援助すべてがいいとか悪いとかは言いません。でも、援助の特定の事例が、何かいい結果をもたらしたか、もたらさなかったかは述べます。
  ――第1章 もう一度考え直そう、もう一度

ほとんどの富裕国専門家たちが開発援助や貧困に関する問題で取る立場というのは、その人固有の世界観に左右されることが多いのです。
  ――第1章 もう一度考え直そう、もう一度

18カ国で集めたデータによると、貧しい人々はラジオやテレビがないところに限って、祭りにたくさんの金をつぎこむ傾向にあります。
  ――第2章 10億人が飢えている?

問題は、貧しい人々が健康にいくら使ってるかということではなく、何にお金を使っているかということです。安価ですむ予防よりも、高くつく治療にお金が使われているのです。
  ――第3章 お手軽に(世界の)健康を増進?

わたしたちの本当の強みは、当然のように享受している多くのことから来ています。きれいな水の出る水道がひかれた家に住んでいます――毎朝忘れずにクローリン(消毒剤)を水に加える必要はありません。
  ――第3章 お手軽に(世界の)健康を増進?

ムハマドオ・ユヌスやパドマジャ・レディのような人々のイノベーション(マイクロファイナンス)は、もっと手の届く金利で貧乏人に融資するという発想だけではありません。それを実現する方法を考案したことなのです。
  ――第7章 カブールから来た男とインドの宦官たち

多くの貧乏な人の貯金方法はお金を他人から安全に守るだけでなく、自分自身から守るようにも意図されているのです。
  ――第8章 レンガひとつづつ貯蓄

雇用の安定性こそが、中流階級と貧乏な人々との大きなちがいのようです。
  ――第9章 起業家たちは気乗り薄

ウガンダ政府は学校に対し、(略)補助金を出し(略)てします。中央政府が学校に割り当てたこの資金のうち、実際に学校の手に渡るのはいくらなのでしょうか?(略)
資金のうち学校に届いたのはたった13%。
  ――第10章 政策と政治

優勢な集団からの選出者は、腐敗率が高かったのです。
  ――第10章 政策と政治

【どんな本?】

 「アフリカでは×億人が飢えて云々」と昔から言われてきた。そして、ずっと援助もされてきた。だが、それで貧困が消えたという話はまず聞かない。着実に成長しているボツワナは、奇蹟とまで言われる始末だ。まるで成長しないのが当たり前のようではないか。

 なぜなのだろう。どうすればいいのだろう。これには、様々な意見がある。

 例えばグラミン銀行で有名なムハマド・ユヌスは、ソーシャル・ビジネスが正解だと語る(「貧困のない世界を創る」)。貧しい者でも起業家精神はある、ただ起業資金が調達できないのだ、と。そこで貧しい人向けのグラミン銀行を創り出し、同様のマイクロ・ファイナンスは世界中に広がった。

ジェフリー・サックスは、こう主張する。彼らは「貧困の罠」に囚われている。貧しいがゆえに稼げないのだ、と。そこで二次大戦後に合衆国が西欧を支援したマーシャル・プランのように、ドカンと大きな支援を、と主張する(「貧困の終焉」)。

 これに対し、「支援は無駄だ」とする立場もある。

 例えばダロン・アセモグルとジェイムズ・A・ロビンスンは、政治制度が問題の根源だと説く(「国家はなぜ衰退するのか」)。事態をよくするには、革命ですら不足で、徹底した制度改革が必要だ、と。

 また、ウィリアム・イースタリーは、下手な援助は逆効果だ、と言う。解は自由市場と適切なインセンティブ(動機付け)だ、と。

 これらの主張に対し、著者らは実験で統計を取り、成果を測ってみた。また、成功した事例・失敗した事例それぞれにつき、実際に支援の対象となる人々の声を聞き、またその家計の収支にまで踏み込み、各実験の成否の原因を突き止めてゆく。

 そこで見えてくるのは、もっと微妙な要因が成否を左右しているらしい、という事実である。貧しい人々の暮らしを知ることが大事なのだ、と。

 果たして援助は役に立っているのか、いいないのか。役に立つとしたら、どんな支援が効果的なのか。なぜ支援が無駄になるのか。どうすれば無駄を減らせるのか。または革命ですら無駄なのか。

 多くの統計データに加え、個々の人々の暮らしぶりから得た具体例を用い、適切な支援のあり方を示すと共に、そもそも「貧しいとはどういうことか」を私たちに突きつける、リアリティあふれる経済学の本。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は Poor Economics : A Radical Rethinking of the Way to Fight Global Poverty, by Abhijit V. Banejee + Esther Duflo, 2011。日本語版は2012年4月2日発行。単行本ハードカバー縦一段組みで本文約349頁に加え、訳者解説が豪華12頁。9ポイント46字×18行×349頁=約288,972字、400字詰め原稿用紙で約723枚。文庫本なら厚い一冊分の分量。

 文章は比較的にこなれている。内容も意外と難しくない。ただ、貧しい人の暮らしの本なので、生まれつき豊かな人にはピンとこないかも。もちろん。私にはグサグサきました。そう、貧しいってのは、そういう事なんだよなあ。

【構成は?】

 全体としての流れはあるが、個々の章だけでも一応は完結しているので、美味しそうな所をつまみ食いしてもいい。

  • はじめに
  • 第1章 もう一度考え直そう、もう一度
    貧困にとらわれる?
  • 第1部 個人の暮らし
  • 第2章 10億人が飢えている?
    本当に10憶人が飢えているのか?/貧乏な人々は本当にしっかり十分に食べているのか?/なぜ貧乏な人々は少ししか食べないのか?/だれも知らない?/食べ物より大事/結局、栄養摂取による貧困の罠は実在するのか?
  • 第3章 お手軽に(世界の)健康を増進?
    健康の罠/なぜこれらの技術はもっと利用されないのか?/十分に活用されない奇跡/健康改善願望/お金をドブに捨てる/みんな政府が悪いのか?/健康追及行動を理解する/無料は無価値のあかし?/信仰?/弱い信念と希望の必要性/新年の誓い/後押しか説得か?/ソファからの眺め
  • 第4章 クラスで一番
    需要供給戦争/需要ワラーの言い分/条件付き補助金の風変わりな歴史/トップダウン型の教育政策は機能するか?/私立学校/プラサム対私立学校/期待の呪い/幻のS字曲線/エリート主義的な学校教育/なぜ学校は失敗するのか/教育の再設計
  • 第5章 パク・スダルノの大家族
    大家族の何が問題か?/貧乏人は子作りの意思決定をコントロールするのか?/セックス、制服、金持ちおじさん/だれの選択?/金融資産としての子供/家族
  • 第2部 制度
  • 第6章 はだしのファンドマネージャ
    貧乏のもたらす危険/ヘッジをかける/助け合い/貧乏人向けの保険会社はないの?/なぜ貧乏人は保険を買いたがらないの?
  • 第7章 カブールから来た男とインドの宦官たち
    貧乏人に貸す/貧乏人融資のやさしい(わけではない)経済学/マクロ計画のためのマイクロ洞察/マイクロ融資はうまくいくのか?/マイクロ融資の限界/少し大きめの企業はどうやって資金調達を?
  • 第8章 レンガひとつづつ貯蓄
    なぜ貧乏人はもっと貯蓄しないのか/貯蓄の心理/貯蓄と自制心/貧困と自制心の論理/罠から抜け出す
  • 第9章 起業家たちは気乗り薄
    資本なき資本家たち/貧乏な人のビジネス/とても小さく儲からないビジネス/限界と平均/企業はむずかしすぎる/職を買う/よい仕事
  • 第10章 政策と政治
    政治経済/周縁部での変化/分権化と民主主義の実態/権力を人々に/民族分断をごまかす/政治経済に抗して
  • 網羅的な結論にかえて
  • 謝辞/訳者解説/原注/索引

【感想は?】

 結論は簡単だ。万能の策はない。が、個々の問題に効く方法はあり、限界もまたある。

 問題解決なんて何でもそうだが、つまりは「細かい所が大事」なのだ。そして、現場をよく知ることも。って、まるでソフトウェアの開発か薬みたいだ。

 この本の特徴は、二つだろう。第一に、それぞれの支援方法を、ランダム化対照実験(またはランダム化比較実験,RCT,→Wikipedia)で効果を測っている点。薬の二重盲検のように、実験で支援の効果を測っている点だ。これにより、統計的な数字が出てくる。

 次に、実際に貧しい人々の所に出かけてゆき、なぜ支援の効果が出たのか/出ないのかを、支援される人々に訪ね、原因を探っている事だ。そこで、オフィスではわからない「現場の事情」が見えてくる。ちょっとした手順の違いが、大きな効果を生み出す事もあるらしい。

 手順の違いの興味深い例が、終盤に出てくる。世銀が金を出し、インドネシアの村の道や灌漑水路を修理する計画KDPだ。村で集会を開いたら、成人数百人中、平均50人しか出てこない。うち半数は地元のエリート。発言したのも8人だけ、うち7人はエリート層。これじゃ貧しい人の話は聞けない。

 そこで、手紙で村人に出席を依頼したところ、出席者は65人に増えた。これには続きがある。

 一部の村では、手紙にアンケート用紙をつけた。手紙を配る際、二つの方法を取った。片方は学校で子供に渡し、家に届けるよう頼む。もう一方は村の長が配る。この配り方で、アンケートの結果が違ってくるから面白い。学校経由で配ると、批判的な答えが増えるのだ。

 どうもアンケートは、受ける人の微妙な気持ちの違いに強く影響されるらしい。

 「経済政策で人は死ぬか?」では、不況時にこそ医療と教育を充実させろ、とある。これは不況だけでなく発展途上国も同じで、特に妊婦と子供がお得。ラテンアメリカの調査によると、マラリアに罹らないだけで、成人後の年収が5割ほど増えるとか。子供を大事にする国は伸びるのだ。

 だが、教育は難しい。「ご冗談でしょう、ファインマンさん」では、ブラジルの科学教育の酷さを嘆いていた。この本ではインドの例で、その歪みを植民地時代に求めている。

 宗主国イギリスが求めたのは「現地のエリートとなる役人」であって、賢い労働者じゃない。だから、優等生だけを優遇し、他の者は落ちこぼれるままにした。落ちこぼれた者は、授業が分からないし学校がつまらないので通わなくなる。

 皮肉なのは、親も不登校を「仕方がない」とすぐ認めちゃうこと。周りにも学校に行かない子が多いので、「そんなもんだ」と思ってるんだろうか。子が不登校だと親が焦る日本と、どっちがいいのやらw

 が、ちゃんと成功例もある。1991年、エチオピアからイスラエルに一万五千人が移住してきた。親の多くは1~2年しか教育を受けていないが、「エチオピア出身の子供のうち65%が、落第することなく第12学年に達していました」。日本だと高校卒業に当たるのかな。ちなみにロシアからの移民だと74%。

 環境を整えて、基礎をちゃんと教えれば、なんとかなるのだ。但し、教師にも相応の訓練が要るけど。といっても、アメリカのボストンの例だと、1週間~10日程度の研修で身につくらしい。加えて、習熟度別のクラス分けも効果があるとか。なんで日本は飛び級を認めないのかねえ。

 とかの制度的な話も面白いが、貧乏ならではの苦労も身につまされたり。

 例えば水だ。私たちは断水でもしなけりゃ、まず水に困らない。日本の水道水は塩素で消毒されてるから、赤痢の心配もない。だが、水道がないインドの村では違う。彼らは、毎朝クローリンで水を消毒しなきゃいけない。貧しいってのは、病気を防ぐってだけでも、手間と費用が嵩むってことなのだ。

 など、私の好みを反映した例ばかりを抜き出したが、そうでない例も出てくる。例えばマイクロファイナンスについて、効果は認めながら「でも限界はあるよ」と、かなり痛い所を突いてきたり。その最たるものが、冒頭の引用ウガンダが学校に出す補助金だろう。どうやら地区の役人がネコババしたらしい。

 が、ちゃんとオチもついてる。これが明るみに出ると大騒ぎになり、財務省が新聞で送金額を発表するようになった。結果、学校は80%を受け取れるようになったとか。つまりは情報公開が大事なのかも。だってのに、わが国はブツブツ…

 他にも税金の納め方の違いが社会構造や経済発展に影響する例とかもあって、これは給料天引き制度の日本人にはかなりショッキング。今すぐ役立つ本ではないけど、多少なりとも経済政策や権力構造に興味があるなら、きっと楽しく読めるだろう。

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2018年3月 5日 (月)

エイミー・B・グリーンフィールド「完璧な赤 『欲望の色』をめぐる帝国と密偵と大航海の物語」早川書房 佐藤桂訳

コチニールをめぐる熱狂的な競争の歴史は、もうひとつの世界へひらかれた窓である――そこでは赤という色は希少価値のある大切なものであり、その秘密を知る者にとっては富と権力の源だった。
  ――プロローグ 欲望の色

重量当たりで考えれば、コチニールは海賊が略奪できる商品のなかで最も高価なものだった。
  ――9 海賊による略奪

スペイン人は何百年も前に気づいていたが、コチニールは大規模農場の共生労働者の手ではなかなかうまく飼育できない。根気と細やかな世話が欠かせないからだ。当の働き手が小さな畑地を所有し、コチニールを育てたいという動機を持っているのでなければむずかしい。
  ――16 深紅を求めて

合成染料の発明によってこの均衡が根底から崩れ去った。色はあらゆる意味によって安くなった。
  ――エピローグ 庶民の色へ

【どんな本?】

 赤。現在において、赤は情熱・欲望・怒り・危険などを表す。だが、かつてはもう一つの意味もあった。地位・権力・富など、社会的な力である。

 合成染料が登場するまで、赤い染料は乏しかった。あるにはあるが、色合いが悪い、布地に定着しない、すぐに色あせる、有害な砒素を使うなど、それぞれに欠点を持つ。そのため、鮮やかな赤をまとえる者は、極めて限られる。赤は権力と富を意味していたのだ。

 そして1523年。借金に苦しむスペインに、新大陸からコチニールが届く。小さな粒が秘めた色素は、絹を鮮やかな赤に染め上げる。乾燥すれば長持ちし、運びやすく、重量の割に高く売れるコチニールは、長い航海で大西洋を渡る貿易品目として理想的だった。

 やがてコチニールは西欧を席巻し、巨万の富を生み出す。スペインはその秘密を守り利益の独り占めを目論むが、イタリア・イギリス・オランダ・フランスなどの諸国はコチニールの秘密を暴き手に入れるべく、それぞれに画策を始め…

 「完璧な赤」を生み出す画期的な染料コチニールを中心に、色と染料をめぐる波乱万丈の歴史物語を描き出す、歴史ノンフィクション。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は A PERFECT RED : Empire, Espionage, and the Quest for the Color of Desire, by Amy Butler Greenfield, 2005。日本語版は2006年10月15日初版発行。単行本ハードカバー縦一段組みで本文約311頁に加え、訳者あとがき3頁。9ポイント43字×18行×311頁=約240,714字、400字詰め原稿用紙で約602頁。文庫本なら少し厚めの一冊分。

 文章はこなれていて読みやすい。内容も特に難しくない。基本的に16世紀以降の西洋を舞台とする話なので、西洋史に詳しいと更に楽しめるだろう。

【構成は?】

 それぞれの章はほぼ独立しているので、美味しそうな所だけを拾い読みしてもいい。

  • プロローグ 欲望の色
  • 1 染物職人の宿命
  • 2 太陽の色
  • 3 古代の芸術
  • 4 皇帝の新しい染料
  • 5 富を生む帝国
  • 6 試されるコチニール
  • 7 受け継がれた遺産
  • 8 商売の秘密
  • 9 海賊による略奪
  • 10 虫か種子か
  • 11 レンズを覗いてみれば
  • 12 虫か種子かの大勝負
  • 13 オアハカのスパイ
  • 14 イギリス東インド会社アンダースンの愚行
  • 15 赤と革命
  • 16 深紅を求めて
  • 17 一塊の石炭から
  • 18 コチニールの復興
  • エピローグ 庶民の色へ
  • 謝辞/訳者あとがき/注釈/おもな参考文献/索引

【感想は?】

 そう、昔と今では色の意味が全く違うのだ。

 現在、社会的な地位や信用のある人は、落ち着いた色合いを身に着ける。銀行員のスーツは、黒または濃い紺かグレーだ。だが、口絵のコジモ・メディチ(15世紀の銀行家、→Wikipedia)は、深紅の上着と帽子をまとっている。

 先に書いたように、当時は赤い染料が乏しかった。だから、赤は富と権力を表す色だったのだ。

 合成染料が発達した現在、たいていの色は簡単に手に入る。だが、自然染料しかなかった時代は、それぞれの色ごとに原材料も染め方も違った。染色工のギルドすら、色ごとに専門化していた。昔の人にとって、カラフルであることは、富と権勢を意味したし、強い憧れの対象でもあった。

 先の口絵に戻ろう。何も知らない現在の者が見ると、赤で統一したコジモの肖像は、単に「派手好きのオヤジ」に見える。が、当時の人が見れば、単に派手なだけでなく、贅を尽くした豪華絢爛な衣装に感じるだろう。名画を鑑賞するにも、歴史の知識が必要だったとは。

 といった驚きで始まるこの本は、以降も歴史の皮肉や波乱万丈の冒険が続き、物語としても読みどころが溢れている。

 やはり先に書いたように、コチニールはスペインとエルナン・コルテスらコンキスタドールにとって、汲めども尽きぬ富の源泉のように見える。だが、コチニール貿易の幕開けは不思議なくらいモタつくのだ。

 コチニールの正体は、ウチワサボテンに寄生するカイガラムシだ。これは現地アステカでも長年珍重され、品種改良されていた。改良種は品質が良い半面、天候の変化や天敵・病気に弱い。また、油断すると野生種が紛れこみ品質が落ちてしまう。絶え間ない気配りと手入れが欠かせない、繊細な作物だ。

 こういう作物は奴隷労働を主力とする大規模プランテーションには向かない。小規模な自作農が相応しい。そこで、コチニールの生産拠点となったのが、トラスカラ。

 トラスカラは、アステカ征服の際にコルテスらと手を組んだ功績を認められ、比較的に独立の度合いが高かった。そのため、スペイン政府の強引な命令は効果がない。効いたのは商人と現地の役人が組んで創り上げた信用貸付制度である。要は金を貸すからコチニールを安く売れって取り引き。

 この辺を読むと、アメリカ合衆国に多いリバタリアンの気持ちが少し分かってくる。当時のスペイン政府の政策は、特にビジネスに関する限り権力をカサに着たヘマの連続で、商人たちの足をひっぱるばかり。こういう歴史があるなら、そりゃ政府って存在を憎むのも無理ないよなあ、と思ったり。

 さて肝心のコチニール、出だしこそモタつくものの、すぐに西欧を席巻し、スペインに大きな富をもたらす。当然、スペインはコチニールの秘密を守るべく、厳しい統制を敷く。他の国がこれを指をくわえて見ている筈もなく、あの手この手でコチニールの秘密を暴こうと動き出す。

 ここでは、18世紀後半のフランス人ニコラス・ジョゼフ・ティエリー・ドゥ・ムノンヴィーユの冒険が、まるでジュール・ヴェルヌの小説のように起伏に満ちた物語で、とってもワクワクする。コチニールを盗み出すためメキシコに潜入するミッションなので、モーリス・ルブランに例えるのが相応しいかも。

 そんなコチニールに、合成染料が黄昏をもたらす終盤では、ドイツで科学が台頭した背景の一端が披露される。科学、特に化学の進歩には、染料が大きな役割を果たしたのだ。発展途上国の工業化の第一歩が軽工業なのも、こういった事情が関係してるんだろう。

 などと、歴史のなかで変わってきた色に対する私たちの感覚から、カリブの海賊の手口、危機また危機の冒険、それぞれの時代の各国の勢力事情、そしてコチニールの現在など、楽しい物語と意外なエピソードてんこもりの、驚きに満ちた本だった。

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2018年3月 2日 (金)

SFマガジン2018年4月号

わたしの名はフェランテ、軍艦百卒長(センチュリオン)771の指揮官を務めている。
  ――アダム・ロバーツ「9と11のあいだ」内田昌行訳

「今のような自動化による最適化が進んだ世界は、結局は元々抱えていたリソースの量で勝負が決まるためです」
  ――長谷敏司「1カップの世界」

「…何とかなると思う。オフィスの人たちと、それに、私とあなたなら」
  ――冲方丁「マルドゥック・アノニマス」

 376頁の標準サイズ。

 特集は2本。まずベスト・オブ・ベスト2017として、「SFが読みたい! 2018年版」でベストSF2017の上位に選ばれた飛浩隆/小川哲/赤野工作/柞刈湯葉/アダム・ロバーツの短編を収録。次に『BEATLESS』&長谷敏司特集。

 小説は豪華14本。

 うち連載は5本。椎名誠のニュートラル・コーナー「謎の周回飛行物体物」,神林長平「先をゆくもの達」第2回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第19回,三雲岳斗「忘られのリメメント」最終回,藤井太洋「マン・カインド」第4回。

 読み切り&不定期掲載は9本。

 ベスト・オブ・ベスト2017で5本、飛浩隆「『方霊船』始末」,小川哲「魔術師」,赤野工作「邪魔にもならない」,柞刈湯葉「宇宙ラーメン重油味」,アダム・ロバーツ「9と11のあいだ」内田昌行訳。

 『BEATLESS』&長谷敏司特集で1本、BEATLESSのスピンオフ長谷敏司「1カップの世界」。

 加えて待ってました菅浩江「博物館惑星2・ルーキー 第二話 お開きはまだ」,上遠野浩平「憎悪人間は怒らない」,エンミ・イタランタ「骨のカンテレを抱いて」古市真由美訳。

 飛浩隆「『方霊船』始末」。ワンダ・フェアフーフェン、<轍>世界では知らぬ者のいない女傑。最近は公の場に顔を出さない彼女が語る、美鷺との出会い。それは名門私立の寄宿舎学校。ワンダに半年ほど遅れてやってきた美鷺は、まさしく「鳥頭」な風貌で…

 噂の大作「零號琴」のスピンオフ。いや読んでないけど。ワンダさん、雰囲気は星界シリーズのスポール様をガサツにした感じかなあ。ええトコのお嬢さんが集まる寄宿舎学校で起きる怪異って舞台設定は映画「サスペリア」みたいなホラーなんだけど、なにせ役者がワンダなんで、妙な安心感があったりw

 アダム・ロバーツ「9と11のあいだ」内田昌行訳。遠未来、人類は宇宙でトレフォイル族と戦っていた。人類の軍艦百卒長771とサムライ10は、トレフォイル族の手負いの超大型艦ET13-40に攻撃を仕掛けたが…

 似た部分も多いが、根本的に異なる点もあり、時として話が通じないエイリアンとの戦い。宇宙空間を舞台としたスペースオペラ…かと思ったら、バリトン・J・ベイリーばりのお馬鹿な発想が炸裂する、とっても愉快なお話。宇宙すごいw

 小川哲「魔術師」。師から授けられた、マジシャンの三つの禁忌。敢えてそれを破ることで、新しいマジックを生み出せるのではないか。そう考えたマジシャン竹村理道は、空前のマジックに挑む。

 掲載誌がSFマガジンかミステリ・マガジンかで解釈が違ってくる作品。私はミステリ・マガジン派で解釈した方が面白いと思う。なんたって、ウケるためには何でも犠牲にする芸人の業が伝わってくるし。それと、あの三つの禁忌って、文章書きにも使えそう。

 赤野工作「邪魔にもならない」。RTA、Real Time Attack。ゲームをクリアするまでの実際の時間を競うプレイ。途中の食事・トイレ・睡眠、すべてタイムに含む。病気の発作や自然災害でも、中断は許されない。これから私が挑むのはファミリーコンピュータの「スペランカー」。

 RTA とはだいぶ違うけど。私が大好きなガンパレード・マーチには、一年に一度しかできない、少し変わった遊び方があって。3月4日に始めて、毎日1日分だけ進めてセーブ。すると現実とゲームが同じ時間経過で話が進む。メーカーが用意した戦車兵・歩兵・司令・整備兵・靴下の他に、ファンが様々な遊び方を生み出し、中には仲人プレイなんてのもあり、ゲームは創造力で遊び方も広がると教えてくれた作品だった。

 柞刈湯葉「宇宙ラーメン重油味」。太陽系エッジワース・カイパーベルトにある時空間移動ポータル。トリパーチ星系行きの開門まで、地球時間であと1日ある。出張からトリパーチ星系に帰る部長と課長は、近くの「エキチカ」に「どんな星系の客でも対応できる」ラーメン屋があると聞き…

 部長と課長とかエキチカとかヤタイとか、命名センスが抜群。宇宙空間での調理の苦労など、細かい所へのこだわりも楽しい。かと思えば、多種多様なエイリアンの生態と、それに合わせた素材や調理用具・調理方法なども、なかなかの読みどころ。にしても、よく採算が取れるなあw

 長谷敏司「1カップの世界」。2027年、16歳の時に難病で冷凍睡眠に入り、未来の医療技術に望みを賭けたエリカ・バロウズ。目覚めたのは2104年。既に災害で血縁者は全滅した。残された信託財産は膨大で、退院後は財団の理事長となる予定だ。

 私たちに比較的に近い2027年の人間を、BEATLESS 世界に放り込むとどうなるかって発想が上手い。たいていの事は人間よりAIの方が巧みにやってしまう世界の違和感が、エリカの目を通してヒシヒシと伝わってくる。アナログ・ハックのバグも見事。

 エンミ・イタランタ「骨のカンテレを抱いて」古市真由美訳。相棒の予告通り、すぐに依頼人がやってきた。夫を喪ったH夫人は、貸し部屋の賃貸収入で暮らしていたが、店子が居つかない。どうも隣に住む小うるさい婦人が原因らしい。相談を受けたヨハン・Sとわたしは…

 貴重なフィンランドSF。解説によるとカンテレは「日本の琴にも似た多絃の民族楽器」とあるが、演奏法はバラエティに富んでいて、多様な音色を出せるみたい(→Youtube)。リズミカルだけど哀愁漂う音楽は、この物語の終幕で響く残響みたい。

 椎名誠のニュートラル・コーナー「謎の周回飛行物体物」。ラクダの子宮に潜り旅するわたし。その惑星はパイプ型で、中にも内惑星があった。

 今回はガングリ酒のエピソードが好きだ。人間ってのは、どこに住んでも酒は造る生き物で、「アフリカが発展しないのはヤシ酒のせいだ」なんて話もあるぐらい。だもんで、ごれぐらいの執念をかける奴もいるだろうなあ。

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第19回。ウフコックの辛抱強い潜入捜査の成果が実を結び、また市の有力者たちの協力も得て、イースターズ・オフィスは<クィンテット>への攻撃に出る。しかし、この土壇場になって事態は急転し、乱戦模様となり…

 今回は派手なバトル・アクションが楽しめる。重戦車のごとくパワーと装甲で攻めるレザーも見物だが、単純な力押しでトレヴァーと張り合うラファエル・ネイルズもなかなか。そして、終盤ではついに…

 上遠野浩平「憎悪人間は怒らない」。合成人間を生み出す合成薬を作り出す製造人間、ウトセラ・ムビョウ。彼と同居するコノハ・ヒノオは、犬の散歩の途中で老人と出会う。ボンと名乗る老人は、公園のベンチに座っているだけなのに、鳩が集まってくる。ばかりか、ヒノオの犬も…

 改めて考えると、ブギーポップの時から、この人の描く特殊能力の持ち主って、とっても「ヒーロー」らしいくないのが多いよなあ。ブギーポップは自覚がないし、ウトセラは面倒くさそうだし、今回の憎悪人間も…。

 三雲岳斗「忘られのリメメント」最終回。額に貼るだけで他人の記憶を体験できる疑憶素子メメントが普及した未来。メメント・アーティストの深菜は、脱法MEMの調査を頼まれる。かつての連続殺人鬼・朝来野唯の模倣犯の犯行記録が出回っているという。

 誰かが苦労して身に着けた技能をコピーできるってのは、やっぱり魅力だ。私としては是非パコ・デ・ルシアの…って、しつこいかw

 神林長平「先をゆくもの達」第2回。火星への使者に選ばれた若生は、月へ行くシャトルに乗っていた。生まれ育ったのは安曇野原。二度と地球には戻れない。だが、若生は淡々と受け入れる。なぜ若生が使者に選ばれたのか、説明はなかった。

 今回は地球の様子が語られる。言われてみれば、確かにあの作品に客室乗務員は要らないよなあ。にしても、マタゾウたちの生態は愉快というか楽しいと言うか。野良〇〇かあ。どうも地表の多くが水没してるらしいけど、ヒトはそれなりに平和にやっている様子。

 菅浩江「博物館惑星2・ルーキー 第二話 お開きはまだ」。博物館惑星の新米警備員、兵頭健。今回の仕事は、若きミュージカル評論家として名高いアイリス・キャメロンの警護だ。『月と皇帝』の初演を見にきたアイリスには、脅迫状が届いていた。

 録画・録音と生ってのは、やっぱり色々と違ってて。音楽でも、70年代あたりまでのライブ盤は、演奏ミスもそのままはいってたけど、80年代あたりからは録音し直してたり。でもラジオ放送とかだと、ミスもそのまま流してて、なかなか貴重な音源になる。とは別に、マシンと人間の違いも重要なテーマ。

 藤井太洋「マン・カインド」第4回。ジャーナリスト迫田城兵は、軍事衝突の取材中、チェリー・イグナシオが捕虜を殺す場面を報じた。しかし、このスクープは事実確認プラットフォーム<コヴフェ>にガセネタと判断される。チェリーに頼まれ、犠牲者の遺族を訪ねる迫田は…

 トレッキーはやはり「ヘイ、コンピュータ」と呼びかけるんだろうか。「第二内戦」も読みたいなあ。同じ戦争でも南と北で視点が違うのは、言われてみれば当たり前だけど、今でもくすぶってるんだろうか。レナード・スキナードのライブじゃ、今でもサザン・クロスを振り回す奴がいるし。

 筒井康隆自作を語る 第6回 『虚人たち』『虚航船団』の時代。やっぱり『虚航船団』は発表当時に大騒ぎになったのか。そりゃなるよねえ。

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