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2016年12月31日 (土)

2016年に面白かった小説3つノンフィクション3つ

 去年同様、真面目に考えるとなかなか決まらないので、ほとんど気分で選んでる。後で考えなおしたら、きっと違うラインナップになるだろう。

【小説】

藤井太洋「ビッグデータ・コネクト」文春文庫
 月岡冬威が誘拐され、電子メールで犯行声明が届いく。彼は滋賀県の官民複合施設<コンポジスタ>のシステム設計・開発のキーパースンだった。京都府警サイバー犯罪対策課が捜査に乗り出すが、その協力者は、なんと二年前のコンピュータ犯罪の容疑者、武岱だった。
 ソフトウェア開発に関係する者なら、あまりのリアルさに身震いしてしまう作品。特にお役所関係の業務を請け負っている人には、日本ならではの面倒くさい、でも現場の人じゃないとわからない問題に、鮮やかにスポットライトを当てているのが嬉しい。他にも業界の内情を遠慮なくブチまけ、またタイトルが暗示するテーマも終盤でドカンと炸裂する。
A・G・リドル「アトランティス・ジーン1 第二進化 上・下」ハヤカワ文庫SF 友廣純訳
 南極で氷山に埋もれていたのは、失われたナチスの潜水艦だった。ジャカルタでは、自閉症の治療施設が襲われ、画期的な成果を示した自閉症児二人が攫われる。そして超国家的諜報組織クロックタワーの各支部は、世界的かつ組織的な総攻撃を受けていた。
 ナチスの潜水艦・ロズウェル事件・アトランティスなど、怪しげなキーワードを随所に散りばめ、キワモノかと思わせながら、ハイテンポな物語運びとサービス満点なアクションの連続で読者を引きずり回す、娯楽超大作。次々と広がる風呂敷にハラハラしたものの、見事にたたんでくれた。
パール・バック「大地 1~4」新潮文庫 新居格訳 中野好夫補訳
 貧しい農民の王龍が、地主の奴隷だった阿蘭を妻に迎える場面から始まる。見目こそ麗しくないものの、賢い阿蘭はよく働き、少しづつだが暮らし向きも良くなってきた。だが所詮は天任せの商売、雨が降らなければ旱魃に怯え降りつづければ洪水に流され…
 激動の中国を舞台とした一族の物語。ノーベル文学賞といわれれば難しそうだが、とんでもない。男の出世・女の意地の張り合い・ウザい身内・親子の確執など、ソープオペラ顔負けの身につまされるベタな人間ドラマが続く、読み始めたら止まらない大河小説だ。

【ノンフィクション】

ドミニク・ラピエール「歓喜の街カルカッタ 上・下」河出文庫 長谷泰訳
 インドのカルカッタ(現コルカタ)にあるスラム、アーナンド・ナガル(歓喜の街)。電気はもちろん水道もないが、人力車夫・ハンセン氏病患者・森の人・去勢者などが住んでいる。フランス人の若き司祭ポール・ランベールは、彼らと起居を共にすべく歓喜の街に住み着き…
 色々と濃い人が多いインドの中でも、最もディープな社会をつぶさに取材し、生きるため必死にあがく彼らの暮らしを通し、インドの現実を色鮮やかに描き出すドキュメンタリーの傑作。特に主役を務める人力車夫のハザリ、彼の漢が輝く終盤は、ある意味ハードボイルドですらある。
トーマス・トウェイツ「ゼロからトースターを作ってみた結果」新潮文庫 村井理子訳
 イギリスの美術大学の大学院生が、自分でトースターを作るまでのドキュメンタリー。たかがトースターと言うなかれ。なんと彼は自ら鉄鉱石を掘りだし、製鉄から始めるのだ。現代社会を支えるテクノロジーと産業の凄まじさを、「工作の宿題」を通し浮き上がらせる、ユーモラスな一冊。
 表紙のインパクトが見事。プラスチックと聞けば安物って印象があるが、その安物を作りだすのがどれほど大変なことか。などの真面目なテーマを扱いながら、語り口はあくまでも軽薄な美大学生なのも楽しいところ。特に石油を調達しようとするくだりは爆笑。
ジェレミー・スケイヒル「アメリカの卑劣な戦争 無人機と特殊作戦部隊の暗躍 上・下」柏書房 横山啓明訳
 2011年9月30日、アンワル・アウラキが無人攻撃機により暗殺される。合衆国市民だったが、アルカイダの幹部として盛んにインターネットでテロを煽っていた。米国滞在中は穏健なムスリムであり、2000年の大統領選でもブッシュを支持していた。なぜ彼はテロリストになったのか?
 彼の人生に加え、対テロで活躍する統合特殊作戦コマンド(JSOC)の誕生と躍進を追い、現代アメリカの間抜けな軍事政策を批判すると共に、わかりにくいイエメンやソマリアの紛争の経過と内情も親切に教えてくれる、衝撃の連続の本。

【おわりに】

 などと、とりあえず目についたものを挙げたけど、イーガンの直交シリーズも濃いし、ケン・リュウの「紙の動物園」は多彩な芸に幻惑されたし、アン・レッキーの「叛逆航路」は噂通りの傑作だし、半藤一利の「昭和史」やイアン・トールの「太平洋の試練」はガツンとやられるし、J・E・ゴードン「構造の世界」は地味ながら街の見方が変わるし、ガルブレイスの「不確実性の時代」は意外と親しみやすいし、ローレンス・レッシグの「FREE CULTURE」「CODE Version 2.0」はエキサイティングだし…と、やっぱり収穫の多い年だったなあ。

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