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2017年4月14日 (金)

奥泉光「ビビビ・ビ・バップ」講談社

これはつまりドルフィーなのであった! 何がドルフィーかと云って、音がドルフィー。紛うかたなきドルフィー節だ。
  ――p70

彼らはいかなる厄災であれ、それを利益に変える術を心得ている。
  ――p367

【どんな本?】

 ミステリ風味の作品で人気の奥泉光が、ジャズ魂を炸裂させた長編SF小説。SFマガジン編集部編「SFが読みたい! 2017年版」のベストSF2016国内篇でも、堂々3位に輝いた。

 舞台は21世紀末の日本。2029年にコンピュータ・ウイルスの暴走による「大感染」が起き、電子機器や情報通信網が崩壊して社会は大混乱をきたし、また多くのデジタル・データが失われた。原因である 29Viirus の解析は進まないものの、少しづつ社会および情報通信網は復興・進歩を続けた。

 主人公は木藤桐またはフォギー。音響設計士またはジャズ・ピアニスト。お得意様の山萩貴矢は29Viirus の解析でも有名な科学者で、ロボット製作販売の多国籍企業 Morikiteck に勤めている。彼に架空空間に呼び出されたフォギーは、架空空間にあるジャズの聖地『新宿 Pit Inn』に招かれる。

 これが、世界を揺るがす大異変と、それに巻き込まれるフォギーの大冒険の始まりだった。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2016年6月22日第一刷発行。単行本ハードカバー縦一段組みで本文約642頁。9.5ポイント43字×20行×642頁=約552,120字、400字詰め原稿用紙で約1,381枚。文庫本なら上下巻または上中下の三巻ぐらいの大容量。

 文章はこなれていて読みやすい。内容も特に難しくない。SFガジェットとしては、コンピュータやロボットやAI関係の用語が出てくるが、大半はハッタリなので余り気にしないように。それより、1960年代と新宿とジャズに詳しいと、楽しみが増す。

【感想は?】

 著者、思いっきり楽しんで書いてる。自分の好きなものを山ほどブチ込んで煮たてた闇鍋小説。

 お題は三つ。1960年代、新宿、そしてジャズ。なんたって、謎の人物・山萩貴矢が再現しようとしているのが、1960年代の新宿 Pit Inn だし。

 そもそも新宿ってのは奇妙な所で。同じ東京でも、場所により行き交う人の雰囲気が違う。銀座はお行儀が良くてハイソな雰囲気だし、原宿や渋谷はお洒落な若者・少年少女の街。六本木は同じお洒落でもアダルトな感じで、池袋は埼玉県の植民地で家族連れが多く、秋葉原は趣味の街。

 それぞれの場所に相応しい世代や格好ってもんがあるんだけど、新宿は何でもアリな雑駁さがある。

 品のいいブランド物で歩いてもいいし、金のアクセサリをジャラジャラさせても構わない。パステル・カラーの十代もアリだし、パンクスやヒップホップも溶け込めるし、チェックのシャツにリュック背負ってもいいし、若夫婦が子供の手を引いて歩いてもいい。

 どんな人でも、それぞれの人に相応しい地区や店がある、そんな懐の深さと、底知れなさがある街だ。

 1960年代は、そんな新宿に熱気があふれていた時代。血気にはやる学生は機動隊と衝突し、ゴールデン街では文士がオダをあげ、花園神社ではアングラ劇団がテントで公演を続ける。怪しげで得体のしれない輩が群れ、熱病に浮かされたように闊歩した時代。いや私も直接は知らないけどw

 そんな新宿を架空空間で再現する場面は、読んでて実に楽しい。なんたって架空空間だからして、多少のズルは仕方がない。ってんで、ちょっと時代や場所もアレして…。花園神社オンステージのあたりは、思いっきり悪ノリしてて、前半のハイライト・シーン。いやあ、盛り上がったなあ。

 もう一つのテーマ、ジャズもやりたい放題。私のようにジャズに疎い者でも、名前はよく聞く名プレイヤーが、次から次へと押し寄せて、ノリノリのプレイを魅せる。

 そんな伝説のプレイヤーを相手にしながら、「空恐ろしい」とかいいつつ、ちゃっかり演奏は楽しんじゃうフォギーも鈍いんだか図太いんだかw 憧れのプレイヤーと同じステージに立つってだけで、チビっちゃうでしょ普通。

 このフォギー、日頃は飲んだくれの炬燵猫なのに、謎を秘めた天才科学者の山萩貴矢に見込まれちゃったから、さあ大変。可愛い猫を預けられ、前代未聞の密室殺人事件に巻き込まれ、巨大国際企業に拉致され、しまいにゃ世界の命運まで背負い込む羽目になる。

 にも関わらず、妙にマイペースなのもフォギーらしい所。張りつめた雰囲気が続いた場面でも、語り手の文体が、ときおり「です・ます」調になって気が抜けるなどの工夫も、フォギーの気質と相まって、長い作品の中に独特のユーモラスで軽快なグルーヴを生み出してる。

 などメリハリの利いたリズムで語られる物語の終盤、ライブハウスにスーパースターが雪崩れ込んだ以降の展開は、もう大笑い。兼子氏、ギターが好きなのか。同志よ。

 妖星伝に始まり、大山康晴,古今亭志ん生,フェンダー・ローズ,BVDのブリーフ,ゴジラ,末廣亭,横尾忠則,野獣死すべし,牧伸二など懐かしの人物・キーワード・アイテム満載な上に、コスプレ大好きな天才美少女まで登場し、テーマとアドリブのバランスを取りつつ、世界を揺るがす大騒動を、ゴージャスなプレイヤーによるビッグバンドにのせて送る、悪ノリいっぱいの楽しい作品。

 誰でも溶け込める猥雑な新宿が好きな人と、モダンジャズが好きでエリック・ドルフィーでピンと来る人には、文句なしにお薦め。

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