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2017年8月30日 (水)

SFマガジン2017年10月号

主演俳優や監督ではなく、特撮監督によって定義される。それがハリーハウゼン関与作品だ。
  ――オールタイム・ベストSF映画総解説 PART1 アルゴ探検隊の大冒険

「もちろん、ここにあるものは本物じゃありません。美術品も、それに私も」
  ――山本弘「プラスチックの恋人」第5回

あれはねえ、僕はなかなか理解してもらえないんだけれども、全部ふざけて書いてはいるんだけれども、まあでも命がけでふざけて書いてるわけです。
  ――筒井康隆自作を語る 第3回「『欠陥大百科』『発作的作品群』の時代」前編 

 376頁の標準サイズ。

 特集は「オールタイム・ベストSF映画総解説 PART1」として、1902年の「月世界旅行」から1988年の「ゼイリブ」まで一挙250作品を紹介。

 小説は8本。

 連載は6本。椎名誠「宝石の川」,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第16回,山本弘「プラスチックの恋人」第5回,三雲岳斗「忘られのリメメント」第4回,夢枕獏「小角の城」第46回,藤井太洋「マン・カインド」第2回。

 読み切りは2本。澤村伊智「翼の折れた金魚」,グレッグ・イーガンの白熱光スピンオフ「鰐乗り 後編」山岸真訳。

 澤村伊智「翼の折れた金魚」。森村は五年三組の担任だ。また問題児の長谷部が騒動を起こしたらしい。子どもたちの大半は計画出産による金髪碧眼だが、長谷部は無計画出産による黒髪黒目。このクラスの無計画出産児は、長谷部と篠宮だけ。

 ガンダムSEED でいうコーディネイターが当たり前になった世界でのお話。違いが見た目で一発で分かる仕掛けが、実に意地悪。また、主人公を小学校の教師にして、様々な経験をつませながらも、こういうエンディングにしたあたりが、なかなか切ない。実際、普通の人は、そんな感じだろうしなあ。

 椎名誠「宝石の川」。ラクダの子宮に籠り、惑星を旅する男。今回が立ち止まったのは、地殻の裏側だった。なぜかこの惑星には、内側にも外側にも重力があり、墜落せずに済んでいる。

 地球空洞説は昔からあったが、こうきたか。にしても、なぜにラクダw

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第16回。ハンター率いる<クインテット>は快進撃を続け、裏社会を制圧しつつあった。対して、<イースターズ・オフィス>は市内の各勢力に協力を求め、反撃を始める。その計画は…

 今までじっくりと<クインテット>の内幕を描いてきたためか、私はかなりハンターに肩入れしてて、期待より不安が大きかったり。刹那的な欲望に流されず、安っぽい脅しやハッタリにも頼らず、理知的にコトを進める姿は、かなり魅力的なんだよなあ。

 山本弘「プラスチックの恋人」第5回。セックス用アンドロイド「オルタマシン」は実用となった。未成年型のマイナー・オルタは議論を呼びつつも、日本でサービスが始まる。若手ライターの長谷部美里は自ら体験する体当たり取材に続き、経営者の小酒井譲のインタビュウに赴く。

 未成年の姿をし、高度なAIを備えたアンドロイドのマイナー・オルタマシン。その是非を巡り、様々な議論が展開するこの作品、今回は製作者の視点を中心に話が進む。が、それより、メイド・ロボットのインドーラちゃんとの会話が私は面白かった。是非、再登場して欲しい。

 グレッグ・イーガン「鰐乗り 後編」山岸真訳。「白熱光」のスピンオフ。銀河系全体に知的種族が広がった遠未来。だが銀河の中央部・孤立世界は頑なに沈黙し、孤立を守っていた。リーラとジャシムのカップルは、孤立世界を観測する手段を思いつき…

 前編での孤立世界を観測する方法もなかなかマッドだったが、今回のアイデアは更にイカれてて楽しい。それに加えて、観測して得たデータを解析するあたりも、実にワクワクする描写が続く。そうだよなあ、恒星間情報ネットワークともなれば、ヘッダ情報にも色々と工夫が必要で…

 三雲岳斗「忘られのリメメント」第4回。宵野深菜は、人の体験を追体験できる<リメメント>の憶え手だ。かつての連続殺人犯アサクノの模倣犯を追っていた深菜だが、同居していた真白が何者かに殺され、警察の取り調べを受ける羽目に。

 さすが売れっ子の三雲岳斗、連載物の引きが抜群に巧い。前回のエンディングもショッキングだったけど、今回の引きも意外な急展開で読者を振り回しつつ、事件の真相を少しだけ垣間見せ「なな、なんだってー!」と思わせた所で「次号に続く」。また二カ月も待たされるのか。

 藤井太洋「マン・カインド」第2回。独立を目指すテラ・アマソナスに対し、ブラジル・ペルー・コロンビアの三国は民間軍事企業グッドフェローズに制圧を依頼する。ジャーナリストの迫田城兵は戦闘を取材、アマソナス防衛隊が陸戦条約に反してグッドフェローズの兵を殺す事件をスクープするが…

 フェイク・ニュースが話題の昨今、実にホットなテーマで始まる。なんと、ニュースの真贋を鑑定する民間企業<コヴフェ>の登場だ。にしても「アンダーグラウンド・マーケット」とか今回の冒頭とか、実はサイクリストなのかな?

 オールタイム・ベストSF映画総解説 PART1。スターウォーズのようなハリウッド大作はもちろん、個人映画にまで目を配ったマニアックなラインナップはさすが。

 ン十年前にアメリカで長距離バスに乗った時、待合室の椅子ごとに小さなテレビがついてた。そこに映ってたのはゴジラ。ゴジラの魅力は国境を越えるんです。ファンタスティック・プラネット、原作は小説だったのか。ダーククリスタル、CGリメイク絶対拒否には激しく同意。

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