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2017年10月 8日 (日)

オキシタケヒコ「波の手紙が響くとき」ハヤカワSFシリーズJコレクション

あの録音を聴いていると、色を思い出せるんです。
  ――エコーの中でもう一度

ヴァイオリンは歌うが、フィドルは踊るんだ。
  ――亡霊と天使のビート

「≪青い海≫はどこにある」
  ――サイレンの呪文

【どんな本?】

 2012年に第三回創元SF短編賞優秀賞に輝いた、新鋭SF作家オキシタケヒコの連作短編賞。

 武佐音響研究所。古くなって劣化した録音テープの音を綺麗にしたり、録音した場所を特定したり、店舗の音響環境を整えるサポートをしたりと、音響関係の技術を提供する企業である。

 所員はたった三人。所長は天使の声を持つデブ佐敷雄一郎、口を開けば罵倒ばかりが出てくるチーフ・エンジニアの武藤富士伸、そして元気ハツラツな雑用係の鍋島カリン。

 ただし、ときおり毛色の変わった依頼も舞い込んでくる。行方不明の有名ミュージシャンの捜索、子供部屋に出る幽霊、謎の奇病の調査。得意の音響技術を駆使して事件に挑む、武佐音響研究所の騒動を描く、本格的かつユニークな「音SF」作品集。

 SFマガジン編集部編「SFが読みたい!2016年版」のベストSF2015国内篇で堂々の8位。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2015年5月25日初版発行。単行本ソフトカバー縦一段組みで本文約342頁に加え、参考文献2頁。9ポイント43字×17行×342頁=約250,002字、400字詰め原稿用紙で約626枚。文庫本なら少し厚め。

 文章は比較的にこなれている。キモとなるガジェットは、ちとマニアック。オーディオや楽器や音楽に詳しい人にはお馴染みのネタなので、じっくり楽しもう。

【収録作は?】

 それぞれ 作品名 / 初出。

エコーの中でもう一度 / SFマガジン2013年2月号
 今日の客は大物だ。大手の音楽プロダクション、ミューズプレックスの御曹司・辻神誠貴。所属の大物アーティスト、≪KYOW≫こと日々木塚響を探してくれ、との依頼だ。手がかりは、彼女の遺した伝言の音声データ。これが特殊な録音で…
 武佐音響研究所の紹介を兼ねた開幕編は、オーディオ・マニア狂喜乱舞の濃いネタをたっぷり仕込み、ど真ん中に剛速球を放り込む本格的なサイエンス・フィクション。SFマガジンで初めて読んだときは、アイデアの斬新さと目の付け所の鋭さに「その手があったか!」と驚いた。
 ただ、今の若者には、「テープが劣化して録った音がこもる」なんて現象が通じないかも、と少し不安になったり。
亡霊と天使のビート / SFマガジン2014年2月号
 依頼人の咲夫妻は身なりの良い四十台。夫の晴彦は弁護士、妻の由美子はヴァイオリニスト。夫妻の子、継音君の部屋に幽霊が出る、というのだ。晴彦は母親の瑤子と折り合いが悪かった。瑤子はフィドラーで、晴彦に館を相続する条件を出した。瑤子愛用のフィドルと、例の幽霊部屋を、継音のものとすること。
 古びた館で、故人がいた部屋に出る幽霊の話。これまた音楽好きとオーディオ・マニアを唸らせる逸品。小道具のフィドルはジグやカントリーで使われ、素朴で軽快なメロディを響かせる、陽気な印象の楽器なのがミソ。しかも、妖精や化け物の伝説が多く残るアイリッシュというのが、泣かせる(→Youtube)。
 ネタバレ注意:…とか思ってたら、現実に事件が起きてしまった。繰り返すが、ネタバレなので要注意(→CNN)。
サイレンの呪文 / SFマガジン2014年10月号
 武佐音響研究所に二人組の暴漢が押し入った。武藤とカリンはすでに帰宅し、会社に残っていたのは所長の佐敷のみ。暴漢の目的は≪青い海≫。これを佐敷が手に入れたのは、高校最後の夏休み。
 この連作短編集の主な登場人物たちを結びつけた、過去の出来事を語る短編。オーディオってのは、凝り始めるとキリがなくて、最終的には建物自体を造っちゃったり。トーマ氏の気持ちはわかるし、「みうず」にも行ってみたい。
波の手紙が響くとき / 書き下ろし
 武佐音響研究所に、再び魔女が降臨した。しかも、とんでもない災厄を引き連れて。
 この作品集の終幕を飾るにふさわしい、オールスター・キャストの作品。賑やかなキャストの中でも、なまじ技能を持つがゆえに貧乏くじを引いた?藤村さんがいいなあ。音にこだわる人に振り回された、彼女の苦労には思わず同情w 文句タラタラながら、それでも仕事はキチンとこなすあたりも、終幕のヒロインに相応しい活躍ぶり。
 やはり、いい味出してるのが、千枝松健二教授。好きな事を続けてたら、いつの間にか相応の実績もできてたって感じの、マイペースな人。理系の教授って、こんな感じの人がよくいるんだろう。トーマ氏といい、引柄慶太郎氏といい、この人の描くオッサンは、楽しげに人生を生きてるのがいいなあ。
 そして、肝心のガジェットも、これまたサイエンス・フィクションの王道ド真ん中を突っ走る、豪快かつ本格的なもの。古き良きSFの醍醐味を、現代の新鮮な素材をふんだんに使い、鮮やかに蘇らせてくれた。

 なんたって、音SFだ。オーディオやDTMに凝っている人は、是非読もう。まさしく「あなたのための物語」なのだから。

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