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2017年7月11日 (火)

SFマガジン2017年8月号

私(柳瀬)は学術調査船担当というか。高倉武史さんは軍の船担当で、ざっくりわけると、軍、民間、それ以外、という配分(笑)。
  ――『ID-0』メカニックデザイナー座談会 海老川兼武×片貝文洋×柳瀬敬之

「もうすぐ≪偉大な日≫だよ、ダフィーさん」幼い黒人少年が呼びかけた。「≪偉大な日≫が来たよ」
  ――R・A・ラファティ「≪偉大な日≫明ける」伊藤典夫訳

藤井太洋「基本的に、翻訳者は小説家よりも仕事がうまいと思っています。なぜなら、彼らは難しいと思っても逃げることができないから。小説家は簡単に逃げられますから(笑)」
  ――「はるこん2017」企画再録 藤井太洋×ケン・リュウ「言語と物語の関係性」

 376頁の標準サイズ。

 特集は「スペースオペラ&ミリタリーSF」として、ローダンNEO、TVアニメID-0、佐藤大輔追悼ほか。

 小説は11本。

 連載は6本。椎名誠「惑星のはらわた」,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第15回,山本弘「プラスチックの恋人」第4回,三雲岳斗「忘られのリメメント」第3回,夢枕獏「小角の城」第45回,そして待ってました藤井太洋の新連載「マン・カインド」。

 読み切りは5本。まずは特集の一本としてマルロ・ゼンの「ヤキトリ1 一銭五厘の軌道降下」,続いて早瀬耕「プラネタリウムの外側」,谷甲州の新・航空宇宙軍史「亡霊艦隊」,R・A・ラファティ「≪偉大な日≫明ける」伊藤典夫訳,グレッグ・イーガンの白熱光スピンオフ「鰐乗り 前編」山岸真訳。

 カルロ・ゼン「ヤキトリ1 一銭五厘の軌道降下」。今回の演習はサーチ・アンド・デストロイ。これまでの俺たちのチームの成績は酷いもんだし、チームワークもガタガタだ。演習だから死ぬ心配こそないものの、間抜けなアマリヤはまた伏撃を主張し…

 たった3頁なのが悔しい。悪態つきまくりの主人公アキラ、インテリぶってるアマリア、超然としているズーハン、寡黙なエルランドと、キャラはわかりやすいし、なんといっても展開がスピーディーなので、読者を物語に引き込む力がある。

 早瀬耕「プラネタリウムの外側」。グリフォンズ・ガーデン後日譚のシリーズ。藤野教授の紹介で、学部二年生の佐伯衣理奈が訪ねてきた。自分専用の会話BOTが欲しい、と。亡くなった友人との会話を望んでいるようだが…

 本筋は人の死が絡むだけに、シリアスで暗くなりがちなテーマなのに、隠れてサイドビジネスに精を出す南雲と、それを知ってか知らずか話をねじこんでくる藤野教授の陰険なやり取りが、微妙に雰囲気を明るくしている。結局、BOTに感情はあるんだろうか。うーん。

 椎名誠「惑星のはらわた」。ラクダの胎内から降りたとき、そこは半分傾いた建造物の前だった。あたりの風景には見覚えがない。わたしは、かつての任務を思い出しつつあった。わたしたちは技術者で、開拓移民として辺境の惑星に送られ…

 いつの間にか連載小説になっているニュートラル・コーナー、今回はラクダの胎内で旅する男の過去、男が旅している惑星、そして老いたラクダなど、不思議な舞台の事情が少しづつ明かされる。

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第15回。ウフコックの潜入捜査により手に入れた情報を元に、イースターズ・オフィスはマルドゥック市の有力者を集め、クインテットに対抗するための連帯を求める。情報の精度の高さもあり、有力者たちの反応は好意的だ。

 前回に続き、今回も会話が中心で静かに話が進む。今までやられっぱなしだったイースター・オフィスが、協力者を得て反撃にでようとする転回点となる回。ハンターを始めとするクインテットの活躍を散々見せられ、少し彼らに感情移入しつつある私としては、ちょっと複雑な気分。

 山本弘「プラスチックの恋人」第4回。黒マカロンとのインタビューを受け、美里は再びキャッスルへと向かう。今度は最後まで試すつもりだ。助言通り、ミーフの性格設定も変えて。

 著者渾身のポルノが楽しめる回。まあ、アレです、ポルノってのは、基本ファンタジイなわけで、オルタ・マシンにも色々と仕掛けがあって。そうきたかw こういうのって、人により匂いだったり声だったりとツボが違うんだけど、その辺は、やっぱし予めリクエストするのかな?

 谷甲州の新・航空宇宙軍史「亡霊艦隊」。タイタン主導の外惑星連合は、動く艦をかき集めて第一機動艦隊を編成、出動する。艦隊司令部の石蕗提督に、先行して地球周辺を通過しつつある無人偵察機 Kr-02 から情報が入る。

 今回の視点は外惑星連合。光速でさえ大きなタイム・ラグがある太陽系のスケールを実感できる回。互いに手に入る情報は限られており、かつリアルタイムではないあたり、かえって電信が普及する前の戦争に似た雰囲気になってる気もする。

 三雲岳斗「忘られのリメメント」第3回。他者の体験を追体験できるMEM、その憶え手として人気を誇る宵野深菜は、連続殺人鬼アサノの模倣犯の捜査を頼まれる。深菜と同居している三崎真白は、アサノの模倣犯・暮林朋に目を付けられ…

 物騒な雰囲気で始まった物語が、意外な形で牙を剥きだす回。中盤以降のアクションは、舞台の独特な風景も相まって、映像化したらかなりの迫力になるだろうなあ。作り手によるアレンジの仕方でも、雰囲気は大きく変わりそう。

 R・A・ラファティ「≪偉大な日≫明ける」 Great Day in the Morning 伊藤典夫訳。夜明け前。散歩中のメルキゼデク・ダフィーに黒人少年が声をかける。「≪偉大な日≫が来たよ」。若者たちは街中の時計から長針と短針を外しまわっている。そしてコーヒーショップでは、コーヒーカップが…

 ラファティの作品の中では、比較的にわかりやすい方、なのかな? 偉大な日、この街では何もかもが今までとは打って変わって…。 ハッキリと「信仰」をテーマにしつつ、その扱いは本気なんだか冗談なんだか。いずれにせよ、イカれまくった世界の描写はラファティならでは。

 グレッグ・イーガン「鰐乗り 前編」 Riding the Crocodile 山岸真訳。「白熱光」スピンオフ。多くの知的種族が銀河系に広がった遠未来。銀河の円盤部分は多くの種族が共存し一つの文明となったが、中央部に住む者はあらゆる接触を拒んでいる。だが何者かが存在するのは確実で…

 いきなり結婚生活一万年と、スケールがデカい。これが他の作家なら馬鹿話なんだが、あくまで語り口は大真面目なのがイーガン。ほぼ光速で移動できるとはいえ、銀河系の直径は約10万光年。広大なスケールで中央部に潜む謎を探る方法を語るあたり、理屈はともかく無茶なスケールがやたら楽しい。

 藤井太洋の新連載「マン・カインド」。「伊藤計劃トリビュート」収録の「公正的戦闘規範」から発展した作品。2045年。ブラジル・ペルー・コロンビアにまたがるテラ・アマソナスは独立を宣言、高名な軍事コンサルタントのチェリー・イグナシオが警護を請け負う。対する三国は民間軍事企業グッドフェローズに依頼し…

 現代の戦場で存在感を増している二つの要素、民間軍事企業とロボットに注目し、緻密に詰めた設定が面白い作品。P・W・シンガーの「戦争請負会社」によると、歴史的には国家軍より傭兵が中心だった時代の方が長いとか。ただ今はハーグ陸戦協定などの保護協定が傭兵には適用されず、また傭兵による犯罪も裁く法がない。などの問題も、巧く料理してると思う。

 海外ミリタリーSFガイド。やはりトップはロバート・A・ハインライン「宇宙の戦士」。これは外せないよなあ。はいいけど、ロバート・アスプリン「≪銀河おさわがせ≫シリーズ」は…まあ、スペース・オペラってことで。あとデビッド・ブリンの知性化シリーズも入れていいんじゃない?

 『ID-0』メカニックデザイナー座談会 海老川兼武×片貝文洋×柳瀬敬之。ドラマ中の所属する組織ごとにメカニックデザイナーを変えるのは巧い。Iマシンの造形にも、そんな配慮があったとは。

 「筒井康隆 自作を語る 第2回 日本SFの幼年期を語ろう 後篇」、前回に続き、聞き手・日下三蔵の綿密な事前準備に感服。これぐらいキッチリ調べた上でのインタビュウって、滅多にないんだよなあ。にしても「空飛ぶ怪獣フラゴン」の件とか、当時の鷹揚さは、なんというかw 酔狂連にも大笑い。

 大森望の新SF観光局 第57回 SFの引っ越し。読書って安上がりな趣味だなんて思っていると、痛い目を見るのが引っ越し。そもそも蔵書用の部屋が要るんで、人より広い物件が必要な上に、荷物も多い。そこで引っ越し費用を節約する方法を紹介してくれる、とってもありがたい回。

 ゲンロン大森望SF創作講座 池袋特別講義 大森望×長谷敏司。各作家の方法も楽しいが、宮内悠介のしぶとさも凄い。プロとして売れる人ってのは、気合の入り方が違うなあ。

 大森望のSF喫茶#24 大森望×片渕須直 「コニー・ウィリス、その作品世界と魅力 『ブラックアウト』『オールクリア』と『この世界の片隅に』」。執拗なまでの時代考証も絶賛された『この世界の片隅に』の監督が、やはりマニアックなロンドンの描写が光る『ブラックアウト』『オールクリア』を語る。確かにこれ映像化したら売れるだろうなあ。

 鹿野司 サはサイエンスのサ ムーアの先にあるもの。コンピュータの高速化を担ってきたムーアの法則に綻びが見えつつある今、脚光を浴びているのがバイオ技術。ということで、遺伝子ドライブ(→Wikipedia)の紹介。今の目的はマラリア対策だけど、応用範囲は広大で…

 「はるこん2017」企画再録 藤井太洋×ケン・リュウ「言語と物語の関係性」。新鋭人気作家二人の対談。言語と視点の話は作家ならではの着目点。ケン・リュウの「中国の検閲制度にはすごくムラがある」ってのも、ちょっと事情を勘ぐりたくなって楽しい。案外と担当者次第・気分次第なのかも。

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