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2018年2月25日 (日)

ロバート・J・ソウヤー「ヒューマン 人類 ネアンデルタール・パララックス 2」ハヤカワ文庫SF 内田昌之訳

「つまり、あのもうひとつの世界では――もうひとつの地球では――だれもが信じているんです……その、あてはまる単語がありませんが、彼らが“神”と呼ぶものを。宇宙を創造した、実態をもたない至上の存在です」
  ――p17

「ネアンデルタールは人間です。わたしたちは同属なんです」
  ――p66

「いとこたちに会いにいくか」
  ――p124

「彼らは生きているのです。探求しているのです」
  ――p225

【どんな本?】

 カナダ出身の人気SF作家ロバート・J・ソウヤーによる三部作の第二部。

 カナダのサドベリーにあるニッケル鉱山を利用したニュートリノ観測所。そこに突如現れた男は、もうひとつの地球に住むネアンデルタール人だった。あちらの世界では、我々の先祖クロマニヨンが滅び、ネアンデルタールが文明を築いていた。

 いずれの世界の意図でもなく、偶然の事故によって繋がれてしまった二つの文明は、双方に騒動を巻き起こす。互いをつなぐ「門」を閉じるべきが、繋いだままにすべきか。行き来には、どのような対策を取るべきか。往来する者たちには、どんな身分を与えるべきか。

 そんな騒動をよそに、互いに惹かれ合うメアリ・ヴォーンとポンター・ボディット。ホモ・サピエンスの遺伝学者メアリと、ネアンデルタールのポンター。種族・文化・社会そして家族制度の違いを、二人はどう乗り越えるのか。

 私たちとは少しだけ違うネアンデルタールを指標として用いて、たっぷりとセンス・オブ・ワンダーを盛り込みつつ、痛烈な社会風刺をまぶし、「あり得たかもしれない文明」を描き出す、SF界きっての腕達者が送る、痛快娯楽ファーストコンタクトSF。

 2003年度ヒューゴー賞長編小説部門受賞。SFマガジン編集部編「SFが読みたい!2006年版」のベストSF2005海外篇7位に食い込んだ。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は HUMANS,  by Robert J. Sawyer, 2003。日本語版は2005年6月30日発行。文庫本で縦一段組み、本文約511頁に加え、堺三保の解説7頁。9ポイント40字×18行×511頁=約367,920字、400字詰め原稿用紙で約920枚。少し薄めの上下巻でもいい分量。

 文章はこなれている。内容も特に難しいガジェットは…実は幾つか出てくるけど、分からなかったら無視していい。それより、問題は読む順番。三部作とは言いつつ、実質的には一つの長編なので、前の「ホミニッド 原人」から読もう。

【感想は?】

 著者の毒舌が、更に鋭さを増す第二部。

 いきなり宗教、それもアブラハムの宗教への痛烈な皮肉で幕をあける。そりゃなあ。昔ならともかく、今は70億を越えようってんだから、忙しいよねえ。分身の術を使った並列処理でもしてるのかしらん。

 前作ではチラリと姿をのぞかせただけのマンモス、今回はもう少しだけ出番が増えた。いかにも理性が支配してるっぽいネアンデルタール社会でも、進化の途上で身についた本能はどうしようもないらしく、やっぱりそうなるかw マンモスと聞いて色めき立つのは学者も同じで…

 学者で愉快なのが、メアリが行く研究所に住み着いた三博士のイカレっぷりも、どっかのアニメみたいで楽しい連中。特にこの業界には多いんだよね。人間には興味がなく、持てる好奇心の全てをソッチに注ぎ込んじゃった、一種の社会不適応者たち。でも人生楽しんでるから、いいじゃないか。

 これにいついては、中盤で興味深い論考が入るのも、SFならではの楽しみ。私たちが当たり前だと思い込んでいた前提が、次々と覆されていく心地よさったら。羨ましいねえ、週15時間労働。

 さて。前作では、互いに互いの事を知らない状態で話が進んだのに対し、今回は互いが互いの存在を知った上で話が進む。となれば、いずれも接触の形をどうすべきか、が重大な話題になってくる。ここで皮肉なのが、判断の違いを生み出す原因。ある意味、メアリとポンターは似合いのカップルだったり。

 そんな二人の前に立ちはがだかる、様々な障壁が次々と姿を現し、暗雲が渦を巻き始めるのも、このパート。それこそロミオとジュリエットがコメディに見えるぐらい、厳しい事実を突きつけてくる。なんだが、向こうの世界では、ロミオとジュリエットの上演が難しいってのも、笑っちゃう仕掛け。

 あ、でも、日本人なら、別の解を見つけてるね。それも江戸時代に。

 そして、キレを増してゆく社会風刺。デザインやファッション・センスに始まり、特にアメリカへの皮肉がキツい。車社会もそうだが、銃の蔓延もタイムリー。…と思ったんだけど、実は銃については、いつ読んでも「タイムリーだ」と感じちゃう気がしてきた。

 中でも厳しいのが、記念碑前の会話。ポンターの「勘ちがい」が、何の思い込みもない者の口から出た言葉だけに、私たちの社会の偽善を容赦なく浮かび上がらせる。ここじゃ対象がアメリカだけど、わが国だって似たような偽善はやらかしてるし。というか、多かれ少なかれどの国もやってるってのが…

 などの風刺は厳しいが、そんな著者を立派なSF者に育て上げたのもアメリカ。

 やはり定番のスタトレはもちろん、ちょっとマニアックなテレビドラマも。もっとも、彼は6億円どころか、その千倍以上の値がつきそうw などと言ってるうち、終盤では、本当にそんな存在になっちゃったり。

 どうでもいいけど、コンパニオン・インプラントの名前がハクなのは、やっぱり偶然でしょう。つい白髪でグラマラスなお姉さんを想像しちゃうけどw

 などと、細かいネタばかりを挙げちゃったけど。語りの巧みさは相変わらずで、事件が次々と起きては、読者の期待を裏切る形で決着してゆき、中だるみの感は全くない。早く次が読みたくなる、とっても楽しい娯楽SF小説だ。

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