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2016年11月15日 (火)

セシル・アダムズ「こんなこと、だれに聞いたらいいの? 疑心暗鬼の巻」ハヤカワ文庫NF 春日井晶子訳

…地下鉄や高架線の駅のプラットフォームから(給電用の)レールに小便をひっかけたら、あの世行きになるんですか?
  ――第4章 危険があぶない!

【どんな本?】

 セシル・アラムズ。週刊誌<シカゴ・リーダー>紙をはじめ多くの新聞で人気のコラム<ストレート・ドープ>を担当し、読者からの奇妙奇天烈であらゆる分野にわたる質問に、自信たっぷりかる慇懃無礼に応える、自称<全知>の男。その正体は謎に包まれているが、どんな難問にも解を見つけ出す能力は誰もが認めている。

 貧乳絶滅の危機からバチカンのポルノ・コレクション、果物の種の危険からノミのサーカス、缶ビールを早く冷やす方法からスーツの袖のボタンの由来まで、役に立つものからどうでもいい事まで、ユーモラスな毒舌で送る雑学Q&A集。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は The Straight Dope : A Compendium of Human Knowledge, by Cecil Adams, 1984。日本語版はこれを[疑心悪鬼の巻 日常生活を笑わす雑学Q&A大全]と[快答乱麻の巻 興味本位で何が悪い的雑学Q&A大全]にわけ、それぞれ2001年5月31日・2001年8月31日発行。

 「疑心暗鬼の巻」は文庫本で縦一段組み、本文約391頁に加え、訳者あとがき4頁。9ポイント39字×17行×391頁=約259,233字、400字詰め原稿用紙で約649枚。文庫本としてはちょい厚め。

 文章はこなれている。内容もわかりやすい。ただ、アメリカ固有のネタも混じっているので、わからなかったら読み飛ばそう。

【構成は?】

 それぞれの章は多くのQ&Aを含む。個々のQ&Aは1~5頁程度なので、美味しそうな所だけをつまみ食いしてもいい。

 編者まえがき
第1章 心と身体
第2章 S・E・Xのすべて
第3章 万物を統べる法則の世界
第4章 危険があぶない!
第5章 神の作りたもう生き物たち
第6章 飲食物にご用心
第7章 科学者を困らせよう!
第8章 愉しき法と政治の世界
第9章 ヒトとモノに歴史あり
第10章 ミュージカル・トリヴィア
 訳者あとがき

【感想は?】

 Wikipedia を読んでると飽きない人のための、楽しい暇つぶし本。

 原書は1984年発行だし、連載が始まったのは1973年だけに、少々古臭いネタも混じってるけど、私のような古い者には、その古さも懐かしくて嬉しかったり。

 最初の質問は「フィリピンには尻尾のある部族がいるってホント?」なんてムー民大喜びのネタ。曰く、米西戦争の後、米国陸軍がルソン島のジャングルで見つけた首狩り族には1.2mの尻尾があり、遺伝子汚染を恐れすみやかに隔離したとか。

 そんな噂があったのか。もしかしてエリア51に…と期待したが、「1900年代のでっちあげです」。セシル先生のいけず。

 占い棒で地下水脈を探すウィッシング(ダウジング、→Wikipedia)を一刀両断する所も、なかなか爽快。「アメリカ東部の多くの場所では、穴を掘れば必ず水が出てきます」。おかげで「こうした穴掘りの成果は100%に近い」。ヨーロッパからアメリカに渡った植民者だからこそ、こういう噂が広がったんだろうなあ。

 やっぱり興味深々なのが「第2章 S・E・Xのすべて」。いきなり「平均的な男性が放出する精液は何カロリーですか?」と楽し気な質問。おお、もしかして頑張れば新たなダイエット法が…とか変な期待をしたが、セシル先生の概算によるとたった2カロリー。

 だいたいではあっても、ソレナリに理屈が通りそうな計算をしてる所はアチコチにあって。「全中国人がいっせいに椅子から飛び降りたら、地球の軸がぶれる?」なんて質問にも、真面目に答えてる。

 意外だったのがブルームーン。日本でも「月がとっても青いから」なんて歌があるけど、あれは本当だとか。大気圏の上層部に硫黄の粒が浮かんでる時に、適切な角度で月を見ると、青白く見えるとか。で、硫黄の粒が多い時ってのは、大森林火災か火山の噴火って、物騒だなあ。

 44マグナムで撃たれたら、かすっただけでもお陀仏ってのも本当らしい。ヒトの体は水が詰まった袋みたいなもんで、どっかに大きな衝撃があると、体中の水分が暴れまわってグシャグシャになるわけ。ただし大事なのは弾丸の速さなんで、拳銃よりライフルの方がヤバい。

 「それは気が付かなかった!」みたいなのもあって。ちとJALの世界時計から、東京の時刻とインドはデリーの時刻を調べてみよう。なんか変じゃないか? 普通、時差ってのは時間単位なのに、インドは日本時間-3時間30分なのだ。ネパールは更にすごい。なんと日本-3時間15分(→Time-j.net)。フリーダムだ。

 かと思えば、「そういうもんだ」と思ってたのにちゃんと由来があるネタも。例えばスーツの袖にあるボタン。これの由来は18世紀のフリードリヒ大王(→Wikipedia)にまでさかのぼる。

 当時の兵隊さんはかいた汗を袖で拭ってた。そのため兵の袖は汚れ放題。これを解決するため、大王様は考える。「袖にボタンをつけよう。ボタンが邪魔で兵は袖で顔をぬぐえないぞ」。これの名残が、今のスーツの袖のボタンだとか。トレンチコート(→Wikipedia)とか、紳士服は軍由来のモノが多いんだなあ。

 最後の「第10章 ミュージカル・トリヴィア」は、音楽好きには美味しい所。日本のミュージシャンはあまし人の曲をカバーしないけど、米英の人は積極的にカバーを出す。Van Halen なんて、デビュー曲が Kinks のカバー You Really Got Me だし。

 で、これ、カバーされる側が嫌だといっても、強引に押し通せるとか。ただしアメリカの場合は。普通は予め許可を取るんだが、最悪の場合は強制認可って手があるらしい。「レコーディングの終了後30日以内かつ発売以前に著作権所持者に報告すれば、誰でも好きな曲をレコーディングできる」とか。ただし、所定のロイヤリティは払わにゃならんけど。

 そういうわけなので、高垣彩陽さんには是非とも Camel の Never Let Go(→Youtube)をカバーして頂きたい。このバンド、いい曲はたくさんあるのに、シンガーが弱いんだよなあ。そこで声が綺麗で歌が巧いシンガーがいれば…と思うんだけど、どう?

 死後やバンドの解散後にレコードが出る秘密も、ジミ・ヘンドリクスの例で教えてくれる。なんと未発表の音源が500時間分もあるとか。中にはしょうもない出来のもあるんだけど。とすっと、フレディ・マーキュリーやマイケル・ジャクソンも掘れば山ほど見つかるんだろうなあ。

 と、お下劣なものから真面目なもの、「どこからそんな疑問が?」なんて奇天烈なものまで、玉石混合の雑学を並べたお楽しみ本。今はインターネットが発達したんで、たいていの事は Google 先生に頼めば教えてくれるんだけど、そもそも疑問を持たなきゃ質問すらできない。そういう意味では、変な質問こそがこの本の価値なのかも。

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