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2017年6月12日 (月)

バリー・パーカー「戦争の物理学 弓矢から水爆まで兵器はいいかに生み出されたか」白揚社 藤原多伽夫訳

本書では物理学のたいていの分野に触れ、それらが軍事にどのようにおうようされているかを解説する。
  ――1 はじめに 本書の概要

弓の威力を決めるのに重要な要素はいくつかあるが、そのうちの三つは、弓の長さ、形、材料だ。一般的に弓は長ければ長いほど威力を増す…
  ――3 古代の兵器の物理学

理論上、水爆の威力には限界がない
  ――18 水素爆弾、大陸間弾道弾ミサイル、レーザー、そして兵器の未来

【どんな本?】

 戦闘と物理学と言えば、マンハッタン計画が生み出した原爆や話題の無人航空機、SFに出てくる光線銃や衛星兵器を思い浮かべるだろう。しかし、大昔から使われている弓や投石器、騎士がふるう剣やまとう鎧にも、物理学は大きく関係している。

 古代の戦車(チャリオット)から攻城用兵器、大砲や銃の進歩や使われている技術と原理、航空機や潜水艦などの乗り物、そして核兵器からレーダーなどの情報機器まで、軍用機器の歴史を辿ると共に、それに関係した物理学のトピックを、色とりどりのエピソードに交えて語る、一般向けの科学・軍事解説書。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は The Physics of War : From Arrow to Atoms, by Barry Parker, 2014。日本語版は2016年3月25日第一版第一刷発行。私が読んだのは2016年5月10日発行の第一版第二刷。単行本ハードカバー縦一段組みで本文約402頁に加え、訳者あとがき5頁。9ポイント46字×19行×402頁=約351,348字、400字詰め原稿用紙で約879枚。文庫本なら上下巻にしてもいい分量。

 文章は比較的にこなれている。内容も特に難しくない。アチコチに数式が出てくるが、だいたいの意味は文章でも説明しているので、わからなければ無視しても構わない。理科が得意で軍事にアレルギーがなければ、中学生でも充分に楽しめるだろう。

 ただし、これを読んでも、さすがに原爆は作れない。原理は分かるけど。でも威力のある弓ぐらいは作れそう。

【構成は?】

 時系列順に並んではいるが、各章はけっこう独立しているので、美味しそうな所だけを拾い読みしてもいい。

  • 序文
  • 1 はじめに 本書の概要
  • 2 古代の戦争と物理学の始まり
    カデシュの戦い/古代の戦闘馬車/銅、ブロンズ、鉄/アッシリア人/ギリシャ人と物理学の始まり/投石器/アレクサンドロス大王/アルキメデス
  • 3 古代の兵器の物理学
    速度と加速度/力と慣性/運動量と力積/重力の影響/エネルギーと仕事率/角運動量とトルク/機械/弓矢の物理学/投石器の物理学
  • 4 ローマ帝国の勃興と、英仏の初期の戦い
    ローマ軍とその武器/英仏の初期の戦い/ロングボウの起源と物理学
  • 5 火薬と大砲 戦争の技法と世界を変えた発見
    ロジャー・ベーコン/書記の大砲/百年戦争/ウルバン砲とコンスタンティノープル包囲/イングランドとスコットランドの戦いで使われた大砲/フランス軍/シャルル八世とナポリでの勝利
  • 6 時代を先取りした三人 レオナルド・ダ・ヴィンチ、タルタリア、ガリレオ
    レオナルドと物理学/軍事に関わるレオナルドの発明/戦争に対するレオナルドの姿勢/タルタリア/ガリレオ/弾道学の問題
  • 7 初期の銃から、三十年戦争、ニュートンの発見まで
    戦争と銃/海での戦い/ヘンリー八世/ウィリアム・ギルバート/経度の問題/三十年戦争/スウェーデンの介入/発見の新時代をもたらしたニュートン
  • 8 産業革命の影響
    フランス革命/イギリスの産業革命/ジェームズ・ワットと蒸気機関/ウィルキンソンの鉄工技術/銃の命中精度を高めたロビンス/フリントロック/クリスティアン・ホウヘンス/軍事技術とのかかわり
  • 9 ナポレオンの兵器と電磁気の発見
    フランス革命/大砲の製造法を変えたグリヴォーヴァル/ナポレオンの兵器/摩擦熱を研究したランフォード伯/電気と磁気の関係/電気が戦争に及ぼした影響
  • 10 アメリカの南北戦争
    雷管の開発/ミニエー弾/ライフル銃と大砲における革命/南北戦争/電信の役割/発電機(ダイナモ)/ガトリング法/海上での戦い/スクリュープロペラの物理学/「知るか、機雷なんか」/潜水艦/気球
  • 11 銃弾と砲弾の弾道学
    砲内弾道学/反動/過渡弾道学とソニックブーム/砲外弾道学/銃弾の安定性/終末弾道学
  • 12 航空力学と最初の飛行機
    飛行機の発明につながる発見/ライト兄弟/飛行機が飛ぶ仕組み/揚力の物理学/抗力とは/飛行機の操縦/飛行機が戦争に使われた最初の事例
  • 13 機関銃の戦争 第一次世界大戦
    機関銃の開発/その他の兵器/第一次世界大戦の開戦/初期の戦闘機/海戦と海中の脅威/毒ガス/初期の戦車/アメリカの参戦
  • 14 無線とレーダーの開発
    電磁波の生成と検出/電磁スペクトル/電波/X線/光と赤外線/レーダー/レーダーの性能を高める装置
  • 15 ソナーと潜水艦
    アルキメデスの原理/潜水艦の物理学/スクリュープロペラの動力/船体の形状と潜望鏡/航法/ソナー/水雷/魚雷の仕組み/第二次世界大戦での潜水艦
  • 16 第二次世界大戦
    大戦はいかにして始まったか/戦争に備える/フランスでの戦闘とダンケルクの戦い/レーダーの強み/ブリテンの戦い/アメリカの参戦/飛行機の進歩/戦争で使われた初期のロケット/その他の兵器と小火器/コンピューターと諜報活動
  • 17 原子爆弾
    そもそもの始まり/アインシュタインの役割/イタリア人の大発見/ハーン、マイトナー、シュラスマン/1938年のクリスマス/連鎖反応/大統領への書簡/開戦/イギリス側の動き/ハイゼンベルクとボーア/マンハッタン計画/最初の原子炉/マンハッタン計画は続く/トリニティ実験/ドイツ側の原爆開発/日本への原爆投下を決断
  • 18 水素爆弾、大陸間弾道弾ミサイル、レーザー、そして兵器の未来
    水素爆弾の開発/ウラムとテラーの大発見/最初の実験「アイヴィー・マイク」/水爆の物理学/長距離ミサイル/レーザー/半導体とコンピューター/人工衛星とドローン/未来の兵器
  •  訳者あとがき/註/主な参考文献

【感想は?】

 ニワカ軍ヲタ大喜びの本。

 さすがに「戦闘技術の歴史」シリーズほどには体系化されていないものの、軍事の素人には、思い込みを覆されるエピソードが何度も出てくる。

 例えば弓だ。イングランドのロングボウは「戦闘技術の歴史 2 中世編」で出てきたが、内容が専門的過ぎて、肝心の「何が嬉しいのか」がイマイチ分からなかったが、これでよくわかった。要は飛距離と威力だ。直感的にわかるように、弓は長い方が威力も大きいのだ。

 似たような兵器にクロスボウ(弩)がある。威力が大きく、使いこなすのは弓より簡単そうなのに、あまり流行ってない。なんでだろう?

 と持ったら、クロスボウは中精度が悪い上に、連射が効かないのだ。イングランドのロングボウは一分に5~6本撃てるのに対し、クロスボウは一分に1~2本。当時の戦争はせいぜい2~300mほどでの撃ちあいだから、走り抜ければ1~2分で接近戦になる。となれば、連射能力の差は大きいよなあ。

 科学の進歩がわかるのも、楽しい点の一つ。私たちは、空中に放り投げた物がどんな軌跡をたどるのか、だいたい知っている。野球のホームランボールの軌跡がソレで、つまりは放物線だ。しかも、横向きの動きは、空気抵抗で次第に遅くなる。

 これは野球の玉に限らず、大砲や銃の弾も似たようなもんだろう、と私たちは考える。

 が、16世紀ごろまでは違ってて、「砲弾が砲身を離れたあと加速すると考えられていた」。これを正したのがイタリアのニコロ・タルタリア(→Wikipedia)。ここから弾道学が始まる。

 今でこそ写真も動画もあるから、ホームランの軌跡はわかるし、義務教育で基礎的な物理学を学ぶから、なんとなく銃弾や砲弾の動きも見当がつく。でも当時はニュートン以前だし、速すぎて砲弾の動きも見えないから、想像するしかなかったのだ。実験って概念も普及してなかったし。

 この章、レオナルド・ダ・ヴィンチやガリレオ・ガリレイも出てくる。ちと切ないのが、タルタリアを含めた三人とも、食うために軍事に手を出してる点。いずれも「本業ではあまり稼げなかったが、兵器の開発では高い収入を得られた」。昔から軍事研究は儲かる仕事だったのだ。なんだかなあ。

 銃の歴史も、素人向けで実に分かり易い。マスケット銃だのミニエー銃だのと名前はよく聞くが、どこがどう違うのか、歴史の教科書じゃ説明していない。

 アッサリ言うと、マスケット銃は丸い弾丸でライフリングなし、ミニエー銃はロケット型の弾丸でライフリングあり。

 銃身にライフリングがあると弾丸は一定の回転を与えられ、ジャイロの理屈で軌道が安定する。これがないと、丸い弾丸は銃身内を進む際に不規則な回転を与えられ、軌道が安定しない。野球だと、ナックル・ボールみたいな感じ?いや多分違うけど。

 決まった回転を与えりゃいいのはわかったが、そのためには弾丸が銃身に密着しなきゃいけない。ミニエー銃の弾丸は底にくぼみがあり、火薬の熱でこれが膨らみ、弾丸がライフリングに密着する。言われてみりゃその通りだが、発想は見事だよなあ。

 この辺の理屈を考えたのはベンジャミン・ロビンズなんだが、彼の手法は見事なまでに科学的でエレガント。

 例えば弾丸の速さを測る方法。重さの分かっている角材を紐でぶら下げ、これを銃で撃つ。角材の揺れ幅を見れば、弾丸が角材に与えたエネルギーがわかる。弾丸の重さも分かるから、後は計算すれば弾丸の速さが分かる。実に鮮やかにニュートンの業績を使いこなしてます。

 銃の発砲音も、私はアレ火薬が爆発した音だと思ってたけど、実は全然違った。銃身内のガスが銃口で急に拡散した時に出る音なのだ。だから消音機は銃口につけるのか。

 と、ここでは銃の話ばかりを書いちゃったけど、目次を見ればわかるように、電信や航空機や原爆など、様々な兵器や軍事用機材の話が出てきて、なかなかバラエティ豊か。特にプロペラの形状の話とかは、モノの形の不思議さを感じるところ。

 全般的に初心者向けで、マニアには物足りないけど、素人には楽しい話がいっぱい載ってるし、書名で感じるほどには難しくもない。科学の話も中学生で充分ついていけるので、気楽に読もう。

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