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2018年1月24日 (水)

ヨアヒム・ラートカウ「木材と文明 ヨーロッパは木材の文明だった」築地書館 山縣光晶訳 2

1960年から1970年までの間だけでも、チェーンソーの投入により、労働者一人あたりの木材生産量は約200%高まりました。
  ――第四章 高度工業化時代 材料への変質と木材のルネッサンス
     /森 工業化の時代の経済の原動力

森の保護は、その土地に長く暮らしている住民の利益・関心や法意識と少なくとも部分的にでも一致する場合にのみ、成功するのです。
  ――第五章 国境を越えて見る 西欧文化以外における木材と森の生業
     /翻って将来を展望する 森と木材の歴史における他と際立って違う六つの特性

 ヨアヒム・ラートカウ「木材と文明 ヨーロッパは木材の文明だった」築地書館 山縣光晶訳 1 から続く。

【はじまり】

 「石器時代」なんて言葉があるが、当然ながらヒトは木も使っていた。

 最初に出てくる写真は、なんと40万年前の投げ槍。残りやすい石に対し、木は腐るから、見つかりにくいのだ。確か人類発祥の地アフリカも、土壌の性質のため骨が残りにくいというから、木も残りにくかろう。とすると、案外と石より木の方が頻繁に使われていたのかも。だって加工しやすいし。

【構造材】

 構造材として見ると、木の扱いは難しい。というのも、種類や扱い方により、性質が異なるからだ。

「全般的に木材は、その非均質性の故に、決まりきった、だれにでもわかるような構造に関する規則の応用には向いていない」
  ――第三章 産業革命前夜 「木の時代」の絶頂と終焉
     /木材の消費者 家計を営む者の木材の節約、拡がる木材の節約

 例えば木の種類だ。柔らかい柳と硬いブナは全然違う。広葉樹と針葉樹で細胞構造が違うなんて知らなかった。曰く「針葉樹材は、もっぱら単一な種類の細胞からできています」。建材としてスギやヒノキが好まれるのは、このためかな?

 湿気によっても違う。一般に楽器に使う際は充分に乾かすのが普通だ。生木を使うと反ったりするし。古い楽器が好まれる理由の一つは、乾燥しているとよく響くため。ロリー・ギャラガーの塗装のハゲたストラトとか、カッコいいよね。

 意外な事に、建材でも中古が好まれたり。「大変良く乾燥して」いるのもあるが、「その品質が既に証明」されてるためでもある。同じ木から採った木材でも、部位や扱いにより違うから、実績のあるモノが喜ばれるのだ。これは家具も同じだとか。だもんで、巧く使えば、精密機械だって作れるのだ。

最初の紡績機は、大部分が木材でできていました。
  ――第三章 産業革命前夜 「木の時代」の絶頂と終焉
     /しだいに押しのけられる木材

 なら湿気は苦手そうだが、モノによるとか。「ニレは、水中での平均最長寿命が1000年に達し」って、凄い。ただし、常に水に浸かってればいいが、「湿気と乾燥に交互にさらされると、どのような木材の寿命も著しく落ちます」。

 だもんで、木の水車は常に動き続け濡れてればいいけど、止まって乾くとダメになるのだ。

 これの激しいのが船で、「多くの船は、二、三年航海したあとで、もう一度あらためて組み立てなおされねばなりませんでした」。海軍大国の英国も木には苦労したようで。帆柱はモミ。真っすぐなのもあるが、「圧縮強度よりも弾力性と曲げ強度」を重視したため。

 この船で驚いたのが、曲がった木が重宝されたこと。なんたって、帆船はカーブが多い。そのカーブに沿って曲がった骨材が必要なのだ。これは船のサイズも制限した。鉄鋼船が革命的なのは、このためもあったんだろう。

 意外なことに、石と比べて、こんな長所も。

木材は石と比較して非常に大きな引っ張り強度をもっていますが、これに対して圧縮強度は小さいのです。
  ――第一章 歴史への木こり道/歴史的変遷における木材の自然としての本性

 おお、圧縮強度は強いけど引っ張り強度は弱いコンクリートの反対じゃん。じゃ木筋コンクリートも…と思ったら、竹筋コンクリート(→Wikipedia)ってのがあった。でも腐食とかで、木とコンクリートとの相性は悪いみたいだ。

 もっとも、今は合板や曲げる技術の登場で、木材の復権が始まりつつある様子。

【放牧地】

 今でこそ牧場は真っ平らな場所って印象があるけど、昔のドイツじゃ森は豚の放牧地だったとか。「1600年頃のゾーリングでは、森での豚の飼育は木材全体の利用の20倍のお金をもたらしました」。木材を売るより、豚を飼った方が遥かに儲かったわけ。

 だもんで、そういう所では、木材としちゃあまり歓迎されないブナが大事にされたり。そうやって家畜を飼うのは農民で、一般に領主と利害が対立するんだけど、文献じゃ領主側の言い分が残りやすい。そこで…

真の窮乏は、しばしば無言で押し黙っているものなのです。
  ――第三章 産業革命前夜 「木の時代」の絶頂と終焉
     /「木材飢饉という亡霊」 木材業は破局を目の前にしていたのか

 と、庶民の立場を述べた資料も丹念に漁っているのが、本書の特徴の一つ。

 ただし有益なのは豚で、牛や羊、特に山羊は森に与える害の方が大きかったとか。元が平原の生き物か、森林の生き物かの違いかなあ。何はともあれ、こういう複合的な使い方が、私たちの考える「自然の森」のイメージの原点なんだよ、とやんわり指摘して…

自然愛好家たちが「原生林」として愛するものは、普通、かつての拓伐林か、昔の放牧地や入会利用の地の景観なのです。
  ――第四章 高度工業化時代 材料への変質と木材のルネッサンス
     /断絶を招く原材料、つなぎ合わせる手段 環境保護の時代の森と木材

 と、イメージ先行の「自然保護」を揶揄する姿勢も忘れないあたりに、学者魂が炸裂してる。

【経済】

 なんにせよ、この本の特徴の一つが、こんな風に歴史を語りつつ、「20倍のお金」と、経済的な視点も重視している点。

昔も今も、原材料輸出は輸出国の経済に不利に作用し、発展を停滞に導く
  ――第三章 産業革命前夜 「木の時代」の絶頂と終焉/改革、革命、そして、木材業

 かの有名なオランダ病(→Wikipedia)ですね。とは言うものの…

20世紀、世界の覇権を握ったロシアとアメリカは、最初は木材と森の産物の供給者として世界経済に登場したのです。
  ――第三章 産業革命前夜 「木の時代」の絶頂と終焉/改革、革命、そして、木材業

 なんて例もあったり。でもロシアは再び原材料輸出国に戻っちゃったけど。

 そんな風に、経済に目を向けると、木材には鉱物や石油と大きく違う性質があって…と、続きは次の記事で。

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