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2018年2月の17件の記事

2018年2月27日 (火)

ロバート・J・ソウヤー「ハイブリッド 新種 ネアンデルタール・パララックス 3」ハヤカワ文庫SF 内田昌之訳

世界が崩壊するときには、ものごとはずいぶん速く進むらしい。
  ――p66

われわれホモ・サピエンスの最大の長所とは、四万年まえに意識の夜明けをむかえたときからずっと、先へ進もうとする意欲なのです。
  ――p73

「わたしたちは、ものごとの根底になにも規則がないという事実を受け入れられないのです」
  ――p102

「大きな脳をもつ異星人があらわれるのを待っていたら、ついにそれが登場したのよ。ただ、アルファ・ケンタウリからじゃなくて、すぐおとなりからやってきたと」
  ――p154

「もしも宗教の原因を突き止めることができれば……」
  ――p224

男なんか地獄へおちればいい。
  ――p429

【どんな本?】

 カナダ出身の人気SF作家ロバート・J・ソウヤーによる三部作の完結編。

 カナダのサドベリーにあるニッケル鉱山を利用したニュートリノ観測所。そこに突如現れた男は、もうひとつの地球に住むネアンデルタール人だった。あちらの世界では、我々の先祖クロマニヨンが滅び、ネアンデルタールが文明を築いていた。

 突然の事故により訪れた来訪者、そして彼がやってきた通路は、双方の世界に驚きと混乱をもたらす。騒ぎの中で、こちらの遺伝学者メアリ・ヴォーンと向こうの理論物理学者ポンターは、互いに惹かれ合う。

 いずれの世界にも、この交流を事を快く思わぬ者もいる中で、ポンターらは今後も交流を続けられるように手を打ち始める。だが、行動を起こし始めたのは推進派ばかりではない。

 メアリとポンターのカップルを軸に、食事・性・家族制度・住居・衣料など身近な事柄から、治安・政治制度・司法・交通機関など社会システム、そして生死や宗教など思想的な面に至るまで、「もう一つの世界」を鏡として私たちヒトの姿を風刺する、痛快娯楽ファーストコンタクトSF。

 2003年度ヒューゴー賞長編小説部門受賞。SFマガジン編集部編「SFが読みたい!2006年版」のベストSF2005海外篇7位に食い込んだ。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は HYBRIDS, by Robert J. Sawyer, 2003。日本語版は2005年10月31日発行。文庫本で縦一段組み、本文約520頁に加え、金子隆一の解説9頁。9ポイント40字×18字×520頁=約374,400字、400字詰め原稿用紙で約936枚。文庫本としては上下巻でもいい分量。

 文章はこなれている。内容も特に難しくない。幾つかケッタイなガジェットが出てくるが、面倒くさかったら「ソレで何ができるか」だけに注意しよう。「どんな理屈で動くのか」はわからなくても問題ない。元ネタは真面目な論文だったりするが、このお話の中での使い方はハッタリかましてる。

 それより、問題は作品の構成。三部作となっているが、実質的には大長編の上中下巻だろう。なので、先の「ホミニッド 原人」「ヒューマン 人類」から読もう。

【感想は?】

 やはり社会風刺が厳しい作品だが、この巻では少し趣が違う。

 というのも。今までは遠くから野次馬の目線で見ていた事柄が、この巻ではメアリ自身の問題として立ちはだかってくるのだ。そういう点では、理屈に走りたがるSFファンへの皮肉と取れないこともない。

 その焦点の一つは、宗教。これが幾つかの問題を生み出す。メアリはカトリックだ。そしてカトリックは避妊・堕胎・離婚を禁じている。そして、手続き上、メアリは結婚している。そこでポンターと結ばれるためには、今の夫コルムとの仲を解消しなきゃいけない。

 この部分、私はちょっと「あれ?」と思った。日本だと役所に届けを出せば終わりだ。だが、メアリにとっては、教会に正式に認めてもらいたいんだろう。なんにせよ、読みかけの本の扱いに限れば、私はコルム君に賛成だなあ。

 宗教と心の問題は、当然ながら性にも深く関わり、<ふたつがひとつに>など家族制度の違いも生み出す。にしても「破裂してしまうぞ」はいいなあ。

 この宗教をめぐっては、ポンターが被験者になるあたりが実に楽しい。そりゃポンター用のヘルメットなんか用意してないよねw ちなみにこの実験、ちゃんと最新の科学が基になってます。ちょっとネタバレ気味なので、要注意(→元ネタ)。

 この宗教と、「ホミニッド 原人」から仄めかされたネタは、いかにもこの著者らしい壮大でおバカな大技が飛び出し、タネ明かしの場面じゃ大笑い。だとすると、IoT には意外な落とし穴が…いや、それはそれで面白いかもw

 生活習慣が生み出す違いも、なかなか面白い所で。中でも食生活の違いが、工業デザインにまで影響を及ぼしてるあたりは、ちょっとした盲点だった。噂じゃシカ肉ってとっても美味しいらしいが、私はまだ食べたことがない。にしても、ポンターの好みはわからんw

 などの味覚の違いもあるが、今まで何度も強調されてきた違いの際たるものが、嗅覚。これが司法に関わってるのは「ホミニッド 原人」に出てきたが、芸術にまで影響してるってのも、ちょっとした読みどころ。向こうじゃ役者も大変だw

 といった風刺ネタのお間に、コッソリとヲタクなネタを挟むのも忘れない。恒例のスタトレはもちろん、スパイダーマンに懐かしのサーフ・ロックときた。

 なんて小ネタばかりを取り上げたけど、もちろん、大長編に相応しい大ネタもちゃんと仕込んであるから憎い。

 などのネタ以外にも、この巻で目立つのが、ポンターの男前っぷり。特にメアリとの会話では、ハーレクイン・ロマンスや乙女ゲームで勉強したのか、殺し文句が目白押し。アディカーとの仲もあるし、腐りかけの女子にはちとヤバい作品かも。

 バラストとグリクシンの出会いは、互いに何をもたらすのか。私たちは共存し得るのか。迫りくる磁場の激変は、世界にどんな影響を与えるのか。メアリとポンターは結ばれるのか。人類の愚かさは、克服し得るのか。

 「カナダから見たアメリカ」を、思いっきりデフォルメして、奇妙な隣人を創り上げ、起伏に富んだロマンスと冒険にやりたい放題の毒舌をまぶした、21世紀のSF版「ガリバー旅行記」。

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2018年2月25日 (日)

ロバート・J・ソウヤー「ヒューマン 人類 ネアンデルタール・パララックス 2」ハヤカワ文庫SF 内田昌之訳

「つまり、あのもうひとつの世界では――もうひとつの地球では――だれもが信じているんです……その、あてはまる単語がありませんが、彼らが“神”と呼ぶものを。宇宙を創造した、実態をもたない至上の存在です」
  ――p17

「ネアンデルタールは人間です。わたしたちは同属なんです」
  ――p66

「いとこたちに会いにいくか」
  ――p124

「彼らは生きているのです。探求しているのです」
  ――p225

【どんな本?】

 カナダ出身の人気SF作家ロバート・J・ソウヤーによる三部作の第二部。

 カナダのサドベリーにあるニッケル鉱山を利用したニュートリノ観測所。そこに突如現れた男は、もうひとつの地球に住むネアンデルタール人だった。あちらの世界では、我々の先祖クロマニヨンが滅び、ネアンデルタールが文明を築いていた。

 いずれの世界の意図でもなく、偶然の事故によって繋がれてしまった二つの文明は、双方に騒動を巻き起こす。互いをつなぐ「門」を閉じるべきが、繋いだままにすべきか。行き来には、どのような対策を取るべきか。往来する者たちには、どんな身分を与えるべきか。

 そんな騒動をよそに、互いに惹かれ合うメアリ・ヴォーンとポンター・ボディット。ホモ・サピエンスの遺伝学者メアリと、ネアンデルタールのポンター。種族・文化・社会そして家族制度の違いを、二人はどう乗り越えるのか。

 私たちとは少しだけ違うネアンデルタールを指標として用いて、たっぷりとセンス・オブ・ワンダーを盛り込みつつ、痛烈な社会風刺をまぶし、「あり得たかもしれない文明」を描き出す、SF界きっての腕達者が送る、痛快娯楽ファーストコンタクトSF。

 2003年度ヒューゴー賞長編小説部門受賞。SFマガジン編集部編「SFが読みたい!2006年版」のベストSF2005海外篇7位に食い込んだ。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は HUMANS,  by Robert J. Sawyer, 2003。日本語版は2005年6月30日発行。文庫本で縦一段組み、本文約511頁に加え、堺三保の解説7頁。9ポイント40字×18行×511頁=約367,920字、400字詰め原稿用紙で約920枚。少し薄めの上下巻でもいい分量。

 文章はこなれている。内容も特に難しいガジェットは…実は幾つか出てくるけど、分からなかったら無視していい。それより、問題は読む順番。三部作とは言いつつ、実質的には一つの長編なので、前の「ホミニッド 原人」から読もう。

【感想は?】

 著者の毒舌が、更に鋭さを増す第二部。

 いきなり宗教、それもアブラハムの宗教への痛烈な皮肉で幕をあける。そりゃなあ。昔ならともかく、今は70億を越えようってんだから、忙しいよねえ。分身の術を使った並列処理でもしてるのかしらん。

 前作ではチラリと姿をのぞかせただけのマンモス、今回はもう少しだけ出番が増えた。いかにも理性が支配してるっぽいネアンデルタール社会でも、進化の途上で身についた本能はどうしようもないらしく、やっぱりそうなるかw マンモスと聞いて色めき立つのは学者も同じで…

 学者で愉快なのが、メアリが行く研究所に住み着いた三博士のイカレっぷりも、どっかのアニメみたいで楽しい連中。特にこの業界には多いんだよね。人間には興味がなく、持てる好奇心の全てをソッチに注ぎ込んじゃった、一種の社会不適応者たち。でも人生楽しんでるから、いいじゃないか。

 これにいついては、中盤で興味深い論考が入るのも、SFならではの楽しみ。私たちが当たり前だと思い込んでいた前提が、次々と覆されていく心地よさったら。羨ましいねえ、週15時間労働。

 さて。前作では、互いに互いの事を知らない状態で話が進んだのに対し、今回は互いが互いの存在を知った上で話が進む。となれば、いずれも接触の形をどうすべきか、が重大な話題になってくる。ここで皮肉なのが、判断の違いを生み出す原因。ある意味、メアリとポンターは似合いのカップルだったり。

 そんな二人の前に立ちはがだかる、様々な障壁が次々と姿を現し、暗雲が渦を巻き始めるのも、このパート。それこそロミオとジュリエットがコメディに見えるぐらい、厳しい事実を突きつけてくる。なんだが、向こうの世界では、ロミオとジュリエットの上演が難しいってのも、笑っちゃう仕掛け。

 あ、でも、日本人なら、別の解を見つけてるね。それも江戸時代に。

 そして、キレを増してゆく社会風刺。デザインやファッション・センスに始まり、特にアメリカへの皮肉がキツい。車社会もそうだが、銃の蔓延もタイムリー。…と思ったんだけど、実は銃については、いつ読んでも「タイムリーだ」と感じちゃう気がしてきた。

 中でも厳しいのが、記念碑前の会話。ポンターの「勘ちがい」が、何の思い込みもない者の口から出た言葉だけに、私たちの社会の偽善を容赦なく浮かび上がらせる。ここじゃ対象がアメリカだけど、わが国だって似たような偽善はやらかしてるし。というか、多かれ少なかれどの国もやってるってのが…

 などの風刺は厳しいが、そんな著者を立派なSF者に育て上げたのもアメリカ。

 やはり定番のスタトレはもちろん、ちょっとマニアックなテレビドラマも。もっとも、彼は6億円どころか、その千倍以上の値がつきそうw などと言ってるうち、終盤では、本当にそんな存在になっちゃったり。

 どうでもいいけど、コンパニオン・インプラントの名前がハクなのは、やっぱり偶然でしょう。つい白髪でグラマラスなお姉さんを想像しちゃうけどw

 などと、細かいネタばかりを挙げちゃったけど。語りの巧みさは相変わらずで、事件が次々と起きては、読者の期待を裏切る形で決着してゆき、中だるみの感は全くない。早く次が読みたくなる、とっても楽しい娯楽SF小説だ。

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2018年2月22日 (木)

景戒「日本霊異記」平凡社ライブラリー 原田敏明・高橋貢訳

少しばかり聞き伝えたところをしるし、日本国現報善悪霊異記と名づけて、上中下の三巻に分け、後世に伝える。
  ――上巻の序文

吉志火麻呂は武蔵国多磨郡鴨里の人、母は日下部真刀自である。聖武天皇の世に火麻呂は大伴某に指名されて、九州防備の防人にいくことになった。防人の年限は三年である。母は子について行ってともに暮らし、妻は国にとどまって家を守った。
  ――中巻 極悪の子が妻を愛し、母を殺そうと謀って、たちどころに悪い死に方をした話 第三

奈良の都に一人の僧がいた。名前は分からない。僧はいつも方広経を誦して、俗人の生活をして、銭を貸すことによって妻子を養っていた。
  ――下巻 方広経を誦した僧が海に沈んで溺れなかった話 第四

【どんな本?】

 平安時代初期の僧・景戒が、聞き知った話を書き記したとされる、仏教の説話集。主に飛鳥・奈良時代を中心に、因果応報・勧善懲悪のストーリーで、仏教の信心を説く話が多い。が、中には、雷を捕えた・狐の嫁を娶ったなど、ちょっとした怪異譚も採録している。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 解説によると、成立は平安時代初期、嵯峨天皇の治世、810~824年ごろ。著者は「奈良右京の薬師寺の僧、景戒」と序文にある。正式な書名は「日本国現報善悪霊異記」。上巻35話,中巻42話,下巻39話の計3巻116話から成る。

 この版の現代語訳は1967年8月東洋文庫より刊行。これを平凡社ライブラリーに収録、2000年1月24日に初版第1刷発行。文庫本で縦一段組み、本文約296頁に加え、両訳者による解説20頁。9ポイント41字×15行×296頁=約182,040字、400字詰め原稿用紙で約456枚。文庫本では普通の厚さ。

 現代語訳だけを収録している。文章はこなれていて読みやすい。内容も特に難しくない。成立は平安時代だが、飛鳥・奈良時代を舞台とした話が多い。なので中学校で学ぶ程度の日本史の素養はあった方がいい。

【感想は?】

 仏教の説話集だ。ただし庶民向け。なので、これを読んでも当時の仏教の教義はほとんどわからない。

 「信心しなさい」とは言うものの、じゃ信心って何?となると、かなりあやふや。殺生はイカン、ってのはわかるが、それ以外は仏像を拝めとか写経しろとか、とにかく熱心にやれってだけ。

 特にワケがわからんのは中巻「法師を打って現に悪病にかかり、死んだ話 第三十五」。「仏法を守る神はどうしていないいのか」なんて台詞が出てくる。当時は僧侶でも仏様と神様をハッキリ区別してなかったんだろう。

 そんな中でもちと都合よすぎだろ、と思うのは僧の扱い。乞食坊主であろうとも、僧をいじめたりののしったりしたら祟るぞ、だの、僧は魚を食べても構わないんだとかは、当時の仏教僧の特権意識がよく出ている。

 とまれ、そんな説教臭い所は置いて、怪異譚として読むと、それなりに収穫がある。

 なんたって、いきなり「雷を捕えた話」だ。たった三頁だが、話の展開がやたら早く、雷神は二度も捕まってる。残念ながら雷神の姿については何も書いていないので、虎のパンツをはいてたかどうかはわからないw

 次の「狐を妻として子を生ませた話」も、2頁と少しで話が終わる。男が嫁さんをナンパする場面も、実にスピーディ。正体がわかっても最後まで嫁さんラブラブな男が可愛い。昔からケモナーはいたんだなあ。お話の展開から、もしかしたら雪女の原型かも。

 異種婚姻譚だと、他には蛇が娘につきまとう話が幾つか。お話の中だと狐は雌で蛇は雄なのは、何か理由があるんだろうか。

 世界各地の神話・伝説と似てたり、共通点のある話もある。第三の「雷の好意で授けてもらった強力の子の話」では、生まれた子に蛇が巻き付いている。確かヘラクレスも雷神ゼウスの子で、赤ん坊の時に蛇を殺してるから、何か関係があるのかも。

 処女懐胎も幾つかあるけど、イマイチ有難みは少ない。

 比較的にマシなのは下巻「女が石を産み、神としてまつった話」第三十一。処女が孕み、三年ほどして二つの石を産む。実はこの石、神様の子で…とはあるが、特に何か有り難い事も起きず、アッサリ話は終わってしまう。「結石じゃね?」とか突っ込んじゃいけません。

 そんな中でも、やはり大きいと感じるのが中国の影響。死んで閻魔様に会い、話を聞いて蘇るってパターンがアチコチにある。これらは微妙に聊斎志異と雰囲気が似てて、たぶん大陸から流れてきた話なんだろう。

 ここでは「頭は牛、体は人間の形をした」云々ってキャラも出てくる。まるきし鬼だ。が、この話では鬼とは書いていない。他の話で鬼は出てくるんで、当時の鬼は今と違う姿をしていたのかも。

 また、「○○は××の人である」ってな書き出しも、中国の古典の定型を持ってきたんだろうなあ。

 おおらかだよね、と思うのは下巻「愛欲の心が生じ、吉祥天女の像をしたって、不思議なことがあった話」第十三。ある男が吉祥天女の像に惚れ、お勤めの度に「あなたみたいな美女を下さい」と熱心に祈ったところ…。このままエロマンガに使えそうな話だ。つまりアレって美少女フィギュアなのね。

 時代は変わっても人は同じと感じるのは、最後の一つ前、下巻「災いと善との前兆があって、後でそれが現れた話」第三十八。これは他と毛色が違って、著者の景戒自身が登場し、いろいろとボヤいてる。「わたしが身を受けること、ただ五尺あまり」とか嘆いてて、昔から背の高い男がモテたんだなあ。

 ここでは「爪はじき」なんて言葉も出てくるんだが、意味が現代と全く違っちゃってるのも、ちょっと趣があったり。また、景戒も僧ではあるけど嫁さんも子供もいて、戒律は江戸時代とだいぶ違う様子。

 とか、変なネタばかりを拾って紹介したけど、基本的には勧善懲悪な仏教の説話です、はい。

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2018年2月21日 (水)

マーチン・ファン・クレフェルト「戦争文化論 上・下」原書房 石津朋之監訳 2

作家にとって実体験は作品を書く上で大変貴重なものだと言われている。その一方で、歴史家にはよくあることだが、作家に戦争体験があるかどうかということと、読者に戦争がどんなものかわからせる能力との間に直接的なつながりがないことは、驚くべき事実である。
  ――第10章 文学と戦争

世論とは、大砲の餌食となる雑兵を提供しなければならない人々の意見という意味である。
  ――第11章 芸術と戦争

2001年、アメリカ合衆国で交通事故により死亡した人の数は、9.11アメリカ同時多発テロ事件の犠牲者の15倍だった。
  ――第16章 ヒトはどこへ向かうのか?

彼ら(=第二次世界大戦を研究した歴史家たち)の結論は、責任者である上級司令官を除いて、指揮官の性格は勝敗には大して関係なかったということである。軍公認のさまざまな公刊戦争史の結論も同じである。
  ――第16章 ヒトはどこへ向かうのか?

軍は何のために存在しているのかという本質を忘れ、「軍を飾る」ことを優先させると、その国の存在は危うくなる。
  ――第18章 魂のない機械

何はさておき、男たちが戦争文化を作った重要な理由には、女性に自分たちの武威を強く印象付けたいということもあった。
  ――第20章 フェミニズム

 マーチン・ファン・クレフェルト「戦争文化論 上・下」原書房 石津朋之監訳 1 から続く。

【諸君 私は戦争が好きだ】

 「ヒトは損得勘定で戦争するんじゃない、好きでやってる」。そういうおぞましい現実を読者に突きつけるのが、この本だ。

 実際、戦争は強い印象を残す。学校で学んだ歴史でも、覚えているのはほとんど戦争ばかりだ。平和な時代は記憶に残らないし、映画やドラマにもなりにくい。これは学者も同じらしく…

世界ではじめて歴史書が著されたときから、戦争はつねに大きな割合を占め、しばしばその中心となっている。
  ――第9章 歴史と戦争

19世紀ドイツの歴史学者ハインリヒ・フォン・トライチュケ(→Wikipedia)
「平和な時期があると歴史書に空白のページができてしまう」
  ――第9章 歴史と戦争

 なんて事を言ってる。

 そしてヒトは戦争を文化へと育ててきた。上巻では、平時における戦争文化、戦争の始まり・戦闘中・終戦に見られる文化、戦後の戦争文化を語る。下巻では、まず第二次世界大戦以降の戦争文化を、そして戦争文化を失ったケースを考察する。

 これらを博覧強記な著者が、古今東西の例をひいて裏付けしてゆく。

 特に上巻に出てくる具体例は、一般の人にとっては退屈だろうが、軍ヲタにとってはなかなか美味しい素材だったり。なんか不自然に日本の例が多いような気がするが、これは読者サービスなんだろうか。まるで日本人がどうしようもない戦闘民族みたいじゃないかw

【そして現在】

 主に歴史上の記述が多い上巻に対し、下巻では現在の話が多い。それだけ生臭くもあり、生々しくもあり。

 大きな趨勢としては、大国間の衝突が減った反面、国家の体をなしていない組織との戦いが増えた。大国間の衝突が減った理由が、これまたみもふたもない。

核兵器の拡散が、大国間における大規模戦争がほぼなくなった理由、おそらく唯一の理由であることは間違いない。
  ――第15章 常識が通用しない

 お互い核の恐怖で手を出せなくなった、というわけ。確かにそういう部分はあるんだが、これがいつまでも続くって保証はないんだよなあ。

 対して内戦や紛争など、国家ではない組織が関わる戦争が増えた理由も…

我々が目にしているものは、新しい形の混乱が生じているということではなく、昔もあった混乱への回帰である。
  ――第15章 常識が通用しない

 と、ここでもクレフェルト教授は容赦ない。実際、今のシリアの混乱も、「知恵の七柱」あたりを読むと、あの辺は昔からそうだったんだね、と納得しちゃったり。

【各国の事情】

 では戦争文化がなければどうなるか。ここで怖いのは「第17章 野蛮な集団」。例として挙げているのがユーゴスラヴィア内戦だ。これについては「ボスニア内戦」の迫力が凄い。つまりはチンピラや山賊の跳梁跋扈だ。

 続く「第18章 魂のない機械」では、ドイツ連邦国防軍の事情が、日本の自衛隊とカブって、何かと複雑な気分になる。軍は必要だけど、悪役であるナチス時代を思い出させるモノやコトはマズい。ってんで、旗や記章のデザインに苦労してたり。

 その後の「第19章 気概をなくした男たち」では、ユダヤ人の例を挙げてるんだが、ここはどうにも説得力がない。というのも、イスラエル独立以降のイスラエル国防軍の実績を見れば、彼らが無類の戦士集団としか思えないし。

 ちなみにイスラエルの核についてもムニャムニャしてるが、結論としては「皆さんのご想像通り」らしい。

【物言い】

 ただし、一つ文句を言いたい所が。

 「第16章 ヒトはどこへ向かうのか?」で、1945年以降に出版された戦争の記録として、三つを挙げている。第一は各国軍による公刊戦争史や歴史家による通史。次に兵站・諜報・経済など、戦闘以外の分野を絡めたもの。そして第三が、前線の兵に焦点をあてたもの。

 この第三について、「1990年代後半まで待たなければならなかった」としてアントニー・ビーヴァーの「スターリングラード」と「ベルリン陥落」を挙げている。

 これに文句を言いたい。ジャーナリストの著作を無視しないでくれ、と。コーネリアス・ライアンの「史上最大の作戦」,ジョン・トーランドの「バルジ大作戦」,そしてラリー・コリンズ&ドミニク・ラピエールの「パリは燃えているか?」「おおエルサレム!」。

 1950年代末~1970年代の出版物だが、前線の兵や戦場にいた市民の目を通し、戦争の実態を立体的に再現しようとする力作だ。トーランド以外は歴史家じゃないが、一級品の資料だろう。

【最後に】

 とか文句を言っちゃいるが、歯に衣着せぬ論説は恐ろしくもあり、痛快でもあり。一見、戦争を賛美しているかのように思えるかもしれないが、決してそれほど単純な本じゃない。

 戦争を厭い平和を守りたいと思う人ほど、この本を読む価値がある。この本が正しければ、民主主義は戦争を防げない。ヒトが戦争を好むのなら、民意で動く民主主義国家こそ危ないのだ。

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2018年2月20日 (火)

マーチン・ファン・クレフェルト「戦争文化論 上・下」原書房 石津朋之監訳 1

(第二次世界大戦の)ドイツ軍にとって連合国が要求する無条件降伏は新奇な話であり、ドイツ軍兵士の多くは銃殺されるのではないかと恐れた。だが、アメリカ軍にとってこれは(南北戦争のユリシーズ・)グラントの例に倣ったに過ぎない。
  ――第7章 戦争のルール

ほとんどの部族社会は、自分たちが土地を「所有している」とは考えていない。どちらかと言えば土地に自分たちが所有されていると考えている。
  ――第7章 戦争のルール

【どんな本?】

 カール・フォン・クラウゼヴィッツは戦争論(→Wikipedia)で主張した。「戦争は政治の延長だ」と。特定地域や資源の支配権などで、幾つかの国家間の交渉が話し合いで決着がつかない時に、軍事力即ち暴力によって強引に解決しようとするのが戦争の原因である、と。つまりは血も涙もない損得勘定だ。

 だが、歴史上の戦争の記述や現実の軍隊、そして私たちの暮らしの中にも、この理屈には合わない事柄がたくさんある。

 例えば、戦争物の物語では、戦士たちの壮麗な姿が描かれる。剣や鎧はピカピカに磨かれ、盾には華麗な装飾が施される。騎士が乗る馬すら、刺繍を施された被り物をしている。洋の東西を問わず、戦場に赴く戦士たちは華々しく着飾る。

 一般にプロが用いる道具は武骨で不愛想なものだ。自動車整備工が使うドライバーやスパナ、大工が使う鋸やカンナ、板前が使う包丁。きれいに磨かれてはいても、握りに余計な装飾はつけない。では、なぜ戦士たちは無駄に着飾るのだろうか? どうせ血や泥で汚れるのに。

 これが物語の中だけなら、お話を盛り上げる演出で片づけられるかもしれない。だが、21世紀の現代においても、奇妙な事柄は沢山ある。例えば北朝鮮の軍事パレードだ。

 行進する兵は、膝を曲げず足をピンと伸ばしている。見世物としては面白いが、彼らはサーカスじゃない。実際の戦闘で、あんなケッタイな歩き方をするわけじゃあるまい。では、何のために彼らは奇妙な歩き方をするのだろう?

 名著「補給戦」を著したイスラエルの歴史家マーチン・ファン・クレフェルトが、クラウゼヴィッツの戦争論に毅然と異を唱え、豊富な資料を元に戦争の原因や軍の性質と存在意義を考察し、現代における戦争や将来の展望を示す、21世紀の戦争論。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は The Culture of War, by Martin van Creveld, 2008。日本語版は2010年9月7日第1刷。単行本ハードカバー縦一段組みで上下巻、本文それぞれ約371頁+243頁=614頁に加え、監訳者の石津朋之による解説「人類は戦争に魅了されている? 戦争と文化」が豪華25頁。

 9.5ポイント43字×18行×(371頁+243頁)=475,236字、400字詰め原稿用紙で約1,189枚。文庫本なら厚めの上下巻か薄めの上中下巻ぐらいの大容量。

 「補給戦」に比べると、文章はかなりこなれている。が、相変わらず内容は高度だ。主に西洋を中心とした歴史上の有名な戦いに加え、旧約聖書や「イリアス」など古典文学の引用も多く、読みこなすには相当の教養を要求される。

【構成は?】

 原則として前の章を受けて後の章が展開する形なので、素直に頭から読もう。先に書いたように、読みこなすには歴史と古典の素養が要るけど、わからない所は読み飛ばそう。というか、私は読み飛ばした。でも大丈夫。それでも著者の主張は充分に伝わってくる。

  •   上巻
  • 日本語版への序文
  • はじめに
  • 第一部 戦争に備える
    • 第1章 ウォーペイントからタイガースーツまで
    • 第2章 ブーメランから城塞まで
    • 第3章 軍人を養成する
    • 第4章 戦争のゲーム性
  • 第二部 戦争と戦闘において
    • 第5章 口火となる言葉(行動)
    • 第6章 戦闘の楽しみ
    • 第7章 戦争のルール
    • 第8章 戦争を終わらせる
  • 第三部 戦争を記念する
    • 第9章 歴史と戦争
    • 第10章 文学と戦争
    • 第11章 芸術と戦争
    • 第12章 戦争記念碑
  •   下巻
  • 第四部 戦争のない世界?
    • 第13章 平和だった時期はほとんどない
    • 第14章 大規模戦争の消滅
    • 第15章 常識が通用しない
    • 第16章 ヒトはどこへ向かうのか?
  • 第五部 戦争文化を持たぬ世界
    • 第17章 野蛮な集団
    • 第18章 魂のない機械
    • 第19章 気概をなくした男たち
    • 第20章 フェミニズム
  • 結び 大きなパラドックス
  • 謝辞
  • 解説 「人類は戦争に魅了されている? 戦争と文化」石津朋之
  • 原注/索引

【感想は?】

 クレフェルト教授、全方位に喧嘩売りまくり。

 なんたって、冒頭の「はじめに」から、この世界じゃ最も有名なクラウゼヴィッツ「戦争論」の引用から始まるんだが…

理論的に考えれば、戦争は目的を達成する一つの手段である。野蛮ではあるが、ある集団の利益を図ることを意図して、その集団と対立する人々を殺し、傷つけ、あるいは他の手段で無力化する合理的な活動である。

 うんうん、そんな事を言ってたよね、と思ったら、これに続くのが…

だが、この考えは見当違いもはなはだしい。

 と、天下のクラウゼヴィッツ御大に開始ゴング早々、右ストレートをブチ込むのだ。でも油断しちゃいけない。「おおスゲぇ、痛快だぜ」などと喜んでると、いきなり振り向いて軍人や軍ヲタにケリを放ってくる。

他の文化同様、戦争に関わる文化の大部分は「無用の」行為、飾り、あらゆる虚飾である。
  ――はじめに

 ヲタクは道楽でやってるんだから無用と言われても仕方がない、というか道楽なんて本来そういうものだが、国を守るため命を懸けている職業軍人まで虚飾と言い切る度胸はたいしたもの。

 とか書くと、ただの過激派みたいだが、なにせ博覧強記のクレフェルト教授だ。ある意味そこらの過激派よりよほど過激な事を言ってる本なんだが、その土台となる知識と教養の広さ、そこから生み出される思索の深さは、ニワカとはいえ軍ヲタの私が持つ違和感や矛盾を容赦なく突いてくる。

 私は戦争に反対だ。だが、戦争関係の本や映画や大好きだ。そういう矛盾を抱えているのは、私だけじゃない。例えば映画監督のスティーヴン・スピルバーグ。リベラルな彼だが、映画「プライベート・ライアン」では、彼の突き抜けた軍ヲタぶりを見せつけた。

 本や映画ばかりではない。ゲームだって、戦争物・戦闘物は花盛りだ。というか、バトルのないゲームの方が少ないだろう。では、ゲームとは何か。

遊ぶとき、我々は一つのゲームに没頭している。ゲームは何か他の目的のためではなくやりたいからやる活動、と定義されるかもしれない。
  ――第4章 戦争のゲーム性

 そう、ゲームは楽しいのだ。これがモニタの中に留まっていればともかく、現実世界にまで飛び出すと、更に楽しみが増すのはポケモンGOが証明している。まあポケモンなら平和なもので、稀に不届きな輩が自動車の運転中に遊んで事故を起こすぐらいで済んでいる。

 事故で亡くなっている人もいるのに不謹慎な、と思う人もいるだろうが、現実はもっとおぞましい。というのも、湾岸戦争やイラク戦争では、多くの人がテレビの画面に釘付けになった。夜空を飛び交う曳光弾の下では、数百・数千・数万の人々が命を失っているのに。

 なぜ私たちは、戦争の中継に夢中になってかじりつくのか。

 そして、先に書いたように、戦士たちは着飾る。往々にして、それは実用性を遥かに超え、どころか戦いの邪魔になるまで装飾は発達する。

伝説によると19世紀末、イギリス海軍の連中は砲を野蛮なものとみなしていた。発射すると戦艦の塗装にひびが入るからというのがその理由だった。
  ――第2章 ブーメランから城塞まで

 「俺の可愛い○○が傷つくから戦争を止めろ」と叫ぶのは、無責任な軍ヲタだけではないらしい。こういった装飾には、ハッタリの意味もある、と著者も語っている。確かにみすぼらしい格好をしていると、カッコいい者に気おされる部分は確かにある。が、それだけじゃない。

 こういった疑問に、著者は恐ろしい解を示す。

戦争は究極のゲームなのだ。
  ――第4章 戦争のゲーム性

 と。そしてゲームとは、「やりたいからやる活動」だ。私たちは戦争をしたいのだ。平野耕太の漫画「HELLSING」の少佐は、私たちの本音を語っているのだ。遠くで眺めているだけならともかく、実際に従軍したら違うだろうって? うんにゃ。

戦争はごめんだと口で言いながらも、「すごく楽しかった」、「戦争したい」と心から思っているもう一人の自分がいるのだ。
  ――第6章 戦闘の楽しみ

 そう語る従軍経験者も多い。私たちは、戦争が好き、どころではない、大好きなのだ。他の何にも代えがたいほどに。

 次の記事に続きます。

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2018年2月15日 (木)

SFマガジン編集部編「SFが読みたい!2018年版」早川書房

とくに影響を受けたのは『ポル・ポト ある悪夢の歴史』という九百ページ近い伝記で…
  ――『ゲームの王国』刊行記念イベント採録
   暴力の歴史から未来のゲームへ 小川哲×山形浩生×大森望

もともと文学は使えるものは何でも使うのであって、別にSFを手本にしたとかSFから刺激を受けたわけではない。しょせんは題材の問題にすぎず、(略)彼が目ざすテーマを表現する手段として、そうした道具立てを用いているだけだ。
  ――牧眞司 海外文学

誤った学説はイメージの宝庫であり、SF的想像力を刺激する。
  ――長山靖生 文芸ノンフィクション

社屋の破壊が定期的に観測される出版社です。度し難い。
  ――このSFを読んでほしい! 竹書房

 SFファンへの、ちょっと早いバレンタイン・プレゼント。

 やはり目玉は、昨年のSF関係出版物の人気投票、「ベストSF2017 国内篇/海外篇」。前回に続き今回も30位までを発表。

 加えて、ライトノベルSF/国内・海外ファンタジイ/国内・海外ホラー/国内・海外ミステリ/海外文学/文芸ノンフィクション/科学ノンフィクション/SFコミック/SF映画/SFアニメ/SFゲームなど、各ジャンルのお薦め作品ベスト10。

 更に「2018年のわたし」として、人気作家が今年の活動を予告するほか、各出版社もSF関連書籍の出版予定を知らせてくれる。あんましアテにならないけどw いや「ブルー・マーズ」が本当に出るとは思わなかった。もちろん私のイチオシです、はい。地味だけど星敬氏の「2017年度SF関連図書目録」も労作。

 ベストSFは、やっぱり見逃してたのが沢山あるなあ。赤野工作「ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム」とか松崎有理「5まで数える」とかG・ウィロー・ウィルソン「無限の書」とかオマル・エル=アッカド「アメリカン・ウォー」とか。

 この人気投票の特徴は、各投票者の投票内容トコメントまで発表している点。実はこれも侮れない鉱脈で。フランシス・ハーディング「嘘の木」とか藤原辰史「トラクターの世界史」とか、すんげえ気になる。にしても西村一は潔いなあw

 今回の特集っぽいのは、小川哲とクリストファー・プリースト。

 小川哲、やっぱし「ポル・ポト ある悪夢の歴史」を読んでたか。凄いよね、あれ。あとフランソワ・ポンショー「カンボジア・ゼロ年」も面白そう。クリストファー・プリーストはブックガイド。「逆転世界」は、読んだ後しばらく世界が歪んで見えたなあ。それぐらいイメージが強烈だった。

 出版予定では、アトリエサードのアルジス・バドリス「無頼の月」って、去年も…それとジョン・ブラナー「ザンジバーに立つ」は…いえ、なんでもないです。河出書房新社、谷甲州「星を創るものたち」の続編、期待してます。東京創元社、アン・レッキー「叛逆航路」シリーズはまだ続くのか!

 「九百個の零號琴」とか「んなぁ~」とか唸りつつ、今日はここまで。

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2018年2月14日 (水)

分類か属性か

 その昔、「ライトノベルの定義ってなんだろう」って記事を書いた。

 瀬尾つかさの「約束の方舟」とか、ライトノベルかSFか悩むよね、って話。結論は、そもそもラジオボタン的にどっちかにしろってのが無茶で、チェックボックス式に考えた方がよくね?みたいな話だった。

 が、もちっと深く考えると、これもちと違うような気がする。改めて図で示してみよう。

 最初の発想はこうだ。

ライトノベル
SF
それ以外

 ライトノベルなら、SFではない。SFなら、ライトノベルではない。そうやって「分類」しましょうって発想。でも、小説って、一つの作品が様々の属性を持ってるよね。ってんで、私の提案はこれ。

ライトノベル
SF
その他

 その作品は、どんな属性を持っているかで考えようよ、ってこと。これなら、一つの作品が、「ライトノベルかつSF」でありえる。おお、悩みが消えた! と一旦は納得したんだが、改めて考えると、こっちの方が近いんじゃなかろか。

ラノベ:
SF  :
その他

 一つの作品は、様々な属性を持っている。そして、属性により、多い少ないがある。でもチェックボックスじゃ、属性の多寡が著せない。そこでスライドバーだ。これなら、より正確に「約束の方舟」を表せる。ラッキー。

 ってな具合に、世の中じゃ二者選択とか三者選択とかあるけど、現実にはスライドバー的に表した方が適切だよね、みたいなのは他にもあって。

 例えば理系/文系だ。こんな感じだと、世の人は思っている。

理系
文系

 理系なら、文系ではない。文系なら、理系ではない。でも、この理屈が当てはまらない人もいる。

 有名な所では、ロボット三原則で有名なアイザック・アシモフだ。化学者だから理系? でもエッセイでは、歴史など文系の蘊蓄も楽しい。加えて、娯楽作家として、読者を楽しませるのも巧みだ。これは芸能・芸術系とでもしよう。とすると、アシモフはこんな感じじゃなかろうか。

理:
文:
芸:

 理系方面は専門の学者だから最高レベルだ。また小説やエッセイの売り上げを見れば、芸能・芸術系でも最高と言っていい。流石に歴史関係じゃ専業の歴史学者には敵わないだろうが、そこらの素人とはレベルが違う。とすると、この辺が妥当だろう。

 対して私は…いやどうでもいいじゃないですか、あはは←をい。

 なんにせよ、こう考えていくと、理系/文系なんてのは、あましアテにならない概念なんじゃなかろか、と思えたり。

 やっぱり怪しいのが、保守/リベラルなんて分け方。ジョナサン・ハイトは「社会はなぜ左と右にわかれるのか」で、こんな主張している。

 政治思想の違いは、倫理、つまり「何が正義か」の判断基準によるものだ。これは感覚的なもので、理屈で答えを導き出してるんじゃない。反応速度の速さがその証拠だ。この倫理感覚は、少なくとも六つの要素から成る。各要素の感度により 保守/リベラル/リバタリアン の三種に分かれる。

保守の人は、忠誠や権威を重んじ、神聖さを大切にする。

ケア/危険:
公正/欺瞞:
忠誠/背信:
権威/転覆:
神聖/堕落:
自由/抑圧:

リベラルは、傷ついた者を守り、公正であろうとする。

ケア/危険:
公正/欺瞞:
忠誠/背信:
権威/転覆:
神聖/堕落:
自由/抑圧:

リバタリアンは、自由こそ正義と感じる。

ケア/危険:
公正/欺瞞:
忠誠/背信:
権威/転覆:
神聖/堕落:
自由/抑圧:

 こんな風に、私たちは右と左なんて単純に分けちゃうけど、実際には様々な要素が絡んでるんだよ、とジョナサン・ハイトは主張してるわけだ。シリアで暴れてた山賊とかは、「神聖/堕落」が強いんだろう、とか考えると、なんか腑に落ちるし、結構いいセンいってる発想だと思う。

 と、そんな風に、単純に二つに分けてたシロモノが、実は幾つかの要素のせめぎ合いだった、みたいな話は、他にもあるんじゃないかな、と思ったり。

 とか偉そうに言ってるけど、実は HTML でスライドバーを書けると知ったので、やってみたかっただけなんです←をい

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2018年2月13日 (火)

ロバート・J・ソウヤー「ホミニッド 原人 ネアンデルタール・パララックス 1」ハヤカワ文庫SF 内田昌之訳

「きみが連れてきたこの患者は」シンはおどろきにあふれた声で告げた。「どうやらネアンデルタールらしい」
  ――p62

「ぼくたちの世界には人間は一種類しかいません。過去にはもっといたのですが。しかし、あなたの世界には三種類から四種類いるようです」
  ――p308

「あなたたちがぼくたちを絶滅させた」
  ――p392

「ぼくは、あなたのおかげできょうという日をずっと忘れません」
  ――p417

【どんな本?】

 カナダ出身の人気SF作家ロバート・J・ソウヤーによる三部作の開幕編。

 ネアンデルタール人が地上の支配種となった世界。量子コンピュータの実験中に事故が起き、理論物理学者ポンターが姿を消してしまう。公私ともに最善のパートナーを失い悲しみに暮れるアディカーに、運命は更なる追い打ちをかける。

 サドベリー・ニュートリノ観測所は、カナダのサドベリー隕石孔のニッケル鉱山の坑道、地下1200mにある。直径12mのアクリル球に重水を満たし、重水素とニュートリノの反応による閃光を観察するのだ。ここに、意外な侵入者が現れた。筋肉質の男で、目の上が大きく張り出している。

 私たちの世界に突然現れた一人のネアンデルタール人を中心に、彼が世界に引き起こす騒動,ネアンデルタールの視点で見るわれわれの社会,異質ながらも理に叶ったネアンデルタール社会などを通し、センス・オブ・ワンダーあふれる情景を描く、本格SF長編小説。

 2003年度ヒューゴー賞長編小説部門受賞。SFマガジン編集部編「SFが読みたい!2006年版」のベストSF2005海外篇7位に食い込んだ。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は HOMINIDS, by Robert J. Sawyer, 2002。日本語版は2005年2月28日発行。文庫本で縦一段組み、本文約498頁に加え、佐倉統の解説「『優しい国』から来たSF」7頁。9ポイント40字×18行×498頁=約358,560字、400字詰め原稿用紙で約897枚。薄めの上下巻でもいい分量。

 文章はこなれていて読みやすい。内容も特に難しくない。一部にニュートリノなど量子力学が出てくるが、わからなければ読み飛ばそう。それより面白いのは、ネアンデルタールとわれわれのカルチャー・ギャップ。

【感想は?】

 とっても心地よいファースト・コンタクトSF。

 なんといっても、距離感が絶妙だ。異星の生物だと、異質過ぎて意思疎通すら難しい。逆に同じヒト同志だと、違いは社会・文化的なものだけになってしまう。

 これを、種は同じだが生存競争ではライバルとなるネアンデルタールとしたのが、実に巧い。同じホモ・サピエンスであり、交配だって可能だ。とはいえ違う名前がついているぐらいだから、多少の肉体的な違いもある。例えばネアンデルタールは脳が1割ほど大きかったり。

 「原人」なんて日本語の副題も、皮肉が効いてる。

 一般に、話し方がたどたどしいと、頭が悪そうに見える。ガイジンさんが下手な日本語でしゃべると、ちょっと可愛らしい。逆に外国語が苦手な人が海外旅行に行くと、思った事の1割も伝えられずに切ない思いをする。

 そんな風に、主人公のネアンデルタール人のポンターも、前半ではコミュニケーションに大きな苦しみを背負う。ところが中身は優れた理論物理学者なのだ。

 こういう、皮相的な部分で相手を判断してしまう私たちの性質を、笑いにまぶしつつも鋭く指摘するあたりは、痛くもあり痛快でもあり。これはもともとフランス語と英語が拮抗し、また現在でも他国からの移民が多いカナダならではの視点かも。

 住居の床にコケを生やしていたり、食事の中身もマナーも違っていたり、年齢の数え方が月単位だったりと、ネアンデルタール社会の描写もセンス・オブ・ワンダーたっぷりで、SF者の琴線をくすぐりまくり。いいなあ、マンモス。羨ましいなあ。

 特に年齢については、彼らの家族構成とも深くかかわっていて、タネ明かしのところでは「そうか、そうだったのか!」と驚くことしきり。こういう細部にこだわった設定が楽しいんだよなあ、SFは。あと、単位系にも、異質さを感じさせつつ意味は伝わりやすい工夫があるし。

 そんなポンターに対する世間の反応を伝えるニュースも、各界の視点の違いを痛烈に表していて笑っちゃうところ。法律家の屁理屈、各種企業の逞しい商魂、野心満々の政治家たち、蠅のようにしつこくたかってくる野次馬、そしてお気楽極楽な世界のSFファンたちw やっぱそうなるよねw

 などと並行して、ネアンデルタール社会での騒動も語られてゆく。こちらは公私ともにポンターの相方であるアディカーの視点。トラブルに見舞われるアディカーの目を通し、私たちとは全く異なったネアンデルタール社会を描くと共に、サスペンスに満ちた法廷劇が展開する。

 これが実に上手い仕掛けで。アディカーのピンチで読者を惹きつけつつ、私たちの対比としてネアンデルタール社会を描き、社会風刺の鋭さを増すばかりでなく、この物語のもう一つの柱、ジェンダー問題の金床を形成してゆく。

 これについては、「こんな小さなローレンシアン大学にも」に続き「悲しむべきことに」なんてあるんだけど、じゃ専門の窓口すらロクにない日本の現状はどうなんだ?と暗澹たる気持ちになったり。

 そして、やっぱり出ました宗教論争。ここでも小ネタの巧さが光るところで、「ピーッ」と鳴るたびにクスリとなったり。言葉遣いこそ柔らかいものの、舌鋒鋭く追い詰めていく場面は、厳しいったらありゃしない。しかも、これが終盤では宇宙論にまで発展するから油断できない。

 文庫本としてはぶ厚く、一見圧倒されそうな本だが、文章はとっても読みやすい上に、お話は起伏に富んで読者をグイグイ引き込んでゆく。センス・オブ・ワンダーに満ちたネアンデルタール社会も魅力的で、一種のユートピア物としての面白さもたっぷり。本格的なSFでありながら娯楽性もバッチリの、最高に心地よい小説だった。

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2018年2月12日 (月)

ココログのカテゴリーのアーカイブから記事一覧を作るVBScript

 カテゴリ別書評一覧の新装開店の詳細その4。

【はじめに】

カテゴリ別書評一覧を作り替える際、ついでに少し体裁を変えた。記事は千件以上あるので、手作業でじゃやってられない。そこで、各カテゴリーのアーカイブから一覧を作る VBScript を書いた。

【もう少し詳しく】

 各カテゴリーの頁の HTML は、次の構成だ。最新の10記事は全文を載せ、11記事目より前の記事はリンクだけが載っている。

 ¦
 ¦ なんかいろいろ
 ¦
記事1の全文
記事2の全文
記事3の全文
 …
記事10の全文
 ¦
 ¦ なんかいろいろ
 ¦
記事11へのリンク
記事12へのリンク
記事13へのリンク
 …
記事xへのリンク
 ¦
 ¦ なんかいろいろ
 ¦

 これから、各記事のタイトル・URL・日付を抜き出し、次の形の HTML を作る。

<li>記事1の日付 <a href="記事1のURL">
記事1のタイトル</a></li>
<li>記事2の日付 <a href="記事2のURL">
記事2のタイトル</a></li>
<li>記事3の日付 <a href="記事3のURL">
記事3のタイトル</a></li>
 …
<li>記事10の日付 <a href="記事10のURL">
記事10のタイトル</a></li>
<li>記事11の日付 <a href="記事11のURL">
記事11のタイトル</a></li>
<li>記事12の日付 <a href="記事12のURL">
記事12のタイトル</a></li>
<li>記事13の日付 <a href="記事13のURL">
記事13のタイトル</a></li>
 …
<li>記事xの日付 <a href="記事xのURL">
記事xのタイトル</a></li>

 ちなみに、記事1~記事10は、次の形になっている。

 ¦
 ¦ なんかいろいろ
 ¦

<h2>記事?の日付</h2>

 ¦
 ¦ なんかいろいろ
 ¦

<h3><a href="記事?のURL">記事?のタイトル</a></h3>
 ¦
 ¦ なんかいろいろ
 ¦

 記事11~記事xの形は以下。

<li class="archive-list-item"><a href="記事?のURL">記事?のタイトル</a> <span  class="archive-list-date">記事?の日付</span></li>

 要はテキスト・フィルタですね。必要な所を正規表現で見つけ出し、都合のいい形に直して書き出してるだけ。

【インストール】

 この記事の末尾にあるスクリプトを、ctindex.vbs などの名前で保存する。

【使い方】

  1. 各カテゴリーをブラウザで開き、その HTML を cat1.html などの名前で保存する。
  2. cat1.html を、ctindex.html にドラッグ&ドロップする。
     → cat1.html.txt ができる。
  3. テキスト・エディタで cat1.html.txt に見出しや <ol>~</ol> などを付け加えてください。

【スクリプト】

' 2018.01.266 カテゴリHTMLから索引頁を作る
Option Explicit
Dim WSH   : Set WSH  = WScript.CreateObject("Wscript.shell")
Dim FSYS  : Set FSYS = WScript.CreateObject("Scripting.FileSystemObject")

' ダブルクリックで起動したら使い方を示して終わる
if WScript.Arguments.length <> 1 then
    Call MsgBox( "Drag&DropしたファイルLから索引頁を作る" )
    WScript.Quit
end if

' D&Dしたファイル名からフルパスと親フォルダを得る
Dim iName   : iName   = WScript.Arguments.Item(0) ' D&Dしたファイルのフルパス
Dim iFolder : iFolder = FSYS.getParentFolderName( iName ) & "\" '親フォルダ名

' D&D したファイルを開く
Dim iHandle : Set iHandle = CreateObject("ADODB.Stream")
iHandle.Type          = 2                ' text mode
iHandle.charset       = "utf-8"
iHandle.LineSeparator = 10    ' lf
iHandle.open
iHandle.LoadFromFile iName '入力ファイルを読み込む
If Err.Number <> 0 Then
    Call MsgBox( "Code:" & Err.Number & " :Can not open " & iName )
    WScript.Quit
end if

Dim hDate, hURL, hTitle, rDate, rTitle, rList, oBuf
Set rDate  = new RegExp :  rDate.IgnoreCase = True    '<h2>日付</h2>
Set rTitle = new RegExp : rTitle.IgnoreCase = True    '<h3><a href=URL>記事名</a></h3>
Set rList  = new RegExp :  rList.IgnoreCase = True    '<li class=..>
rDate.pattern = "^.*<h2>(\d+)[^\d]+(\d+)[^\d]+(\d+).*</h2>.*$"
rTitle.pattern = "^.*<h3><a href=.([^>]+).>([^<]+)</a></h3>.*$"
rList.pattern = "^<li class=.archive-list-item.><a href=.(.*).>(.*)</a>.*<span .*>(.*)</span></li>$"
Do While iHandle.EOS = False
    Dim line : line = iHandle.ReadText( -2 )
'                                        <h2>日付</h2>
    if rDate.Test( line ) then
        hDate = rDate.Replace( line, "$1" & "." & "$2" & "." & "$3" )
    end if
'                                        <h3><a href=URL>記事名</a></h3>
    if rTitle.Test( line ) then
        hURL   = rTitle.Replace( line, "$1" )
        hTitle = rTitle.Replace( line, "$2" )
        oBuf = oBuf & "<li>" & hDate & " <a href=""" & hURL & """>" & vblf & hTitle & "</a></li>" & vblf
    end if
'                    <li class=..><a  href=URL>記事名</a> <span..>日付</span></li>
    if rList.Test( line ) then
        hURL   = rList.Replace( line, "$1" )
        hTitle = rList.Replace( line, "$2" )
        hDate  = rList.Replace( line, "$3" )
        oBuf = oBuf & "<li>" & hDate & " <a href=""" & hURL & """>" & vblf & hTitle & "</a></li>" & vblf
    end if
Loop
                    ' 結果の書き出し
Dim oHandle
Set oHandle = CreateObject("ADODB.Stream")
oHandle.Charset    = "UTF-8"
oHandle.Open
oHandle.WriteText oBuf, 0
oHandle.SaveToFile WScript.Arguments.Item(0) & ".txt", 2        '上書き

iHandle.Close
oHandle.Close
Call MsgBox( hDate )

【おわりに】

 改めて考えると、「複数のカテゴリーを一度で処理できりゃ楽なんじゃね?」とか「いっそカテゴリーのHTMLもスクリプトで取ってこいや」とか、改善の余地はいろいろあるけど、とりあえず役に立ったから良しとしよう。

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2018年2月11日 (日)

秋元道雄「パイプオルガン 歴史とメカニズム」ショパン

オルガンの音色は複数の音質の異なるパイプから発する音を集合させて作るので、実際に存在しない理想的なある音を合成するところにあります。
  ――第2章 バッハの黄金期から現代まで

「鍵盤は押すべきであって、たたいてはならぬ。撫でるべきであって、打ってはならない」
  ――第4章 オルガン演奏技法入門

オルガン演奏技術の最高のものは即興演奏です。
  ――第5章 オルガニストと演奏

【どんな本?】

 楽器の女王、パイプオルガン。大きなものは建物と一体化し、重厚なパイプがズラリと並び荘厳な姿を誇り、あらゆる楽器はパイプオルガンの前にかしずく。その音は厳粛にして華麗、時として素朴、時として壮麗と、奏者により鮮やかに変化を遂げる。

 そんなパイプオルガンは、いつどこで生まれたのか。どこでどのように使われ、どう進化してきたのか。ズラリと並ぶパイプにはどんな意味があり、どんな原理で鳴るのか。奏者の手元にあるスイッチやペダルは、どんな役割を果たすのか。それぞれのパイプオルガンは何がどう違うのか。

 パイプオルガンの基本原理から、それぞれのパイプオルガンの歴史的背景と特徴、そして優れたオルガン奏者に必要な能力など、オルガンについての基礎知識をまとめた音楽家向けオルガン入門書。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2002年11月11日第一刷発行。単行本ハードカバー縦一段組みで本文約256頁。9ポイント44字×17行×256頁=約191,488字、400字詰め原稿用紙で約479枚。文庫本なら普通の厚さの一冊分ぐらいの分量。ただし図版や写真を大量に収録しているので、実際の文字数は7割ぐらい。

 文章はやや硬い。内容も一般向けとは言い難い。義務教育で音楽を学んだ程度だと、ちと厳しい。というか、私には厳しかった。ピアノでもバイオリンでもいいので、何らかの音楽教室に通った程度の基礎知識は必要。「バロック」と言われてピンとくる人向け。

 当然、出てくるのはバッハをはじめクラシックの人ばかりなので、覚悟しよう。

 加えて、終盤では数学と物理も出てくる。これは倍音やオクターブに関するものや、開管と閉管の違いなどに関するもので、音楽理論というより音響工学っぽい方向のもの。

 つまりはかなりマニアックな本です。できれば予め Wikipedia のオルガンを見て予習しておこう。

【構成は?】

 素人向けにはちと不親切かも。素人は第1章の次に第3章を読んだ方がいい。

  • はじめに
  • 第1章 パイプオルガンの起源と変遷
    • Ⅰ オルガンの起源をたずねて
      • オルガンのアイディアの初め
      • 古代 水オルガンの出現
      • 中世 合唱団の伴奏
    • Ⅱ 三種類のオルガン
      • ポルタティフ・オルガン
      • ポジティフ・オルガン
      • 大オルガン
    • Ⅲ ルネッサンス時代のオルガン
      • ストップ装置の始まり
      • イタリアの一段手鍵盤のオルガン
      • 北欧の二段手鍵盤のオルガン
    • Ⅳ バロック時代のオルガン
      • 宗教改革によって起こった変化
      • オランダの<ニーホフ型>
      • 北ドイツの<シェラー型>
      • シュニットガーたちの<北ドイツ型>
      • リューベックと中心とした<北欧型>
      • カトリック系の<南欧型>
      • 倍音ストップの発達した<フランス型>
      • 重要な役割を果たした<中部ドイツ型>
      • その他の国々
  • 第2章 バッハの黄金期から現代まで
    • Ⅰ バッハが使用したオルガン
      • 17世紀から18世紀へ 音楽の変化
      • J・S・バッハ デーネルト論文より
    • Ⅱ 18世紀後半のオルガンの傾向
      • 視覚的な美の追求 南ドイツの場合
      • ロココ的傾向 フランスの場合
    • Ⅲ 19世紀のロマンティックオルガン
      • 音質の変化
      • 合奏効果
      • フォーグラーの理論
      • テッパーの理論
      • 都市の音楽堂の<コンサートオルガン>
      • カヴァイエ・コルの<シンフォニックオルガン>
    • Ⅳ 現代のオルガン
      • シュヴァイツァー
      • ドイツの「オルガン復興運動」とその波紋
      • 第二次世界大戦後の<ネオバロックオルガン>
      • 現代オルガンの歩み
  • 第3章 オルガン演奏台の諸装置
    • Ⅰ 演奏台 手鍵盤と足鍵盤の諸形式
      • 英・独・仏型の演奏台
      • 手鍵盤とその鍵盤配列のいろいろ
      • 足鍵盤とその位置、用法のいろいろ
    • Ⅱ 各種ストップとその音色、音量、音高
      • ストップの形 <ノブ型>その他
      • <フィート律>
      • 実動ストップの名称と音色・音質
      • 特別な利用法のための<機械ストップ>
      • ストップの名称
    • Ⅲ 演奏補助装置のいろいろ
      • <スエルペダル>
      • <クレッシェンドペダル>
      • <コンビネーションボタン>
      • その他の装置
  • 第4章 オルガン演奏技法入門
    • Ⅰ オルガン演奏の歴史的性格と特色
      • 合唱音楽との深いかかわり
      • 弦楽器、管楽器との音色の関わり
      • ピアノ、その他の鍵盤楽器との関係
    • Ⅱ アクションの機能と演奏技法
      • アクションの起源
      • メカニカル・アクション
      • ニューマチック・アクション
      • 電気アクション
      • アクションとパイプの発音状況
      • 音鍵演奏技法
      • 演奏技法の基本
      • アーティキュレ-ション
      • テンポトアゴーギク
    • Ⅲ 鍵盤と調律法
      • 旋律のための鍵盤 「ピタゴラス調律法」
      • ハーモニーのための鍵盤 「純正調」「中全音調律法」「修正中全音調律法」
      • 旋律と和音両用の鍵盤 「半音調律法」
      • マニュアルの音域
      • ペダルの音域
      • 指使い
      • グリッサンド奏法
    • Ⅳ ストップのスケール
      • 基本スケール
      • 中世のスケール
      • ルネッサンス・バロックのスケール
      • 後期バロック・ロマン派のスケール
      • 実用スケール
      • 「実用スケール」の歴史的変遷
      • スケールと時代の感覚
  • 第5章 オルガニストと演奏
    • Ⅰ 作品演奏
    • Ⅱ 伴奏と合奏
      • 教育用作品
    • Ⅲ 即興演奏
    • Ⅳ 日本のオルガニスト教育
    • Ⅴ 演奏楽派
      • ドイツのライプツィヒ楽派とベルリン楽派
      • フランス・オルガン交響楽派
      • 現代のオルガン楽派
      • オルガニストの系譜
  • おわりに

【感想は?】

 ヒトが音楽に注ぐ情熱に慄然とする。

 流行歌ばっかり聞いている私は、メロトロン(→Wikipedia)はクレイジーな楽器だと思っていた。が、甘かった。本格的なパイプオルガンに比べれば、メロトロンなんてオモチャだ。

 書籍より映像の方が好きな人は、Youtube の「教えてルーシー!パイプオルガンのひみつ」を観よう。パイプオルガンというメカの凄まじさがわかる。

 メロトロンは、鍵盤を押すと、その音程を録音したテープを再生する。いわばアナログ・サンプラーだ。鍵盤の数だけテープが必要なわけで、メカはかなり複雑になる。

 ところが、オルガンはもっと狂ってる。鍵盤を押すと、その音程のパイプに空気が送られて鳴る仕組みだ。鍵盤の数だけパイプと送風の機構を作るってだけでも、メカとしちゃやたらと精密かつ複雑なシロモノだ。が、それだけじゃない。

 一つの鍵盤には、幾つものパイプが繋がっているのだ。

 オクターブ違いのパイプ。リードのあるパイプとないパイプ。リードの太さが違うパイプ。開管と閉管(長さが同じだと閉管はオクターブ上がる下がる)。円柱形のパイプと円錐形のパイプ。少しだけ振動数が違うパイプ(セレステ効果、ビブラートに近い)。パイプを収めた箱の扉の開け閉め(音量が変わる)。

 中には三度や五度違いのパイプをまとめてたり。鍵盤一つで和音が出せるって事かい。

 で、これらのエフェクターを制御するのが、鍵盤の傍らにあるスイッチ類。オルガンの世界ではストップと呼ぶ。

 など、多種多様なエフェクトが出せる仕組みだ。それが全部、機械仕掛けなのだ。空気を送る「ふいご」はもちろん、ばね・スライド・てこ・カムなど、ありとあらゆるメカニズムの要素を駆使して実現しているのだ。

 しかも、楽器である。要求される精度はやたらと高い。ギターのチューニングをしたことのある人ならわかるだろうが、ペグの角度を少し変えただけでチューニングは狂ってしまう。ギターの弦は六本だけだが、パイプオルガンのパイプの数ときたら…

 世界の有名なパイプオルガンの写真を豊富に載せているのもこの本の特徴で、その一つは世界最大と言われるアトランティックシティのオルガン。これのコンソールが凄まじい。手鍵盤が七段に加え、ストップが1250個。これ全部が機械仕掛けである。もはや楽器というより精密機械だ。

 んなモン、作る手間も半端じゃないが、維持するのも大変だよなあ。ネズミが齧ったり虫が巣を作ったり雨漏りで部品が錆びたり、トラブルの種はいくらでもあるだろうに。そうまでしてでも、ヒトは美しい音楽を求めたんだと思うと、音楽の持つ魔力におぞましさすら感じてしまう。

 とはいえ。多数のパイプを一つのキーで開け閉めしようってんだから、パワーも必要だ。当然、鍵盤も重くなる。お陰で…

初期のゴシック時代の大オルガンでは音鍵数の少ない大型の鍵盤を備え、「こぶし」でたたいて演奏するのが常でした。
  ――第4章 オルガン演奏技法入門

 と、最初の頃は、キータッチもやたらと重かった様子。その後、メカニカル・アクションやら電気アクションやらと、演奏者を助ける機構が出てくる。電気アクションは反応が鈍いのが難点とあるけど、今ならエレクトーンが使ってるタッチ・センサーを…と思ったが、そういうのはオルガニスト的に許せるのかな?

 同じ楽器でも、音の高さが変わると音色も変わるのが音楽の面白さ。これはパイプオルガンも同じ。パイプの長さを変えれば音の高さが変わるんだが、同時に音色や音量も変わる。これをパイプの太さを変えて調整すると、それぞれのオルガンごとに様々な個性が出る。

 加えて、建物に据え付けた楽器なだけに、建物によっても音が違う。広くて天井が高ければ残響が長い。石造りなら反響が強く、煉瓦造りは弱い。

 と、個々の楽器によって性質が違うのが、オルガンの難しい所でもあり、楽しい所でもある。こういった事も合わせ、クラシックの人が言う「解釈」についても、この本を読んで少しわかった気がする。

 音楽というと芸術って感じで、理屈より感性の世界だと思っていたが、その裏にはとんでもなく精密で工夫に満ちた数学と工学の土台があるのだと思い知らされた。求められる前提知識は多く、書いてあることの半分も理解できなかったが、それでも多くの衝撃を与えてくれる本だった。

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2018年2月 9日 (金)

大森望・日下三蔵編「年刊日本SF傑作選2012 極光星群」創元SF文庫

「広瀬は仮想の音を聴くだけでなく、氷波の動きを体感したいと言い出した。C環の巨大波で、サーフィンをしてみたいと」
  ――氷波

「魂とは何だ?」
  ――機巧のイヴ

「何かが、人間よりも上手に自然を理解しはじめたのさ」
  ――内在天文学

SFは風刺であるという。SFは文明批評であるという。だが私はいま知っている。SFは未来をつくるのだ。
  ――Wonderful World

むかし、ぼくらは三人いた。先頭はノチユ、二番手はレラ、最後はぼく――
三人は十億キロ、六十光秒の総体距離を保ち、直線隊列を組んで宇宙を旅していた。
  ――銀河風帆走

【どんな本?】

 2012年に発表された日本のSF短編から、大森望と日下三蔵が選び出した作品に加え、第四回創元SF短編賞受賞作の「銀河風帆走」を収めた、年間日本SF短編アンソロジー。

 1960年代の日本SFの香りがする「群れ」,トボけた味の漫画「とっておきの脇差」,映画にしたら映えそうな「ウェイプスウィード」,直球ド真ん中の本格SF「銀河風帆走」など、バラエティ豊かな作品が味わえる短編集。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2013年6月28日初版。文庫本で縦一段組み、約507頁。8ポイント42字×18行×507頁=約383,292字、400字詰め原稿用紙で約959枚。上下巻に分けてもいい分量。

【収録作は?】

 それぞれ 作品名 / 著者 / 初出。

序文:日下三蔵
星間野球 / 宮内悠介 / 小説野生時代2012年12月号付録
 採算が取れず、見捨てられかけている宇宙ステーションが、半世紀以上前の人工衛星を回収した。入っていたのは、タイムカプセル。子供たちの記念品らしきものが詰まっている。その中には野球盤もあった。ステーションの二人だけの要員マイケルと杉村は、野球盤で遊びはじめ…
 元は「盤上の夜」用のアイデアだったとか。あのシリーズだと、「清められた卓」に雰囲気が似てるかも。いい歳こいた野郎二人が、野球盤に熱くなっていく様子が可愛いやらおかしいやら。「男の子」だった人には、懐かしさと「ニヤリ」が詰まった楽しい作品。
氷波 / 上田早夕里 / 読楽2012年5月号
 人工知性222こと<トリプルツー>は、土星の衛星ミマスで観測任務を続けていた。そこに客が現れる。総合芸術家である広瀬貴之の精神をコピーした人工知性タカユキだ。土星のC環の波打ち現象の<音>を聴くためだ。
 いかにも機械的な反応を示しながらも、意外と親切に説明してくれる<トリプルツー>が可愛い。それに懲りずに会話を続けるタカユキも。土星のC環が引き起こす波の壮大さが凄い。それでサーフィンして何かを得ようとするヒトの意味不明さと、クールなトリプルツーの対比もいい。
乾緑郎 / 機巧のイヴ / 小説新潮2012年11月号
 幕府精煉方手伝、釘宮久蔵。肩書には釣り合わぬ大きな屋敷に住む、六十ほどの男。人そっくりの機巧人形を作ると言われている。ここを訪ねてきたのは仁左衛門、牛山藩の藩士。「ある女に似せた機巧人形を作ってもらいたい」。
 最初に読んだ時は、人とロボットの違いの曖昧さを描いた作品かと思った。が、妙にAIがもてはやされている今となっては、だいぶ印象が違ってくる。世の人が思うほど今のディープラーニング式のAIは万能じゃないのは幸いだが、将来は果たして。
群れ / 山口雅也 / ミステリマガジン2012年7月号
 私と影山は、展望ラウンジから渋谷ハチ公前の交差点を見下ろしている。交差点を行き交う人が、妙な動きを見せる。群衆が長方形・V字編隊・ドーナツ型・五芒星などの隊形を組んでいる。信号が青に変わると、隊形を崩さず、他の群れとすれ違い、それぞれの方向へ向かい…
 この雰囲気は、1960年代~70年代の日本SFの感じだ。小道具は今風だけど、半村良の短編が持つトボけた味わいが蘇る。「逃げ出すロボット」とか、あったら面白いなあ。きっと売れないけどw
百万本の薔薇 / 高野史緒 / 小説現代2012年12月号
 流行歌にカブれたのか、コズロフ書記は赤いバラのこだわりはじめた。おかげで冴えない実験技術者のフィーリンにも機会が回ってきた。上手くこなせば名前を憶えてもらえるだろう。向かうはグルジアの「バラの町」。不審死が相次いでいるらしい。
 著者お得意のソ連を舞台とした作品。歌を Wikipedia で調べたら、複雑な背景があるみたい。Youtube にもあった。お偉方の機嫌で決まる地位、何を買うにも行列の流通、位置すら秘密の町など、いかにもソ連な描写が鮮やか。
無情のうた「UN-GO」第二話(坂口安吾「明治開化 安吾捕物帖 ああ無情」より) / 會川昇 / スタイル「ANIMESTYLE ARCHIVE UN-GO會川昇脚本集」
 白タクから降りた女は、運転手に無理やり頼み込む。大切な荷物を忘れた、取ってきてくれ、と。指示されたとおり、荷物の受け取りに向かった先は、投資家の長田久子の屋敷。そこでスーツケースを受け取ったはいいが…
 アニメの脚本。「何をどう映すか」まで指示が入っているんだなあ、なんて感心してしまった。現代日本とは異なる歴史を重ねたらしき、少し未来の日本を舞台にした、殺人事件の謎を解くミステリ。社会背景がにじみ出てくる仕掛けが見事。
とっておきの脇差 / 平方イコルスン / 成程
 漫画。高速道路を走る車に乗る三人。うち一人が叫ぶ。「忘れた」。
 スクリーン・トーンを使わない絵柄と、手書きのフキダシ。でも「執拗な描き込み」な感はなく、空白を活かしたコマも多く、この人の独特のヌケた味を出している。版の小さい文庫本で絵柄をじっくり味わえないのが惜しい。
奴隷 / 西崎憲 / 飛行士と東京の雨の森
 夏の半ば。義母が亡くなり五カ月ほど経ったころ、芙巳子は奴隷を買おうと思い立つ。夫の聡も賛成してくれた。今までは自分で何かを計画したことはなく、親や友人や義母に任せてきた芙巳子。使用人の吉川や珠美の助けを借りて調べ始めるが…
 ハイソな奥方様の暮らしが、なかなかにカルチャー・ショック。食べるものまで自分で決めたことがないってのは凄い。改めて考えてみると、自分で自分の食事を決められないのは同じだよなあ。
内在天文学 / 円城塔 / THE FUTURE IS JAPANESE
 僕とリオが住むのは、どこまでも続く平原にある小さな町。線路が端をかすめる。星空には、無数の星が新たに出現し、かつての星座の多くはわからなくなった。リオが言う。「そろそろオリオン座が振り向くはずだ」。
 「エレベーターのパラドックス」って、本当にあるんだなあ(→Wikipedia)。フレドリック・ブラウンやR・A・ッラファティ、そしてスター・トレックなどの小ネタを挟みつつ、宇宙と認識の問題を問いかけ…ているのか、おちょくっているのか。
ウェイプスウィード / 瀬尾つかさ / SFマガジン2012年2月号&3月号
 25世紀。地球は海面が上昇、人類はわずかな人数を島嶼部に残し、多くは宇宙のコロニーに移り住む。厳しい規制をくぐり抜け、探索のため地球の大気圏に突入したシャトルは事故を起こし、乗員四人中、生き残ったのは最年少のケンガセンだけ。彼を助けたのは島に住む少女ヨル。
 SFの王道を真っ向から突き進む正統派の作品。小さな島で孤独な立場に置かれ広い世界に憧れる少女ヨル、探索で成果を出さないと後がない研究者のケンガセン。育った環境も目的も違う二人の出会いに、正体不明の複合生物ウェイプスウィードの謎を絡め、壮大でセンス・オブ・ワンダーに満ちたエンディングへと向かう。これぞSSFの醍醐味。
Wonderful World / 瀬名秀明 / 小説現代2012年9月号
 その日の国際学会から、騒ぎは始まった。マルセル・ジェランの巧みな発表には、共同研究者の私たちも翻弄された。聴衆は喝采し、論客で知られるケン・ズウすら感謝の言葉を口にした。ニュースにも取り上げられ…
 レイ・ブラッドベリへのオマージュが溢れる作品。私が幼い頃に思い描いた21世紀と、今の暮らしはだいぶ違う。けど、パソコンやスマートフォンなど意外と身近な所でテクノロジーは絶えず進歩してるし、コンビニや通販など便利な仕組みも充実してたり。公害も減ったしなあ。
銀河風帆走 / 宮西建礼 / 第四回創元SF短編賞受賞作
 遠い未来。人類は太陽系を喪い、恒星間宇宙へと進出する。ナルコル恒星系では三つの「帆船」を建造、いて座Aへと向かわせる。初期推力の核融合ブースターで光速の3.5%まで加速、後にブースターを切り離しマグネティック・セイルで航行する。
 A・C・クラークの「太陽からの風」を時間・空間ともにスケール・アップし、銀河系レベルの危険で壮大な旅を描く力作。やはり銀河系を横切るなんてスケールになると、核融合を使ってさえ推進剤の質量は大変な量になる。新人ながら徹底して硬派な作品に仕上げた力量は見事。
第四回創元SF短編賞選考経過および選評 / 大森望・日下三蔵・円城塔
2012年の日本SF界概況 / 大森望
後記 / 大森望
初出一覧
2012年日本SF短編推薦作リスト

 なんといっても「ウェイプスウィード」には、ひたすら脱帽。こんな正統派の傑作が、書籍で読めるのはこのアンソロジーだけってのは納得いかない。早く短編集を出してほしい。「銀河風帆走」も、このアンソロジーの末尾を飾るにふさわしい力作で、しばらく心を宇宙空間に持っていかれた。こんなSFが毎年読める今が嬉しい。

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2018年2月 8日 (木)

ココログでスマートフォン対応アコーディオン式メニュー但し反則技

 カテゴリ別書評一覧の新装開店の詳細その3。

【謝辞】

 いっぽんしめじ様のにわはんみょうをまぜまココログの「スマートフォン表示」に無理矢理スタイルを設定してみたにお世話になりました。

【はじめに】

 カテゴリ別書評一覧は、やたら記事が長い。下の方を見るには、画面の大きなパソコンでもスクロールが面倒臭い。画面の狭いスマートフォンじゃ、やってられないだろう。

 紆余曲折の末、アコーディオン式メニューを使うことにした。ただし、反則技を使っている。

【アコーディオン式メニューとは】

 こんな感じのシロモノ。下の【見出し1】や【見出し2】をクリックすると、「本文1」や「本文2」が、見えたり消えたりする。

【手口】

 スタイルタグ(<style type="text/css">~</style>)を使う。上のサンプルは、以下の HTML で実現している。できれば、この記事の HTML を見て確認して欲しい。Firefox なら、CTRL+U で HTML を表示します。

<style type="text/css">
/* 見出しの体裁 */
.c_menu label {
    display: block;
    margin: 0.2em 0 0px 0;
    padding : 0.2em;
    line-height: 1em;
    cursor :pointer;
    background :#f0f0a0;
    font-weight: bold;
    border-left: 1px solid silver;
    border-bottom: 1px solid silver;
}
/* チェックボックスを隠す */
.c_menu input {
    display: none;
}
/* 本文 最初は隠す */
.c_menu .menuBody {
    height: 0;
    padding: 0;
    overflow: hidden;
    opacity: 0;
}
/* 本文 チェックボックスがonなら表示 */
.c_accordion:checked + .menuBody {
    height: auto;
    padding: 2px;
    opacity: 1;
}
</style>

<div class="c_menu">
    <label for="c_title1">【見出し1】</label>
    <input type="checkbox" id="c_title1" class="c_accordion" />
    <div class="menuBody"><p>本文1</p></div>

    <label for="c_title2">【見出し2】</label>
    <input type="checkbox" id="c_title2" class="c_accordion" />
    <div class="menuBody"><p>本文2</p></div>
</div>

【解説】

 スタイルシートと HTML を組み合わせ、こんな感じに指定した。

  1. 見出しは、チェックボックスにする。
    ただしチェックボックスの□は隠す。
  2. 本文は、最初は高さをゼロにして隠しておく。
  3. チェックボックスがチェックされたら、本文を見せる。

 スタイルシートは、普通 ~.css で指定する。ココログだと、カスタムCSSを使う。

 が、しかし。

 ココログのカスタムCSSは、パソコンで見た時だけ有効になる。スマートフォン用のスタイルシートは、有料プランだけが使える。無料のプランでは使えない。

 幸い、無料のプランでも、HTML の編集はできる。そして、HTML内でもスタイルシートは書ける。<style>~</style>で囲って書けばいい。

 そこで、ココログの記事編集画面の「HTMLの編集」を使い、記事内にスタイルシートを埋め込んだ。

【でも反則技です】

 ただし、これは反則技だ。

 HTML の規格だと、<style>~</style>を使っていいのは、<head>~</head>の中だけだ。<body>~</body>では、使えない。が、上の方法だと、<body>~</body> の中に書くことになる。

 規格に沿っていないので、ブラウザによっては巧く動かない可能性がある。また、スマートフォンでも、機種によってはダメかもしれない。

 また、他にもマズい点がある。

 この方法だと、記事の中にスタイルシートを埋め込む。他の記事でも同じ手口でアコーディオン式メニューを使った場合、困った事がおこるかも。

 というのも。「カテゴリー」や「バックナンバー」を見た時だ。

 例えば、このサンプルだと、スタイルのクラス c_menu や c_accordion を使っている。他の記事でも同じ名前を使っていた場合、名前がカブって思わぬ事態になるだろう。

【反則技の報い】

 だけじゃない。実は、記事を編集する時点で、既に問題が起きていた。

 というのも、ココログの記事編集画面で、文字を入力できないのだ。「HTMLの編集」はできるんだが、そうでない「記事の編集」画面では、文字が入らない。

 どうも <style>~</style> があると、「記事の編集」は巧く動かないらしい。

 仕方がないので、<style>~</style> 以外の部分を予め完成させ、最後に「HTMLの編集」で <style>~</style> を書き加えた。

【メモ】

 最初は記事の先頭に目次をつけて、頁内リンクを張っていた(→ウェブページ版カテゴリ別書評一覧、パソコンからだけ見える)。が、これだと、二つ問題がある。

 まず、スマートフォンからは見れない。ココログの仕様で、ウェブページが見れるのはパソコンだけで、スマートフォンじゃ見れないのだ。

 そこでウェブページからブログの記事に移す。

 が、ここでも二つ目の問題が起きた。スマートフォンだと、頁内リンクが効かない。常に頁の先頭に飛ぶ。これじゃ目次の意味ないじゃん。

 どうやら複数の原因が絡んでいるようだ。スマートフォンだと、ココログは別の頁にリダイレクトする。この際に、頁内リンクの情報が失せるらしい。また、機種によっては、ブラウザの仕様で、頁内リンクの有効個数に制限があるみたい。

 加えて、HTMLの書き方にも制限があるっぽい。<a name=~>じゃダメで、id を使えとか。この辺は面倒なんで、途中で調べるのは諦めた。

 ってんで、アコーディオン式メニューに切り替える。JavaScript を使う手もあるが、なんとなく嫌なので、HTML+CSS で実現可能な方法を探す。

 が、ここでも、ココログの制限に泣かされた。つまりココログだとスマートフォンではカスタムCSSが効かないのだ。

 でもまだ手はある。何も .css を使う必要はない。HTML中の style="~" でも体裁は指定できる。やったね。

 と思ったら。スタイルシートの終盤、c_accordion:checked + .menuBody の所でひっかかった。HTML 中だと、決まった体裁は指定できる。が、:checked などの疑似クラスは使えないのだった。がっくし。

 という事で、再びスタイルシートに戻る。解決案を示唆してくれた、いっぽんしめじ様には深く感謝する次第。

 やあ、これで万事解決、じゃ記事にしようか…と思ったら、ここでも文字が入力できなくて泣く。仕方がないので、とりあえず文字だけ入力しといて、最後の仕上げにスタイル指定を入れる事にする。

 と、そんな風に、一見スタイリッシュなシロモノも、それを支える裏方さんは様々な苦労をしいているんです←いやオマエがダメなだけだろ

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2018年2月 7日 (水)

ココログの記事一覧で大量の記事を一度に選ぶ

 カテゴリ別書評一覧の新装開店の詳細その2。

【はじめに】

Select02x
画像クリックで拡大します

 ココログは、既に書いた記事を削除できる。削除以外にも、非公開にする・コメント欄を閉じる・カテゴリを変えるなど、色々な操作ができる。

 これらの操作は、記事一覧の画面で行う。変えたい記事を選んで、すべき操作を指定する。右のスクリ-ン・ショットでは、記事「SFマガジン2018年2月号」を公開している。なお、赤い丸や文字は、私が書き加えた。

 一度に複数の記事を選ぶこともできる。が、大量の記事は選べない。というのも、一画面に表示できる記事は、最大50件までなのだ。だから、一度に操作できるのも、50件までという事になる。

 記事の数が少なければ、たいした問題じゃない。が、大量の記事を一括して消したり非公開にする場合、これはシンドい。「カテゴリ別書評一覧の新装開店」では、全部の記事をいったん削除した。記事は千件以上ある。一画面最大50件だから、素直にやると20回以上も同じ操作を繰り返さなきゃいけない。

 これは辛いんで、ちょっとセコい手口を使い、記事一覧の画面で、大量の記事を表示させた。

【記事一覧で大量の記事を表示する】

 以下の方法で、記事一覧に500件の記事を表示した。

1.ブラウザで記事一覧の画面を出す。

2.URLは、こんな感じになっている筈だ。ちなみに、赤い所の文字は出鱈目な数字に書き換えた。

http://app.cocolog-nifty.com/t/app/weblog/post?__mode=list_entries&blog_id=123456

3.URLの最後に、「&limit=500」を付け加える。

http://app.cocolog-nifty.com/t/app/weblog/post?__mode=list_entries&blog_id=123456&limit=500

4.編集した URL で、ブラウザをリロードしよう。
  記事一覧は最初の500件を表示する。
  嬉しい事に、頁の下にある「前 >」を押すと、501件目~1000件目を表示する。

【注意事項】

 2000件とか欲こかないで、500件 ぐらいにしときましょう、という話。

 だいたい見当がつくと思うが、&limit=500 は「最大500件まで表示する」という指定だ。だから、&limit=2000 とすれば、2000件まで表示する。

さて。先に「記事は千件以上ある」と書いた。なら、&limit=2000 とすりゃ良さそうなモンだ。が、500件を例に出したのには、ちゃんと理由がある。

 実を言うと、&limit=2000 を指定して、やってみたのだ。ちゃんと全記事を表示してくれた。

 のは、いいが。ここで全ての記事を選び、「削除」ボタンを押す。すると、暫く待たされた挙句に「こんなに沢山は扱いきれないよ」みたいなメッセージが出た←すまん、メッセージの詳細は覚えてない。

 当然、処理はキャンセルされてしまう。どうも、削除にせよコメント欄を閉じるにせよ、一度に扱える記事の数には限界があるらしい。1000件でも試したが、やはりハジかれた。500件なら、受け付けてくれた。

 という事で、500件ぐらいで我慢しましょう。2000件は無理です。

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2018年2月 6日 (火)

チャールズ・テイラー「音の不思議をさぐる 音楽と楽器の科学」大月書店 佐竹淳・林大訳

だいじなのは圧力の変化の大きさではなく、その速さであることがわかります。実際、ふつうの会話では声によって空気の圧力が100万分の1か2、変化するだけです。これは、直径20cmに膨らませた風船を指でそっと押して100万分の1mmへこませたときに風船の中に起こる圧力の変化と同じくらいなのです。
  ――第一章 音楽とは何か

ここで重要なのは、音が木目を横切って伝わる速度が、木目に沿って伝わる速度のおよそ1/4でしかないということです。表板が平らに近い弦楽器の多くで、長さが幅の約四倍になっている理由の一つはこれだといわれています。
  ――第三章 科学、弦楽器、シンフォニー

チェロでは400Hzから600Hzまでの間の大部分の音が前に放射されますが、300Hzと、800Hzから1000Hzまでの間では音がほとんどすべて後ろへいくのです!
  ――第六章 反射、残響、リサイタル

【どんな本?】

 フルートとクラリネットでは、なぜ音色が全く違うのか。チェロのf型のサウンドホールは、どんな意味があるのか。いいバイオリンとダメなバイオリンは、何が違うのか。トランペットなどのラッパはなぜ朝顔形なのか。コンサート・ホールの天井は、なぜケッタイな形をしているのか。

 科学者であり、イギリス王立研究所の教授であるチャールズ・テイラーが、1989年~1990年のクリスマス講演で行った実験付き講演をもとに、音楽、特に楽器に関する謎を、科学で解き明かしてゆく、一般向けの科学解説書。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は Exploring Music : The Science and Technology of Tones and Tunes, by Charles Taylor, 1992。日本語版は1998年3月24日第1刷発行。単行本ハードカバー縦一段組みで本文約329頁に加え、訳者あとがき2頁。9ポイント45字×18行×329頁=約266,490字、400字詰め原稿用紙で約667枚。文庫本なら少し厚めの一冊分。

 文章はやや硬い。そのためか、内容もやや高度に感じる。高校の物理をマスターしていれば、ついていけるだろう。それより大事なのは、フルートやクラリネットなどの様々な楽器と、その音色をしっていること。演奏できれば、更にいい。

【構成は?】

 基礎から順に説いてゆく形なので、素直に頭から読もう。

  • 刊行にあたって
  • 第一章 音楽とは何か
    • 1.1 はじめに
    • 1.2 音の性質
    • 1.3 固体・液体中の音波
    • 1.4 どうして音が音楽になるのか
    • 1.5 ピッチと周波数
    • 1.6 超音波を検出する
    • 1.7 純音
    • 1.8 木片の音楽
    • 1.9 第一族の楽器
    • 1.10 耳と聴覚
    • 1.11 聴覚の測定
    • 1.12 音楽の性質をめぐるその他の疑問
    • 1.13 音楽と情報
    • 1.14 何が変えられるか
    • 1.15 協和音と不協和音
    • 1.16 うなりと差音
    • 1.17 音響心理学的な複雑さ
    • 1.18 さらに脳の果たす役割について
    • 1.19 まとめ
  • 第二章 楽器の本質
    • 2.1 はじめに
    • 2.2 音を起こす
    • 2.3 固有振動数
    • 2.4 音を続かせる
    • 2.5 音を十分に大きくする 第一族の楽器
    • 2.6 音を十分に大きくする 第二族の楽器
    • 2.7 共鳴箱の使用がもたらすその他の効果
    • 2.8 管の中の空気の振動
    • 2.9 エッジ・トーン
    • 2.10 倍音 第三族の楽器
    • 2.11 リード
    • 2.12 楽音を解析する
    • 2.13 なぜリードは多くの倍音をつくりだすのか
    • 2.14 私達は倍音の混ざり合ったものをどのように知覚するか
    • 2.15 弦楽器の倍音
    • 2.16 弦の振動を続かせる
    • 2.17 現代の機械楽器
    • 2.18 時間とともに音がどのように変わるか
    • 2.19 音の始まりの重要さ
    • 2.20 音の立ち上がりの原因について
    • 2.21 まとめ
  • 第三章 科学、弦楽器、シンフォニー
    • 3.1 はじめに
    • 3.2 板の振動パターン
    • 3.3 空洞内の空気の振動パターン
    • 3.4 弦楽器の銅
    • 3.5 弓奏弦楽器
    • 3.6 バイオリンをつくる
    • 3.7 科学は助けになるか
    • 3.8 コンサートホールでの実験
    • 3.9 ウルフ音
    • 3.10 弦楽器音響協会
    • 3.11 撥弦楽器
    • 3.12 撥弦鍵盤楽器
    • 3.13 打弦鍵盤楽器
    • 3.14 ピアノ
    • 3.15 ピアノのタッチ
    • 3.16 まとめ
  • 第四章 テクノロジー、トランペット、曲
    • 4.1 はじめに
    • 4.2 管の端で何がおこるか
    • 4.3 両端が開いた管の中の振動
    • 4.4 片方の端が閉じた管の中の振動
    • 4.5 特別な周波数
    • 4.6 円錐形の管の中の振動
    • 4.7 木管楽器の倍音レシピ
    • 4.8 エッジ・トーン楽器
    • 4.9 ウィンドキャップ楽器
    • 4.10 マウス・リード楽器
    • 4.11 孔の機能
    • 4.12 音はどのように放射されるか
    • 4.13 振動を続かせる
    • 4.14 キーの機能
    • 4.15 管の中の振動
    • 4.16 中間楽器
    • 4.17 管をトランペットに変える
    • 4.18 ヴァルヴとスライド
    • 4.19 金管楽器の倍音レシピ
    • 4.20 オルガン・パイプ
    • 4.21 オルガンのメカニズム
    • 4.22 声
    • 4.23 まとめ
  • 第五章 音階、シンセサイザー、サンプラー
    • 5.1 はじめに
    • 5.2 音階の目的
    • 5.3 平均律の音階
    • 5.4 音律の意義
    • 5.5 電子的合成
    • 5.6 アナログ合成
    • 5.7 サンプリング
    • 5.8 デジタル技術
    • 5.9 コンピュータ合成
    • 5.10 デジタル・シンセサイザー
    • 5.11 MIDIの概念
    • 5.12 なぜ合成するのか
    • 5.13 自動演奏装置とその後継者
    • 5.14 まとめ
  • 第六章 反射、残響、リサイタル
    • 6.1 はじめに
    • 6.2 誰でも必ずある場所にいる
    • 6.3 音量と識別度
    • 6.4 W.C.セイビンの仕事
    • 6.5 どんな残響時間が望ましいか
    • 6.6 吸音材をおく
    • 6.7 反射材をおく
    • 6.8 反射がもたらした不幸な結果
    • 6.9 主観に関わるいくつかの問題
    • 6.10 音響設計の方法
    • 6.11 音響効果の調整
    • 6.12 バーミンガムのシンフォニー・ホール
    • 6.13 建物の中の騒音
    • 6.14 まとめ
  • 付録A ホログラフィック・インターフェロメトリー
  • 付録B ピッチと周波数
  • 謝辞/訳者あとがき/文献と参考文献/索引

【感想は?】

 ベース・ギターのデッド・ポイントの謎が解けた。

 似たような悩みが、バイオリンにもあるのだ。ウルフ音(→Wikipedia)がそれ。胴が弦と共鳴し、弦の振動を吸い取っちゃう。ベースのデッド・ポイントもコレだろう。ちなみに解決策は…

バイオリンの場合、製作者はふつう、半音離れた二つの音の中間にウルフ音をはさんで…

 と、ウルフ音を演奏じゃ使わない周波数に割り振るわけ。賢い。ウルフ音ほど酷くなくても、ダメなバイオリンは、鳴りのいい周波数と悪い周波数の差が大きいとか。そこで上手なバイオリニストは、その特性を掴み、演奏でカバーしちゃう。その分、気が散るから情感を出すのには苦労するけど。

 これを別の視点で見ると、楽器の質は、ある程度までは科学で判定できるって事でもある。ダメな楽器は機械的にわかるのだ。ただし、最高の楽器は科学じゃわからない。そもそも何が最高かは、「演奏家の間でも意見の一致を見るのはたいへん難しいのです」。好みで分かれるのね。

 などと、「楽器が鳴る仕組み」がわかるのが、この本の嬉しい点の一つ。でも、クラリネットやトランペットなど、吹奏楽器はよくわからなかったなあ。特に倍音構成の違い。特に偶数の倍音を含むか含まないかが、大きく違うらしい。

 などと、「楽器が鳴る原理」だけでなく、それぞれの楽器が持つ独特の音色の秘訣について、探っていくところが、この本のハイライトだろう。その理屈の核をなすのが、倍音構成だ。

 この倍音についても、私は完全に誤解していた。

 コンサートなどで楽器の音を合わせる際、基本となるのは440Hz(→Wikipedia)のAだ。この倍音は、880Hz,1320Hz,1760Hz,2200Hz…となる。うち、880Hzはオクターブ上のAだ。じゃ1320Hzは、というと、私はてっきり2オクターブ上のAだと思い込んでいた。

 もちろん、間違いだ。実際は、1オクターブ上のEになる。1760Hzは2オクターブ上のAだが、次の2200Hzは2オクターブ上のCとC#の間の音だ。三倍と、五倍以上の倍音は、元の音程から外れた音程になる。そんな事も気づかせてくれた。

 ところでC#とD♭、私には違いが判らなかったが、その謎も解けた。私たちが日ごろ使っている平均律だと、同じなのだ。違うのは、純正律を使った時。純正律だと、微妙に違う。よくわかんないけど。

 平均律が流行ったのは、ピアノのお陰。なんだが、この本じゃピアノについてはアッサリ流している。それより深く扱ってるのは、オルガン。とは言いうものの、いきなり…

オルガン・パイプの組み合わせ方と、その制御システムを組織化する仕方は、ほとんどオルガンの数だけあります。
  ――第四章 テクノロジー、トランペット、曲

 って、おい。とはいえ、基本原理は同じ。リードが中に入ったパイプを集めたもの。パイプの太さや長さで音程が決まる。んだが、鍵盤の一つのキーが一つのパイプにつながっているとは限らない。例えば、7~8Hzだけ音程が違う二つのパイプにつながってる事もある。そうすると…

二つのパイプをいっしょに鳴らすと、差に当たる周波数で音量が変わり、ビブラートに似た効果が生じます

 なんて変化技も使ったり。さすが楽器の女王。もっとも、今のポピュラー音楽は電子楽器大流行りで、オルガンも電子オルガンというよりシンセサイザー大繁盛だ。テイラー教授もシンセサイザーを邪道視せず、ヤマハのDX7を使っていろいろ遊んで、もとい研究している。曰く…

シンセサイザーで従来の楽器の音を模倣しようと試みるのは、科学的な観点からその楽器を研究する優れた方法になりえます。

 と、研究に活用している様子。もっとも、音の問題ってのは、音波だけでなく、ヒトの心理も深くかかわってて、そのあたりもちゃんと押さえてあるのはさすが。例えば住居の騒音。そりゃ静かな方がいいけど、気になる音と気にならない音がある。

 これは慣れも関係してて、大通りの近くに住んでいる人は、車の騒音はあまし気にならない。でも、酔っぱらいの騒ぐ声は気に障ったりする。全く関係ないけどピアノの調律も…

 などと、音程から音質、そして生活音まで、様々な音を題材に、音の発生源から音色や響きの違い、音程を変える手段など、主に楽器を中心に、音を科学してゆくだけでなく、テイラー先生の音楽好きな想いも伝わってきて、音楽好きにはこたえられない本だった。

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2018年2月 5日 (月)

ココログ(Typepad)のバックアップを複数のファイルに分けるVBScript

 カテゴリ別書評一覧の新装開店の詳細その1。

【はじめに】

 ココログは、記事のバックアップを取れるし、復元もできる。バックアップを取るのは簡単だが、復元の際に困る場合がある。

 というのも。ココログで復元するには、「管理」ページの「読み込む」を使う。が、ココログだと、一回の操作で読みこめるファイルの大きさに、制限があるのだ。最大3M(メガバイト)まで。

 記事の数が多かったり、大きな写真を使っていると、バックアップの大きさが3Mを越えてしまう。私の場合は約17Mに達した。だから、復元の際には、複数のファイルに分けて、何回か「読み込む」操作をしなきゃいけない。

 分けるったって、単純にバイト数で分けるわけにはいかない。記事の切れ目で分ける必要がある。ってんで、記事の切れ目でファイルを分ける VBScript を作った。

 はいいが、使い勝手はとても悪い。

 というのも。

 このスクリプト、元ファイルを幾つかのファイルに分けて書きだす。

 のはいいが、書き出した全てのファイルに対し、手作業で文字コードを変える必要があるのだ。書き出すファイルは、BOM つきの UTF-8 だ。これを、BOM なしの UTF-8 に変える。仮に10個のファイルに別れたら、10回同じ操作を繰り返す必要がある。不細工だね。

 私は K2Editor を使い、いったん開いて、保存時の文字コードを UTF-8N に変えた。

 などの問題はあるが、記録として記事に残しておく。

【使い方】

  1. 下にあるソースを、div.vbs などのファイル名で保存する。
  2. ココログのバックアップを、div.vbs にドラッグ&ドロップする。
     →バックアップと同じフォルダに、"a-0.txt", "a-1.txt", "a-2.txt" … などが出来る。
  3. 上で出来たファイルは、文字コードが BOM つきの UTF-8 である。これを、テキスト・エディタなどで、BOM なしの UTF-8 に変える。
  4. 文字コードを変えたファイルを、ココログで「読み込む」。

【メモ】

a.文字コード

 ココログ(Typepad)のバックアップは、BOM なしの UTF-8 。読み込む際も、BOM なしの UTF-8 だ。BOM つきの UTF-8 も読ませてみたが、ハジかれた。いずれも改行文字は LF。

 面倒なことに、VBScript は Unicode が苦手だ。読み書きともに特殊な API を使わにゃならん。おまけに書けるのは BOM つき UTF-8 だけ。もっとも、いったん書いてから、先頭の3バイトを削って上書きすりゃいいんだが、面倒くさいからやめた←をい。

b.ココログのファイル形式

 この記事を書き始めてから調べて知ったんだが、ココログのバックアップのファイル形式は Tyopepad だった。んな事も知らずにスクリプトを書いていたとは、我ながら無謀な真似したもんだ。

c.ココログのバックアップの取り方

  1. 管理ページトップから、タブ「ブログ」を選ぶ。
  2. 「そのほかの操作」をクリックする。
    →ポップアップ・メニューが出る。
  3. ポップアップ・メニューから、「ブログの管理」を選ぶ。
    →「ブログ」タブの「管理」サブタブが出る。
  4. 「管理」サブタグから、「読み込み/書き出し」を選ぶ。
    →「読み込み/書き出し」の頁が出る。
  5. 書き出し(IPv4のみ)を右クリックして、リンク先を保存する。
    ブラウザが Firefox なら、「名前をつけてリンク先を保存(K)…」を選べば、
    ファイル保存ダイアログが出る。
  6. 上で保存したファイルが、ココログのバックアップだ。

d.ココログを復元する際の注意事項

 復元する前に、更新通知とRSSフィードを切っておこう。常連さんや Google にスパムを送りかねない。というか、私は切らずにやらかしたのでかなり迷惑をかけてしまった。

 復元は、バックアップと同じ「読み込み/書き出し」の「読み込み」を使う。文字コードは「Unicode(UTF-8)」にする。読み込んだ後にブログの再構築を促してくる。が、記事が多いと再構築は時間がかかるので、最後のファイルを読み込んだ後にしよう。

【ソース】

' 大きいテキストファイルを3Mぐらいに分割
Option Explicit
Dim WSH   : Set WSH  = WScript.CreateObject("Wscript.shell")
Dim FSYS  : Set FSYS = WScript.CreateObject("Scripting.FileSystemObject")
Const MAXBUF = 2700000

' ダブルクリックで起動したら使い方を示して終わる
if WScript.Arguments.length <> 1 then
    Call MsgBox( "Drag&Dropしたファイルを3Mごとに分割する" )
    WScript.Quit
end if

' D&Dしたファイル名からフルパスと親フォルダを得る
Dim iName   : iName   = WScript.Arguments.Item(0) ' D&Dしたファイルのフルパス
Dim iFolder : iFolder = FSYS.getParentFolderName( iName ) & "\" '親フォルダ名
Dim msg        : msg = ""

' D&D したファイルを開く
Dim iHandle : Set iHandle = CreateObject("ADODB.Stream")
iHandle.Type   = 2                ' text mode
iHandle.charset    = "utf-8"
iHandle.LineSeparator = 10    ' lf
iHandle.open
iHandle.LoadFromFile iName '入力ファイルを読み込む
If Err.Number <> 0 Then
    Call MsgBox( "Code:" & Err.Number & " :Can not open " & iname )
    WScript.Quit
end if

Dim article    : article    = ""
Dim buf        : buf        = ""
Dim n        : n            = 0
Do While iHandle.EOS = False
    Dim line : line = iHandle.ReadText( -2 ) & vbLf
    if InStr( line, "AUTHOR: " ) = 1 then
        if ( Lenb( buf ) + Lenb( article ) ) > MAXBUF then
            buf = putBuf( buf, iFolder & "a-" & n & ".txt" )
            n = n + 1
        end if
        buf = buf & article
        article = ""
    end if
    article = article & line
Loop
buf = putBuf( buf & article, iFolder & "a-" & n & ".txt" )
Call MsgBox( n & ": " & msg )
WScript.Quit

' ファイル f にテキスト c を書きだす
Function putBuf( c, f )
    putBuf = ""
    if Lenb( c ) = 0 then Exit Function
'
    Dim oHandle : Set oHandle = CreateObject("ADODB.Stream")
    oHandle.Charset    = "UTF-8"
    oHandle.Open
    oHandle.WriteText c, 0
    oHandle.SaveToFile f, 2        '上書き
    oHandle.Close
end Function

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2018年2月 4日 (日)

カテゴリ別書評一覧の新装開店

 カテゴリ別書評一覧を作り替えた。

 元はウェブページとしていたが、一つ問題がる。スマートフォンから見れない。スマートフォンからは、ブログの記事だけが見える。ウェブページは見えない。だがら、スマートフォンからウェブページのカテゴリ別書評一覧は見えない。これはココログの仕様だ。

 そこで、ブログの記事として新しく作り直すことにした。が、これが幾つか別の問題を引き起こす。問題の何個かは解決できたが、不具合も残った。時として元の問題より新しく生まれた不具合の方が大きかったりするが、まあ仕方がない。

 それはそれとして、多少のノウハウも得た。そこで、これから折を見て得たノウハウや作ったスクリプトを記録しておく。

 ただし。作ったスクリプトは自分の需要に合わせたモノだ。なので、ハッキリ言ってあまり役に立たない。おまけに使い勝手は悪いし、多少の書き換えが必要だったりする。そこは覚悟して欲しい。

 まずは、大雑把な手順を。

  1. ブログのバックアップを取る。
    念のため、取ったバックアップに加え、そのコピーも保存する。
  2. ウェブページのカテゴリ別書評一覧を、ブログの記事として登録する。
  3. 先の 1. で作ったバックアップを、テキスト・エディタで開き、一括変換機能で変換する。
    変換元はウェブページのカテゴリ別書評一覧の URL、
    変換先は 2. で登録したブログ記事のカテゴリ別書評一覧の URL。
  4. 先の 3. で変換したバックアップを、複数のファイルに分ける。
    ココログ(Typepad)のバックアップを複数のファイルに分けるVBScript
  5. ココログの記事を全て削除する。
    ココログの記事一覧で大量の記事を一度に選ぶ
  6. 先の 4. で分けたファイルを、ココログにアップロードする。
  7. ココログの記事を再構築する。
  8. 一部の記事は URL が変わってしまう。
    そこで、カテゴリ別書評一覧を作り直す。
    ブラウザで各カテゴリを開き、HTML をディスクに保存する。
    カテゴリのHTMLから URL と記事タイトルを抜き出し、カテゴリ別書評一覧 のHTML に加工する。
    出来上がった HTML で、2. で作った記事を入れ替える。
    ココログのカテゴリーのアーカイブから記事一覧を作るVBScript

 なんてことをやる間に、次のような壁に突き当たった。不細工な手口でも解決できた壁には○を、解決できなかった壁には×をつける。

  1. ×:ココログのウェブページはスマートフォンから見れない。
    しばらく待てば…と思っていたが、どうもココログは対応する気がないようだ。
  2. ×:ココログの無料プランでは記事の一括変換ができない。
  3. 〇:文字コードに注意。
    ココログは、バックアップもアップロードするファイルも、BOM なしの UTF-8 だ。
    いくつか VBscript を作ったんだが、UTF-8 の読み書きには苦労した。
    え?「今は python だろJK」?そこはムニャムニャ。
  4. ×:カテゴリ別書評一覧は、とても長い記事だ。
    下の方の内容を見る時は、かなりスクロールしなきゃいけない。
    これは面倒くさい。
    そこで記事の頭に目次をつけ、頁内リンクを張った。
    が、しかし。
    ココログをスマートフォンから見ると、頁内リンクが効かない。
    原因は不明。
    ココログの仕様か、スマートフォンの都合か、私の HTML がミスってるのか、結局わからないまま。
  5. 〇:そこで、CSS によるアコーディオン式メニューに変えた。
    最初は見出しだけが見える。
    見出しをクリックすると、中身を開いて見せる。
    もう一度クリックすると、閉じて見出しだけになる。
  6. 〇:アコーディオン式メニュー、最初は カスタムCSS でやろうとした。
    が、ココログは、スマートフォン用の頁だとカスタムCSSが効かない。
    そこで一時しのぎの反則技を使った。
    反則技なので、将来ブラウザのバージョンが上がるとダメになるかも。
    ココログでスマートフォン対応アコーディオン式メニュー但し反則技
  7. 〇:「ブログは残すが記事は全部削除する」のは、ココログだと凄く面倒くさい。
    記事が少なければたいした問題じゃないが、多いとたいへんな手間になる。
    ココログの記事一覧で大量の記事を一度に選ぶ
  8. ×:ココログで、記事を削除→記事を再度アップロード すると、記事の URL が変わる事がある。他の記事へのリンクを張っている場合、ソレがリンク切れになってしまう。
    再び 記事全部削除→変換してアップロード すりゃ解決しそうだけど、面倒くさいから今は止めとく。
  9. 〇:ココログの無料プランだと、アップロードできるファイルの容量に制限がある。
    記事数が多いと、何回かに分けてアップロードしなきゃいけない。
    そこで適切な大きさごとにファイルを分けるスクリプトを書いた。
    が、c. とかの関係で、いろいろとムニャムニャ。
    ココログ(Typepad)のバックアップを複数のファイルに分けるVBScript
  10. ×:客足がぱったり途絶えた。これは Google の仕様だろう。
    以下は推測だが、理由の一つはパクリを防ぐためと考えた。
    Google は新しいネタを好む。
    同時に、ネタが同じなら、より古い記事を好む。
    オリジナルの記事とパクリ記事を比べると、オリジナルの方が古い。
    よって古い記事がオリジナルだろう、と見当がつく。
    だから古い記事を贔屓すれば、オリジナルの尊重になるだろう。
    で、だ。
    私は 記事を削除→再登録 した。
    その結果、ファイルの日時は新しくなる。
    そのせいで、古いが故の贔屓から外れたんだろう。
    幸いにして常連さんは相変わらず通ってくれてるんで、のんびりやっていきます。

 と、そんな記事を、これから気が向いたら書いていきます。

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2018年2月 2日 (金)

A.G.リドル「タイタン・プロジェクト」ハヤカワ文庫SF 友廣純訳

「この飛行機は、たぶん墜落する」
  ――p12

なるほど、たいした話じゃない。人類の存亡がおれたちに懸かっているというだけだ。
  ――p293

「それは本よ」
  ――p500

【どんな本?】

 アトランティス・ジーン三部作で派手なデビューを飾ったアメリカの新鋭SF作家 A.G.リドルによる、長編SF小説。

 ニューヨークJFK空港発ロンドン・ヒースロー空港行き305便。約250名の乗客を乗せた777機は、イングランド上空で突然の衝撃に襲われる。胴体は二つに折れたものの、パイロットの機転により何人かの乗客は生き残った。

 鬱屈を抱えた作家のハーパー・レイン、不思議なリーダーシップを発揮するニック・ストーン、飲んだくれのグレイソン・ショー、医学に詳しいサブリナ・シュレーダー、コンピュータにかじりついているユル・タンなど。

 生き残った者たちはイングランドの平野で救助隊を待つ。近くに人が住む気配はなく、携帯電話も通じない。怪我人は多いが食料と医薬品は限られている。航空機事故と思っていた生存者たちだが、彼らの不時着したのは、想像を超えた所だった。

 軽快なテンポで展開する意表を突くストーリーに、目まぐるしいアクションと突拍子もないアイデアを散りばめた、爽快な娯楽作品。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は DEPARTURE, by A.G. Riddle, 2014。日本語版は2017年10月15日発行。文庫本で縦一段組み、本文約496頁に加え、著者あとがき2頁+訳者2頁。9ポイント40字×17行×496頁=約337,280字、400字詰め原稿用紙で約845枚。文庫本としては、かなり厚い部類。

 文章はこなれている。内容は、タイム・パラドックスがカギ。映画「君の名は。」より、少しだけ面倒なトリックを使ってる。SFを読み慣れた人にはわかりやすいが、バック・トゥ・ザ・フューチャーなどが苦手な人には厳しいかも。

【感想は?】

 よくも悪くも安定のA.G.リドル。

 冒頭の墜落シーンから最後の大団円まで、危機また危機・謎また謎の、読者を飽きさせないサービス満点な展開は健在で、売れっ子作家の貫禄は充分。

 短い章をつなげていく手法も、アトランティス・ジーンのシリーズと同じ。ほぼ一人称で進むので、読者はお話に入り込みやすいし、ストーリーも分かりやすい。ない、語り手はハーパーとニックの二人。二つの視点を切り替えることで、スピード感も増す。

 そんな語り口なので、本心が判るのは二人だけ。そのため、両名以外の者は、どんな奴で何を考えているのか、最初は全く分からない。ピンチの連続な物語なので、この手法が緊迫感を盛り上げてゆく。

 特にインパクトが強いのが、飲んだくれで口を開けば嫌味ばかりが飛び出すグレイソン・ショー。しかも最初の語り手ハーパーとロクでもない因縁があるらしく…。

 そのハーパーも鬱屈を抱えているようだが、これは本好きならだいたい見当がつくだろう。私はどっちも好きなんで、なんとも言えないなあ。最初は気が乗らなかったけど、やってみたら性にあってた、なんて経験もあるし。でもやっぱり、ダイエットは明日からにしちゃうよね。

 やはり謎の人物が、医学に詳しいサブリナと、コンピュータにかじりついているユル。どっちも微妙に浮世離れしているあたりは、かつての著者の仲間をモデルにしたのかも。

 狂ったアイデアは健在ながら、この作品ではやや控えめ。

 とはいえアトランティスには強い思い入れがあるらしく、意外な形で登場してくる。あまりにお馬鹿な大法螺のように思えるけど、実はちゃんと歴史あるアイデアだったりするから侮れない。一応リンクを貼っておくが、少しネタバレ気味なので要注意(→Wikipedia)。

 やはりネタバレ気味ではあるけど、基本のアイデアはジョン・ヴァーリーの「空襲」を思わせるもの。あ、いや、似てるってわけじゃないんだ。航空機など幾つかの要素が同じってだけで、トリックも扱い方も全く違うんだけど。その伝で行くと、襲撃シーンはアリステア・マクリーンの「ナヴァロンの嵐」っぽいかな?

 と、SFなガジェットよりは、ストーリーとアクションで読ませる側面が強い。

 そういう点ではSFが苦手な人向けっぽい。けど、本筋に絡むガジェットはちとアクが強くて、人によってはわかりにくいかも。これは体質とか相性の問題らしい、と最近になって私は気がついた。先に書いたように、「君の名は。」や「バック・トゥ・ザ・フューチャー」を楽しめるかどうかが判定基準。

 そんな中で、この作品は、自らの「決断」もテーマに含めているためか、「物語」が好きな人へのメッセージが、終盤になってあふれ出す。ばかりでなく、ライターズ・ブロックにかかった人へのアドバイスもあったり。これはきっと著者自身の経験から出たんだろう。

 やはり著者の経験を活かしたと思われるのが、もう一人の主人公ニック。なかなか正体を見せないし、前半はカッコよく活躍する場面が多い。とするとアクション作品の定番のようだが、経験が活きるのは終盤に入ってから。

 危機また危機、謎また謎、目まぐるしい場面転換とアクションで読ませる、軽快な娯楽作品だ。

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