ニール・マクレガー「100のモノが語る世界の歴史 1~3」筑摩選書 東郷えりか訳
事物に歴史を語らせることが博物館の目的である。
――まえがき ミッション・インポッシブル 不可能な任務人類史の初期――人類の物語全体の95%以上――については、実際には石によってしか語ることができない。
――まえがき ミッション・インポッシブル 不可能な任務
【どんな本?】
もとはイギリスBBCラジオ4の企画だ。大英博物館の所蔵品から100点を選び、モノによって人類の歴史を語ろうというのだ。これにより、私たちが知っている歴史とはだいぶ違った世界史が浮かび上がってくる。
多くの歴史は文献によって語られる。文献を残すのは勝者だ。それも、文字を持った勝者である。文字を持たぬ文化や社会は、歴史の教科書に出てこない。そして、圧倒的に多くの時代・多くの地域において、人間は文字を持っていなかった。
熱帯地方では物は腐りやすく、また木や布などの有機物も残りにくい。そのため熱い地域や有機物を活用した社会については多くを語れない。そんな偏りはあるにせよ、それぞれの物の原材料の原産地や製作に用いた手法・道具などを調べるに従い、私たちの思い込みは何度も覆されてゆく。
鮮やかなカラー写真を豊富に収録し、見て楽しみながらセンス・オブ・ワンダーに溢れた歴史に触れられると共に、博物館の楽しみ方も身につく、一般向けの少し変わった歴史解説書。
なお、感想は次の記事から。
【いつ出たの?分量は?読みやすい?】
原書は A History of the World in 100 Objects, by Neil MacGregor, 2010。日本語版は以下の三分冊。
- 文明の誕生 2012年4月15日初版第一刷発行
- 帝国の興亡 2012年6月15日初版第一刷発行
- 近代への道 2012年8月15日初版第一刷発行
単行本ソフトカバー縦一段組み、本文それぞれ約257頁+303頁+307頁=867頁。9ポイント43字×19行×(257頁+303頁+307頁)=約708,339字、400字詰め原稿用紙で約1,771枚。文庫本でも三分冊が妥当な分量。とはいえ、豊富に写真を収録しているので、実際の文字数は8~9割程度だろう。
文章はこなれていて読みやすい。内容も特に前提知識は要らないし、歴史に疎くても充分に楽しめる。ぶ厚い本を読むのが苦でなければ、中学生でも読めるだろう。
世界中を飛び回るので、世界地図か Google Map で地形を見ながら読むと、面白さが更に増す。
【構成は?】
各章は数頁程度。それぞれ独立しているので、美味しそうな所だけをつまみ食いしてもいい。各巻の最後に地図があるんだが、見落としがちなので、できれば先頭に置いて欲しかった。
あと、個人的な感想なんだが、最近読んだ中じゃ東郷えりか氏が訳した作品は当たりが続いてるので、できれば訳者あとがきも欲しかった。
1 文明の誕生
- まえがき ミッション・インポッシブル 不可能な任務
- 序文 過去からのシグナル
- 第1部 何がわれわれを人間にしたのか
(200万年前~紀元前9000年)- 1 ホルネジュイテフのミイラ
- 2 オルドゥヴァイの石のチョッピング・トゥール
- 3 オルドゥヴァイの手斧
- 4 泳ぐトナカイ
- 5 クローヴィス尖頭器
- 第2部 氷河期後 食べものとセックス
(紀元前9000~前3500年)- 6 鳥をかたどった乳棒
- 7 アイン・サクリの恋人たちの小像
- 8 エジプトの牛の粘土模型
- 9 マヤ族に伝わるトウモロコシの神の像
- 10 縄文の壺
- 第3部 最初の都市と国家
(紀元前4000~前2000年)- 11 デン王のサンダル・ラベル
- 12 ウルのスタンダード
- 13 インダスの印章
- 14 ヒスイの斧
- 15 初期の書字板
- 第4部 科学と文学の始まり
(紀元前2000~前700年)- 16 フラッド・タブレット 洪水を語る粘土板
- 17 リンド数学パピルス
- 18 ミノアの雄牛跳び
- 19 モールドの黄金のケープ
- 20 ラムセス二世像
- 第5部 旧世界、新興勢力
(紀元前1100~前300年)- 21 ラキシュのレリーフ
- 22 タハルコのスフィンクス
- 23 中国の周の祭器
- 24 パラカスの布
- 25 クロイソスの金貨
- 第6部 孔子の時代の世界
(紀元前500~前300年)- 26 オクソスの二輪馬車の模型
- 27 パルテノンの彫刻 ケンタウロスとラピテース族
- 28 バス-ユッツのフラゴン
- 29 オルメカの石の仮面
- 20 中国の銅鈴
- 地図
- 参考文献
- 本書に掲載された所蔵品一覧
2 帝国の興亡
- 第7部 帝国の建設者たち
(紀元前300~後10年)- 31 アレクサンドロスの顔が刻まれた硬貨
- 32 アショーカの石材
- 33 ロゼッタ・ストーン
- 34 漢代の中国の漆器
- 35 アウグストゥスの頭部像
- 第8部 古代の快楽、近代の香辛料
(1~500年)- 36 ウォレン・カップ
- 37 北米のカワウソのパイプ
- 38 球技に使われる儀式用ベルト
- 39 女史箴図
- 40 ホクスンの銀製胡椒入れ
- 第9部 世界宗教の興隆
(100~600年)- 41 ガンダーラの仏座像
- 42 クマーラグプタ一世の金貨
- 43 シャープール二世の絵皿
- 44 ヒントン・セントメアリーのモザイク画
- 45 アラビアのブロンズの手
- 第10部 シルクロードとその先へ
(400~800年)- 46 アブド・アルマリクの金貨
- 47 サットン・フーの兜
- 48 モチェの戦士の壺
- 49 新羅の屋根瓦
- 50 蚕種西漸図
- 第11部 宮廷の内部 宮廷内の秘密
(700~900年)- 51 放血するマヤ王妃のレリーフ
- 52 ハレム宮の壁画の断片
- 53 ロタール・クリスタル
- 54 ターラー像
- 55 唐の副葬品
- 第12部 巡礼、侵略者、貿易商人たち
(800~1300年)- 56 ヴァイキングのお宝
- 57 ヘドヴィグ・ビーカー
- 58 日本の銅鏡
- 59 ボロブドゥールの仏像頭部
- 60 キルワの陶片
- 第13部 ステータスシンボルの時代
(1100~1500年)- 61 ルイス島のチェス駒
- 62 ヘブライのアストロラーベ
- 63 イフェの頭像
- 64 デイヴィッドの花瓶
- 65 タイノ族儀式用の椅子
- 地図
- 参考文献
- 本書に掲載された所蔵品一覧
3 近代への道
- 第14部 神々に出会う
(1200~1500年)- 66 ホーリー・ソーン聖遺物箱
- 67 「正教勝利」のイコン
- 68 シヴァとパールヴァティー彫像
- 69 ワステカの女神像
- 70 イースター島のホア・ハカナナイア像
- 第15部 近代世界の黎明
(1375~1550年)- 71 スレイマン大帝のトゥグラ
- 72 明の紙幣
- 73 インカ帝国のリャマ像
- 74 ヒスイの龍の杯
- 75 デューラーの「犀」
- 第16部 最初の世界経済
(1450~1650年)- 76 ガレオン船からくり模型
- 77 ベニン・プラーク オバとヨーロッパ商人
- 78 双頭の蛇
- 79 柿右衛門の象
- 80 ピース・オブ・エイト
- 第17部 寛容と不寛容
(1550~1700年)- 81 シーア派の儀仗
- 82 ムガルの王子の細密画
- 83 ビーマの影絵人形
- 84 メキシコの古地図
- 85 宗教改革100周年記念パンフレット
- 第18部 探検、開拓、啓蒙
(1680~1820年)- 86 アカンの太鼓
- 87 ハワイの羽根の兜
- 88 北米の鹿革製地図
- 89 オーストラリアの樹皮製の楯
- 90 ヒスイの璧
- 第19部 大量生産と大衆運動
(1780~1914年)- 91 ビーグル号のクロノメーター
- 92 初期ヴィクトリア朝ティーセット
- 93 北斎「神奈川沖浪裏」
- 94 スーダンの木鼓
- 95 女性参政権を求めるペニー硬貨
- 第20部 現代がつくりだす物の世界
(1914~2010年)- 96 ロシア革命の絵皿
- 97 ホックニーの「退屈な村で」
- 98 武器でつくられた王座
- 99 クレジットカード
- 100 ソーラーランプと充電器
- 謝辞
- 地図
- 参考文献
- 本書に掲載された所蔵品一覧
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