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2016年10月30日 (日)

アンヌ・モレリ「戦争プロパガンダ10の法則」草思社文庫 永田千奈訳

…あらゆる戦争に共通するプロパガンダの法則を解明し、そのメカニズムを示すことが本書の目的である。
  ――ポンソンビー卿に学ぶ

条約というのは、その効力によって有利な条件が保証される側にとってこそ不可侵なものであるが、条約を破棄したほうが有利になる場合には「紙切れ同然」のものなのだ。
  ――第2章 「しかし敵側が一方的に戦争を望んだ」

非常に好戦的な者たちこそ、自分たちが哀れな子羊であるかのようにふるまい、争いごとの原因はすべて相手にあるのだと主張する。
  ――第2章 「しかし敵側が一方的に戦争を望んだ」

戦争の真の目的は国民には公表されない。
  ――第4章 「われわれは領土や覇権のためではなく、偉大な使命のために戦う」

どの国も、自分たちが使う可能性のない兵器(または使うことができない兵器)だけを「非人道的」な兵器として非難するのだ。
  ――第6章 「敵は卑劣な兵器や戦略を用いている」

【どんな本?】

 戦争は最も重要な国家の政策だろう。そのためか、戦争となると、国家はあらゆる手を尽くして国民を煽り、戦意高揚を図る。

 その際、国家はどのような手を使うのか。どんな者にどんな役割を割り当て、どんなイベントを起こし、どう脚色・演出し、どんなストーリーを描き、どんな論法を使い、何を隠すのか。

 アーサー・ポンソンビーの著書「戦時の嘘」を元に、第一次世界大戦・第二次世界大戦・冷戦・湾岸戦争・コソヴォ紛争などで使われた実例を多く集め、民意を戦争へと向かわせるプロパガンダの手口を暴く問題提起の書。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は Principes élémentaires de propagande de guerre, by Anne Morelli, 2001。日本語版は2002年に草思社より単行本を刊行。私が読んだのは2015年2月9日第1刷発行の草思社文庫版。文庫本で縦一段組み、本文約166頁に加え、訳者あとがき4頁。9ポイント38字×16行×166頁=約100,928字、400字詰め原稿用紙で約253枚。文庫本ではだいぶ薄い部類。

 文章はこなれている。内容も特に難しくないが、例の多くが第一次世界大戦・第二次世界大戦・湾岸戦争・コソヴォ紛争なので、そのあたりに詳しいと実感がわく。

【構成は?】

 各章は穏やかにつながっているが、興味のある所だけを拾い読みしても充分に意味は通じる。

  • ポンソンビー卿に学ぶ
  • 第1章 「われわれは戦争をしたくない」
  • 第2章 「しかし敵側が一方的に戦争を望んだ」
  • 第3章 「敵の指導者は悪魔のような人間だ」
  • 第4章 「われわれは領土や覇権のためではなく、
    偉大な使命のために戦う」
  • 第5章 「われわれも意図せざる犠牲を出すことがある。
    だが敵はわざと残虐行為におよんでいる」
  • 第6章 「敵は卑劣な兵器や戦略を用いている」
  • 第7章 「われわれの受けた被害は小さく、
    敵に与えた被害は甚大」
  • 第8章 「芸術家や知識人も、
    正義の戦いを支持している」
  • 第9章 「われわれの大義は神聖なものである」
  • 第10章 「この正義に疑問を投げかける者は
    裏切り者である」
  • ポンソンビー卿からジェイミー・シーまでの流れをふまえて
  • 訳者あとがき/原註

【感想は?】

 実のところ、目次が内容を綺麗に要約している。そのまんまの本だ。

 各章の中身は、賞の見出しに沿う例を並べているだけと言っていい。だから、面倒くさがりな人は目次だけ読めば充分だろう。

 が、ニワカ軍ヲタにとっては、豊富に並んだエピソードに大きな価値がある。無駄にエピソードを覚えてこそヲタクなのだ。それを自慢げに披露しても嫌われるだけなんだが、懲りないのがヲタクという生き物なんだからしょうがない。

 例えば、第一次世界大戦。ベルギーを占領したドイツ軍は、子どもたちの手を切り落とした。酷い話だ。この話を聞いたアメリカ人富豪が、被害者を探すため終戦後ベルギーに使いを送る。

 が、結局、被害者は見つからなかった。もともと、作り話だったのだ。

 敵を極悪非道の鬼畜にしたけあげ、味方の側には悲惨な目に合った可哀想な被害者を創り上げる。そういえばイラク戦争でも、油まみれの鳥の写真がサダム・フセインの悪行のシンボルとして注目を浴びた。

 遠く中東まで行く必要はない。日本でも太平洋戦争では鬼畜米帝と宣伝し、それが祟って南方では投降を許さず不必要に将兵を飢え死にさせた上に、サイパンや沖縄では民間人まで無駄に巻き添えにした。そもそも日中戦争のきっかけがヤラせだし。

 「空襲」が「空爆」にかわったのも、印象を操るのが目的だ。第二次世界大戦での空襲の記憶を持つ人は多い。それを空爆と言い換えて、「現代的で無機的」なイメージにスリかえようとしている。まあ、最近は空爆が定着しちゃったんで、むしろ空爆の方が生々しい印象になりつつあるけど。

 NATOによるユーゴスラヴィア空爆の記録も驚きだ。NATOの公式発表では戦車120台を破壊となっている。が、アメリカ国防総省の正式発表だと、確認されたのは14台。

 などの戦争報道については、最近じゃ広告代理店まで絡んできて、更にテクニックに磨きがかかっている様子。

 などと戦争に拘ると、私たちにはあまり関係がないように思える。が、落ち着いて考えると、身近なところで頻繁に使われているし、インターネットにも同じ手口が満ち溢れているのがわかる。

 それが最もあからさまなのが、ヘイトスピーチだろう。日本に住む外国人を徹底した悪役に仕立て上げ、自分たちは哀れな被害者を装う。自分たちの挑発は「仕方なしの防衛」と棚に上げ、反撃してきた相手の暴言・暴力だけをあげつらう。

 極端な思想信条に入れ込んだ、特別に変わった人だけが、こういう手口を使うならともかく、国民の代表が集う議会でも、与野党ともに同じテクニックを使っているんだから、なんとも。

 いわゆるいじめやパワハラでも、この本のテクニックが駆使される。臭いとか汚いとか和を乱すとか、いじめる相手にイチャモンをつけて悪役に仕立て上げ、自分は正義の味方を気取る。取りまきとツルみ、いじめに参加しない者には仲間外れの脅しをかけ、共犯関係に巻き込む。

 そう考えると、幼い子供ですら同じテクニックを使いこなしているわけで、別に戦争プロパガンダに限らず、実は人間の本質的な性質を語る本なのかもしれない。

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