マーク・ジェンキンズ編「大冒険時代 世界が驚異に満ちていたころ 50の傑作探検記」早川書房 1
(砂嵐の中で)立ち止まるというのは、砂に埋もれてしまうことを意味する。
――1924年9月号 リビア砂漠縦断 A.M.ハッサネイン・ベイ 嶋田みどり訳
【どんな本?】
世界じゅうで読まれている雑誌、ナショナル・ジオグラフィック。その長い歴史で掲載された膨大な記事の中から、、主に19世紀末~20世紀中ごろの胸躍る冒険に満ちた紀行文を選び、書籍化したもの。
リビア砂漠銃弾や栄光のエヴェレスト征服など自然の驚異に打ち勝った旅、密命を帯びてのチベット潜入や山賊だらけの中央アジアを越える旅など人間が恐ろしい旅、極北シベリアや熱帯ボルネオでの驚きに満ちた暮らし、オートバイでのアフリカ横断やブエノスアイレスからワシントンDCまで馬での旅など物好きな旅、明治三陸沖地震やアッサム・チベット地震など天変地異の報告、そしてアラスカの火山帯の裂け目や幻のハドラマウトなど奇矯な風景と、想像を絶する地球の営みを堪能できる一冊。
【いつ出たの?分量は?読みやすい?】
原書は Worlds to Explore : Classic Tales of Travel & Adventure from National Geographic, Edited by Mark Jenkins, 2006。日本語版は2007年7月25日初版発行。
単行本ハードカバー縦一段組みで本文約601頁。9ポイント50字×20行×601頁=約601,000字、400字詰め原稿用紙で約1,503枚。文庫本なら上中下の三巻ぐらいの巨大容量。
文章は比較的にこなれている。内容も特に前提知識は要らない。当時の現地の政治情勢など予め知る必要のある事柄は、各記事の前に軽く紹介している。
ただし見慣れぬ地名が次々と出てくるので、地図帳か Google Map は必須。
【構成は?】
各記事はそれぞれ独立しているので、美味しそうな所だけをつまみ食いしてもいい。
- 本書に寄せて サイモン・ウィンチェスター 柴田裕之訳
- 本書の紹介 マーク・ジェンキンズ(ナショナル・ジオグラフィック協会歴史研究員) 酒井泰介訳
- Part1 冒険の大地、アフリカ
- 1911年1月号 アフリカの野蛮人間と野生動物 セオドア・ルーズヴェルト 仙名紀訳
- 1912年8月号 赤道アフリカでのゾウ狩り カール・エイクリー 越前敏弥訳
- 1923年5月号 ツタンカーメンの墓で メイナード・オーウェン・ウィリアムズ 幾島幸子訳
- 1924年1月号 東ダルフールでの体験 エドワード・キース=ローチ少佐 篠森ゆりこ訳
- 1924年9月号 リビア砂漠縦断 A.M.ハッサネイン・ベイ 嶋田みどり訳
- 1925年2月号 カイロからケープタウンまで、陸路を行く フィリックス・シェイ 嶋田みどり訳
- 1934年1月号 オートバイでアフリカ大陸を横断する ジェイムズ・G・ウィルスン 村上博基訳
- Part2 ロシア帝国の周辺で
- 1913年10月号 ダゲスタン高地 歴史の海に浮かぶ島 ジョージ・ケナン 高里ひろ訳
- 1909年8月号 中央アジアの大砂漠を行く アフガンの国境、ペルシアの辺境 エルズワース・ハンティントン 杉浦茂樹訳
- 1924年12月号 極北シベリアの流刑者 ウラジーミル・ゼンジノフ 村上博基訳
- Part3 中東、イスラムの風景
- 1921年4月号 ペルシアの隊商のスケッチ ハロルド・F・ウェストン 栗木さつき訳
- 1924年10月号 小アジアを行く ロバート・W・インブリー少佐 栗木さつき訳
- 1932年10月号 灼熱のハドラマウトへ ダニエル・ファン・デル・ミューレン 高里ひろ訳
- 1934年6月号 非イスラム教徒、メッカ巡礼に オーウェン・トゥイーディ 高里ひろ訳
- 1939年9月号 ペルシアのいにしえの顔と新しい顔 メアリー・イレーヌ・カーゾン(レディ・レイヴンズデール) 仙名紀訳
- 1946年10月号 アフガニスタン再訪 メイナード・オーウェン・ウィリアムズ 幾島幸子訳
- Part4 混迷の中国辺境地帯
- 1925年4月号 黄色いラマ僧の国 1925年9月号 孤高の地理学者見聞録 ジョゼフ・F・ロック 武藤崇恵訳
- 1927年10月号 キャラバンで中央アジア横断、突然苦力のように ウウィリアム・J・モーデン 武藤崇恵訳
- 1929年6月号 トルキスタンの砂漠の道 オーウェン・ラティモア 鈴木淑美訳
- 1932年11月号 地中海から黄海まで 自動車によるアジア大陸横断の旅 メイナード・オーウェン・ウィリアムズ 幾島幸子訳
- 1933年6月号 ゴビ砂漠の探検 ロイ・チャプマン・アンドルーズ 仙名紀訳
- Part5 ヒマラヤの王国
- 1924年11月号 インドのトラ狩り ウィリアム・ミッチェル将軍 鬼澤忍訳
- 1946年8月号 インドからチベットを越えて中国へ イリヤ・トルストイ中佐
- 1952年3月号 アッサム・チベット地震に遭遇して フォランク・キングドン=ウォード 塩沢道緒訳
- 1954年7月号 エヴェレストの勝利 サー・ジョン・ハント&サー・エドマンド・ヒラリー 野中邦子訳
- Part6 極東からのレポート
- 1896年9月号 日本沿岸を襲った津波 エリザ・シドモア 青木創訳
- 1933年2月号 満州の日々 リリアン・グローヴナー・コーヴィル 青木創訳
- 1938年9月号 海南島、ロイ山地のビッグノットたちに囲まれて レナード・クラーク 鈴木淑美訳
- Part7 魅惑の熱帯、マレー半島
- 1920年1月号 スマトラ自動車旅行 メルヴィン・A・ホール 黒原敏行訳
- 1931年8月号 世界の果て、ニアス島 メーベルウ・クック・コール 野中邦子訳
- 1945年9月号 ボルネオ島の暮らし ヴァージニア・ハミルトン 佐藤桂訳
- Part8 アラスカ、未知の山岳地帯
- 1891年5月号 1890年のセント・イライアス探検記 イズリアル・C・ラッセル 越前敏弥訳
- 1918年2月号 一万本の煙の谷 ロバート・F・グリッグス 栗木さつき訳
- Part9 南アメリカ、古いスペイン人の足跡
- 1923年3月号 メキシコの古きスペイン街道を行く ハーバート・コーリー 佐藤桂訳
- 1929年2月号 馬に揺られてブエノスアイレスからワシントンDCへ エーメ=フェリクス・チフェリー 篠森ゆりこ訳
- Part10 アマゾン・オリノコ河の失われた世界
- 1926年4月号 水上飛行機でアマゾン峡谷探検 アルバート・W・スティーヴンス大尉 井坂清訳
- 1933年11月号 ジャングルの河川でアンデスイワドリの生息地へ アーネスト・G・ホルト 鈴木淑美訳
- 1949年11月号 世界最大落差の滝を目指す密林探検行 ルース・ロバートソン 黒原敏行訳
- Part11 大海原へ
- 1931年2月号 大型帆船でホーン岬をまわる アラン・J・ウィラーズ 鬼澤忍訳
- 1931年9月号 禁断の海岸を旅する アイダ・トリート 鬼澤忍訳
- 1937年11月号 紅海の真珠採り アンリ・ド・モンフレイ 杉浦茂樹訳
- 1941年1月号 南洋で時間をさかのぼる トール・ヘイエルダール 佐藤桂訳
- 1945年5月号 漂流からの生還 サミュエル・F・ハービー少佐 青木創訳
- Part12 高空から深海まで 新しい冒険の舞台
- 1921年3月号 豪州への飛行 ロンドンからオーストラリアへ飛行機で サー・ロス・スミス 井坂清訳
- 1930年8月号 南極大陸を空から制する リチャード・E・バード少将 酒井泰介訳
- 1934年9月号 北大西洋周辺調査飛行 アン・モロー・リンドバーグ 中村妙子訳
- 1931年6月号 海の墓場への往復旅行 1934年12月号 水面下900メートルへ ウィリアム・ビービ 酒井泰介訳
- 1934年10月号 成層圏探査 1936年1月号 前人未到の高度 アルバート・W・スティーヴンズ大尉 井坂清訳
- 1956年2月号 海中のカメラ 1957年12月号 バウンティ号のしかばね ルース・マーデン 相原真理子訳
- 図版・本文クレジット
【感想は?】
そんなわけで、感想は次の記事から。
【関連記事】
| 固定リンク
「書評:歴史/地理」カテゴリの記事
- ローレンス・C・スミス「川と人類の文明史」草思社 藤崎百合訳(2023.10.29)
- ニーアル・ファーガソン「スクエア・アンド・タワー 上・下」東洋経済新聞社 柴田裕之訳(2023.10.08)
- 植村和代「ものと人間の文化史169 織物」法政大学出版局(2023.09.29)
- マイケル・フレンドリー&ハワード・ウェイナー「データ視覚化の人類史 グラフの発明から時間と空間の可視化まで」青土社 飯嶋貴子訳(2023.08.08)
- ソフィ・タンハウザー「織物の世界史 人類はどのように紡ぎ、織り、纏ってきたのか」原書房 鳥飼まこと訳(2023.07.18)
コメント