« ジョーゼフ・ヘラー「キャッチ=22 上・下」ハヤカワepi文庫 飛田茂男訳 | トップページ | Diomidis Spinellis, Georgios Gousios編「ビューティフルアーキテクチャ」オライリージャパン 久野禎子・久野靖訳 1 »

2016年7月 6日 (水)

SFマガジン2016年8月号

時代は、書いた途端から作品を追い抜こうとしています。これは、SFが現実になる時代の現代小説なんだ、ということです。
  ――川端裕人×野田篤司 『青い海の宇宙港』を飛び立つまで

 376頁の標準サイズ。特集は「ハヤカワ・SF・シリーズ 総解説」。

 小説は7本。連載は夢枕獏「小角の城」第39回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第10回,川端裕人「青い海の宇宙港」最終回。読み切りは谷甲州「イカロス軌道」,伏見完「あるいは呼吸する墓標」,宮澤伊織「裏世界ピクニック」。加えてダン・シモンズ「ウルフェント・バンデローズの指南鼻」前編は酒井昭伸訳。

 特集「ハヤカワ・SF・シリーズ 総解説」。いわゆる銀背ですね。

 ヴェルヌの「海底二万リーグ」なんてのも出してたのか。ルイス・パジェットの「ミュータント」は面白そう。映画「遊星からの物体X」で有名なジョン・W・キャンベル「影が行く」も読みたい。今は創元SF文庫のアンソロジーで読めるなあ。ヘンリイ・カットナー「ボロゴーヴはミムジイ」、表題作や「トオンキイ」の名前だけは聞いたことがあるんだが、手に入れるのは難しそう。

 高橋良平「ハヤカワ・SF・シリーズの歴史」。銀背ばかりでなく、日本でのSF出版黎明期の状況も大事な背景としてわかりやすくまとめてある。あまり顧みられないけど、都築道夫の貢献も大きいみたい。またSF用語を日本語に移し替えるのに苦労した模様。別の見方をすると、当時の訳者のセンスが今日のSF用語にも生きてるって事かな。

 川端裕人「青い海の宇宙港」ついに最終回。駆たちが島の者を巻き込み作り上げたロケットが、いよいよ打ち上げにまでこぎつけた。希実も萌奈美も、そして落ち着いたフリをしている周太も興奮を隠せない。駆の父母も、そして弟の潤も島にやってきた。そして始まるカウントダウン。

 今回も、打ち上げ前の準備の描写が、静電防止靴など細かい所まで具体的なのが迫力を増している。フィナーレだけあって、今までの登場人物が勢ぞろい。にしても、駆の母ちゃんの台詞が、いかにも母ちゃんらしいw 単にロケットだけでなく、川やガオウ、そして島の社会まで描き切った、この作者わしい気持ちのいい作品だった。

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第10回。<ホスピタル>を奪おうと乗り込んだハンターに、奇怪な子供たちが襲い掛かる。そこに駆け付けた<クインテット>。

 今回は、エンハンサー同士のバトルで始まる。今までバラバラに動いていたメンバーが、再び終結する流れは、やっぱり盛り上がるなあ。対する異形の子どもたちの能力も、なかなか禍々しい。何かとハンターに執着するシルヴィアが可愛らしいい。均一化しても感情は消えないんだね。

 谷甲州「イカロス軌道」はお馴染みの新・航空宇宙軍史。土星の外側軌道で哨戒中の特設警備艦プロメテウス03は、早期警戒システムによる警報を受ける。重力波センサが、太陽系外縁を高速移動する重力波源をとらえたのだ。データを見ると、途方もなく巨大な航宙船が高速移動しているように見える。

 つい最近に観測されたばかりの重力波(国立天文台LIGOによる重力波直接検出について)なんてホットなネタを使いつつ、あまり信用できない観測機器とデータを基に、敵の思惑と動きを読もうとする、いわゆる「戦場の霧」(→Wikipedia)に立ち向かう軍人の話。僚艦との連携が期待できず、独自の判断・行動が求められる点では、潜水艦に似てるかも。

 伏見完「あるいは呼吸する墓標」。遠い未来。ヒトは体内に様々な医療ファームウェアを持ち、医学的恩恵を手に入れた。ファームウェアを管理するAReNAは、その代償としてヒトの大脳の計算力を得る。妹の未鳴は、砂漠で歩く死体を見た、という。補助筋肉の出力が100%なら、あんな歩き方になる、と。

 ヒトはAReNAに頼り、AReNAはヒトを頼る。読み終えて改めて考えると、互いが互いを支える共生関係のように思えるが、未鳴の語る「砂漠で歩く死体」の風景の印象が強烈で、救いようのない終末に向け静かに歩んでゆく物語のように感じてしまう。

 ダン・シモンズ「ウルフェント・バンデローズの指南鼻」前編、酒井昭伸訳。ジャック・ヴァンスの<滅びゆく地球>シリーズのトリビュート。このシリーズを読むのは初めて。遠い未来。太陽は赤く膨れ上がり、一日は伸びてゆく。災厄が降り続く地球で、魔法関係者は迫害される。究極の図書館を持つウルフェント・バンデローズの死を知った魔界学者シュルーは…

 翼妖ペルグレーン,<魔界>,徘徊性アーブなど、出てくる仕掛けはSFというよりファンタジイ。出てくる輩はみんな一癖も二癖もある曲者ばかりなのが、ヴァンスらしい。肝心の<究極の図書館>も、魔法により書物を読めるのは主のウルフェント・バンデローズだけ、という意地悪さ。いい根性してます。

 宮澤伊織「裏世界ピクニック」。19歳の女子大生、紙越空魚は、<裏側>の草原で死にそうになっていた。白いくねくねしたアレを見ると、気分が悪くなって力が抜けるのだ。そこに現れたのは、同じぐらいの年頃の娘、仁科鳥子。彼女の機転で危機は脱したものの…

 異界といっても馴染みのRPGの世界ではなく、異様で物騒なシロモノが潜んでいる危ない世界。くねくね(→Wikipedia)や異世界エレベーター(→Naverまとめ)を絡め、コミック風に物語が進む。仁科鳥子の正体など謎は多く、長いシリーズの冒頭みたいだなあ。諸星大二郎の「栞と紙魚子シリーズ」を思い浮かべた。

 椎名誠のニュートラル・コーナー「世界の大河は頑固でときに幻想的に優しい」。メコン川のドンダイ漁がのんびりしているような、豪快なような。定置網みたいな感じなんだけど、この網の見張り役が引きこもりにピッタリの仕事。川のなかに建った二畳ほどの小屋に、12日間一人で籠りっぱなしで暮らすのだ。

 ジョン・ヴァーリーの「ブラックホール通過」とか、宇宙の彼方の観測基地などでたった一人で暮らす観測員の話はあるが、まさか地球上で似たような仕事があるとは。

 ≪蒲公英王朝期≫第一部刊行記念 ケン・リュウ・インタビュウ “シルクパンク”を描く。「短編は彫刻に似て、長編は建築に似る」ってのが、いい得て妙。中国とアメリカ両方の文化に触れた人だけに、「龍はドラゴンじゃないし火の鳥はフェニックスじゃない」と、アメリカ人の中で既に出来ちゃった中国のイメージを払拭する工夫を凝らしているとか。

 鳴庭真人のNOVEL&SHORT STORY REVIEW「戦略・戦術SF」、今回の目玉はアンドリュー・グローン「Empire of EVE」。2003年に始まったオンライン・ゲームの EVE での抗争を物語風にまとめたノンフィクション。EVE は星団内で暮らし、または徒党を組んで覇を競うゲーム。

 面白いのは、サーバ遅延も「潮や風向きのような自然現象」とプレイヤーが考えてる点。「これを考慮に入れない作戦指揮官は無能とされてしまう」。もう完全に世界に入り込んでるなあ。しかも徒党の指導者が銀英伝でいう「トリューニヒトやオーベルシュタインばかり」ってのがw

 鹿野司「サはサイエンスのサ」。今回は珍しくベーシック・インカム(→Wikipedia)の話。これが最新テクノロジーと何の関係があるかというと、AIが絡んでくる。自動車が自動運転できればタクシーの運ちゃんが仕事を失うように、情報技術が進めば職が減り貧富の差が大きくなる。これを防ぐ方法の一つがベーシック・インカムだろう、と。

 今の所AIは「碁に勝つ」とか「自動車を運転する」とかの比較的にハッキリした狭い目的にしか対応してないし、日本でも自動販売機の発達が店員さんの職を奪ったかというと意外とそうでもないんで、暫くは大きな影響はなさそうだけど、先の事はわからないからなあ。

|

« ジョーゼフ・ヘラー「キャッチ=22 上・下」ハヤカワepi文庫 飛田茂男訳 | トップページ | Diomidis Spinellis, Georgios Gousios編「ビューティフルアーキテクチャ」オライリージャパン 久野禎子・久野靖訳 1 »

書評:SF:小説以外」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/201750/63878283

この記事へのトラックバック一覧です: SFマガジン2016年8月号:

« ジョーゼフ・ヘラー「キャッチ=22 上・下」ハヤカワepi文庫 飛田茂男訳 | トップページ | Diomidis Spinellis, Georgios Gousios編「ビューティフルアーキテクチャ」オライリージャパン 久野禎子・久野靖訳 1 »