西田宗千佳「すごい家電 いちばん身近な最先端技術」講談社ブルーバックス
「吸引力」ばかりに注目しがちですが、掃除機の命の半分は「ノズル」にあるのです。
――#03 掃除機放送される番組そのものに「チャプター情報」が含まれているわけではありません。あくまでレコーダーが自動判定して、区切りを入れているのです。
――#07 ビデオレコーダー/ブルーレイディスク赤・青・緑っを担当するPDの数は、同数にはなっていません。人間の目が特に緑への感度が高いことに対応するため、他の2色より緑の量を多くするケースが多くなっています。
――#08 デジタルカメラ/ビデオカメラリチウムイオン二次電池には、いわゆるメモリー効果がないため、継ぎ足し充電をしても容量は減りません。
――#15 電池テレビ(LED式)やパソコンなど、一般的な家電製品の消費電力は、それほど高くはありません。(略)これに対し、エアコン、IHクッキングヒーター、給湯器の3つは、常時多くの電力を使用します。
――#17 HEMS
【どんな本?】
冷蔵庫はなぜ冷える?エアコンとクーラーって違うの?HEMSって何?など電化製品の基本的な事柄から、ドライと冷房どっちが節電?マンガン電池とアルカリ電池どっちがいい?スマホの電池を長持ちさせるには?など電化製品を選ぶ・使う時のコツ、IHって何が嬉しいの?など専門用語の解説、テレビやデジカメに使われている驚きのハイテク、そしてマッサージチェアやトイレ開発秘話など、電化製品の基本から賢い使い方に加え、身近にある最先端技術のトピックを語る、楽しくて便利で役に立つ一般向け科学・技術解説書。
ただし出てくる製品はみなパナソニック製なので、メーカーにこだわりがある人は要注意。
【いつ出たの?分量は?読みやすい?】
2015年12月20日第1刷発行。新書版で横一段組み、本文約291頁。9ポイント26字×26行×291頁=約196,716字、400字詰め原稿用紙で約492頁だが、写真やイラストをたくさん載せているので、実際の文字数は6~7割ぐらい。文庫本なら標準的な一冊分の分量。
思ったより文章はこなれている。内容も意外と難しくない。ブルーバックスの中では、最も親しみやすい部類だろう。家電の宣伝では「サイクロン方式」や「IH」など意味が解らない言葉を使う時もあるが、そういった「よくわからない言葉」も写真やイラストを交え懇切丁寧に教えてくれる。
【構成は?】
各章は独立しているので、気になる所だけを拾い読みしてもいい。
- はじめに
- 第1章 生活に欠かせない家電
- #01 洗濯機 ライフスタイルの変化が進化の原動力
ぜいたく品の象徴だった!/どうして汚れがとれる?/「洗濯コース」がたくさんある理由/“洗濯機の常識”は文化によりけり/ななめドラムが起こした革命/ダム1杯分の節水を実現/水温をどう考えるか - #02 冷蔵庫 気化と凝縮の熱交換器
“家電”以前の歴史あり/ポンプで熱を庫外に「追い出す」/冷蔵庫の歴史は冷媒の歴史/日本固有の機能が仇に/「食材」が冷蔵庫の形を変えてきた/実は難題だった冷凍庫の移動/引き出しに施された工夫/かつての“不人気”機能が復活 - #03 掃除機 吸引力だけでは測れないその「実力」
掃除機の進化は「ゴミの分離方法」にあり/掃除機の“命”の半分はノズルにあり/掃除機だけが要求される条件とは?/ロボット型掃除機の“役割”とは? - #04 電子レンジ 通信機器との意外な関係
「軍用レーダー」の開発過程で/電波で調理できるのはなぜ?/どうして2.455GHzなのか/年100台しか売れない“不人気”商品だった/どうして「使えない食器」があるのか/「回る」レンジと「回らない」レンジの違いは?/多彩な加熱コントロールで調理用に用途拡大 - #05 炊飯器 高額商品ほど売れてる“デフレ逆行”家電
75%が製品寿命がくる前に買い替え!?/「ジャポニカ米」をおいしく炊くことに特化/マイコン制御が実現した「自動炊飯」/電磁誘導でご飯を炊く「IH炊飯器」/内釜が「アツい」理由/「甘み」と「うま味」を生み出すプロセス/「炊飯器だけに可能な炊き方」とは?/「万人受けするご飯」不在の時代に
- #01 洗濯機 ライフスタイルの変化が進化の原動力
- 第2章 生活を豊かにする家電
- #06 テレビ 天文衛星の技術が促す進化
デジタル時代になって“ノイズ”にも変化が/走査線でどう映像を描いていたのか/液晶とは「シャッター」である/有機ELディスプレイは液晶を駆逐する?/高解像度テレビならではの弱点とは?/粗い画像を美しく見せる「超解像」技術/どうやって高解像度化するのか/次なるターゲットは「色」の見直し - #07 ビデオレコーダー/ブルーレイディスク テレビの使い方を変えた録画カルチャー
新規ビジネスが普及を後押し/日本独自の「録画文化」/チャプターはなぜ自動設定できる?/すべての映像は「圧縮」されている/シーンごとに最適な圧縮法を選択/「同面積の情報密度を上げる」歴史/ブルーレイに施された“構造改革” - #08 デジタルカメラ/ビデオカメラ 動画と静止画が交互に技術革新を生む
35mmフィルムの源流とは?/デジタルは動画が先行/その「デジカメ」は動画用?静止画用?/光をデータに変える「イメージセンサー」のしくみ/デジカメの「画質」は何が決める?/デジカメの“命”はレンズ設計にあり/「手ブレ防止」の仕組みとは?/「一眼レフ」とコンパクトカメラの関係
- #06 テレビ 天文衛星の技術が促す進化
- 第3章 生活を快適にする家電
- #09 エアコン 超高度な制御技術を装備した最先端家電
エアコンとクーラーの違い、知っていますか?/エアコンの“命”は「ヒートポンプ」/「環境重視」で冷媒も変遷/省エネに効果絶大の「自動清掃機能」/「耳かき2杯分」のホコリを毎日お掃除/ドライと冷房、省エネはどっち?/賢く省エネな自動運転を支える「人感センサー」/「よくいる場所」も「よくいる時間」も認識 - #10 照明 光源と演出力の進化
エジソンが一番乗り…ではなかった!?/2000時間の寿命をもつ照明/LEDの利点と欠点/「白」をどう出すか、それが問題だ/LED照明が蛍光灯におよばない点とは?/「発熱」と「光の指向性」をどう抑えるか/「偉大な照明」への創意工夫 - #11 電動シェーバー “切れ味”を生み出す超微細加工技術
ヒゲの硬さは「銅線」なみ!?/役割分担している2種類の刃/日本刀と同じ「鍛造」技術を応用/「~枚刃」の数は何を意味している?/わずか5μmの差が「痛くない剃り味」を決める/精巧な刃は消耗品と心得よう - #12 マッサージチェア 「銭湯」から普及した日本の「リラックス家電」
ライバルは「プロのマッサージ師」/プロの技をどう再現するか/書道ができるマッサージチェア!?/「手のぬくもり」をどう再現するか/設計難度の高い家電 - #13 トイレ 急速に進化する新しい家電
「重力の力で水を流す」が基本原則/1960年代に「家電化」の萌芽が/「汚れにくい」素材と形状に進化/消費電力を遥かに上回る「節水」を実現/トイレ研究に不可欠な「疑似便」 - #14 電気給湯器(エコキュート) オフピークを活用する省エネ家電
ピークシフトで「社会にも家計にもエコ」/二酸化炭素を使う「ヒートポンプ」/その熱を逃がすな!/「熱くも冷たくもない水」を活用/「快適なシャワー」を生み出すリズム
- #09 エアコン 超高度な制御技術を装備した最先端家電
- 第4章 暮らしのエネルギーを支える家電
- #15 電池 デジタル機器が進化を促す「縁の下の力持ち」
一次電池と二次電池/電気はどう生まれるか/電気を持続的に発生させるには?/「乾いている電池」とは?/単3形を単1形として使う!?/アナログ機器とデジタル機器で電池を替える/高価な電池にのみ許される構造/最も電気容量の大きい電池とは?/「継ぎ足し充電NG」ってホント?/過熱を抑えるセーフティネット - #16 太陽電池 30年スパンで効率を考えるシステム型家電
半導体に光が当たるとなぜ発電する!?/太陽パネルはなぜ八角形をしている?/単結晶と多結晶、どちらのパネルを選ぶべき?/実は高温に弱い太陽光発電/長期視点で製品選びを - #17 HEMS 家庭内の電力利用の“お目付け役”
電力消費を平坦にならすという発想/太陽電池と二人三脚/電力を「見える化」してムダをなくす/分電盤を利用して家電の動きぶりを把握/節電対策の「三種の神器」/自動車が家電になる日
- #15 電池 デジタル機器が進化を促す「縁の下の力持ち」
- おわりに
- 謝辞/さくいん
【感想は?】
賢い主婦/主夫のアンチョコ。
書名に「最先端技術」とあるので難しい本かと思ったら、意外とそうでもない。どころか、とってもわかりやすくて親切。イラストや写真も多いし。
家電マニアのお兄さん・おじさん向けに書いた本っぽく見えるけど、これを読んで最も喜ぶのは、全く違う層だろう。日頃から洗濯機や電子レンジを使うけど、本音を言うとキカイは苦手、そんな人向けに、今よりちょっとだけ賢い家電の使い方・選び方を教えてくれる本だ。
いや実は難しい事も書いてあるし、最先端技術も扱ってるんだが、もっと下世話で実用的でおトクな話もたくさん載ってて、それがとっても嬉しい。とりあえず私は「#04 電子レンジ」を読み終えた直後、さっそく電子レンジの中を掃除した。うひゃあ、すんげえ汚れてるw
というのも、電子レンジの汚れは「異常加熱の原因にもな」るから。私の電子レンジは安物なんで小難しいセンサーの類はついてないけど、壊れたら困るし、電気も無駄になるし。
他にも、エアコンのフィルターは月に2回ぐらい掃除しよう、なんて有り難いアドバイスがギッシリ。フィルターにチリやホコリが詰まると空気の流れが悪くなり、その分無駄に電気を使っちゃうのだ。まあ、この辺は直感的にわかるよね。
などの使い方ばかりではなく、選び方も教えてくれるぞ。例えば掃除機だ。つい吸引力ばかりに注目しちゃうけど、それだけじゃない。ホコリは静電気で床に貼り付いている。これをブラシでいかに剥がすかも大事なのだ。中には「ブラシ部の回転によってマイナスイオンを発生させ」って、ちと怪しげだが…
一般的にプラスに帯電しているホコリの電荷を中和させることで、静電気で床に貼りつくホコリを取り去るしくみも使われています。
怪しげな印象がつきまとうマイナスイオンだが、そういう使い方もあったのね。
乾電池だって向き不向きがある。安いマンガン電池が向くのは、あまし電圧が要らないもの、つまり「リモコンや懐中電灯」。逆に高いアルカリ電池が向くのは、高い電圧が必要な「デジタルカメラなどのデジタル機器」。向き不向きを考えて賢く選ぼう。
当然、書名の「最先端技術」も、キチンと扱ってる。
まず驚いたのが、テレビだ。最近のテレビは受け取った信号どおりに動くわけじゃない。いろいろと補正しているのだ。超解像技術とかは、解像度の粗い画像を、高解像度の画面にキレイに映す技術。単純に画像を拡大しただけだと、どうしてもジャギーが出たりボケたりする。そこでどうするか。
「明るさ(輝度値)が大きく変化する部分=エッジ」を検出し、その境界部がはっきりシャープに見えるよう加工すればよいのです。
静止画だって解像度を上げるのは大変なのに、リアルタイムが要求される動画で、そんな難しい事やってるのか!しかも、だ。パソコンの画像変換アプリなら、ギガ単位のメモリ使い放題の上に、バグがあったらアップデート版を配りゃいいが、家電じゃそうはいかないってのに…。他にも高解像度化には様々な工夫があって…
逆に画像を記録するデジタルカメラ/ビデオカメラも、最近の機種は手ブレ補正機能がついてる。廉価版は常にトリミングしてて、ブレた時にトリミングする領域を変える電子式だが、高級品は凄い。なんとレンズを動かすのだ。とんでもねえ精度だよなあ。
電動シェーバーも驚きだ。昔は回転モーターだったけど、今はリニアモーターだ。そう、リニアモーターカーのリニアモーター。列車と違い量がはけるなら、それなりに安くできるんだなあ。まあ必要なパワーも桁違いだけど。
加えて、刃の精度もすごい。網状になってて、刃の厚さがタテとヨコで違う。ヨコは60μmm、タテは41μmm。0.06ミリと0.041ミリですぜ。どうやってそんな精度を出すんだか。意外な事に素材はステンレス。剣としちゃステンレスは使い物にならないっぽいけど(→「人類を変えた素晴らしき10の材料」)、ヒゲ剃りには使えるんだなあ。
などの他、時代による生活の変化や、世代や国や地域による売れ筋の違いなども面白い。最もよくわかるのは冷蔵庫の項で、1960年代までは毎日その日の分を買いに行ってたけど、だんだんとまとめ買いすうるようになった、と。これは生活習慣と冷蔵庫の普及が互いに影響しあったんだろう。
洗濯機も、昔は大家族だったんで洗い物が沢山あり、大量に洗える縦型が好まれたけど、核家族化でドラム型が好まれるこうになったとある。また炊飯器の項では、高齢者は柔らかめのご飯を好み、若い人は硬めのご飯が好きだとか。硬めが好きな私は若者に属するんだろうか。あなたはどっち?
など、色々楽しい本だが、読み終えた後は最新の家電製品が欲しくなるのが困るw 給料日やボーナス直後の、懐が温かくて気が大きくなっている時には、避けた方がいいかも。
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