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2017年1月 8日 (日)

サイモン・ガーフィールド「オン・ザ・マップ 地図と人類の物語」太田出版 黒川由美訳

地図が人を魅了するのは、そこに物語があるからだ。
  ――序文 地図を愛する人々のために デーヴァ・ソベル

一時期、カリフォルニアはアメリカのほかの地域とはまったく異質な土地として知られていた。よりによって、ここは島だと思われていたのだ。
  ――島としてのカリフォルニア

ロバート・ルイス・スティーヴンソン「地名、森の形状、道筋や川の流れ。丘や谷にはっきり残った先史時代の人類の足跡。製粉所や遺跡、池や渡し船。荒れ地に建てられた石、またはドルイド教徒の円形遺跡……。地図は、それを見る目か、理解できるだけの想像力がある人にとっては、無限の興味をかきたててくれるものである」
  ――13 宝島、×印の場所を探せ

アレックス・カム「地図を教育に使う、今はこれが熱いんですよ!」
  ――19 世界最大の地図ディーラー、世界最悪の地図泥棒

この55年のあいだにパトリック・ムーアが執筆したこれらの本には、火星がテーマであるということ以外に、共通点がひとつある。それは、どの本もほかの本の内容をほぼ完全に否定していることだ。
  ――火星の運河

コンピューターゲームの地図は、古代の<マッパ・ムンディ>と同じくひとつの物語を表しているのだ。
  ――21 ビデオゲームと未来の地図

リチャード・ドーキンス「人類の祖先はほかの類人猿が越えられなかった重要な壁を越えたが、それを後押ししたのは地図だったのではなかろうか?」
  ――22 脳の地図を描く

【どんな本?】

 観光ガイドマップ,地下鉄路線図,デパートの売り場案内図,Google Map,宝の地図。世の中には様々な地図が、様々な目的で作られていて、それぞれが別々の物語を秘めている。

 今まで人類はどんな地図を、どうやって作ってきたのか。誰がどんな目的で買い求め、どう使ったのか。現在の地図のようになるまで、どんな経緯を辿ったのか。そんな地図の歴史に加え、地図を売り買いする地図ディーラーたち・地図が変えた旅行の形・物語の中の地図、そしてカーナビから Google Map まで、地図にまつわる面白ネタや地図の楽しみ方を集めた、一般向けの解説書。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は ON THE MAP : Why the World Looks the Way it Does, by Simon Garfield, 2012。日本語版は2014年12月11日第1版第1刷発行。単行本ソフトカバー縦一段組みで本文約406頁に加え、訳者あとがき4頁。9ポイント48字×19行×406頁=約370,272字、400字詰め原稿用紙で約926頁。文庫本なら上下巻でもいい分量だが、図版を豊富に収録しているので、実際の文字数は8~9割ぐらい。

 文章はこなれている。内容も特に難しくない。東京の複雑な鉄道路線図に悩んだり、旅行ガイドブック片手に観光地を歩いたり、ゲームでダンジョンを探索してマップを埋めていったりなど、地図に関する思い出があれば更によし。

【構成は?】

 だいたい時系列順に並んでいるが、それぞれの章はほぼ独立しているので、美味しそうな所をつまみ食いしてもいい。

  • 序文 地図を愛する人々のために デーヴァ・ソベル
  • プロローグ 新たな地図が浮かびあがる
  • 1 いにしえの賢人たちの功績
  • 2 世界を売った男たち
  • 3 概念としての世界地図
  • 4 ヴェネツィアと中国の地図
  • 5 ヴィンランドの謎
  • 6 アメリゴへようこそ
  • 7 メルカトルの投影図
  • 8 本になった世界地図
  • 9 シティ・マップを作る
  • 10 陸地測量局をめぐる物語 定まりゆく座標
  • 11 伝説のコング山脈
  • 12 コレラの感染を止めた地図
  • 13 宝島、×印の場所を探せ
  • 14 世界最悪の旅、地図のない最後の地へ
  • 15 ミセスPと『ロンドンA-Z』
  • 16 誰もが携帯する地図 旅行ガイド略史
  • 17 カサブランカ、ハリー・ポッター、そしてジェニファー・アニストンの家
  • 18 超大型の地球儀を作る
  • 19 世界最大の地図ディーラー、世界最悪の地図泥棒
  • 20 いかにしてカーナビは普及したのか
  • 21 ビデオゲームと未来の地図
  • 22 脳の地図を描く
  • エピローグ いつでもどこでも自分の居場所がわかる地図
  •  訳者あとがき
  • Pocket Map
    • 時は1250年、私は巡礼の旅に出る
    • ここはドラゴンの地
    • 島としてのカリフォルニア
    • 秘密にされたドレークの世界一周
    • ライオンとワシとゲリーマンダー
    • 19世紀のマーダー・マップ
    • ベンジャミン・モレルの浅はかな嘘
    • バークとウィルズのオーストラリア大陸横断
    • ベックのロンドン地下鉄路線図
    • ピーターパンの作者は、ポケット地図を折りたためなかった
    • 絵本に隠された宝の地図
    • チャーチルのマップルーム
    • 女は本当に地図が読めないのか
    • 火星の運河

【感想は?】

 幼い頃、宝の地図を作ったことがある。オモチャなどを地面に埋めて、立ち木や曲がり角などの目印を書き入れ、お宝の場所には×印をつけた。あの頃のワクワクする気持ちが、蘇ってくる。

 そう、地図には何か人を引きつけるものがある。そこには、何か新しい世界が広がっている。

 自転車に凝り始めた頃は、国土地理院の地勢図を買った。色々と無愛想だが、等高線が入っているので、坂のキツさがわかって便利なのだ。走った経路を赤で書き入れ、次のルートを考えるのも楽しみの一つだった。

 この本の物語は、古代アレクサンドリアの図書館から始まる。パピルスの供給地でもあったのが幸いし、多くの書物を集めた。エラトステネス(→Wikipedia)の地図は、不明な所は空白のままとしたが、クラウディウス・プトレマイオス(→Wikipedia)が困った習慣を持ち込む。空白を想像で埋めたのだ。

 無名の者ならともかく、天下のプトレマイオス様が書いたことに間違いはあるまいと信じた後世の者は、お陰で大変な苦労をしょい込む羽目になるし、地図を作る者にもこの悪癖が受け継がれちまうから被害は甚大だ。

 おかげでマッパ・ムンディ(→Wikipedia)などでは、ユニコーンやマンドレイクやスフィンクスなど、奇矯な化け物が並んでいたりする。「山海経」もそうだけど、遠い所にはケッタイな生き物がいると考えるのは、洋の東西を問わないらしい。

 旅行ガイドは、13世紀に既に登場している。修道士マシュー・パリス(→英語版Wikipedia)が、エルサレムへの巡礼向けガイドブックを書いている。ここでの「旅程」が、ラバで一日で移動できる距離なあたりが、なかなか実用的。にしても、ラバも大変だ。

 ヴィンランド(→Wikipedia)再発見にも、地図がかわっていた。その名もズバリ、<ヴィンランド地図>なるものが発掘されたのだ。ただしこれで「イタリア人やイタリア系アメリカ人が激怒」したあたりは、ちょっと笑ってしまう。

 プトレマイオスの因習はカリフォルニアを島にしたりするが、現代ではワザと間違いを入れたりする。現代ロンドンの街路地図「ロンドンA-Z」では、「セキュリティ目的の架空の道路」を加えているとか。パクられたら、これを証拠にすればいい。確か似たようなことをゼンリンもやっているとか。

 この辺まで読んでくると、そこまでしてパクリを防ぐ理由もわかってくる。ロンドンA-Zの母ミセスPことフィリス・ピアサルの伝説では、「夜明けから、ロンドンに二万三千本あるという街路を歩く旅を始めた」ことになっている。初版は自費で一万部を刷ってから、売ってくれる店を探すあたり、なかなか強気。

 こういった「普通の人が使う地図」の話は、「『ぴあ』の時代」の<ぴあマップ>でも出てきたなあ。次の貧乏旅行者向け旅行ガイド「ロンリープラネット」「ラフガイド」だと、扱う地域の広さに対し資金が足りず…

ネパールのある村の場合は、ガイドブックの調査員がナプキンにさっと描いた絵が唯一の地図だったりする

 なんてのも、「『地球の歩き方』の歩き方」や「あの日、僕は旅に出た」とカブってたり。

 目的によって全く異なるのも、地図の面白い所。ぴあだと大事なのは映画館や劇場で、旅行ガイドだと飯屋やホテルになる。「犯罪は『この場所』で起こる」だと、近所の安全マップを作ろうなんて話も出てきた。

 今はデジタル化・オンライン化で紙の地図ビジネスは難しいようだが、こういった視点の違いを活かした情報ビジネスで生き残りを図っている模様。Ingress やポケモンGOなど、現実に「違った次元」を重ねる手法も出てきたしねえ。

 ニワカ軍ヲタとしては、第二次世界大戦でミシュランやモノポリーが果たした役割や、ニカラグアのコスタリカ侵攻の際のイチャモンなど、物騒な話も面白かった。自分でも近所の特殊地図を作りたくなる、そんな本だ。とりあえず猫のナワバリ地図とか面白そうだなあ。

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