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2016年8月24日 (水)

アンドルー・ファインスタイン「武器ビジネス マネーと戦争の[最前線]」原書房 村上和久訳 2

武器商人デル・ホヴセピアン「わたしはこのしろものを売買するだけで、使ったりはしないんだよ」
  ――4 人道を守るため

「ずいぶん多くの航空機メーカーのために働いてきたが、<BAE>はこんな制度化されたシステムを持つ唯一のメーカーだ」
  ――5 究極の取引、それとも究極の犯罪?

アンドルー・ファインスタイン「武器ビジネス マネーと戦争の[最前線]」原書房 村上和久訳 1 から続く。

【アル・ヤママ】

 上巻のもう一つのテーマは、<アル・ヤママ>事件だ。調印は1985年。

 関係者はイギリス政府・イギリスの巨大防衛企業BAEシステムズ(→Wikipedia)・サウジアラビア。大ざっぱに言えば、BAEがサウジに武器を渡し、見返りにイギリスが石油を貰う取引。

 武器ったって、小銃や手榴弾とかのチャチなシロモノじゃない。1985年に調印された<アル・ヤママ>取引、BAEがサウジに引き渡すのは…

  • パナヴィア・トーネード対地攻撃機96機(→Wikipedia)
  • 同防空戦闘機型(ADV)24機(→Wikipedia)
  • BAEホーク練習機50機(→Wikipedia)
  • ピラタスPC-9練習機50機(→Wikipedia)
  • 海軍艦艇/ミサイル/砲弾/支援業務ほか

 その代償としてイギリスが受け取るのは、一日40万バレルの石油。ちなみに日本は石油の3割以上をサウジから輸入してて、今年(2016年)6月にサウジから輸入した石油は約483万kl(→経済産業省)。これをバレル/1日に換算すると、約101万バレル/日。だいたい日本の輸入量の1割ぐらいか?

 この時、アメリカのF-15はイスラエルが邪魔して没になり、フランスのミラージュ2000(→Wikipedia)と争う形になる。そこで賄賂だ。

 10億ポンドがヴァージン諸島の会社を通じて流れ、それから代理人と、バンダル王子の父で契約に署名した国防省のスルタン王子とつながっていると思われるスイスの銀行口座に移された。

 これは裏金のごく一部で、他にも王族のジェット旅客機やサウジ空軍パイロットたちの遊興費、そして仲介したブローカーたちの手数料やらに、よくわからん金が流れている。ちなみに今、日本円に換算したら、10億ポンドは約1325億円。

 裏金の流れも、ヴァージン諸島やパナマのペーパー会社・トンネル会社を介したややこしい仕組みで、この辺は本書でも特にややこしい所だった。

 この賄賂、サウジを腐らせるだけじゃない。BAEの下請け会社や取引の途中で加わるブローカーたちも巻き込んでゆく。中にはエンジンを作ってるロールスロイスや、マーガレット・サッチャーの息子マーク・サッチャーなんて名前も出てくる。

 加えて支払いが石油ってのもキモで、この分はOPEC(石油輸出国機構)の割り当てに入らない。当然、石油市場じゃイギリスの買いが減るんで、原油価格は下がる。輸入国の日本には嬉しい話ではあるが、サウジはOPECのリーダーとしてどうよ。

 この取引はイギリス国内でも問題となり、SFO(重大不正捜査局)が捜査に乗り出すのだが…。

 このSFOのくだりを読むまで、私は「別にいんじゃね?」と思ってた。原油価格が下がるのは嬉しいし。ガス代安くなって助かるよね。

 例えば、そうだなあ、日本がサウジアラビアかアラブ首長国連邦に、そうりゅう型潜水艦(→Wikipedia)を売るとする。代価は石油だ。日本はガソリンが安くなる上に、仕事が増えて失業者が減る。ラッキーじゃん。

 が、しかし。この事件を追うヘンリー・ガーリック海外不正課課長の執念は、当事者であるBAEやバンダル王子はもちろん、保守党&労働党の二大政党・新聞各紙が立ちふさがり、最後には司法までが圧力に屈してしまう。

 失業者が減って石油が安くなる。一見、いいことづくめのようだが、その裏では汚い大金が動く。これが企業・政治家・行政・司法と、権力を持つ者すべてを腐らせてゆく。

 武器取引は、たいていが多きな権力を持つ、往々にして腐敗した者が相手だ。おまけに軍事機密が絡むので、秘密の部分が多くなる。捜査しようにも、サウド王家の機嫌を損ねたらオイルショックは確実だ。武器輸出には、そういう危険もあるわけ。

【南アフリカと東欧】

 上巻の終盤では、著者が南アフリカで体験した事件を取り上げる。これが本書の執筆の動機だろう。

 わたしは<BAE>が発展途上国に与えた破壊的な影響をじかに経験している。

 著者は、ネルソン・マンデラが率いたANC(南アフリカ民族会議)の一員として、国会の公会計委員会で公的資金を監視していた。事件は、軍用機の調達で起きる。時は1990年代後半。

 案は二つあった。一方はイタリアのアエルマッキMB339FD(→Wikipedia)、もう一方はBAE&サーブのホーク練習機+グリペン戦闘機(→Wikipedia)。お値段はBAE案のほうが2.5倍ほど高く、またアエルマッキなら練習機と戦闘機を同じ機種で賄える。

 ここでは「かわりに何か事業に投資して労働者を雇う」と約束するオフセット取引や、国防相への賄賂などで、グリペン案が通ってしまう。

 他にも運用費用が高すぎてパイロットがロクに飛べないとか、エイズ対策の7倍を武器取引に浸かってるとか、ANCが腐り果てたとか、検察と捜査機関が衰退したとか、議会が機能しなくなったとか、著者がこういう本を書く動機としては、あまりに充分すぎる内容が次々と出てくる。

 ここではグリペンの悪口が続々と出てくるんで、グリペン信者には読んでて厳しいところ。この後ではチェコとハンガリーへの納入でも、オーストリアの貴族が出てくるあたりは、欧州の古い闇をのぞき込む気分だ。

グリペンの長所は短距離の離着陸と防空・攻撃・偵察の多用途で、短所は航続距離の短さ。よって狭い山がちの国土で、軍事的に厳しく(中立なので有事には敵に囲まれ同盟国を頼れない)、そこそこ金のあるスイスみたいな国には向くが、NATO加盟国や貧乏な国、そして広い海域を持つ国には疑問なんだよなあ…と思ったら、スイスはグリペン買ってないw

【おわりに】

 下巻はアメリカの軍産議複合体と、今も紛争が続くソマリアやアンゴラなどの事情が書いてある。これがまた実にこってりと濃い内容で、なかなか読んでて厳しいもんがあるんだが、その辺は次の記事で。

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