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2017年4月10日 (月)

アレックス・ヘイリー「プレイボーイ・インタビューズ」中央アート出版社 マレー・フィッシャー編 住友進訳 1

マイルス(・デイヴィス)はレポーターに喧嘩腰の態度を取ることで有名だった。そこで、この敵意を取り除こうと、彼(アレックス・ヘイリー)はマイルスの家にあるジムのリングに上がり、ボクシングのスパーリング・パートナーを二、三ラウンド務めた。
  ――イントロダクション by マレー・フィッシャー

【どんな本?】

 「マルコムX自伝」「ルーツ」で有名なアメリカの小説家・ジャーナリストのアレックス・ヘイリーが、月刊誌プレイボーイの目玉記事として行ったインタビューを中心に、「ルーツ」の抜粋やマルコムXへの哀悼を綴ったエッセイを加えたもの。

 マイルス・デイヴィス,サミー・デイヴィスJr,クインシー・ジョーンズなどの芸能人から、マルコムX,マーチン・ルーサー・キングJr. などの政治運動家、そしてヤンチャな男の子のヒーローであるモハメド・アリまで、アクの強い有名人がズラリと並ぶ豪華なメンバーが揃っている。

 それぞれの専門分野や、家族などプライベートに関する応答ばかりでなく、人種問題や政治信条への突っ込んだ質問も多く、緊張感あふれる応答が繰り広げられる。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は Alex Haley : The Playboy Interviews, 1993。日本語版は1998年7月31日初版第1刷発行。単行本ソフトカバー縦二段組みで本文約431頁。9ポイント29字×24行×2段×431頁=約599,952字、400字詰め原稿用紙で約1,500枚。文庫本なら三冊分ぐらいの大容量。

 文章はこなれていて読みやすい。内容も特に難しくないが、登場する人物とその専門分野に詳しければ、更に楽しめる。

【構成は?】

 それぞれの章は独立しているので、好きな所だけを拾い読みしてもいい。

  • イントロダクション by マレー・フィッシャー
  • 1962年9月 プレイボーイ・インタビュー
    マイルス・デイヴィス
  • 1963年5月 プレイボーイ・インタビュー
    マルコムX
  • 1964年10月 プレイボーイ・インタビュー
    カシアス・クレイ(モハメド・アリ)
  • 1965年1月 プレイボーイ・インタビュー
    マーチン・ルーサー・キングJr.
  • 1965年6月 プレイボーイ・インタビュー
    メルヴィン・ベリー
  • 1966年4月 プレイボーイ・インタビュー
    ジョージ・リンカーン・ロックウェル
  • 1966年12月 プレイボーイ・インタビュー
    サミー・デイヴィスJr.
  • 1967年12月 プレイボーイ・インタビュー
    ジョニー・カーソン
  • 1968年2月 プレイボーイ・インタビュー
    ジム・ブラウン
  • 1976年10月 「ルーツ:血の交わり」
  • 1977年1月 プレイボーイ・インタビュー
    アレックス・ヘイリー
  • 「有名にならなければよかったと思う日もある
  • 1990年7月 プレイボーイ・インタビュー
    クインシー・ジョーンズ
  • 1992年7月 「回想のマルコムX」
  •  訳者あとがき

【全体の感想】

 1960年代の熱気が伝わってくる一冊。まさしく Rolling 60' だ。

 なんたって、インタビュー相手10人中、3人が殺されている。「死んでいる」のでは、ない。テロで殺されているのだ。しかも全て銃で殺されているのも、アメリカならでは。

 札付きのチンピラ白人に射ち殺されたマーティン・ルーサー・キングJr. も切ないが、マルコムX とジョージ・リンカーン・ロックウェルは更に悲しい。黒人のために闘ったマルコムXは、かつての師イライジャ・ムハマドの意を受けた手下に殺され、ジョージ・リンカーン・ロックウェルは元同志に殺されている。

 1960年代のアメリカ。平和運動家はベトナム撤退を求めパフォーマンスを繰り広げ、多くの黒人が抑圧と不平等に対し立ち上がって公民権運動が盛り上がり、と同時に夏の夜ともなれば都市の貧民居住区で暴動が起きた、熱く物騒な時代。

 今はイスラム原理主義者が起こすテロをニュースが騒いじゃいるが、半世紀前はアメリカ人同士が盛んに殺し合っていたのだ。野蛮さじゃどっこいどっこいじゃないか。

 などの時代の空気に加え、それぞれの専門分野での意外な面も覗けて、これがまた楽しい。

【マイルス・デイヴィス】

 演奏中、客を無視しているって言う奴もいるけどな。客が自分の目の前にいることぐらいわかってるさ。でも、演奏中は、自分のホーンをきちんと鳴らす方に気がいってるんだ。

 トップバッターは帝王マイルス。しかし帝王なんて御大層な二つ名とは逆に、音楽に対する姿勢は極めて禁欲的かつ求道的で、音楽が彼の人生を大きく支配していることが伝わってくる。人種問題では煽情的に恨みを吐き出すだけじゃなく…

レストランじゃ、黒人にサービスしなくても白人はへっちゃらな顔をしやがる。ところがどうだい、客がアメリカ人じゃなくアフリカの黒人だとわかるとそれまでとはガラリと態度を変えやがるんだ。

 これを読んで、私はやっとわかった。アメリカの人種問題は、単に肌の色だけの問題じゃない。奴隷を虐げた者の子孫として反撃を恐れる気持ち、おぞましい罪を認めたくない想いが、黒人への差別の根底にあるのがわかるエピソードだ。似たような構図は、この日本にもあるんだけどね。

  といった風に、白人への恨みを抱えているにも関わらず、音楽ではアレンジをギル・エバンスに任せ、「きちんとした演奏さえすれば、顔が緑色をしいていようが、赤い息を吐いていようが構わない」と啖呵を切り、徹底した能力主義を貫いている。音楽が彼の神で、彼はその司祭なんだろうなあ。

【マルコムX】

 人種問題では武闘派の代表格とされるマルコムX。彼は大きく分けて三つの時期がある。チンピラだった少年時代、イライジャ・ムハマドに帰依しブラック・モスレムの中で頭角を現した時代、そして正統派ムスリムとなり穏健な方向に舵を切った晩年。

 このインタビューは、ブラック・モスレムの幹部としてイライジャ・ムハマドへの右腕と呼ばれた頃に行われたもの。皮肉なことに、このインタビュウが契機となりマルコムXの知名度が増し、その台頭を恐れたイライジャ・ムハマドから睨まれてしまう。

 ブラック・モスレムの教義はカルトなんだが、黒人にウケた理由はわかる。中でも、黒人は高潔で優秀だが白人は卑怯で劣悪って主張は、多くの黒人に誇りを与えただろう。さすがに「ベートーヴェンも黒人だ」はどうかと思うけど。

 が、実際に取っている手段は、極めて現実的で効果がありそう、と思わせるもの。まず経済力だと主張し、「黒人が自ら土地を所有しなくてはならない」ときた。そりゃ白人は彼を憎むだろう。権力の本質を見事に捉えているんだから。

 インタビュウでは、何かと「イライジャ・ムハマド師によれば」と、師に心酔している姿を見せながらも、ヘイリーの鋭い突込みを軽くかわし自分の知るエピソードで鮮やかに切り返すあたりは、卓越した知性を伺わせる。ギャングのままでいたら、きっと大きな組織を率いてただろうなあ。

 ハッキリ敵と認識できる人種差別主義者の方が、心の底を見せない統合主義者よりマシ、なんて言っちゃうあたりも、政治運動家としての読みの深さが伝わってくる。政治運動の成否は、それを支える多くの大衆にかかっているんだから。

【カシアス・クレイ(モハメド・アリ)】

 ヘビー級ボクシングの印象を大きく変え、蝶のように舞いハチのように刺す華麗なファイト・スタイルもさることながら、それ以上に、派手なパフォーマンスと大口をたたく事で有名なチャンピオン。

 ボクサーという職業に加えスキャンダラスな言動が目立つので、いささかオツムの中はアレなんじゃ?

 なんて思ってたら、とんでもない。ボクシングをビジネスとして捉え、その世界で成功するにはどうすればいいか、充分に考え抜いた末に極めて戦略的に動いていたことがわかる。そういう点では、矢沢永吉とよく似ている。にしても、ソニー・リストン相手のイチビリはヒドいw

 加えて、リストンとの試合を自己分析する下りでは、「15ラウンドを全力で戦える奴なんてひとりもいないんだよ」から始まって、私のボクシングへの思い込みを綺麗に覆してくれた。そうだったのかあ。なんにせよ、私が思っていたよりはるかに賢い人だった。

【マーチン・ルーサー・キングJr.】

 黒人の地位向上に勤め凶弾に倒れた点ではマルコムXと同じながら、穏健派でもあり「いい子ちゃん」な印象が強いマーチン・ルーサー・キングJr.。

 この本の中では、他の人のキャラクターが強すぎる上に、彼の立場が社会運動家というより政治家に近いためか、ややおとなしげな感はある。が、自らの失敗をあけすけに語ったり、相手の戦術を分析したり、将来の目的を予測するあたりは、政治家としての鋭い観察眼をうかがわせる。例えば…

時間は善意の人間に建設的に利用されるより、邪悪な意思を持った人間に破壊的な方向で利用されている場合が多いように感じます。

 なんてのは、何かを変えようとする者が心得るべき重要な示唆だろう。実例として、南部の権力者の抵抗方法を挙げているのが、更に説得力を持たせている。

 当時は武闘派のマルコムXと対立していたにも関わらず、「権力集団が自ら特権を放棄することはない」とか「アフリカの“兄弟”の間に親密な感情を培」おうとしたり、幾つかの点でマルコムXと同じ見解を示しているのが面白い。

 特に驚いたのは、リベラルな北部と保守的な南部を比べるくだり。現実を直視せざるを得ない南部に対し、北部は抽象的に考える傾向があり、「本当に根の深い偏見や差別は、隠され、巧妙に取り繕われている」なんてあたりは、マルコムXの差別主義者/統合主義者の見解にとても近い。

 南部中心に活動したキング牧師と、北部の都市を中心に闘ったマルコムXの双方が、南北の違いを同じように分析していたのは、偶然じゃないだろう。両者がタッグを組んでいたら…と、つくづく考えてしまう。

【終わりに】

 熱中して書いてたら、無駄に長くなってしまった。次の記事に続きます。

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