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2016年12月22日 (木)

宮内悠介「スペース金融道」河出書房新社

わたしたち新星金融は、多様なサービスを通じて人と経済をつなぎ、豊かな明るい未来の実現を目指します。期日を守ってニコニコ返済――

宇宙だろうと深海だろうと、核融合炉内だろうと零下190度の惑星だろうと取り立てる。

バクテリアだろうとエイリアンだろうと、返済さえしてくれるなら融資をする。そのかわり高い利子をいただきます

【どんな本?】

 「盤上の夜」で日本SF界に燦然とデビューした宮内悠介による、スペース金融ギャグSF連作短編集。

 人類が他の恒星系にまで進出した未来。そこに人がいる限り金は動き、金が動けば金に困る者もいる。そして金に困る者がいれば金貸しも生まれ、金貸しがいれば取り立て屋も必要になる。

 新星金融は多くの恒星系にまたがる金融企業で、企業理念は平等を旨とする。貸す相手を差別しない。あらゆるヒトはもちろん、バクテリアでもエイリアンでも融資する。ただし取り立ては厳しい。いかなる状況であれ、どんな場所であれ、踏み倒しは許さない。

 といった企業理念は立派だが、現場で働く取り立て屋の仕事は楽じゃない。太陽系外の最初の植民地・二番街で、今日もぼくは上司のユーセフにそそのかされ、宇宙空間で債務者を追っていた。

 怪しげな金融理論にSF風のヒネリを加え、ドタバタ風味のドツキ漫才を交えて展開する、ユーモラスなスペース・オペラ。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2016年8月30日初版発行。単行本ソフトカバー縦一段組みで本文約277頁。9.5ポイント40字×17行×277頁=約188,360字、400字詰め原稿用紙で約471枚。文庫本なら標準的な厚さで一冊分。

【収録作は?】

 それぞれ作品名 / 初出。

スペース金融道 / 書き下ろし日本SFコレクション NOVA2 2011年8月
 昨日の取り立ては7件だった。移動費用・宿泊費・人件費を考えると赤字だが、この商売は舐められたら終わりだ。誰にでも貸すかわり、キッチリ取り立てる。それがわが新星金融の方針だ。そして今日は地上一万メートルから落下中。というもの、今日の取り立ての相手は…
 新星金融の、いろんな意味でのブラックぶりがよくわかる導入部から、コロコロと楽しく話が進む第一話。宇宙に広がる大企業の社内報のネタも、無茶苦茶ながら妙に理屈が通ってるし。ノヴァちゃんは「ガス屋のガス公」が元ネタかな? 
 最近の金融理論は色々と怪しげなものが多いだけに、微妙に経済物理学を取り入れた量子金融工学も、実際に役に立ちそうな気になるから怖いw
スペース地獄篇 / 書き下ろし日本SFコレクション NOVA7 2012年2月
 いくつもの糸車が地平近くまでつらなっているなか、男たちが立ち話をしている。チームリーダーが言うには、糸車を回せとのことだが、今はストライキの最中。ケッタイな決まり事はあるにせよ、働かなくてもいいのは魅力的だ。とはいえ、さすがに三日もダラダラしてると飽きてきて…
 相変わらず無謀な相手に貸し、当然ながら無謀な取り立てに赴く二人組。ったって、結局のところツケは「ぼく」の所に回ってくるんだけどw ニコニコしながらおだてるユーセフの脂ぎった笑顔が目に浮かぶ。
 ここでも情報相対論なんて怪しげなシロモノが出てくるが、やっぱり妙に帳尻があってる気がするから楽しい。
スペース蜃気楼 / 書き下ろし日本SFコレクション NOVA9 2013年1月
 ディーラーと一対一の勝負。今までぼくのチップは減る一方。既に腎臓は10枚のうち5枚を使い、脾臓や胃は使い切った。渡されたカードはスペードのA。思い切って<心肺>のチップを賭ける。だがディーラーも乗ってきた。
 緊張感あふれるポーカー・ゲームで幕をあけ、一瞬「カイジか?」と思わせて、やっぱりカイジだったw 一般に博打は浮き沈みがあるにせよ、最終的には胴元が儲けるものと相場が決まってるけど、それをこうイジりますか。にしてもオチは、やっぱりw
スペース珊瑚礁 / 書き下ろし日本SFコレクション NOVA+バベル 2014年10月
 昨日の債務者はドネル・ダニエル=ルシュール。自治領でタックス・ヘイヴンにあるセルジュ博物館の番人だ。相手の職場だろうがどこだろうが、しったこっちゃない。なんとか納得させたはよかったが、今日、起きたらとんでもない事になっていた。なんと、あのユーセフに大金を借りたことになっている。
 あのユーセフに借金がある。これほど恐ろしい状況は滅多にないだろうと思ったら、話が進むと更に酷いことにw これもまた金の流れが絡んだ話なんだけど、まんま現在の地球で起きてる事だったり。
スペース決算期 / 書き下ろし
 ひと月ほど前から、アンドロイドのシリアルキラーが話題になっている。その名もバネ足ジャック。それはそうと、ぼくは大変な事になっていた。極右の人間原理党の党首になり、行く先々で行動が中継され、ネット上では批判と賞賛のコメントが果てしなく続き…
  これまた合衆国の大統領選が大騒ぎになったばかりなので、時期がいいというか悪いというかw 昔はインターネットが人々の融和を進めるなんて思われていたけど、蓋を開けたら大違いで、Twitter やまとめサイトじゃデマが飛び交い、保守とリベラルの溝は広がる一方だったり。かくいう私も Twitter でフォローしている面々を見ると明らかに偏ってるんだよなあ。

 商売相手は街金のように見えながら、その奥に潜むネタは株式市場だったり金融商品だったり節税と蓄財方法だったり。最終話は一見関係がないように思えるけど、実はこれも経済学者が真面目に研究してるネタだったりする。

 などと真面目に読んでもいいけど、デコボコ・コンビのドツキ漫才として読んでも充分面白いので、深く考え込まずにリラックスして楽しむが吉。当然、お茶やコーヒーを飲みながらだと危ないので気をつけよう。

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