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2016年12月 9日 (金)

フレドリック・ブラウン「さあ、気ちがいになりなさい」ハヤカワ文庫SF 星新一訳

ピートは正しかった。もっとも、まちがっていたという点についてだが。
  ――電獣ヴァヴェリ

「じつは、ぼくはナポレオンなんですよ」
  ――さあ、気ちがいになりなさい

【どんな本?】

 意表を突くアイデアと皮肉なオチで、SF黄金時代に多くの読者に愛されたフレドリック・ブラウン。彼のキレのいい短編を、やはり短編の名手・星新一による翻訳という黄金コンビで実現した、日本独自の短編集。

 いずれもキャラクターよりアイデア重視の作家だけに、軽く読めるものの、後で落ち着いて考えると実はかなりブラックな話が多い。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 1962年10月に早川書房より<異色作家短編集>として単行本が刊行。2005年10月、新装版を刊行。文庫版は2016年10月25日発行。文庫本で縦一段組み、本文約326頁に加え、訳者あとがき3頁+坂田靖子の解説7頁。9ポイント40字×17行×326頁=約221,680字、400字詰め原稿用紙で約555枚。標準的な文庫本の分量。

 翻訳物ながら文章は抜群の読みやすさ。SF的なガジェットも出てくるが、小難しく考え込むシロモノはない。ドラえもんが楽しめる人なら、充分に読みこなせる。

 なお、収録作中の五編を短編集 Angels and Space Ship より、四編を Space on My Hands より、三篇を Mostly Murder より選出。

【収録作は?】

 それぞれ 作品名 / 元題 / 初出 の順。

みどりの星へ / Something Gone / Space on My Hands, 1957
 辺境の星クルーガー第三惑星に不時着したマックガリー。ここは真紅の太陽・紫の空・褐色の平原・赤い森と、緑に欠けた世界だった。以前にもここに宇宙艇が着陸した記録があり、その宇宙艇を探しマックガリーは五年も一人で惑星上を彷徨っていた。
 改めて考えると地球の風景はなかなかカラフルで変化に富んでるよなあ。青い空、白い雲、緑の草原、黒や灰色のアスファルト、ドギつい色の広告…。
ぶっそうなやつら / The Dangerous People / Mostly Murder, 1951
 田舎町の理髪店でベルフォンテーン氏はサイレンを聞いた。理髪店の主人によれば、5マイルほど離れた病院から、狂った犯罪者が脱走したらしい。急いで町を離れようとベルフォンティーン氏は駅へ向かう。が、凶悪犯も早く町を離れたいだろう。とすると、凶悪犯も…
 駅ったって新宿駅みたく常に人がうじゃうじゃいる駅じゃなくて、せいぜい数人しかいない小さな駅なのがミソ。人込みの中に紛れ込めるならともかく、少人数の見知ら開ぬ同士ってのは、なかなか気まずいもので。
おそるべき坊や / Armageddon / Unknown 1941年8月号
 オハイオ州のシンシナティ市。ここでは、やがて人間と悪魔の決戦が行われる。殊勲者はいたずら小僧のハービー坊や、メイン・ウェポンは買ったばかりの水鉄砲。その日、ハービー坊やは両親と一緒に手品のショーを見に行き…
 ええ、世界では私たちの知らない所で大変な事が起きてるんです。たいていは本人すら知らないうちに。にしても、世界を救ったむくいがこれとはヒドいw
電獣ヴァヴェリ / The Waveries / Astounding 1945年1月号
 ラジオの広告コピーライターのジョージ・ベイリーは、ボスのJ・R・マッギーの命令で、商売敵の作った広告をラジオで聞いていた。その日の広告には、妙な雑音が入る。ト・ト・トと。これが侵略開始の合図だった。
 異形のエイリアンによる、奇妙な侵略を描いた作品。実はSF史上最強のエイリアンかもw
ノック / Knock / Thrilling Wonder Stories 1948年12月号
地球上で最後に残った男が、ただひとり部屋の中にすわっていた。すると、ドアにノックの音が……
 どう続くのかは、読んでのお楽しみ。
ユーディの原理 / The Yehudi Principle / Astounding 1944年5月号
 チャーリーが奇妙な発明品を持ってきた。ユーディの原理で動くという。鉢巻きみたいな形の機械だ。働き者の小人さんのように、頼んだことをやってくれる。ただしビルを移すなどの無茶な事はできない。また小人さんはあまり賢くないので…
 こういうのに出てくる発明家ってのは、頭がいいんだか悪いんだかよくわからないのが定番で。なんだってよりにもよってハンクなんかに相談するw
シリウス・ゼロ / Nothing Sirius / Captain Future 1944年4月号
 シリウスをめぐる二つの惑星、フリーダとソアでの商売は上々だった。女房と娘のエレンは帳簿をつけている。そこにロケット操縦士のジョニーがきた。なんと未発見の惑星があるという。さっそく新惑星に向かうと…
 銀河を駆け巡る行商の家族って出だしから、当時のSFの臭いが強烈に漂ってくる作品。彼らが降り立つ惑星も、ブラウンならではのイカれた風景でw
町を求む / A Town Wanted / Detective Fiction Weekly 1940年9月7日号
 奥の部屋じゃ市会議員のヒギンスと警官のグレンジが、一杯やりながらポーカーを楽しんでる。俺の用事は二階にいるボスだ。アニーは既に片づけた。そろそろ手を広げてもいい頃だと俺は思うんだが…
 ブラウンには珍しく風刺のきいた作品。でも語り口が上品なのは、ブラウンの芸か星新一の味なのか。
帽子の手品 / The Hat Trick / Unknown 1943年2月号
 ホラー映画を観たあと、エルジーとボブ・メイとウォルター二組のカップルは、エルジーのスタジオで飲み始めた。エルジーのリクエストでボブがトランプ手品を披露したのがトラブルのはじまりで…
 「タネもシカケもありません」
不死鳥への手紙 / Letter to a Phoenix / Astounding 1949年8月号
 18万年のあいだ、私は四千回の人生を繰り返してきた。元は普通の人間だった。事のはじまりは第一次原爆戦で、当時の私は23歳だった。さいわい、その時の戦争は、それほど極端じゃなかったが…
 発表は1949年で、第二次世界大戦が終わり冷戦へと向かう頃。アメリカばかりでなくソ連・イギリス・フランスなど世界各国が原子爆弾の開発に向けしのぎを削っていた時代。
沈黙と叫び / Cry Silence / Mostly Murder, 1951
 その駅にいるのは私を含めて四人。農民らしい背の高い男は話しかけても返事をしない。駅長と作業服の男は議論を戦わせている。誰もいない森の奥で木が倒れたら、その音は存在するのだろうか。列車は遅れている。
 「ぶっそうなやつら」同様、小さな駅で偶然に出会った者同士の会話で進むお話。そういえば星新一も人殺しの話が多いなあ。「殺し屋ですのよ」とか。
さあ、気ちがいになりなさい / Come and Go Mad / Weird Tales 1949年7月号
 新聞記者のバインは、編集長のキャンドラーから奇妙な話を持ち込まれる。元は精神病院の院長を務めるランドルフ博士。博士の病院に患者を装って潜り込み、ネタを掴んでほしい、と。だがどんなネタなのかは一切不明で…
 主人公のバイン君の仕掛けが凝ってるが、ブラウンの凝り性は更にアレで。
訳者あとがき
解説:坂田靖子

 1940年代~1950年代の作品なので、電話や汽車などの舞台設定や小道具こそ古びちゃいるが、肝心のメインのアイデアは今でも充分に面白いのが、この時代のSFの特徴。特にブラウンはアイデアの切れ味と構成で勝負する作品が多く、今後も愛され続けるんだろうなあ。

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