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2016年12月 2日 (金)

マーク・ジェンキンズ編「大冒険時代 世界が驚異に満ちていたころ 50の傑作探検記」早川書房 3

 1896年6月15日夜、日本本土の東北地方を巨大な津波が襲い、今世紀にこの帝国を襲ったどの地震をもうわまわる人的・物的被害を与えた。
  ――1896年9月号 日本沿岸を襲った津波 エリザ・シドモア 青木創訳

 マーク・ジェンキンズ編「大冒険時代 世界が驚異に満ちていたころ 50の傑作探検記」早川書房 2 から続く。

【極東】

 極東編は明治三陸沖地震(→Wikipedia)とその津波から始まる。地震そのものより津波の被害の方が大きかったようで、その恐ろしさを伝えている。交通機関として意外と役に立ったのは…

災害現場に真っ先に駆け付けたのはアメリカの宣教師ロスシー・ミラー師だった。師はふつうなら三日はかかる山越えの道を、アメリカ製自転車に乗って一日半足らずで走破した。

 と、自転車が役に立った様子。

 次のリリアン・グローヴナー・コーヴィル「満州の日々」は、1930年代初頭の満州ハルピンの模様。いきなり「きのうはイギリス人の友人二人が誘拐されそうになった」と治安の悪さは相当なもの。報告の中心は、なんと洪水。松花江が溢れ町が水没し、著者はボートで町を散策している。

【インドネシア】

 章のタイトルはマレー半島だが、報告はスマトラ島・ニアス島・ボルネオ島と現インドネシアばかり。

 メルヴィン・A・ホール「スマトラ自動車旅行」では、バタク族の村ケボン・ジャヘの家が美しい(→Wikipedia)。高い急角度の茅葺き屋根が、見事な曲線を描いていて、洗練された身的感覚と建築技術をうかがわせる。もっとも、森の中でエンコすると虎に襲われかねないんだが。

 次のメーベルウ・クック・コール「世界の果て、ニアス島」でも、前首長の家の描写が映える。

壁には巧みな浮き彫りで(略)船いっぱいの人々が釣り糸を垂らし、その釣り糸は海中の魚まで伸びている。猿、小鳥、ワニ(略)ネックレス、ビインロウジの擂り鉢、イヤリング。(略)そのすべてが艶のある硬木に細かく彫りこまれているのだった。

 熱帯のジャングルに住む人と聞くと、なんか馬鹿にしがちだけど、実は高度な技術と繊細な美的感覚を備えてるわけ。

 ヴァージニア・ハミルトン「ボルネオ島の暮らし」は、その名の通りボルネオ島で暮らす主婦の生活を綴ったもので、爆笑の連続。ゴキブリは「石鹸から絹地まで、ありとおらゆるものを食べ」、「気候の変化といえば雨季からひどい雨季に移るだけ」。「鉢植えの下には10cmのムカデ」、蜘蛛・サソリ・白蟻の訪問はしょちゅう。でも愚痴っぽくなくて明るくユーモラスな雰囲気なのは、書き手の性格なんだろうか。

【アラスカ】

 イズリアル・C・ラッセル「1890年のセント・イライアス探検記」は、夏山の怖さが伝わってくる。なんたって、四六時中どこかで雪崩が起きてるんだから。

 ロバート・F・グリッグス「一万本の煙の谷」は、カトマイ山噴火に伴い出現した奇矯な風景の記録。谷底に小さな噴気孔が次々と並んでると思って欲しい。比較的に穏やかな孔なら、コンロを吊るして料理もできるし、50mほど歩けば雪の冷凍庫があるw ただし吹き出す蒸気を下手に浴びると、コンガリいってしまう。

 最初の夜、横になったとき、テントの下の地面があまりにも温かいので、われわれは肝をつぶした。いったい何度ぐらいあるのだろうと地表から15cm下まで温度計を差し込んだところ、すぐに沸点に達した。

 天然の床下暖房だね。ただし数年でこの風景は収まった模様。

【南米】

 ここではエーメ=フェリクス・チフェリー「馬に揺られてブエノスアイレスからワシントンDCへ」が絶品。クリオージョ種の馬に入れ込んだ著者は、アルゼンチンのブエノスアイレスからワシントンDCまで、二頭の馬と共に旅するのだ。

 大人数のポーターやガイドを伴う大名旅行が多い中で一人旅というのが異色だし、その動機も「やってみたいから」とカッコつけないのもいい。ただし人称は「私たち」。なぜかというと…

アルゼンチンでは、一頭の馬に乗っているときは「私」、二頭以上の馬と一緒だと「私たち」というのだ。

 馬が腹まで沈むぬかるみ、上り下りが延々と続くアンデスの山道、ブヨや蚊やダニに加え吸血コウモリに悩まされつつ、彼らの旅は続く。

【アマゾン】

 アルバート・W・スティーヴンス大尉「水上飛行機でアマゾン峡谷探検」は、アリの怖さが身に染みる。寝る前に吊るしたシャツが、朝にはアリに咬まれてボロボロになっている。よってハンモックが必須となる。曰く「ハンモックを支える二本のロープをひと晩のうちに這いわたる虫はごく限られるからだ」。先のインドネシアといい、暑い地域は虫対策が大事なんだなあ。

 ルース・ロバートソン「世界最大落差の滝を目指す密林探検行」は、特異な地形で知られるギアナ高地(→Wikipedia)の探検記。密林を歩くことの大変さが伝わってくる。無数の倒木が道を阻み、野営地にはタランチュラが忍び寄ってくる。それでも夜の度に手早く屋根のある小屋を手早く作るインディオの器用さは凄い。

【海】

 アンリ・ド・モンフレイ「紅海の真珠採り」が異色。南紅海を舞台に、スーダンの真珠採りを襲った海賊への逆襲の記録だ。海のアラブ人ザラニクの理屈が凄い。

狩りにくらべれば、船を襲うことはそれほど残酷な行為ではないと、彼らは考えている。船は自衛できるが、動物はそれができないからだ。

 そんなザラニクの海賊を追い、紅海を走るアンリ・ド・モンフレイ。彼と海賊の戦いは如何に? というか、その前のアイダ・トリート「禁断の海岸を旅する」もそうなんだけど、ソマリア沿岸って、昔から海賊銀座だったのね。

 トール・ヘイエルダール「南洋で時間をさかのぼる」の著者は、後にバルサの筏コンティキ号でペルーからポリネシアまで航海する猛者。ここではポリネシアの小さな島ファツヒバで嫁さんと過ごした日々の記録。器用な人で、山刀を振るいベッド・棚・机・腰掛け、そして家まで作っている。水もあるし、食べ物も果物には不自由しなかった模様。こういう所に持っていくべき道具はふたつ。

ひとつは生食できない数多くの果物や根に火を通すための鍋、もうひとつはココナツの分厚い鎧を割るためのナイフである。

 それでもやっぱり蟻・ムカデ・蜘蛛とかの虫には悩まされた様子。

【高空と深海】

 最終章は航空機が活躍するものが多い中、アルバート・W・スティーヴンズ大尉の「成層圏探査 1936年1月号 前人未到の高度」が印象に残る。同じ空を飛ぶ乗り物でも、これはなんと気球で高度21,719mまで行った記録。

 「高さは26階建てのビルくらい」の巨大な気嚢にはヘリウムを籠め、ゴンドラはもちろん気密式。そんな所まで、気球で行けるもんなんだなあ。

【おわりに】

 と、政府の支援を受けた大掛かりなものから、海賊まがいの怪しげな人物による日誌、現地に定住した主婦の日常から、変わり者の物好き旅行まで、バラエティ豊かな人々の色とりどりな旅行記の数々。かつての旅をしのぶもよし、冒険に胸躍らせるもよし、地域の社会や風俗を楽しむもよし。

 個々の記事は10頁程度なので、面白そうな記事から拾い読みしてみよう。

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