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2017年2月 7日 (火)

京極夏彦「豆腐小僧双六道中 おやすみ」角川文庫

「この道はこおしゅうという道なんでございますか。眺めがいいですねえ」

【どんな本?】

 妖怪マニアの京極夏彦が、妖怪・豆腐小僧を主人公に描く、滑稽妖怪物語その二。

 無駄に大きな頭に笠をかぶり、意味もなく紅葉豆腐が載った盆を掲げる、ただそれだけの妖怪・豆腐小僧。時は幕末、江戸郊外のあばら屋に沸いたはいいが、「自分は何だろう」などと思い悩み、騒動に巻き込まれた挙句に思い立ったは自分探しの旅。

 父の見越し入道のような立派な妖怪になるべく、なんとなく縁が出来たイカサマ山伏の玄角と天狗弟子入り志望の権太の後をつけ、甲州街道を下ってゆくが…

 マニアならではの濃い蘊蓄と軽妙な語りにのせて展開する、ドタバタ妖怪コメディ。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2011年3月に講談社より単行本「豆腐小僧双六道中 おやすみ 本朝妖怪盛衰録」として刊行。これに加筆訂正し2013年7月25日に文庫版が角川文庫より初版発行。文庫本で縦一段組み本文約692頁に加え、香川雅信の解説7頁。8ポイント42字×18行×692頁=約523,152字、400字詰め原稿用紙で約1,308枚。文庫本なら上下巻か上中下巻でもいい巨大容量。

 文章はこなれている。マニアならではのこだわりを感じさせるややこしい屁理屈はあるが、基本的にコメディなので、わからなかったら特に気にしなくてもいい。

 また、続き物だが、これから読み始めても特に問題はない。前巻から引き続き出てくるキャラクターも多いが、ウザくない程度に本文中で必要な設定を紹介している。

【感想は?】

 ギャグはリズムとテンポが大事。

 だから、極論すれば、リズムが合うか合わないかで好みが決まる。これは半ば生理的なもので、言葉で説明するのは難しい。

 このシリーズだと、1970年代後半の歌謡曲のテンポだと思う。ギャグもあの頃の流行りものをネタにしたのが多いし。という事で、そういう年頃の人向けかも。

 また、語り口が講談調というより落語調で、それも江戸前。寄席まで行かなくてもいいけど、ラジオやテレビで落語を楽しんだ経験があると、更に楽しめる。渋い年配の噺家ではなく、歳の頃はせいぜい40代~50代の、技と体力が拮抗し脂が乗りきった噺家って感じがする。

 お話は、甲州街道をゆくエセ山伏の玄角と天狗弟子入り志望の権太に加え、豆腐小僧・滑稽達磨・猫股が、変な奴らの変な騒ぎに首を突っ込み、そこに妖怪変化が巻き込まれる、そういうお話。まあコメディというかギャグ物なので、極論すればストーリーなんかどうでもいい。

 最初はのんびりしたボケの豆腐小僧に、せわしない滑稽達磨が突っ込みを入れ、婀娜な三毛姐さんが冷やかすパターンだが、話が進むにつれ人も化け物も増えてきて、それだけリズムも複雑かつ賑やかになってゆく。

 私がこの巻で最も心地よかったのは、村の百姓達。ほとんど名前もない、いわばエキストラなんだが、要所要所で彼らが入れる合いの手が、聞き間違いと勘違いと思い込み、そして脱線と先走りで、話をどんどんややこしくしていくのが可笑しい。

 音楽だと、ドラムとパーカッションの掛け合いが曲調を絶え間なく変化させつつ、テンポが次第に上がっていくって感じかな? いいずれもテーマは全く進まないんだけど、可笑しければいいじゃん、と、そういう姿勢で読む本です、はい。

 勘違いネタは随所に出てくるが、中でも一番笑ったのは、吉蔵と権太が出会う場面。初対面の相手を見くびったり買いかぶったりするのはよくある事だけど、こういう風に互いが勘違いしながらも一見スムーズに会話が進んじゃうってのは…

 おまけに、ここで妖怪まで舞台に上がってくるんだが。いくら妖怪といえど、この扱いはあんまりだw

 などの妖怪のゲストも今回は色とりどり。ボケ役豆腐小僧,突っ込み役の滑稽達磨,冷やかし役の猫股姐さん&飯綱権現などレギュラー陣に加え、アクティブなボケのカンチキ,妙にサバけた八咫烏,勢いだけはいい八牛,呑気なボケの小豆磨ぎなどの賑やかなゲスト、そしてまたも暴れます狐と狸。

 いずれも妖怪マニアの京極夏彦だけに、それぞれの由来や蘊蓄を詳しく教えてくれるのも、好きな人には嬉しいところ。中にはご当地限定のレアな奴もいて…

 とか難しい話はともかく、基本はノリとリズムで笑わせる作品なので、やっぱりギャグの波長が合うかどうかが評価の分かれ目だろうなあ。

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