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2016年12月 1日 (木)

マーク・ジェンキンズ編「大冒険時代 世界が驚異に満ちていたころ 50の傑作探検記」早川書房 2

 われわれの探検は、ダーンという発砲音と――それも数発のダーンと――ともにはじまった。われわれがマナオスに到着したつぎの晩、革命が勃発したのだ。
  ――1926年4月号 水上飛行機でアマゾン峡谷探検
     アルバート・W・スティーヴンス大尉 井坂清訳

 マーク・ジェンキンズ編「大冒険時代 世界が驚異に満ちていたころ 50の傑作探検記」早川書房 1 から続く。

【アフリカ】

 まずは合衆国元大統領のセオドア・ルーズヴェルトによるサファリで幕をあける。

 いきなり時代を感じさせるのが、獲物を運ぶ手順。「一頭のゾウを倒すと、頭蓋骨を運ぶだけでも20人が必要になる」。なんと人間が運ぶのだ。自動車もあまり普及せず航空機も発達してない時代を痛感する。

 A.M.ハッサネイン・ベイの「リビア砂漠縦断」は、ラクダのキャラバンで砂漠を越える旅。やはり命綱は水。オアシスや井戸づたいに旅を続けるんだが、肝心の井戸がなかなか見つからない。井戸枠もなく「砂が湿っているだけ」なんてところもある。どうするかというと、「ガイドが少し掘ってみて、井戸を探し当てる」。それでも水が見つかるだけラッキーなんだろうなあ。

 ジェイムズ・G・ウィルスンの「オートバイでアフリカ大陸を横断する」では、機転がモノをいう。ロクに道もなきゃ修理工場もない所を走るわけで、修理どころか部品まで作っている。硬質ゴムのベアリングを自作するあたりは、アメリカ人らしい創意工夫の才に感心するやら笑うやら。 

【ロシア】

 ジョージ・ケナンの「ダゲスタン高地 歴史の海に浮かぶ島」は、今も戦火がくすぶるチェチェンで有名なカフカスの報告。冒頭で軽く歴史を紹介してて、これが実に興味深い。日本でも山間部には平家の隠れ里伝説があるように、山間部には戦いに負けた人々が逃げ込んでくる。

 カフカスは国際色豊かで、中央アジアから西に向かったアーリア人・アレクサンドロスやポンペイウスの部隊から脱走したギリシア・ローマの兵、モンゴル軍、アラブ人、十字軍、そして近隣のユダヤ人・グルジア人・ペルシア人・アルメニア人・タタール人。そりゃ抗争が絶えないわけだ。

 この本には定住の記録もあって、どれも例外なく面白い。ウラジーミル・ゼンジノフの「極北シベリアの流刑者」は、北極海に面したルスコーエ・ウスチエでの暮らし。村は六戸23人、地中60cm以下は永久凍土。寂しがってる閑すらない。食料の調達はもちろん、「料理、小屋の修理から、煮炊きの薪をあつめ、氷(水がわり)を取ってくるのも、自分の仕事だった」。

 ここでは夏の雁の猟が楽しい。換羽期で飛べない時を狙うんだが、まさに大漁。ただし持って帰るのが難しく…

【中東と中国辺境】

 中東と中国辺境、ともに共通しているのが、人間が怖いこと。

 ダニエル・ファン・デル・ミューレンの「灼熱のハドラマウトへ」では、現イエメンの砂漠地帯を旅する。日干し煉瓦でつくられた街並みが有名な所で、「そのほとんどが五階建て以上だ」。今もイエメンは物騒だが、それは昔かららしい。ただし聖地カブル・フードは奇妙で…

この町に人が住むのは、年に三度、一斉停戦で人々が国じゅうからこの聖地を訪れる期間だけだ。

 定期的に停戦期間が決まっているのも面白いが、逆に言うとそれ以外は争いが絶えないって事か。

 ジョゼフ・F・ロックの「黄色いラマ僧の国 孤高の地理学者見聞録」はチベット潜入記。さすがにラサまでは行かないが、小王国ムリに潜入し、王との謁見を果たしている。当時の中国は相当に荒れていたようで、雇った護衛が「全員が元盗賊」なんてことも。

 これはモンゴル周辺も同じで、ロイ・チャプマン・アンドルーズの「ゴビ砂漠の探検」だと…

 1928年の(略)このあたり一帯すべてを盗賊が支配していた。その数は、一万人ともいわれた。カルガンを出発したラクダ隊や馬車隊、自動車は、80キロも行かないうちにほぼ間違いなく盗賊の追いはぎにあった。

 昔から中国の王朝は北方の騎馬民族に悩まされてきたけど、20世紀になっても事情は変わらなかったのね。

【インドとヒマラヤ】

 ウィリアム・ミッチェル将軍の「インドのトラ狩り」は、当時のマハラジャの権勢が伺える記事。藩王国スルグジャは人口50万人というから、鳥取県よ人がり少ない小国だってのに、トラ狩りじゃ王はゾウを駆って勢子600人を動員する。

 時期的にキナ臭い記事もチラホラあって、その一つがイリヤ・トルストイ中佐の「インドからチベットを越えて中国へ」。第二次世界大戦中に、合衆国戦略事務局(OSS、後のCIA)の密命を帯びてダライ・ラマに謁見する話。

 謁見の様子から、当時のチベット政府の硬直した体制がそこはかとなく漂ってくると感じるのは、気のせいだろうか。

 サー・ジョン・ハント&サー・エドマンド・ヒラリーの「エヴェレストの勝利」は、ご存じエヴェレスト初征服の話。ここではクレバスを越える写真の迫力が凄い。底が見えないクレバスを、細いザイルを頼りに、足をいっぱいに広げて越えようとする。足が滑ったらイチコロだ。登山技術もそうだが、幸運もあったんだろうなあ。

 次の記事に続きます。

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