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2016年12月27日 (火)

SFマガジン2017年2月号

中村悠一「アフレコ現場ってなんかいつも力試しされてますよね。『お前は何を持ってきたの?』っていう(笑)」
  ――キャストが語る劇場アニメ『虐殺器官』 中村悠一×櫻井孝宏

だれにも市場をコントロールできないのは、だれにも市場を理解できないからだ。
  ――セス・ディキンスン「力の経済」金子浩訳

「ウルトラセブン抜きのウルトラセブンが見たい」
  ――『放課後地球防衛軍1 なぞの転校生』刊行記念 笹本祐一インタビュウ

 376頁の標準サイズ。特集は映画「虐殺器官」公開を記念して、ディストピアSF。

 小説は9本。まずはディストピアSF特集で3本、韓松「セキュリティ・チェック」幹瑤子訳,セス・ディキンスン「力の経済」金子浩訳,デイヴィッド・エリック・ネルスン「新入りは定時に帰れない」鈴木潤訳。

 連載は3本。夢枕獏「小角の城」第42回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第13回に加え、山本弘「プラスチックの恋人」が新連載。

 加えて読み切り3本。上遠野浩平「交換人間は平静を欠く」前編,宮沢伊織「異世界ピクニック ステーション・フェブラリー」に加え、菅浩江「博物館惑星2・ルーキー」第一話 黒い四角形。いや博物館惑星2は連載だよね、ね!

 『虐殺器官』関係じゃ、監督の村瀬修功インタビュウとチーフプロデューサーの山本幸治インタビュウが、製作現場の修羅場を生々しく伝えてる。興行収入の数字やスタジオでカチあった作品名が具体的に出てきて、「おお、アレか」と思ったり。

 韓松「セキュリティ・チェック」幹瑤子訳。近未来のアメリカ。ニューヨーク市内のあらゆる所に地下鉄駅があり、入り口では厳密なセキュリティ・チェックを受ける。増える凶悪事件に対応するため、徹底的な警備体制が取られたのだ。だが、そのセキュリティ・チェックを素通りした女がいる、との噂が…

 現代日本でも監視カメラが増えているし、空港でのチェックも厳しくなる一方だ。そういう自由と安全のトレードオフを扱った話かと思ったら、後半はアサッテの方向にスッ飛んでいった。

 セス・ディキンスン「力の経済」金子浩訳。レイドが子供のころ、ルームの侵略が始まった。人にとりつき、惑星を乗っ取る、そう言われている。ルームを阻止するため、人はドローンを飛ばす。人を監視し、ルームを見つけ、ミサイルで片づける。すべて自動だ。

 今のパソコンでも、意味不明な挙動はいっぱいあって、それに惑わされる事もしばしば。ブラウザで怪しげなサイトを開くと、アレなプログラムがセキュリティ・ソフトと暗闘を繰り広げ、画面が凍ったり。アレなサイトが見れないぐらいはたいした事ないけど、暮らしの中に入ってきたら…

 デイヴィッド・エリック・ネルスン「新入りは定時に帰れない」鈴木潤訳。ポータル。過去と現在をつなぐトンネル。某企業は、これの巧い使い方を思いつく。現代人は賃金が高い。なら過去から労働者を連れてくればいい。人事のテイラーは、新人のディークを連れ、今日もオリエンテーリングに勤しむ。

 タイムトラベル物の話はたくさんあるけど、この発想はなかったw にしてもテイラー、あらくれを前にしてきわどいジョークとは無謀なやっちゃ。

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第13回。ハンターによる均一化は、ひそかに、だが着々と、思いもよらぬ規模で進んでいた。しかし、ハンターの狙いは、もっと大きい。そのカギを握るのは弁護士事務所フラワー・カンパニーの所長マーヴィン・フラワーと、その用心棒ダンバー・アンバーコーン。

 今回の目玉はコーンことダンバー・アンバーコーン。フリーランスのエンハンサーで、今はフラワーの警護を請け負っている。性格はともかく、稼ぎ方はまっとうだよね。まあ雇い主によるけど。

 山本弘「プラスチックの恋人」。オルタマシン、ハイテクにより実現したロボットのダッチワイフ。いささか値が張るため、専用施設で時間貸しされる。その未成年形態は、日本でサービスを始めた。ただしボディ形状は公開されていない。これには法的な問題があり…

 表現規制問題を風刺した作品かな、と思ったが、なかなかどうして。ヒトの認識や施設運用の工夫などは、著者らしく充分に消化してる。施設で運用ってのも理にかなってるし。特に舞台裏である10階の描写は、なまじリアルっぽいだけに、妙におかしかったり。とまれ、この著者だけに、どんな球を隠してるのか、楽しみ。

 上遠野浩平「交換人間は平静を欠く」前編。出資者を探しに出たパーティーで、カミンスキイ博士は妙な男に絡まれる。ミナト・ローバイと名乗る男は語った。「世界は交換で成り立っている」と。それだけではない。「あなたの価値も知っている。ケチな社会心理学者のカミンスキイ博士ではなく…」

 「最強人間は機嫌が悪い」に続く、統和機構の例のシリーズ。そろそろシリーズ名をつけて欲しいなあ。この人の作品は他のシリーズの話と細かい所がつながってたりして、なかなか全貌が掴めないんだけど、嵌り込んだら泥沼なんだよね。

 菅浩江「博物館惑星2・ルーキー」第一話 黒い四角形。兵頭健、博物館惑星の新人警備員。今日は絵画・工芸部門のイベント、「インタラクティブ・アートの世界」に出向いている。今回の目玉は楊偉の『glob+eal』『黒い四角形』と、ショーン・ルースの『いざ、楽園へ』。そのショーンは、楊偉を師と崇め…

 内気で引っ込み思案のショーンと、そのパトロンでやり手のマリオ・リッツォのコンビがいい。特にマリオ。名前から南欧系っぽい陽気で強引な印象があるんだが、やっぱりw 今度のシリーズは学芸員ではなく警備員が主人公。「芸術が何であるかもよくわからない」って悩みは多くの読者の共感を呼びそう。かくいう私もそうだけど。で、次の掲載は、いつ?

 宮沢伊織「異世界ピクニック ステーション・フェブラリー」。空魚と鳥子は新宿の居酒屋にいる。第二回裏世界遠征からの無事帰還を祝っての打ち上げだ。何やら店員の言葉が怪しいと思いつつ、とりあえず外に出て駅へと向かうが、夜の新宿にしてはどうもおかしい。

 ネットを漂う都市伝説をネタに怪しげな世界を描くこのシリーズ、今回のネタはきさらぎ駅(→ピクシブ百科事典)。体が馴染んだのか、空魚も鳥子も今回はすんなりと異世界にいけたようで、喜ばしい…わきゃないw そんな事態になっても連中の対応はアレで、それなりに鍛えられてるんだろうけど、やっぱり勝手が違い過ぎるよな。

 『天冥の標Ⅸ ヒトであるヒトとないヒトと PART2』刊行記念 小川一水インタビュウ。なんと2018年に「導きの星」がアニメ化とか。あの可愛らしいスワリスに会えるのか。でも「天冥の標」完結編も2018年ってのは切ない。とまれ、数巻にまたがる大長編になりそうな雰囲気。

 友成純一の「人間廃業宣言」。今回は第49回シチェス・ファンタ・レポート。「釜山行き列車」は走る列車の中でゾンビと戦うって、「甲鉄城のカバネリ」かい!と思ったが、中身は全然違ったw イタリア映画 They Call Me Jeeg は、「鋼鉄ジーグ」のオマージュで、チンピラが無敵の力を手に入れ…ってお話。ジーグのファンには嬉しい作品だろうなあ。

 香山リカ「精神の中の物語」第26回 カジノ依存症の恐怖。いつもながら政治ネタで、ギャンブル依存症の話なんだが、これの対策が「一瞬たりともッヒマができないように」する事ってあたりが、アルコール依存症と同じで、依存症の対策ってみんな似たようなもんなんだなあ、と思ったり。

 鹿野司「サはサイエンスのサ」247回 AIでかわるもの。AIが小説を書いたって話もあり、過去にウケた作品を分析して云々ってシステム、だいぶ昔にハーレクイン・ロマンスが実用化してたはず。ネタはDB化されてて、プログラムがネタを組み合わせて大筋を作り、人間が仕上げる、みたいな形だったかな? そういう需要もあるんです。いろんなジャンルの中で最も自動化が難しいのはギャグ物だと思うんだが、どうなんだろ?

 巽孝之「2016ワールドコン・レポート オズの国の一駅手前 第74回世界SF大会ミダメリコンⅡ日記」。「叛逆航路」が大ヒットしいたアン・レッキー、野尻抱介や小川一水も読んでいるとか。私がクローンで復活を望むのはバナナのグロスミッチェル…と思ったら、流通が少ないだけで滅びちゃいなかった。ああ、よかった。

 横田順彌「近代日本奇想小説史 大正・昭和篇」第29回 大正末期のジュヴナイル小説4。今回はなんと野村胡堂。そう、あの銭形平次の野村胡堂。なんと彼が、少年向けの冒険小説で月へ行く小説を書いている。書ける人ってのは、なんでも書けるんだなあ。

 次号からはあの三雲岳斗が連載。よく原稿が取れたなあ。塩沢さん、何か弱みを握ったのか←をい

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