高山羽根子「うどん キツネつきの」東京創元社
「今、あのゴリラ啼かなかった?」
――うどん キツネつきの「ここ、二階なのに地面がある」
――シキ零レイ零 ミドリ荘「人が意志って呼ぶものと本能って一体どこが違うの」
――おやすみラジオ「どうしてでかいねぶたは祭りが終わってずっと置いとくと良くねえか、解るか」
――巨きなものの還る場所
【どんな本?】
短編「うどん キツネつきの」で、2010年の第一回創元SF短編賞の佳作に輝いた新人・高山羽根子のデビュー短編集。
パチンコ屋の屋上で拾った犬?を育てる、母と三姉妹を描く表題作、ボロい二階建てのアパートに住む個性豊かな住民の日々を綴る「シキ零レイ零 ミドリ荘」、娘ばかり16人も産んだ母と娘たちの物語「母のいる島」、ラジオらしきモノを拾った子どものブログで始まる「おやすみラジオ」、ねぶたを題材にした「巨きなものの還る場所」の五編を収録。
日常の中に潜む、ちょっと不思議な事柄と、それを受け入れて淡々と暮らしてゆく人々の姿が印象的な、地に足が付いた語り口の「ちょっと不思議」なお話が持ち味。SFマガジン編集部編「SFが読みたい!2016年版」のベストSF2015国内篇で堂々の7位。
【いつ出たの?分量は?読みやすい?】
2014年11月28日初版。単行本ソフトカバー縦一段組みで本文約260頁。今は創元SF文庫から文庫版が出ている。9ポイント43字×19行×260頁=約212,420字、400字詰め原稿用紙で約532枚。文庫本なら標準的な厚さの一冊分。
文章はこなれている。内容も特に難しくないし、あまりトガったSFガジェットも出てこない。ただ、オチで考えさせられる話が多いので、注意深く読もう。
【収録作は?】
それぞれ 題名 / 初出 の順。
- うどん キツネつきの / 創元SF文庫『原色の想像力』2010年12月
- 2010年第一回創元SF短編賞佳作。高梨家は三人姉妹。美佐と和江は高校生、洋子は中学生。その日、美佐と和江は生まれたばかりの子犬らしきモノを拾ってきた。パチンコ屋の屋上に捨てられていたのだ。母の秀美に怒られるかと思ったが…
- 確かにぺスは変わった名前かもしれんが、人の事言えないだろおまいらw 実は大掛かりなSFネタを仕掛けているようでもあり、単に「ヒトはなぜペットを飼うのか」って話のようでもあり。のほほんとした語り口で、「それはそれでいいいんじゃない?」な気分にさせるあたり、この作家、なかなかのクセ者なのかも。
- シキ零レイ零 ミドリ荘 / 東京創元社<ミステリーズ!>vol.48 2011年8月
- オンボロな二階建てアパート「ミドリ荘」。101号室の篠田のおっちゃんは、とんでもないホラ吹きで、車にはねられ入院した。102号室のグェンさんは真面目な娘さんで、ベトナムから介護の勉強にきた。103号室のタニムラ青年は大学三年生で本の虫。
- 大家の孫ミドリと、母子家庭の子キイ坊、二人の子供の視点で話は進む。ワケありばかりの住民に囲まれながら、二人ともなかなかしっかりした逞しい子に育ってます。グェンさんと王さん、言葉は通じてもスレ違いは変わらないあたりが微笑ましい。にしても、エノキ氏、いったいどういう声を出してるんだろ?
- 母のいる島 / 河出文庫『NOVA6』2011年11月に加筆修正
- 総合病院のある港町から、交通船で三時間かかる島。娘ばかり15人も産んだ母も、今回ばかりは危ぶまれ、満身創痍で16人目の杜夢を産んだ。三女の美樹は通信制の高校を卒業し、島を出て働きながら一人で暮らしている。妹の誕生で久しぶりの里帰りとなったが…
- 16人姉妹それぞれ、名前に仕掛けがあるのに思わずニヤリ。よく考えたな母ちゃん。いや考えるってだけじゃ済まないんだけどw それでもブタクサ文句も言わず、逞しく育ってる姉妹が微笑ましい。忙しいながら、ちゃんと仕込むべき事は仕込んでる母ちゃんもさすが。
- おやすみラジオ / 書き下ろし
- 絵手紙教室の講師を受け持っている比奈子は、奇妙なブログを見つけた。書き手は小学四年生のタケシ。彼とブチョとピッチとヒメは、沢山のスイッチやツマミがある黒い箱を拾う。大人には内緒で、四人は箱を調べ始める。
- 「小学四年生が書いたブログ」から始まる、ちょっと不思議な事件のお話。昔はネットと現実はスッパリと分かれていたけど、GoogleMap あたりから境がだいぶ曖昧になって、今はポケモンGOなんてのも出てきた。そういうアリガチな「回線の向こう側」をテーマに扱いながらも、この著者の独特の感性が、この人ならではの味を出してる。
- 巨きなものの還る場所 / 東京創元社<Webミステリーズ!>2014年8月
- 昭和47年(1972年)佐藤伝蔵作、国引(→Google画像検索)は近代ねぶたの最高傑作と言われる。父が撮った国引の写真に感動した市哉は、ねぶた師の那美と杉造に手伝いを申し出た。祭りが終われば、傑作とされるねぶたも数年で解体される。参考のため郷土資料館を訪れた市哉は…
- これは是非、長編化しいて欲しい。中国の弔いに始まり、青森のド派手なねぶた、そしてアレやコレなどの美味しい素材をふんだんに使いながら、キモの部位以外を遠慮なく削ぎ落とし、たったの72頁にギュウッと凝縮した贅沢な作品。この短い頁数にも関わらず、主要なキャラはちゃんと立ってるあたりもさすが。
全般的に、のほほんとしてトボけた味の作品が多い。裏では大きな仕掛けを使いつつ、表向きは家族の物語だったり、住んでいる街の風景だったりと、日常系の雰囲気が漂うのも、この人の特徴だろう。
にしても、「巨きなものの還る場所」は、是非とも長編にして欲しいなあ。充分に星雲賞を狙える素材だし、今は亡き某氏の受賞作を彷彿とさせる、大傑作の臭いがプンプン漂ってる。
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