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2016年8月30日 (火)

SFマガジン2016年10月号

夏目漱石もそうだが、事実を理解する能力と、その事実を受け入れる許容度の間には差が出るものだ。
  ――長山靖生「SFのある文学誌 第48回
   危険な洋書とショウの社会改良優生学 松村みね子の幻想世界3」

「話し合いが必要だな」僕は言った。
「なんで? あらゆることを徹底的に話し合わなくちゃいけないなんて法律でもあるの?」
「“door”って単語が、僕らの部屋のど真ん中に浮いてるんだぞ。話し合いは必要ないって?」
  ――チャールズ・ユウ「Open」円城塔訳

 376頁の標準サイズ。特集は三つ。最初は堺三保監修の「海外SFドラマ特集」。次に丸屋九兵衛監修の「『スタートレック』50周年記念特集。最後に小川隆監修で「ケリー・リンク以降 不思議を描く作家たち」。

 小説は豪華9本。連載は夢枕獏「小角の城」第40回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第11回。読み切りは梶尾真治「七千六日の少女」,草上仁「宝はこの地図」,ダン・シモンズ「ウルフェント・バンデローズの指南鼻」後編は酒井昭伸訳に加え、 「ケリー・リンク以降」特集としてチャールズ・ユウ「Open」円城塔訳,ユーン・ハリー「弓弦をはずして」小川隆訳,メガン・マキャロン「魔法使いの家」鈴木潤訳,ジュリア・エリオット「ワイルド家の人たち」小川隆訳。

 ダン・シモンズ「ウルフェント・バンデローズの指南鼻」後編、酒井昭伸訳。魔界学者シュルーはバンデローズの鼻を手に入れ、ミアマゾンを統べるダーウェ・コレムとマウツのメイヴォルトを伴い、飛空ガレオン船で第二の<究極の図書館>を目指す。

 元船乗りのジャック・ヴァンスへの敬意なのか、飛空ガレオン船での長い航天の描写が見事。特に中間点通過の宴、元ネタは赤道祭だと思うんだが、昔はこういう旅が当たり前だったんだろうなあ。ヒュエ教授が意外と芸達者だったり。

 続く「浅倉ヴァンス爆誕」酒井昭伸は、ジャック・ヴァンスの「竜を駆る種族」の訳をネタに、浅倉久志を偲ぶコラム。海外作品を読む際に、普通にスラスラ読めるって、実は凄い事なんだよなあ、と気づかされる。

 コンピュータ・ソフトでも、マニュアルを読まず自然に使えるモノって、実は大変な工夫が凝らされてるように、ラクに読める文章ってのは、書く側がとても気を使っているのだ。これが小説の翻訳となると、原文の香りも残さにゃならんので…

 梶尾真治「七千六日の少女」。星雲賞受賞記念に、怨讐星域の書き下ろし特別編にして、「76分間の少女」完結編。ノアズ・アーク号は<約束の地>に辿りつくが、直前に船体が崩壊、ジョナ・ハリスンは脱出ポッドでかろうじて着水したが…

 描かれなかった「76分間の少女」に決着をつけるのに加え、本編では駆け足で描かれた、ノアズ・アーク乗員とニューエデン住民が寄り添ってゆく様子を、ジョナ・ハリスンを中心に描いてゆく。にしてもヨモギダ、それはあんまり… ま、いっか。

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第11回。ハンターを中心とするクインテットの引き起こす惨劇を、間近で見続けたウフコック。その苦しみの重さに彼の心が押しつぶされようとしている時、ウフコックの前に現れたのは…

 今までの激しいバトルや陰惨な暴力シーンとはガラリと変わり、ほのぼのとした風景が描かれる回。久しぶりに出番が回ってきたミラー&レザーのコンビが、意外な一面をのぞかせる。にしてもミラー、お前本気なのか?

 草上仁「宝はこの地図」。また誰か原稿を落とし←しつこい。植民星ディーツは独裁者サガミが支配している。砂漠に住む俺たちには、ときおり食料の配給が届く。ヘリがまくビラが、食料のありかを示すヒントだ。ただし早い者勝ち。出遅れたら食いっぱぐれ飢えて死ぬ。

 命を懸けたお宝争奪戦を、草上仁らしいひねったアイデア満載で描く作品。最近の作家なら、アクション連続の長編になるぐらい沢山のアイデアを、21頁にギッシリ詰めこんだ、とっても贅沢な作品。

 「ケリー・リンク以降 不思議を描く作家たち」特集。SFのスリップストリームを枕に、ミステリやロマンスなど他のジャンル小説でも起きたジャンル越境の動きを追ってゆく。ジャンル名は、いっそ昔ながらの幻想小説や奇想小説でもいい気がする。

 チャールズ・ユウ「Open」円城塔訳。珍しく僕が昼間から家に帰った日、そこにはとんでもないシロモノがあった。“door”って単語が、部屋の真ん中に浮かんでいる。そしてサマンサがソレを見つめている。やがて単語は…

 5頁の掌編。突然現れた単語をきっかけに、若いカップルの関係が変わってゆく。なんか恋愛小説みたいな仕掛けだが、中身はどうにもスッとぼけて唖然としちゃうお話。「演技で僕らしていた」って文が、今風ながら巧く雰囲気を伝えている。

 ユーン・ハリー「弓弦をはずして」小川隆訳。兵士たちに追われ、山からわれらの迷路にやってきた女。最初は互いの言葉も通じなかったが、少しづつ女ナンモリはわれらの中に馴染んでゆく。

 これも4頁の掌編。ギターやマンドリンなど、リュート族の楽器の元祖は、弓かもしれない。弦の半分あたりを押さえて引くと、開放時よりオクターブ高い、すなわち周波数が倍で波長が半分の音が出る…ってのは、関係あるような、ないような。

 メガン・マキャロン「魔法使いの家」鈴木潤訳。冗談で「魔法なら習ってもいいけど」なんてママに言ったせいで、わたしは魔法を習う羽目になった。魔法使いは痩せた背の高い白髪交じりの男。面接の結果は「来週また来い、シャベルを忘れずに」。

 どうも舞台は現代のアメリカで、主人公は女子高生。いきなり穴掘りってのも意表を突くが、与えられた課題「まだつながってない二つの場所をつなぐこと」の解決策が、コレってありなのかw

 ジュリア・エリオット「ワイルド家の人たち」小川隆訳。裏の家に越してきたワイルド家には、騒がしくて乱暴な八人兄弟がいた。いちばん上は頬髯をはやした17歳で、いつもは穴蔵にこもっているブライアン。わたしは彼に首ったけだった。

 女の子から見た男の子ってのは、こんなケッタイな生き物なんだろうなあ。うるさくて汚くて暴力的でせわしなく、悪趣味な上にどうしようもなく頭が悪く、変なものにこだわる。

 海外SFドラマ特集。ゲーム・オブ・スローンズが「予算もテレビドラマとしては最高額」ってのは凄い。よくゴーサインが出たなあ。にしてもアメリカは潤沢な予算でしっかりした映像を作れて羨ましい。Childhood's End―幼年期の終わり―には期待してたんだが、出来はムニャムニャらしいのが残念。

 椎名誠のニュートラル・コーナー「時間流刑者は暇な午後に三葉虫を釣りにいく」。タイトルから元ネタはアレかと思ったら、やっぱり「ホークスビル収容所」だった。あのアンソロジー・シリーズ、復活して欲しいなあ、電子版でいいから。

 山本さをりの世界SF情報。2015年ローカス賞のSF長編部門は、アン・レッキーの Ancillary Mercy。そう、「叛逆航路」から始まる三部作の完結編。こりゃ期待しちゃうなあ。

 堺三保のアメリカン・ゴシップ、今回はサンディエゴ・コミコンの話。偽造チケットで潜り込もうとする輩がやたら多く、「去年は数万枚、偽造チケットが出たとか」ってのに驚き。組織的にチケットを偽造してる奴がいるんだろうか?

 丸屋九兵衛の「スター・トレックの50年間を5分で読め!」。最初のシリーズ「宇宙大作戦」が視聴率不振を理由に3シーズンで打ち切りになった後、再放送から盛り上がり始め、ファンの声に押され多くのシリーズにつながってゆく。これで気づいた。そうか、スタトレって、アメリカのガンダムなのか。

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