筒井康隆「エロチック街道」新潮社
――桃山袱紗は天下の厠。
「時代小説」
【どんな本?】
日本SF界の特攻隊長・筒井康隆が意気盛んにブイブイいわしてた、1970年代末~1980年代初頭に発表した作品を集めた、挑発的で変態的で実験的な短編集。懐古趣味をオチョクる「昔はよかったなあ」,「声に出して読んでみろ」と読者を挑発する「早口ことば」,趣味丸出しの「ジャズ大名」など、愉快でバラエティ豊かな作品がギッシリ。
【いつ出たの?分量は?読みやすい?】
1981年10月15日発行。私が読んだのは1981年11月10日の三刷。飛ぶような売れ行きだったんだなあ。今は新潮文庫から文庫版がでてます。単行本ハードカバー縦一段組みで本文約220頁。9ポイント43字×20行×220頁=約189,200字、400字詰め原稿用紙で約473枚。標準的な文庫本の分量。
文章は当然ながら筒井節で、クセはあるが読みやすさは文句なし。内容も難しくないが、昭和の風俗がよく出てくるので、若い人にはピンとこないかも。稀に数式が出てくるけど、意味してるのは「数式である」って事だけで、中身に深い意味はないです、はい。
【収録作は?】
それぞれ作品名 / 初出 の順。
- 中隊長 / 海1978年7月
- 中隊を率いて市中を行軍する歩兵中隊長の、心の内を語る作品。馬に巧く乗れないのを部下に馬鹿にされやしないかとビクつき、他の中隊長と比べ部下を統率できているかと悩み、馬上ならではの役得をゴニョゴニョ…。
- 中隊長ったって、所詮は管理職。民間なら係長・課長クラスかな? 昇進して管理職になったばかりの人には、身につまされることも多いはず。
- 昔はよかったなあ / 奇想天外1980年7月
- 懐古趣味を徹底的にからかう作品。昔を懐かしむチョイ悪オヤジの独白なんだが、出てくる事件や風俗が、知ってる人にとっては爆笑ものなんだけど、若い人にはピンとこないかも。つかナベサダ、よく承諾したなあw
- 日本地球ことば教える学部 / 問題小説1978年8月
- 異星のエイリアンの学校での、日本語教室の様子を描いた作品。この作品集の中では、最もSFしてるけど、果たしてw 「なんじゃこりゃ?」と思いつつ読み進めていくと、最後の一行で「どひゃあ」となるw
- インタヴューイ / 週刊小説1978年11月10日号
- 人気作家へのインタビュウを模したギャグ作品。これだけスラスラと楽しいネタを連発できる作家なら、そりゃ売れるよなあ。今ならニコニコで中継すれば大人気間違いなし…と思ってたら。
- 寝る方法 / 別冊小説新潮1979年冬号
- SF風にベッドで寝る方法を、無駄に詳しく解説した作品。ベッドで寝るってのは、そんなに危ない事だったのかw
- かくれんぼをした夜 / SFアドベンチャー1981年1月
- その日、なぜか八人はおそくまで学校でかくれんぼをして…
- 偏在 / オール讀物1980年1月
- 美術評論家の蹈鞴粂夫と、その妻で作家の美佐子。作家の犬丸敏幸と、妻の米子。四人の風景を、四つの視点で描く、実験的な作品。
- 早口ことば / 奇想天外1981年7月
- まんま、早口ことばの練習用テキスト。ゆっくりなら、素人でもなんとか音読できるかも…吹き出さなければw
- 冷水シャワーを浴びる方法 / 読売新聞1979年8月2日夕刊
- 暑い夏の日に、冷たいシャワーを浴びようとするが…
- 遠い座敷 / 海1978年10月
- 兵一の家で遊び、夕食までご馳走になり、すっかり帰りが遅くなってしまった宗貞は…
- 子供の目から見た、広い日本家屋の不気味さが良く出ている作品。よくわからん物が置いてある床の間とか、やたら手の込んだ欄間とか、天井の木目とか、幼い子供にとっては奇矯なイメージを湧き出させるシロモノばっかりだよなあ。
- また何かそして別の聴くもの / 小説新潮1978年6月
- 「〇〇とかけて、××と解く。その心は…」を集めた作品…かと思ったら。半分ヤケになってるんじゃなかろかw
- 一について / ブルータス1981年2月15日号
- 数学科出身者に相方がイチャモンをつける形で進む、漫才の台本。にしても、大阪弁ってのは、なんでこんなに愉快で楽しいんだろ。
- 歩くとき / 小説現代1979年9月
- 「寝る方法」同様、歩く方法をSF的っぽく無駄に細かく解説した作品。どの筋肉が云々とかっやたら専門用語を連発しながらも、やっぱりソッチに脱線するのかw
- 傾斜 / SFアドベンチャー1981年6月
- 2頁の掌編。レイアウトによっては1頁に収まるかも。なぜか慌てた時は茶碗と箸を持って走るんだよなあ、日本人は。
- われらの地図 / 野生時代1978年2月
- 麻雀小説。とはいえ、メンバーが筒井康隆をはじめ小松左京・星新一・半村良では、まっとうな麻雀小説になる筈もなく…って、あれ? いいつのまにか… まあ、徹夜麻雀じゃ、よくある事ですw
- 時代小説 / 小説現代1981年2月
- 筒井康隆の時代小説。一体どうなるのか? などと変な期待をしたら、そうきたかw 文体も展開も時代小説そのままながら、なんじゃこりゃあw
- ジャズ大名 / 小説新潮1981年1月
- 南北戦争後に放り出された奴隷のジョーは、ニュー・オーリアンズでラグタイムを覚え…。鬼才岡本喜八監督で映画にもなった。テーマ曲はこちら(→Youtube)。
- ジャズ大好きな筒井康隆、やりたい放題。ジャズに限らず、音楽が好きな人なら、「これはこれでいんじゃね?」な気分に浸れる。とまれ、こういう話が成立しえるのも、相応の構成がありながらアドリブの余地も残すジャズやブルースならでは。
- エロチック街道 / 海1981年5月
- むしろフロチック街道w 温泉や健康ランドが好きな人はたまらない作品。
実験的な作品もあるけど、キツい皮肉やしょうもない地口、リズミカルな漫才・漫談など、腹を抱えて笑える作品も多い。「SFって理系っぽくてなんか難しそう」とか思ってる人は、「あれ?SFって、こういうのもアリなの?」と驚くかも。ええ、もちろん、こういう馬鹿話・法螺話もアリです。
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コメント
名著ではなく奇書というべき本.時代小説が最も面白かった実にバカバカしい.
月日はながれ,区立図書館の在庫整理,廃棄本の山の中に本著を見出す.
投稿: 月日はながれる | 2017年5月21日 (日) 14時34分