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2017年3月 1日 (水)

SFマガジン2017年4月号

生き物や物質が余計な意味を持たないのは素晴らしい。それは、存在そのものに意味があるということだから。
  ――上田早由里「ルーシィ、月、星、太陽」

「俺か。俺はZ80だ」
  ――宮内悠介「エターナル・レガシー」

「人を殺しても、それはただ人のイメージを残してしまうだけだ。そのイコンを。一人の男を殺せば、信仰と信念の何千という胞子が、思想の胞子が世に放たれる」
  ――ラヴィ・ティドハー「最後のウサマ」

 376頁の標準サイズ。

 特集は「ベスト・オブ・ベストSF2016」として、「SFが読みたい!2017年版」で上位に入った上田早由里,宮内悠介,ハーラン・エリスンの短編を掲載。小特集は2017年4月から放送が始まるアニメ「正解するカド」と、「宇宙軍士官学校―前哨―」完結記念。

 そんなこんなで小説は豪華14本。

 まずは特集「ベスト・オブ・ベストSF2016」で三本。上田早由里「ルーシィ、月、星、太陽」,宮内悠介「エターナル・レガシー」,ハーラン・エリスン「ちょっといいね、小さな人間」宮脇孝雄訳。加えて「正解するカド」小特集で野崎まど「精神構造相関性物理剛性」。「宇宙軍士官学校―前哨―」完結記念で、鷹見一幸「オールド・ロケットマン」。

 連載は4本。三雲岳斗の新連載「忘られのリメメント」,夢枕獏「小角の城」第43回,山本弘「プラスチックの恋人」第2回。そして椎名誠のニュートラル・コーナー「らくだ」も、今回はエッセイではなく短編小説だ。

 そして読み切りが5本。谷甲州「航空宇宙軍戦略爆撃隊」後篇,上遠野浩平「製造人間は主張しない」,六冬和生「白昼月」,ラヴィ・ティドハー「最後のウサマ」小川隆訳,カール・シュレイダー「ライカの亡霊」鳴庭真人訳。

 上田早由里「ルーシィ、月、星、太陽」。「華竜の宮」「深紅の碑文」と同じシリーズ。プルームの冬を、人類は越えられなかった。だがルーシィは生き残り、ときおり変異生物に襲われながらも、深海で暮らしている。その中の一人は、上に向かって冒険を試みる癖があり…

 「ルーシィ篇1」とあるので、まだ続く模様。ひゃっほーい! 氷に閉ざされた海でも、それなりに暮らしていたルーシィたちの生き方は、仕事や家庭で色々と悩みを抱えた人にとって、楽園のように思えるかも。ちょっとロジャー・ゼラズニイの「12月の鍵」や「フロストとベータ」を連想させ、大きなスケールを感じさせる作品。

 ハーラン・エリスン「ちょっといいね、小さな人間」宮脇孝雄訳。私は小さな人間を創った。背丈は13cm。小さな人間を創ったのはいい考えだと思ったし、大学の面々や他の人たちも「ちょっといいね」ぐらいの反応だった。だが…

 初出が<レルムズ・オブ・ファンタジー>2010年2月号だから、インターネットでのそういう社会現象は既に知られていた頃なんだけど、むしろ旧来のマスコミがテーマじゃないかと私は思うんだが、どうなんでしょうね。

 宮内悠介「エターナル・レガシー」。若手棋士の葉飛立は、コンピュータ相手の対戦に敗れ、散々に罵られる。対局のない日に飲みに行ったら、ケッタイなお土産を持って帰る羽目になった。髭面のオッサンで、「俺はZ80だ」と言い張る。

 かつてマイコン少年だった人は、腹を抱えて笑い転げる出だし。他にもMナントカとか、○○もできないとか、懐かしのネタがいっぱい。〇〇もソフトウェアでやってたしねえ。あの頃を覚えてる人なら、一度は妄想した事のあるネタを、AlphaGO に絡めて、鮮やかに蘇らせてくれます。

 鷹見一幸「オールド・ロケットマン」。「宇宙軍士官学校―前哨―」外伝で、宇宙軍創設時代が舞台。至高者の降臨で、多くの人類が洗脳されてから一年。洗脳を逃れたわずかな者たちは、国家の壁を越えて協力して抵抗を続け、北極海に集結していた。

 本編を全く知らないんで背景はイマイチわかんないんだが、映像化したら映えそうな場面が目白押し。特に出だしは、あの傑作「レッドオクトーバーを追え」を思い出したり。

 ラヴィ・ティドハー「最後のウサマ」小川隆訳。七人の男に囲まれ、木に吊るされようとしているウサマを、わたしは奪った。生け捕りでなければ報酬は手に入らない。ハンターの腕を見込まれてか、その町で大仕事を頼まれ…

 ウサマは他でもない、アルカイダのボスだったウサマ・ビンラディン。真面目な作品なんだが、「野生のウサマの群れ」で大笑いしてしまった。西部劇っぽい舞台で、銃の腕を買われた賞金稼ぎが、賞金首を狩る話…に見せかけ、キツい社会風刺を込めた作品。

 カール・シュレイダー「ライカの亡霊」鳴庭真人訳。国際原子力機関IAEAの技術者ゲナディは、カザフスタンにやってきた。連れはアンブローズ、ロシアと NASA と Google に追われている、とアンブローズは言う。二年前、ロスアラモスから電子励起爆発物の製法データが盗まれた。これを使えば誰でも水爆が作れてしまう。

 ツァーリ・ボンバ(→Wikipedia)は1961年なんで、微妙に歴史の違う世界が舞台なのかな? 作者は「太陽の中の太陽」の人。旧ソ連の宇宙開発を担ったバイコヌール基地があるカザフスタンなんて、相当にマニアックな舞台だが、仕掛けはお馬鹿スレスレの大風呂敷。うはは、そうきたかあ~。

 野崎まど「精神構造相関性物理剛性」。2017年4月放送開始予定のアニメ「正解するカド」のスピンオフ。農水省の職員向けの蕎麦屋に、30年間勤めたが、店を閉める事になった。幸い失業するわけではなく、別の店に職場が変わるだけだが…

 5頁の掌編。これだけ読むと、ごく普通の短編小説なんだが、主人公はアニメに出てくる人なのかな? そばを茹でて30年、愚直に勤めてきたというのに、客の世代が変わったせいか、七軒のうちの唯一の閉店とはブツブツ…と悩む主人公のオジサンは、なかなか身に染みる。

 椎名誠のニュートラル・コーナー、今回の「らくだ」は短編小説。老いたラクダに乗って砂漠を旅する男。といっても背に乗るわけじゃなく、子宮の中に潜り込んでいる。って、確かにラクダは頑健な動物だけど、婆さんラクダも災難だw

 山本弘「プラスチックの恋人」第2回。少年少女の格好をしたセックス用アンドロイド、オルタマシンの取材を請け負った長谷部美里は、尻込みする己を叱咤しつつ現場ムーンキャッスルへと向かう。真っ黒なガラスに覆われた直方体で、冷たい印象のある建物に入っていくと…

 初めての風俗店、それも高級なシロモノにドギマギする主人公が、なかなか可愛らしい。取材者にビギナーを選んだのが正解だったのかどうかは、なかなか難しい所だけど、これはこれで話題になる記事が書けるんじゃなかろか。「まさに“ヒトごと”」には笑った。

 三雲岳斗の新連載「忘られのリメメント」。Re:MEMENTO、リメメント、疑憶体験。映像や音声に加え、味覚・触覚を含め、更に感情までも記録できる技術。媒体のMEMを顔に貼りつけるだけで、二時間ほどを記録できる。MEMアーティスト=憶え手(メンター)として成功したシンガーの深菜は、ボスのミーシャに呼び出され…

 こうやって作品を紹介しようとすると、改めて仕掛けの多さ・複雑さを感じるんだが、そういう面倒くさい舞台背景や設定の説明を、お話を途切れさせずに埋め込むテクニックは見事。にしても、欲しいねMEM。私としてはミュージシャンならパコ・デ・ルシアの絶技を…

 上遠野浩平「製造人間は主張しない」。前号の「交換人間は平静を欠く」の後篇。コノハ・ヒノオを誘拐した交換人間ミナト・ローバイは、国際複合展示会の会場に現れた。ミナトは語る。ヒノオが中枢(アクシズ)として統和機構に君臨することになる、と。

 新しいモノを開発してるエンジニアには、ウトセラ・ムビョウの台詞が、いちいちムカつく回w まあアレだ、確かに展示会とかの晴れやかな場だと、広報や営業さんが満面の笑みをたたえて、何やらカッコいい事を言うけど、裏方は色々と大変でw

 六冬和生「白昼月」。月の唯一の都市は、国連主導の越境合同事業の学園都市として成り立っている。ジニイ・戸田はここで探偵業を営んでいるが、来る仕事は買い物代行やらゴミを分別しない輩の不届き者の捜索やら。今回はシャトルで月都にやってくるオッサンのお迎え。

 若いのに芸風が多彩な人だなあ。今回は、「松本城、起つ」に少し似た、ちょっとユーモラスな語り口で、シケた探偵さんが巻き込まれる騒動を描くもの。特に「聞いちゃいない」おばちゃん・おじさんのキャラがいいw

 谷甲州「航空宇宙軍戦略爆撃隊」後篇。閑職から特務艦イカロス42の艦長に引っぱりだされた早乙女大尉だが、肝心のイカロス42は元探査機の老朽艦、乗務員は不愛想なフェレイラ一曹と謎の民間人ガトーだけ。状況的に作戦計画は不適切と考えた早乙女大尉は…

 コロンビア・ゼロ奇襲で先手を取られた、航空宇宙軍側の視点で描かれる物語。冷や飯食らいのデスクワークから、いきなり前線での艦長職ってあたりが、航空宇宙軍の人材不足を感じさせる。もっとも、軍に優れた人材が集まる世相ってのも、あまし嬉しくないけど。

 …って、あれ? 博物館惑星は連載じゃないの? 期待したのにぃ。いっそ頁数増やしてほしいなあ。

 「正解するカド」プロデューサー野口光一インタビュウ。「メインキャラクターはCGで、それ以外には作画(手描き)のキャラもいます」ってのが意外。モブこそCGで手早く片づけるのかと思ったが、CGの方が放送回ごとのデザインのブレが少ないとか、そんな理由なのかな?

 「裏世界ピクニック ふたりの怪異探検ファイル」刊行記念 宮澤伊織インタビュウ。いいねえ、「断絶への航海」。今思えば、あれはリバタリアン流ユートピアだよなあ。「自分が中高生のころ好きだったものを今の読者に向けて書きたい」、いいじゃないですか。エリック・クラプトンも結局ブルースに戻ったし。

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