森奈津子「姫百合たちの放課後」ハヤカワ文庫JA
「自慰道」と名づけられたそれは、柔道と共にわが国で生まれた競技として世界中に広まり、愛好者を増やし、オリンピックの正式種目に加えられるまでになったのである。
――花と指あるときは人気絶頂のアイドル歌手、あるときは往年の美人女優、そしてまたあるときは渋い二枚目俳優。して、その実体は……
――お面の告白
【どんな本?】
暴走する欲望を厨二臭あふれる強引な設定で物語に仕立て上げ、SF・ポルノ・SMの垣根をあっさり蹴散らし踏み越える、森奈津子による傍若無人な百合SMポルノSFギャグ短編集。
【いつ出たの?分量は?読みやすい?】
2004年1月に単行本で刊行。2008年8月25日、ハヤカワ文庫JAより「ひとりあそびの青春」を加え文庫化。縦一段組みで本文約270頁に加え、あとがき5頁+文庫版あとがき3頁。9ポイント39字×17行×270頁=約179,010字、400字詰め原稿用紙で約448枚。文庫本としては普通の厚さ。
文章は読みやすい。内容は…まあ、アレだ。おバカな妄想が詰まった本なので、気楽に。ただし表紙がピンクの地にシライシユウコの可憐なイラストなので、オヂサンが通勤電車の中で読むには、ちと気恥ずかしいw いや中身は別の意味で恥ずかしいんだけどw
【収録作は?】
/ 以降は初出。
- 姫百合たちの放課後 / 雑誌フリーネ1995年6月創刊号
- 放課後。立花純子は、憧れの三年生の西園寺静香が奏でるピアノの調べに聞き入っていた。そこにやって来たのは、ボーイッシュで下級生に人気のある本郷レイ。二人が会話を交わすスキに、静香様に忍び寄るのは、三年の吉良美夜子。妙な趣味を持つと噂の…
- 森奈津子お得意の、様式美あふれる「お姉様に憧れる可憐な少女」な雰囲気で始まる開幕編。思いっきりなりきっている純子に、レイが入れるクールで鋭いツッコミが楽しい一編。にしても、純子をそう呼ぶかw 縄文式土器なんて発想が、どっから出てくるんだかw
- 姫百合日記 / 雑誌フリーネ1995?二号
- 静香お姉様への想いはつのるばかりの純子。とはいえ、友人は友人。ということで、ここは乙女らしく交換日記を始めることに。
- 前作「姫百合たちの放課後」を受けて、交換日記の形で話は進む。日記の形なので、あまり直接的な描写はないが、それもまたアレで。純子ちゃん、いい根性してます。
- 放課後の生活指導 / 雑誌アニース2003年冬号
- 中学教師の内田紀子が待つ生徒指導室に入ってきたのは、新庄貴恵。紀子が受け持つ三年一組の学級委員長だ。性格は明るく成績もいいためか、人望も厚い。そんな貴恵が打ち明けた悩みとは…
- 女教師と女生徒ってキャスティングながら、そうきますかw 何かと手馴れていて準備のいい美羽ちゃん、どこで習ったんだw 最後まで教師としての気持ちを忘れない紀子先生、素敵ですw
- 花と指 / 雑誌アニース2001年夏号
- オナニーは自慰道として、オリンピックの正式種目となる。佐久間美麗は、二年ながら神奈川女子体育大学の主将だ。道場で練習に励む美麗を、熱く見つめる視線があった。碓井チヨ。美麗と同じ自慰道部二年で、テクニックはあるものの、成績はパッとせず…
- 出だしから爆笑の作品。いいねえ、自慰道。この厨二感覚あふれる発想が大好きだ。こんなんテレビで中継したら、そりゃ視聴率うなぎのぼりだろうなあw にしても、森さん、よっぽど山口百恵が好きと見える。
- 2001年宇宙の足袋 / 雑誌アニース2002年夏号
- ベッドに座る折原係長いや路恵を、清水優香は押し倒す。前から優香は路恵に憧れていた。スラリと長い脚、フェミニンンなショートカット、そして雰囲気はクールながら、さり気なく部下を気遣う人柄。だが今は、地球を救うために…
- このタイトル、そして「地球を救う」。なんか凄い事が起こるのかと思ったら、やっぱり。こういう厨二ベタベタな妄想がやたら楽しい。いやあモモコちゃん、いい性格してますw 色々あるけど、つまり「愛は地球を救う」お話です。本当にそうなんだったら!
- お面の告白 / アンソロジー ハンサムウーマン1998年7月
- 北島由紀、芸能人専門のゴーストライター。インタビュウの録音を聞き、あたかも本人が書いたような文章に仕立てる仕事だ。この職についてはや五年、既に著作は七冊を数える。今回の仕事は女優の間宮京子、由紀も彼女の大ファンだ。ところが受け取った音源は…
- ゴーストライターと美人女優だから、当然…と思っていたら、お話はお思わぬ方向に。そうきたかー。百合ポルノながら、ほのかに切なさが漂う作品。ちなみに無能と不能なら、そりゃ怖いのは不能に決まってます。にしても、こういう編集者なら、ロクに校正もせずそのまま載せちゃいそうな気も…
- 1991年の生体実験 / 雑誌アニース2002年冬号
- かつて、不良少女の制服のスカート丈は長かった。だが1990年代において、スケバン・スタイルは絶滅し、変わって台頭したのはルーズ・ソックスにミニスカートのコギャル・ルックである。この革命の裏にあったのは…
- どう考えても湾岸戦争もソ連崩壊も関係ないんだが、ま、いっかw あったね、スケバン。今はコスプレのネタになっちゃってるのが、なんとも。意気揚々とお嬢様学校に乗り込むスケバン香坂真里奈、迎え撃つ生徒会長の早川絹絵&副会長の矢上虹子。
- お姉さまは飛行機恐怖症 / アンソロジー カサブランカ帝国2000年7月
- 両親の結婚により、義理の姉妹となった汀子と里奈。二人とも大学二年の19歳。互いに仲良くしたくとも、どうにもギクシャクしてしまう二人の仲を、なんとかしようと考えた両親は、二人での香港旅行をプレゼントする。だが飛行機に乗り込んだとたん、汀子が里奈に打ち明けたのは…
- 飛行機ってのは、案外と残酷な乗り物で。私は船酔いならぬ飛行機酔いになった事がある。厳しい旅程で体力が落ちていたうえに、乱気流の多い航路でやたらと揺れたのがマズかった。船なら甲板に出て風に当たれるんだが、ジェット機じゃ窓を開けるわけにもいかず。
- ひとりあそびの青春 / 雑誌 小説NON2005年3月号
- オナニーを覚えたのは、四歳か五歳のころだ。幼い頃、こんな自分はおかしいと思っていた。中学に入り、同級生に恋をした。スポーツ万能で頭脳明晰な美少女だ。なんとか彼女と親しくなりたいと考えていたが…
- オナニーにまつわる私小説風の作品。まあオナニーなんて自分ひとりで完結しちゃうんだから、私小説にするのが最も適してるのかも。誰だって妄想はするが、それを文章や絵にできるかどうかが、素人とクリエイターの境目なのかな、と考え込んだり。
- あとがき+文庫版あとがき
山口百恵・スケバンなんて風俗に加え、「エス」なんて言葉が、70年代~80年代の香りを醸し出し、そういう所もオヂサンには嬉しい作品集。私は「花と指」と「2001年宇宙の足袋」の突き抜けたお馬鹿さ加減が好きだなあ。
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