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2017年7月 4日 (火)

ジャック・ヴァンス「スペース・オペラ」国書刊行会 浅倉久志・白石朗訳

「単純な問題です」ゴンダーは答えた。「第九歌劇団が消えました」
  ――スペース・オペラ

正午に数分まえ、ふいに太陽が南に傾いて沈んだ。
  ――悪魔のいる惑星

【どんな本?】

 奇想天外な発想と洒落た会話、そして皮肉の利いたオチで読者を魅了するSF/ファンタジイ作家ジャック・ヴァンス Jack Vance の中編・短編を集めた、日本独自の編集による作品集。

 書かれた時代が時代だけに、ガジェットの類こそ古臭い雰囲気があるものの、お話の核となるアイデアや、登場人?物たちの性格付けは見事だし、語り口は軽妙そのもの。ビール片手に気軽に楽しもう。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2017年5月25日初版第1刷発行。単行本ソフトカバー縦一段組みで本文約438頁に加え、白石朗による訳者あとがき13頁。9ポイント45字×20行×438頁=約394,200字、400字詰め原稿用紙で約986枚。文庫本なら上下巻に分けてもいい分量。

 文章はこなれていて読みやすい。内容も、SFガジェットはたくさん出てくるものの、小難しい理屈は要らないので、理科が苦手な人でもSFにアレルギーがなければ大丈夫。

【収録作は?】

 以下、作品名は日本語の作品名/原題/初出/訳者 の順。

スペース・オペラ / Space Opera / 1965 / 白石朗訳
 人類が恒星間宇宙に進出し、多くの知的生命とコンタクトを果たした遠未来。未知の惑星ルラールから来た異種族による第九歌劇団の地球初公演は、見事な舞台で観客を感心させる。だが、論争は残った。
 その演目は、本当に彼らのオリジナルなのか? 彼らを連れてきたゴンダー船長のヤラセではないか? 人類の音楽は他種族にも理解できるのだろうか? 論争の結論は出ないまま、大事件が持ち上がる。なんと、ルラール第九歌劇団が消えてしまったのだ。
 この事件をきっかけに、公演を主催した富豪のデイム・イザベル・グレイスは、大胆不敵な計画を思いつく。人類が生み出した芸術の至宝オペラを、異星人たちにも紹介しよう。かくして、彼女は豊かな人脈と財力を駆使してオペラ界のスターをかき集め、宇宙巡業の旅に出るのだが…
 ゴージャスなオペラ、曰くありげで強烈な個性の登場人物、謎に満ちたエイリアン、そして意外性に満ちた(が微妙にしょうもない)オチと、ジャック・ヴァンスの魅力がたっぷり詰まった長編。
 なんと言っても、キャラクターがいい。甥には甘いが強固な意志と豊かな財力&行動力で計画を進める、オペラ・マニアのデイム・イザベル・グレイス。彼女の強烈な個性に圧倒されながらも、セコい計略で脛をかじるスチャラカな浪費家の甥ロジャー・ウール。そんなロジャーをあっさり篭絡する謎の美女マドック・ロズウィン。
 加えて、オペラとは全く縁のない謹厳実直な宇宙船船長ながら、ルラール人を発見し第九歌劇団を地球に連れてきたアドルフ・ゴンダー。インテリを鼻にかけた音楽学の大家でイザベルの論敵バーナード・ビッケル。いずれもマイペースで不協和音出しまくりのチームだ。
 そんなメンバーによる、豪華絢爛なオペラ団の公演は、異星人にどう受け取られるのか。ジャック・ヴァンスの十八番、奇矯な文化を持つ異星人たちの魅力がたっぷり詰まった、センス・オブ・ワンダーあふれる作品。
新しい元首 / The New Prime / ワールズ・ビヨンド誌1951年2月号 / 浅倉久志訳
 紳士淑女がフォーマルな夜会服をまとう社交界のパーティーに、アーサー・ケイヴァーシャムは放り出された…全裸で。
 改めて冒頭のシチュエーションを書くと、つい笑ってしまう。実際、マジでこの通りなんだから困るw ドタバタ喜劇・ファンタジイ・遠未来のSFなど、バラエティ豊かな世界の五つの物語を、鮮やかなオチでまとめ上げた、語りの腕が冴える短編。
悪魔のいる惑星 / The Devil on Salvation Bluff / フレデリック・ポール編 Star Science Fiction Stories No.3 1955 / 浅倉久志訳
 レイモンドとメアリの夫婦は、開拓中の惑星グローリーに福音をもたらそうと、フリット族に奉仕を続ける。彼らのために道を作り家を建て用水路を掘り…。だが、フリット族は二人の厚意を喜ぶどころか、迷惑がって二人の努力の結晶をブチ壊すのだった。
 これもヴァンスの十八番が光る作品。グローリーに住むフリット族の奇怪な生活スタイルと、熱心に伝道に身を捧げるレイモンドとメアリの対比は、ヴァンスのお家芸とも言える構造だが、船員として世界各地を巡ったヴァンスの作品だけに、社会風刺を含んでいるような気も…
海への贈り物 / The Gift of Gab / アスタウンディング誌1955年9月号 / 浅倉久志訳
 惑星サブリアの海は希少物質を豊かに含む。養殖鉱業社は浅海に多数のいかだを浮かべ、養殖したフジツボや採集したナマコから、希少物質を抽出している。六カ月勤務の満了が近づいた頃、事件が起きた。カール・レイトの姿が見えない。彼を探しに出たフレッチャーは…
 60年以上も前の作品だってのに、全く古びていないのに驚く。養殖鉱業社の事業内容とか、充分に今のSFでも通用する。敢えて言えば、記録媒体がマイクロフィルムって所ぐらいで、これもコンピュータに変えればいいだけ。
 お話は、隔絶された海上での失踪事件から、ホラーぶくみのミステリとして始まり、海洋アクションを挟んで結末へと進む。失踪事件の恐怖、謎がほのめかすおぞましさ、そしてアメリカ人の好みに合いそうなラストなど、このまんまハリウッドが映画化すれば大当たりしそうな完成度も凄い。というか、きっと既にどこかの映画会社が買い付けてるだろうなあ。
エルンの海 / The Narrow Land / ファンタスティック誌1967年7月号 / 浅倉久志訳
 軟泥の中でエルンは生まれた。上から襲い掛かる巨大なものや、塩水沼に住む鬼をかわしながら、エリンは成長する。片方の沖は黒い闇の壁で、もう一方の沖は雲と雨と稲妻の壁。二つの中間領域が延々と続いている。
 ジェイムズ・ティプトリー・ジュニアの「愛はさだめ、さだめは死」の先行して、異形のエイリアンの生活環をクールに描く、センス・オブ・ワンダーたっぷりのエッジの利いた作品。「悪魔のいる惑星」もそうなんだけど、一見ファンタジックに見えて、そういう環境は現実に考えられるあたりも、曲者ヴァンスならでは。

 「宇宙は拡大した地球ではない」と言ったのはスタニスワフ・レムだったかな? この作品集では全く同じ発想を奥に秘め、「拡大した地球」的発想の人類とエイリアンの軋轢を描きながら、ハリウッド好みのエンタテイメントとして成立しちゃってるのに感心する。

 私は最近になってヴァンスを好きになったニワカだけど、それだけに未読のヴァンス作品が沢山あるんで、色々と漁ってみよう。

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