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2017年11月24日 (金)

リヴィウス「抄訳 ローマ建国史 上・下」PHP研究所 北村良和訳 2

「ローマの最高権力を持つ者は、若者たちよ、それはお前たちの中で最初に母親に唇を近づけ、接吻する者であろう」
  ――上巻 第Ⅰ部 王制期のローマ 第Ⅸ章 七代目のタルキニウス尊大王

議会で自由な発言をするのを禁じておれば、議会の外ではもっと大きな声があがる。
  ――上巻 第Ⅲ部 危機に立つ貴族階級(原典:第Ⅲ巻)

「旗持ちよ、ここに旗を置け。ここは留まるに最高の場所である」
  ――上巻 第Ⅳ部 ガリアによる征服(原典:第Ⅳ巻・第Ⅴ巻)

 リヴィウス「抄訳 ローマ建国史 上・下」PHP研究所 北村良和訳 1 から続く。

【二代目の王ヌマ】

 なんとかロムルスは国家を創り上げたものの、当時のローマは小さな都市国家。

 なんたって、今までの悪事が祟って周囲は敵ばかり。おまけにロムルス亡き後のナンバー2はいない。早くボスを決め指揮系統をハッキリさせないと、他の国に攻め込まれて潰れちまう。が、国内の誰が立っても「なんでテメエが仕切ってんだ、あ?」とケチがつく。

 ここで血統で選ばないのが、当時のローマの独特な所。「図説 海賊大全」でも、海賊たちはボスを選挙で決めてたとあるし、修羅場に身を置く集団は、ある程度の民主制を敷く傾向があるらしい。いや逆に、民主的でない組織は生き残れないってだけかもしれない。

 ってことで、ローマはサビナ国からヘッドを召喚する。「もう俺たちは山賊じゃねえ、次のボスはインテリにしようぜ」と言ったかどうかは知らないが、二代目の王はギリシャの学を修めたヌマ・ポンピリウス(→Wikipedia)に決める。

 このヌマ、小難しい理屈じゃ荒くれどもをまとめきれないと考えたのか、統治には宗教を利用するあたり、隠者っぽい雰囲気とは異なり、俗世の世知にも長けてた様子。女神エゲリア(→Wikipedia)を愛人兼助言者に仕立て上げるとかは、現在の漫画やアニメでもよく使われる設定ですね。

 加えて、「出入りばっかじゃ国が保たん、ボチボチ手打ちといこう」と考え、平和主義に転向したのも見事な手腕。そう望むのは簡単だけど、血の気の多い荒くれどもを率いながら、戦争せずに済ますのは並大抵のことじゃない。ここでもヤーヌス神殿の逸話が、創作に応用できそう。

 彼はヤーヌス神――前後に別の二つの顔を持つ神――の神殿をアルギレテウム坂の最下部に作り、それを平和と戦争の標識にした。
 つまり神殿の門が開いている時は国家が戦争していることを示し、閉まっている時は外部のすべての国民と平和協定が結ばれていることを暗示せしめたのである。
  ――上巻 第Ⅰ部 王制期のローマ 二代目の王ヌマ

【王制から共和制へ】

 以後、王制が七代続く。

 いずれも終身制ながら世襲じゃないってのが、古代ローマ王制の特徴だろう。それが通ったのは、王と貴族の力が拮抗してたからかな?

 ヌマ以降、個性はあれどソレナリに優れた王が続くが、七代目のタルキニウス(→Wikipedia)で終焉を迎える。このタルキニウスの追放と、追放されたタルキニウスの逆襲が、濃いキャラとエピソードの連続で、上巻では最も盛り上がる場面。

 まずはルクレティア(→Wikipedia)の凌辱だ。人妻ルクレティアに横恋慕した王子セクストゥス、閨に忍び込んでムニャムニャ。怒りに震えるルクレティアは夫コラティヌスとその友人ブルートゥスの前で全てを告白し、自害を果たす。

 このブルートゥス(→Wikipedia)もビンビンにキャラ立ってる人で。この時までは愚か者を演じ敵(王族)を油断させてきたが…って、織田信長かい。復讐の念に燃え、王制打破を誓う。

「私は今の今、次のことを誓う――ルキウス・タルキニウス尊大王とその妻、さらにその子供らすべてを、剣や火やあらゆる可能な手段を使って追放し、今後、彼らやその他の者の誰であっても、ローマで王となることを決して許さない」
  ――上巻 第Ⅰ部 王制期のローマ 第Ⅸ章 七代目のタルキニウス尊大王

 やがて醜聞はローマ中に広がり、クーデターへと発展してゆく。これが映画なら、前半のクライマックスに当たる所だろう。

【タルキニウスの逆襲】

 王を追放したローマは、共和制に変わる。

 この共和制、トップは二名の執政官で、その任期はたったの一年限り。よっぽど独裁に懲りたんだろうなあ。

 それはともかく、追われたタルキニウスも黙っちゃいない。アチコチを流れつつ、逆襲のスキを伺う。彼が仕掛ける最後の戦い(→Wikipedia)が、映画なら後半のクライマックスで、何人ものヒーロー&ヒロインが登場する。

 まずは杭橋の守護者ホラティウス・コクレス。テベレ川にかかる杭橋を守っていたコクレスは、敵軍に襲われる。橋を奪われたらローマは裸同然、しかし守備隊の者は浮足立って逃げ出してしまう。そこでコクレス、ひとり橋の守備につき、敵に向かい吠えるのだ。

「お前たちは尊大な王族の奴隷だ。自分らの自由には無関心でいながら、他人の自由をわざわざ奪わんものとやって来たのである」
  ――上巻 第Ⅱ部 共和制の誕生(原典:第Ⅱ巻)

 武蔵坊弁慶かい。

 続いて暗殺者ガイウス・ムキウス(→Wikipedia)。敵軍の将ポルシンナ王を暗殺せんと、夜に独り敵の陣幕に忍び込む。が、王の顔をしらなかったため暗殺は失敗、敵に捕らえられてしまう。彼は王に対し「俺は最初だが最後じゃないぜ」と啖呵を切り…

 いやあ、燃える燃える。つか本当に燃えてる。

 女だって負けちゃいない。人質として敵に捕らえられた少女クロエリア(→コトバンク)、同じ捕虜の娘たちを率いてティベル川を泳ぎ渡り、彼女らを家族のもとへと返す。これに怒った敵将のポルシンナ王は…。

 しかし、「少年は、兵士からの不正を最も受けやすい」って台詞を、変に解釈したくなるのは気のせい?

 などと、タルキニウスの追放から逆襲まで、ハリウッドが大金をかけて映画にしたら大当たりしそうな話が詰まってて、上巻では最も盛り上がる所。

【共和制】

 めでたく共和制を守り通したローマだが、この後も近隣との戦争は尽きない。

 少しづつ同盟者は増えるものの、上巻では最後までイタリア西海岸中部の都市国家にすぎない。どころか、最後はガリアに蹂躙される始末。

 何より、ローマを仕切る執政官が二人で、しかも任期がたったの一年ってシステムが、突出した人物を出しにくくしてる。

 加えて共和制になってからは、似たようなパターンの繰り返しになってる感が強い。

 というのも、外敵の脅威に加え、内戦の危機が膨らんでくるからだ。外敵は周囲の国家だが、内戦では貴族 vs 平民の構図になる。ここで護民官なんて制度が出来てくるのも、ローマらしい。が、リヴィウスの筆では、護民官は基本的に悪役なのが切ない。

 この内戦、要は平民が土地と権利を求めるのに対し、貴族がはねつけるって形。次第に平民の圧力が強くなるものの、敵が襲来すると矛を収め、挙国一致で立ち向かうんだが、難が去ると再び平民 vs 貴族の構図になる。

 国家の危機になると保守派が力を増すのは、昔からのお約束なのね。これを利用してワザと戦争を起こす、または危機を演出する政治家もいるけど。

 それでも、紀元前の話なのに、一年ごとに記録がキチンと残ってるってあたりは、感心しちゃうところ。羊皮紙かパピルスかは不明だが、記録媒体が普及してると、詳しい文献が残りやすくて、歴史も辿りやすい。結果として、記録を残した国は、未来での知名度や評価も高くなりがち。

 そんなわけで、公文書の破棄とかは、売国行為に他ならないんだぞ、某官庁。

【おわりに】

 などと強引に社会風刺につなげつつ、次の記事に続く。

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