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2016年6月26日 (日)

フィリップ・ボック「現代文化人類学入門 1~4」講談社学術文庫 江渕一公訳 1

 本書の中心テーマは、文化現象というものはすべて類似した構造をもっているということ、すなわち、文化の構成要素をなす言語、社会、技術、思想などの各体系は、それぞれ、学習によって獲得された「経験の範疇」から成っており、それらの範疇は、慣習によって、一定の「行動準則」と結合しているということである。
  ――日本語版への序文

【どんな本?】

 文化人類学とは何だろう? それは何を扱い、どんなことを調べるんだろう? 社会学や言語学とは、何が違うんだろう? 文化人類学者は、どこに行って何を見て何をしているんだろう? どんな根拠からどんな理屈でどんな結論を引き出すんだろう? そして、今までの研究で、何が分かって何が分かっていないんだろう?

 アメリカの文化人類学者による、文化人類学を学ぶ大学生のための教科書であり、また文化人類学に興味がある一般人向けの入門書。

 ただ原書は1974年といささか古いので、書名の「現代」は割り引いて考えた方がいいかも。また今は手に入れるのが難しいので、読みたい人は図書館で借りよう。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は Modern Cultural Anthropology : an introduction : Second Edition, by Philip Karl Bock, 1974。なお原書の初版は1969年。日本語版は1巻&2巻1977年1月10日第1刷発行、3巻&4巻1977年2月10日第1刷発行。文庫本で縦一段組み、本文約(195頁+299頁+297頁+135頁=926頁)に加え、訳者解説13頁+訳者あとがき2頁。8.5ポイント41字×18行×926頁=約683,388字、400字詰め原稿用紙で約1,709枚。3巻か4巻が妥当な分量。

 文章は教科書的で、やや硬い。二重否定などの持って回った表現は少ないものの、学術書らしく正確であるよう心掛けているので、小難しい雰囲気の文になる。が、内容はそれほど難しくない。硬い文章に怖気づかなければ、高校生でも読めるだろう。特に諸星大二郎やジャック・ヴァンスが好きな人にお薦め。

【構成は?】

 「第一版への序文」で「本書は概念的に一貫した構成をとっている」とあるので、できれば素直に頭から読もう。

  •  一巻
  • 日本語版への序文
  • 第一版への序文
  • 第二版への序文
  • 第一部 人間とは何か
    • 序論
      定義につきまとう二つの側面/この部で学ぶこと
    • 第一章 生物学的背景 始原へ導く事実
      • 1 霊長類
        すべて「ものをつかむ」/優劣の順位制とすぐれた頭脳/幼児期の延長
      • 2 人類の起源
        彼らは道具を遺した/最古の道具 オルドワイ式礫石器/ヒト科化石骨の発見/アウストラロピテクス/ホモ・エレクトス/ホモ・サピエンス
      • 3 文化と人種
        人類学のいう「文化」とは/文化的特徴と遺伝的特徴/適応力に人種的優劣はない
      • 4 人類学の諸分野
        形質人類学と文化人類学/文化人類学の多様な分野/「人間とはなにか」 人類学の諸分野に共通する問い
      • 基本文献 注
  • 第二部 人間であるための学習
    • 序論
      学習能力/文化化 社会的学習/文化化と言語
    • 範疇について 補注
    • 第二章 言語の習得
      子どもの言語習得/耳なれない言語について/maのばあい/幼児ことばの生成/独力による言語/「規則」の発見/言語習慣=規則の獲得
      • 1 音体系
        最小対語/前舌閉鎖音の有声音と無声音/音素/音素への音声の類別/音素の結合/音体系の主要な二作用
      • 2 言語と話しことば
        話しことば行動/自由変異と条件変異/変異の社会言語学的要因
      • 3 文法
        形態論/語根と接辞/情報量と種類に基づく差異/非印欧語系統のばあい/音声言語の規則性/形態素の相互対立/統語論/統語論上の諸規則/言語の生産性
      • 4 意味論
        形態素の伝える意味/正しい意味を知る学習/言葉と色彩名称/環境と色彩名称/意味の意味
      • 基本文献 注
    • 第三章 文化化の過程
      本章の問題点
      • 1 文化化の初期段階
        胎児と妊婦についての諸信仰/アメリカ人のばあい/社会の風習・信仰と人間の実際行動/出産をめぐる風習/新生児の沐浴/乳児の栄養摂取と文化/乳児の学習/母子関係の相互作用 日米の比較/おとなの文化と育児慣行との一貫性/育児慣習の社会的機能/育児はだれが担当すべきか/慣習および必要からの所産
      • 2 文化化の後期段階
        社会化の開始/言語学習の社会的機能/小児語/からのガソリン罐/社会的進路/性(男・女)に基づく進路/分業化による進路の増加/分業化社会の典型的進路/教育と社会統制/小規模社会の行動統制/超自然力信仰とタブー信仰/最強の社会統制力 同年仲間集団/未開社会の定型的教育/伝統の口承
      • 3 成年式
        成年式 一つの通過儀礼/成年儀礼の教育的機能/個人の位置確定の劇的表現/文化化の重要側面/カメリア族の成年式/成年式学校四年の最終段階/分離→移行→統合の儀式化
      • 基本文献 注
  •  二巻
  • 第三部 社会体系
    • 序論
      社会体系と対人関係行動/規制と規則違反/社会体系の中の生産性
    • 行動準則について 補注
    • 第四章 人間の行動
      われわれの関心 社会的役割
      • 1 社会的役割
        社会的役割の二つの側面 範疇と準則/役割表示と役割加入/帰属的役割と獲得的役割
      • 2 親族関係の役割
        父と子、母と子の関係/さまざまな“父親”/親族関係の役割の分析/親族名称の基準/世代(Generation)/性別(Sex)/親戚性(Affinity)/傍系性(Collaterality)/双岐性(Bifurcation)/年齢の上下関係(Relative Age)/話す人の性別(Speaker's Sex)/生死の別(Decedence)/親族名称と行動/婚姻規制の壁/社会関係
      • 3 性別役割と年齢別役割
        性別役割の二つの側面/性別役割への社会の期待/社会的年齢とその役割/生涯の最良の時期は?/
      • 4 職業的役割
        職業的役割への加入/職業的役割の遂行/二つのディレンマ
      • 5 指導者としての役割
        権威の合法的行使/世襲的指導者/官僚的指導者とカリスマ的指導者/代表的指導者/権威による役割の格づけ
      • 6 個人的役割と社会的役割
        個人的役割とその属性/個人の名前の役割/社会人的役割とその属性/社会的役割と社会人的役割
      • 基本文献 注
    • 第五章 集団の種類
      前の章で知ったこと
      • 1 範疇と集団
        人間の範疇/集団の分類/集団の統合性/相互依存と相違/集団の三つの機能/トロブリアンド島民のクラ・リング/集団の専門化
      • 2 居住集団
        「磁石と容器」/世帯/世帯の居住/結婚にともなう居住既定の諸類型/若者宿(青年隔離)とその機能/母中心世帯/地域社会の構造と動態/地域社会の分裂・併合/研究対象としての地域社会/居住規定の意味
      • 3 親族集団
        親族集団とは/双系的・自己中心的キンドレッド(親類)/双系親族集団の機能/双系親族集団の維持・強化/真の出自集団(単系出自集団)/系属(母系または父系だけの親族)/単系原理とエゴ/オジ方居住と交叉イトコ婚/氏族 その発生と特色/トーテム氏族とトーテミズム/カーストとその制度/カーストの格づけ 身分階層体系
      • 4 仲間集団と結社
        「仲間集団」という用語/年齢と性別に基づく集団/年齢組/年齢村/青少年の徒党集団/職業集団と結社/臨時の作業集団/臨時編成集団の永久化/表出的集団とその機能/友好団体と秘密結社
      • 5 人種・民族集団
        人種的・文化的差異の所産/民族集団研究の重要性/社会階級
      • 6 社会という集団と制度的組織体
        全体社会の文化と各種の集団/社会人的役割とアイデンティティ/孤立社会と開放社会との文化の相異/組織体 その構図と機能/組織体間の関係/人間の文化のパラドックス
      • 基本文献 注
    • 第六章 社会的空間と社会的時間
      人間活動と時間・空間の概念
      • 1 社会的空間の構造
        社会的空間の多次元性/地名と空間的定位/すべての人間は宇宙観念をもつ/テリトリー/社会的領域間の境界/テリトリーの区分/空間・地位・階層/アメリカの社会階層/個人的空間/身体各部の範疇化の文化的差異/意味的空間と成分分析/成分分析の目的と機能/民俗分類法/意味微分法
      • 2 社会的時間
        時間の知覚は社会によって異なる/社会的時間の多様性/時計に左右されない社会/時間と社会/さまざまな時間的定位/社会的時間の系列としての社会的進路/時間区切りの価値関係/文化による時間の扱い方の差異
      • 3 社会的場
        社会的時間・空間・役割の交差点/知らぬ顔をする/礼儀/暗黙の了解
      • 基本文献 注
    • 第七章 安定と変化
      文化と個人の相互作用
      • 1 社会組織
        社会構造と社会組織/文化変動の要因 個人の選択/共有の文化とその選択/標準化された型と選択の自動的制限
      • 2 予想
        役割遂行 その開始と予想/役割遂行を喚起する条件の二類型/要因の準備/役割遂行への予習と変更/資材の準備と場の設定/予想と実際の行動
      • 3 選択と変化
        期待への対応/期待と選択との相互作用/選択の決定/役割葛藤と矛盾/選択の評価/同調 その時期と強度/同調への選択的方法 ごまかしと拒絶/同調への選択的方法 革新/発明/発見/革新の進行過程
      • 4 適応
        突然変異と自然淘汰/適応の三つのレベル/文化変容/活性化運動
      • 5 交換と互酬の原理
        価値の交換/互酬の規範/一対一の契約/互酬の統合的機能/交換による社会的統合/情報
      • 基本文献 注
  •  三巻
  • 第四部 技術体系
    • 序論
    • 第八章 道具と人間の必要
      道具とは/道具と非道具
      • 1 体温調節の必要
        環境統制法の発展/住みか/地域それぞれの環境/統制/天幕居住/イグルー/衣服 二つの重要機能/永続する衣服の基本形/衣服材料
      • 2 食料と水の必要
        水源の発見/水の“捕獲”のしかた/食料採集/食料用の石臼と容器/脱穀用具としぶ抜き装置/狩猟 棍棒・槍・弓矢/吹き矢・わな/漁労/狩猟・漁労の社会的分業体制
      • 3 コミュニケーションの必要
        生存に不可欠の理由/輸送 事物の伝達/そり その三つのタイプ/舟 その四つの基本形/コミュニケーション メッセージの伝達/コミュニケーションの中心的手段 話しことば/太鼓・銅鑼・笛言語/情報の貯蔵と伝達装置/地域社会への可能性とその限界
    • 第九章 技術と技能
      人間存在と技術/技能 その習得/技術の使用
      • 1 エネルギー利用の技術
        不変のエネルギー源 腕力/腕力以外のエネルギー源/発火技術/燃料革命/霊的エネルギーとその利用技術/霊的技術と非霊的技術
      • 2 食料獲得の技術 生業
        女たちの食料採集/狩猟民族集団の本質的特徴/狩猟・採集民の増進儀礼/タブー/採集から生産へ 鍬農耕/焼畑耕作/物理的技術と霊的技術の混合/牧畜 東アフリカの牧牛体系/犂農耕へ 集約農耕技術/文明
      • 3 病気治療の技術 医術
        病気は治療を要求する/診断 その民俗性/霊媒による診断/なぜある種の治療技術が用いられるか/未開社会の治療法はなぜ効くか/絶大な暗示効果と社会的支持/新分野 医療人類学
      • 4 ものを製作する技術 技術工芸
        かご編みの技術/織物の技術/土器の製作/土器の焼成技術/カヌーの建造/カヌー建造にまつわる呪術/冶金術 銅/鉄の冶金術/文明化社会への警告
      • 基本文献 注
  • 第五部 思想体系
    • 序論
      思想とは/事実と価値/思想体系の探求/大伝統と小伝統/思想の体系化と人類学
    • 第十章 信仰体系
      思想の本質的機能
      • 1 宇宙観
        創世神話/プエブロ・インディアンの出現神話/宇宙観のもつ観念・信仰/口承伝統の民話/文化のパタンと宇宙観/宇宙、社会、人間の一体観/死霊への恐れと祖先崇拝/死への態度・死についての信仰の多様性/生活のあらゆる部分に宗教的次元
      • 2 権威の概念
        なにが従わせるのか/極端な平等主義と個人主義 パリヤ族社会/典型的民俗社会の文化構造/部族社会のカリスマ的指導者/カリスマ的指導者の権威とその役割/身分階層制社会の権威/官僚思想との対立 伝統的権威の苦悩
      • 3 財産の概念
        普遍性と多様性/使用権と処分権/鍬農耕民の土地保有/単一社会での土地保有/貸借関係の土地保有/さまざまな種類の財産権/財産権主張をめぐる紛争とその処置/部族財産の保護と犯罪者処置/財産としての人間/奴隷所有権/未開社会の経済体系
      • 4 エイドス 信仰の統合原理
        家族的個人主義/超道徳的家族主義/二元論〔双分性〕/身分階級制の観念/信仰体系のもつ首尾一貫性/レヴィ=ストロースの貢献
      • 基本文献 注
    • 第十一章 価値体系
      文化的価値とはなにか
      • 1 価値づけの過程
        判断基準の用意/判断のための標準/女性の範疇と動物の範疇/エゴと動物の範疇/等価性または相対的格/手段と目的の区別
      • 2 行為の善悪の判断 道徳性
        普遍主義的基準と特定主義的基準/「義理」という道徳/自殺の道徳性/行動の道徳的評価/倫理的相対主義
      • 3 美の判断 美学
        美の基準は各文化のなかに具現される/スタイルの精選とその展開/美の範疇 トゥール族の四単語から/美の範疇 伝統的民間伝承から/対照・反復・列挙法/音楽と文化的背景/音楽美の構成要素/詩歌韻律学
      • 4 エトス 価値の統合の型
        エトスとは/ベネディクトの失敗とオプラーの提唱/ヤルロ文化の主要な諸主題/グルルンバ文化の重要主題/一般的価値とその具現/人間性についての考えかた/三つの立場/文化の相互理解 その現代的重要性
      • 基本文献 注
  •  四巻
  • 第六部 文化人類学の方法
    • 序論
      観察と推論/自文化中心主義的偏見の克服
    • 第十二章 野外調査の方法
      研究の目的と実際行動
      • 1 行動の観察
        学問的な事前準備/学問外の事前準備/現地入り/インフォーマントの利用と参与観察/仮説の設定/仮説の検証
      • 2 保存資料の収集
        記憶力は頼りにならない/1 フィールド・ノート(野帳)/2 インフォーマントとの面接/3 系図/4 地域の地図の作成/5 構造化された観察/6 文化的要素一覧表/7 質問紙/8 心理的検査法/9 資料の掘り起こし/10 写真/11 加工品の収集/12 文書記録の収集
      • 3 資料からの推論
        記憶・直感よりもものに即して/言語学的推論/言語の生産性への推論/言語学的記述の文法的規則/民族誌的推論/民族誌としての必要な内容/推論の実行に必要な技能/社会的規則の把握/完全な民族誌的記述/生態学的変数の利用/社会的機能発見の基礎/考古学的推論/推論への考古学者の心構え/先史時代社会構造の推論/新考古学の野心的関心
      • 基本文献 注
    • 第十三章 比較法
      文化人類学の目標達成のために/三つの比較法
      • 1 比較言語学
        言語の変化は規則的である/言語が「親族関係にある」とは/言語年代学/言語の普遍的要素/文化と語彙の関係
      • 2 文化史と文化進化
        「年代-領域原理」/新課題 適応的変化と文化成長の過程/文化の一般的進化と特殊的進化
      • 3 通文化的方法
        癒着 ある慣習と慣習の偶然の共存/機能的関係への相関関係的接近法/相関表による計算/マードックの到達した結論/「文化とパーソナリティ」の研究/未解決の問題五つ/“芸術”にとどまる民俗学的推論
      • 4 普遍的文化要素
        普遍的文化要素の有無/あるとすればどう理解するか/一つの規範の普遍性/価値の普遍的要素
      • 5 人類学者の責任
        その職業上の責任/倫理的責任/学生および一般大衆への責任
      • 基本文献 注
    • エピローグ 人類についての正しい研究
      わたしにもいわせてほしい
      • 1 要約と結語(本書で明らかにしたこと)
        ヒト/文化/言語/社会/適応/信仰と価値/研究方法/強調点/念願
      • 2 文化と自由(わたし自身の声)
        慣例(拘束)の打破/異文化の理解/気楽にやってみよう/真の教養人
  • 訳者解説/訳者あとがき
  • 本書に登場する民族の分布
  • 図版出典一覧/用語解説/索引

【感想は?】

 本書の特徴は、次の三つだろうか。

  1. 「範疇」と「準則」
  2. 文化的相対主義
  3. ときどき皮肉なユーモア

 それぞれについては、次の記事から。

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