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2017年4月27日 (木)

SFマガジン2017年6月号

金属の管とそおうじゃない管があって、それぞれに曲がり方も強度も違うんですよ。よくみると構造体として使われているパイプと、そうじゃないものが描き分けられています。
  ――弐瓶勉インタビュウ

「……どうすれば分かってもらえるかなあ」
「私も同じことを言おうと思ってました」
  ――山本弘「プラスチックの恋人」第3回

「音楽は心を強姦する」
  ――劇場アニメ『虐殺器官』公開記念座談会 「虐殺の文法」をめぐって
    岡ノ谷一夫×吉田尚記 司会:塩澤快浩

 376頁の標準サイズ。

 特集は二つ。まず「アジア系SF作家特集」とあるが、中身はほとんど中華系SF特集。もうひとつは「2017年春アニメ特集」として、「ID-0」「正解するカド」そして映画「BLAME!」。

 小説は10本。

 まずは「アジア系SF作家特集」で、3本。噂の郝景芳「折りたたみ北京」大谷真弓訳。次にケン・リュウ「母の記憶に」古沢嘉通訳。最後にスタンリー・チェン「麗江の魚」中原尚哉訳。「折りたたみ北京」「麗江の魚」はケン・リュウの英訳から日本語に訳したもの。

 次に連載5本。夢枕獏「小角の城」第44回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第14回,山本弘「プラスチックの恋人」第3回,三雲岳斗「忘られのリメメント」第2回,そして椎名誠のニュートラル・コーナー「むじな虫」も、連作っぽい。

 読み切りは2本。澤村伊智「コンピューターお義母さん」,藤田祥平「スタウトのなかに落ちていく人間の血の爆弾」。

 加えて、新連載「筒井康隆自作を語る」が新連載。日下三蔵を聞き手に、今回は「日本SFの幼年期を語ろう」。主役の怪演はもちろんだが、聞き手の日下三蔵の知識が凄い。日本SF黎明期に江戸川乱歩が果たした役割って、大きかったんだなあ。それとスーパージェッターの台本陣の豪華さにもびっくり。

 郝景芳「折りたたみ北京」大谷真弓訳。午前五時。ごみ処理施設での勤務が終わったラオ・ダオは、ベン・リーを訪ねる。ここ第三スペースから第一スペースに行けば、二十万元が手に入る。ベン・リーはそのルートを知っている。捕まればブチ込まれるが、今はなんとしても金が要る。

 北京を折りたたむって、なんなんだ?と思ったら、そうきたかw あまりのスケールに感心するやら笑っちゃうやら。某アニメの影響かしらん。アイデアはお馬鹿だけど、お話はとってもシリアスで、共産主義のお題目とは違い階層化が進む中国社会を、とってもわかりやすくヴィジュアル化する巧みな発想。

 ケン・リュウ「母の記憶に」古沢嘉通訳。3頁の掌編。わたしが幼い時に、母は余命を宣告された。残された時間は、あと二年。わたしの成長を見守るため、母は時間をだますことにした。

 ケン・リュウお得意の泣かせる話。もはやSF小説界のデイヴィッド・ギルモアですね。

 最後にスタンリー・チェン「麗江の魚」中原尚哉訳。年度末の課長補佐昇進を狙いバリバり働いていた僕は、PNFDⅡ(心因性神経機能障害Ⅱ型)と診断され、麗江での二週間のリハビリを申し渡された。麗江は10年前にも行ったことがある。当時は自称アーティストが集まり、女には片っ端から声をかけたものだが…

 これまた政府による強い統制のもと、急激に工業化・産業化が進む中国を、観光都市・麗江を舞台として、巧みに揶揄する作品。出てくる納西族の民族音楽を漁ってたら、コメントに「麗江は観光地化され過ぎた」とあって苦笑い(→Youtube)。

 同特集中のハイカソル編集者ニック・ママタスのインタビュウ「英語圏における日本SF」SFマガジン編集部訳。野尻抱介「ロケットガール」が翻訳されてたのか。十代の女の子向けに出したってのも市場の違いを感じさせるが、「蓋を開けてみると、ロバート・ハインラインを愛読するような中年層によく読まれた」に大笑いw ああいうストレートで気持ちのいいSFに飢えているのだ、オッサンは。

 ピーター・トライアスのエッセイ「<ファンシースターはSFの名作だ>」鳴庭真人訳は、タイトル通りファンシースターと小玉理恵子への熱い想いを切々と綴る感動作。

 椎名誠のニュートラル・コーナー「むじな虫」。アブドは高原列車イースト・アンド・ウエストの保線係だ。列車の軌道は、むきだしの地殻に掘った二条の溝。軌道が地上から突き出しているマザー・プラネットとは逆だ。路線の途中、赤い小屋は馴染みのクフの家だ。今日はレザーボールを捕まえるので忙しい。

 連載中、エッセイからいきなり小説になった前回を受けて、宇宙の彼方に植民した人々の暮らしを描く連作集その2。乾いた大地に延々と続く二本の軌条、役割も正体も分からないけど惑星を飛び回りゲームの対象になっているレザーボールなど、異様な風景が続く。

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第14回。ウフコックは、クインテット潜入捜査で集めた情報を、イースターとブルーに伝える。58人と11頭のエンハンサー、そしてハンターの野望。事態は危機的で、残された時間は少ない。

 今回はイースター・オフィスの視点で物語が進む。そのためか、物騒な雰囲気は底に流れながらも、話は穏やかに進んでゆく。ホワイトコープ病院の<天使たち>の恐るべき正体が明かされ、イースター・オフィスは反撃の準備を始めるが…。空気読まないダニー・シルバーのキャラがいいなあw

 山本弘「プラスチックの恋人」第3回。セックス用アンドロイド、オルタマシン。未成年型はマイナーと呼ばれ、日本のムーン・キャッスルでサービスを始めた。取材に訪れた長谷部美里はマシンの見事さに圧倒される。その帰路、反対派らしき者を見つけ接触を試みるが…

 “非実在”児童ポルノ問題に挑む作品、今回は賛否の両側を代表する人が出てきて、熱く語ってくれる。ナッツ99に熱く思い入れちゃう自分が悲しいw 月光のマニアっぷりには、ひたすら頭が下がる。変身ベルトやオルタナファクトなど時事ネタはキャッチーだが、単行本では脚注が付くのかな? にちても、プロの物書きの努力には脱帽するのみ。

 三雲岳斗「忘られのリメメント」第2回。人の体験を記録・再生できるリメメントが普及した時代。リギウス社CEO迫間影巌はMEMアーティストとして活躍中の宵野深菜に、連続殺人犯アサクノの捜索を依頼する。アサクノの殺人MEMが出回っており、それを介して精神を汚染された者もいるらしい。

 連載二回目と物語は始まったばかり。主人公の深菜の過去や敵役のアサクノの紹介や掘り下げを担う回だろう。体験が人格を変えてゆくなら、やり方次第で様々な応用も効く。だいぶ違うけど、「戦地の図書館」の冒頭、傷つき心が死んだ海兵隊員が病院のベッドで読んだ「ブルックリン横丁」のファンレターは強烈だった。

 澤村伊智「コンピューターお義母さん」。「くらしマート」でのパートを終える時、遅番の佐川さんと挨拶した。テキパキしてるし、頼れる人だ。買い物を済ませ、重いビニール袋を両手に下げて家へと向かう。自動で灯るはずの玄関照明は、やはり点かない。誰の仕業かはわかっている。

 「九十八円ぺたり、九十八円ぺたり、九十八円ぺたり」だけで、お話の雰囲気を鮮やかに伝える語りが見事。「コンピューターおばあちゃん」を思わせるタイトルだし、ある意味では深い関係がある。奥様の井戸端会議の大切さがしみじみわかる作品←違うだろ

 藤田祥平「スタウトのなかに落ちていく人間の血の爆弾」。バーで飲みながらの読書会。テーマはカート・ヴォネガットの「スローターハウス5」。師匠はベロベロで、バーのオーナーのI氏は師匠の若かりし日の失敗談を聞かせてくれた。

 卒論に四苦八苦する学生たちの悪あがきや、それを見守る?教授。行き詰まっては飲んだくれた、京都で過ごす学生時代に、カート・ヴォネガットの「スローターハウス5」を絡め、ノスタルジックな短編。にしても強烈そうなカクテルだなあw

 東茅子「NOVEL & SHORT STORY REVIEW」、今回は特集に合わせたのか「アジア系SF」。劉慈欣「神の世話をする」 Taking Care of God。地球を創り超科学で人類を導いてきた神たちが、老いた自分たちの面倒を見ろと地球に押し寄せて…。一人っ子政策のため日本以上に厳しく高齢化対策が求められている中国で、よく出せたなと思うぐらいキツい風刺作。

 横田順彌「近代日本奇想小説史 大正・昭和篇」第31回 大正末期のジュヴナイル小説7.今回は、なんと横溝正史の少年冒険探偵小説なんていうレア物の紹介。現代のライトノベルに当たる市場を狙った作品だろうなあ。

 藤崎慎吾「深海大戦 Abyssal Wars」が「超深海篇」で完結してるとは気がつかなかった。ユヴァル・ノア・ハラリ「サピエンス全史」も面白そう。

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