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2017年10月 6日 (金)

ガブリエル・コルコ「ベトナム戦争全史 歴史的戦争の解剖」社会思想社 陸井三郎監訳 3

政治幹部のひとりが到着すると、(ズオン・ヴァン・)ミンは次のように言明した。
「われわれは、行政権を委譲するためにあなたがたをお待ちしていました」。
これにたいして政治幹部はこう返答した。
「あなたがたが委譲できるものは何もないのです。あなたがたは無条件降伏するしかないのです」
  ――第41章 戦争の終結

  ガブリエル・コルコ「ベトナム戦争全史 歴史的戦争の解剖」社会思想社 陸井三郎監訳 2 から続く。

【兵站】

 南北に長いベトナムで、必要なモノを必要な所に運ぶのは大変だ。機械化された南と米軍はともかく、北と解放戦線は難しい。例えば武器は…

63年に合衆国が主張していたように、中国製とソ連製のものは、解放民族戦線の武器の8%を占めるにすぎず、残りは、アメリカ製かフランス製、あるいは解放民族戦線が独自に製造した武器であった。
  ――第11章 軍事戦略の決定をめぐる挑戦

 と、鹵獲と自作で賄った模様。終盤になると、これに南からの横流しが加わる。シリア内戦でも、政府軍の補給将校が反政府軍に武器弾薬を横流ししてた。腐敗した政権に対する内戦じゃ、よくある事なのかも。

 加えて…

1965年から68年までのあいだ、ベトナム民主共和国(北ベトナム)領内には中国の兵站部隊が駐留していた。32万人が派遣されていたとのちに言われたが…
  ――第32章 共産党の国際戦略

 と、中国も積極的に北ベトナムを支援していた様子。お得意の「義勇兵」かな?

【兵器】

 ド派手に活躍したように見えるB-52だが、その編隊が落とした爆弾は…

投下目標になった地域の半分は、解放民族戦線が存在しない地域であることがのちにわかった。
  ――第15章 アメリカの戦争遂行方法のジレンマ

 と、肝心の敵の居所がわかってなかった模様。これは今も似たようなモンだ、とジェレミー・スケイヒルが「アメリカの卑劣な戦争」で書いてた。つまり情報収集・分析が弱いんです。

 逆に活躍したのがガンシップ(→Wikipedia)。

ホーチミン・ルート攻撃用に使用された(略)(固定翼)ガンシップのほうは出撃回数こそわずか8%だが、命中させたトラックの数では48%を占めていた。だが、ガンシップはまた地上砲火によってもっとも損傷しやすかった。
  ――第28章 アメリカ軍事力の危機

 安くて頑丈な A-10 開発の原動力は、これ?

 ヘリコプターも活躍したが、「一時間飛ばすと、点検修理に10時間を要した」。稼働率10%? 同時期(67年、第三次中東戦争)のエジプト空軍より酷い(鳥井順「中東軍事紛争史Ⅲ」)。F-14トムキャットも似たような感じだったと、どこかで聞いたがソースは不明。

 なんにせよ、米軍は最新兵器を南に与えたけど、それを使い続けるには整備や維持も高い能力が要求され、そのせいで大半は使いこなせずガラクタと化してしまう。まさしく猫に小判。

【テト攻勢】

 大きな転機となった1968年のテト攻勢(→Wikipedia)、やはり北の損害は大きく、「解放民族戦線がただでさえ弱体な都市の下部組織をほとんど失った」。これは合衆国政府にも影響を与える。国防長官のメルヴィン・R・レアードは、米軍全体の兵器刷新を理由に、ベトナムの予算を削り始める。

 よく言われるように、北は軍事的に負けて政治的に勝った、ってこと。っただし損耗も激しく、暫くは鳴りを潜める羽目になるんだけど。

【経済】

 南の最大の敗因は、これじゃないかと私は思う。アメリカと南ベトナム政府が、ベトナム経済を壊したのだ。

 読みながら思ったのだ。「兵器じゃなくて農機具や肥料など、農民に役立つモノを送れよ」。実際、送ったのだ。収穫の多い米の新品種を。

新品種は、在来種に比べて1ヘクタール産当たり二倍の肥料が必要であった。
  ――第38章 ベトナム共和国の社会体制の危機の深まり

 肥料も送ったんだが、これは腐敗役人の懐に消える。加えて、東地中海で起きた戦争がベトナムへ波及してくる。そう、73年の第四次中東戦争と、それに伴う石油危機だ。

 原油価格は急上昇、それに伴い肥料も285%値上がりする。アメリカは揚水ポンプや農業機械も送ったんだが、燃料のガソリンや灯油も250%値上がり。

 これ以前にも、南の政府は農村を壊す政策を次々と繰り出してる。既存の村を壊し戦略村に強制移住させる。働き盛りの若者を徴兵して村の働き手を奪う。

 米が足りなくなると、農民から強制的に米を徴収する。値上がりして美味しい商品を奪われるんだから、嬉しい筈がない。またはアメリカから米を輸入する。これで米価は下がり都市住民は楽になるが、農民はやる気をなくす。

 末期になると農村は土地が余りスカスカで、地代も4~6割から1割ほどに下がってた。この時期、地主の抵抗も減ってるんで、農地改革を始めるが、時すでに遅し。肝心の農民は都市に棲みつき、農民が集まらなくなっていた。南ベトナムは都市化していたのだ。

この農村を壊してゲリラの隠れ家を潰す手口、スーダンがダルフールでやってたなあ(白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ」)。手口を教えたのは中国らしいんだが、その中国は南ベトナムに学んだのか?

 そんな都市住民を支えていたのが、米兵がバラ撒く金。南の経済そのものが、アメリカの金に依存する体質になってたわけ。ところが、これがテト攻勢以来、次第に枯れ始める。となれば、南ベトナム自体が枯れるのも時間の問題。

 もっとも、これは解放戦線にとっても痛手で。彼らは農民を味方に付けるのは巧みだったが、都市住民を仲間に引き入れるのは難しかった。お陰で兵力を集めるのには苦労するようになる。

【崩壊】

 と、そんな風に、1975年になると、南ベトナムは国そのものがハリボテ状態だった、ってのがこの本の主張。ローマ帝国もそうだったけど、国が潰れる時ってのは、とっくの昔に中が腐りきって空洞化しちゃってるんだろう。

 などと、読みどころはアメリカと南の政治的な動き。半面、北や解放戦線の内情は綺麗事ばかりだし、軍事的な記述は乏しいのが、ちと不満だなあ。

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