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2017年5月 7日 (日)

藤崎慎吾「深海大戦 Abyssal Wars 超深海編」角川書店

「やっとわかった」
「何が」
「俺のなすべきことだ」
「ええっ、いいなあ。結局、オレにはよくわからなかったのに」
  ――p152

「海は天然のコンビニだよ。しかも無料だ」
   ――p212

【どんな本?】

 「クリスタルサイレンス」「鯨の王」など海洋SFに定評のある藤崎慎吾による、海洋ロボットバトル長編シリーズ完結編。

 海洋開発が進んだ近未来。宗像逍は、海の民<シー・ノマッド>の若者。「オボツカグラ」のバトル・イクチオイド(海中型戦闘ロボット)「タンガロア」のパイロットとして戦う中で、幼馴染の磯良幸彦や上官のロベルト・ガルシアを失う。

 沖縄を訪れた宗像逍は、体に異変を感じると共に、何者かにつけ狙われ始める。グアム大学教授の前園隆司に誘われグアムに向かった宗像逍は、今までの戦いの背景事情を教えられるばかりでなく、自分がその中心にいると知らされる。

 徹底して練り込んだ設定でロボット同士の戦闘にリアリティを持たせ、派手なアクションと思わせぶりな謎で読者を引っ張ってきた「深海大戦」シリーズ最終巻。

 一気に話のスケールを拡大させ、また一見ファンタジイっぽい仕掛けにも見事な理屈をつけた上に、宿敵とも見事に決着をつけて鮮やかに大風呂敷をたたみ、軽快なロボット・アクション作品から重厚で本格的なサイエンス・フィクションへと変貌を遂げた。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2017年3月2日初版発行。単行本ソフトカバー縦一段組みで本文約378頁。8.5ポイント47字×20行×378頁=約355,320字、400字詰め原稿用紙で約889枚。文庫本なら厚い一冊か薄めの上下巻の分量。

 文章はこなれていて読みやすい。内容は魅力的なSFガジェットがギッシリ詰まっているが、その度に親切な解説が入るので、意外と難しくない…ように感じる。ただ見慣れぬ海の生き物が次々と出てくるので、できれば海洋生物図鑑か Google を使いながら読もう。

 なお、お話は前巻から素直につながっている上に、このシリーズ独特の言葉が情け容赦なく出てくるので、なるべく最初の「深海大戦 Abyssal Wars」と次の「深海大戦 Abyssal Wars 漸深層編」と続けて読もう。

【感想は?】

 もう、最高。私はこういうのが大好きなんだ。

 思いっきりリアリティ追及型のロボット・バトル物ってだけで嬉しいのに、最終巻では登場人物間の関係にキッチリとケリをつけた上に、SFとしても更にスケール・アップしつつ見事に風呂敷を畳んでくれた。

 なんたって、今までの話じゃ怪しげな設定がてんこもりだ。なぜ宗像が特別なのか。宗像が操る「タンガロア」も奇妙だ。まあロボット物じゃ主人公が乗るロボットが特別製なのはお約束だが、それにちゃんと裏づけがあると、やっぱ読者としても安心する。

 だけじゃない。海上遺跡「ナン・マドール」や精霊、それを護る青年コズモと宗像の関係、そしてマスコット・キャラ的なアンフィトリテ。しかも宿敵はクトゥルフが操る多触手ロボットの「ダゴン」ときた。こりゃ当然、伝奇かファンタジイで説明を付けるかと思ったら。

 なんとビックリ、最近の科学トピックの美味しい所を巧みに取り込んで、最高にガチガチなサイエンス・フィクションにしてしまった。特にコズモとの関係や、アンフィトリテの正体には、思わず「うををっっっ!」と叫びそうになったり。

 お話作りも巧みで。

 例えば、いきなり出てきたラウル・住吉・ガルシア君。あの頼れるリーダー、ガルシア副指令の甥っ子だ。血統はいいし、さすがに若いだけあって怖いもの知らずだが、その分、経験不足は否めない。なんで最終巻になって、こんな若造が出てきたのか、と思ったら。

 確かに彼の乗る「ハルタワート」は形状も能力も独特で、ある意味、最終決戦では大事な役割を果たすんだけど、彼の役割はそれだけじゃない。自分でも経験不足は充分に分かってるだけあって、それを補うための努力も惜しまぬ気持ちのいい少年…って場面が、見事な伏線になってる。

 ラウル君と同様に、脇役で楽しいのが、研究者の塩椎一真。なかなか気さくな性格ではあるが、その正体は、見事なマッド・サイエンティスト。新発見のためなら世界なんかどうでもいい、みたいな割り切りっぷりが大変に気持ちのいい人。注射してるね、きっと。そういう奴だw

 そしてラスボスのクトゥルフ&ダゴン。なんたって触手ですよ触手。クトゥルフ自身がパイロットとして優れた能力を持ち、乗機のダゴンも彼でなければ乗りこなせない半面、使いこなせば無敵といいうチート極まりないイクチオイド。おまけに性格もラスボスに相応しいお方で。

 対する主人公の宗像は、なんというか南方系の性格なのが笑える所。ワケわからん騒ぎに巻き込まれ、右往左往してるうちに全人類の命運を握るらしい立場に立たされるも、結局はマイペースでいっちゃうあたりが、やっぱり南方系なんだよなあw

 次から次へと個性的なロボットが出てくるあたりはガンダムっぽくて、その線で行くと宗像はジュドーかなあ。いやシスコンじゃないけど、暗い性格が多いガンダムの主人公の中じゃ、ジュドーは例外的に底抜けの明るさを持ってるあたりが。

 最終決戦は、オボツカグラのイクチオイド総出撃で、集団戦に相応しく知力・能力を振り絞ったバトルロイヤル。敵もそれに見合うだけの戦力だし、不気味な風景が続く舞台も相まって、緊張の途切れないシーンが続く。

 個性豊かなロボットたちと、それに力強い説得力を持たせる凝った設定。ファンタジイかと思わせて、最新科学のトピックを巧みに取り込んで説明を付ける仕掛けの妙。そして意外な方向へとスケール・アップしてゆく、本格的なサイエンス・フィクションならではの爽快感。

 文句なしの気持ちよさが味わえる、海洋冒険SFの傑作だ。

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