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2016年5月20日 (金)

眉村卓「司政官 全短編」創元SF文庫

「理解だと? ほら、そのいいかただ。 これは理解の問題ではない。実感するか否か、それだけのことだとわしらは思う。理解するかどうか、といったものではないぞ」
  ――炎と花びら

「司政官は植民者と原住民の両方を見ている――双面神だが、その双面性をいつまでつづけられるか……」
  ――限界のヤヌス

【どんな本?】

 ベテランSF作家、眉村卓が書き綴った司政官シリーズの短編を集めた作品。

 人類が他恒星系へと進出した未来。当初は連邦軍が先導して多くの惑星を占領・開拓する。いくつかの惑星には知的な原住民もいたが、軍は武力で制圧し、人間の植民者も増えていった。

 やがて植民星の社会が大きくなるにつれ、連邦は開発の主導を軍から官僚へと移し始める。多くの官僚ロボットを引き連れた司政官がそれぞれの惑星へ赴き、原住民と植民者の利害を調整し、植民星の自立と発展を促すのである。

 エリート官僚として連邦を代表する司政官、武力制圧を旨とする軍、自分たちの利害で動く植民者、そして奇天烈な生態のエイリアンたち。それぞれの思惑がぶつかりあう中で調整に苦慮する司政官たちと、時代を経て変質してゆく官僚組織を描く、眉村卓ならではのSFシリーズ。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2008年1月31日初版。文庫本で縦一段組み本文約676頁に加え、児島冬樹の「司政官制度概要」21頁+あとがき4頁+中村融の「司政官の登場」13頁。8ポイント42字×18行×676頁=約511,056字、400字詰め原稿用紙で約1,278枚。上中下の三巻でもいいぐらいの大容量。

 文章はこなれている。内容も特に難しくない。ただ、今読むと、官僚ロボットに違和感を感じるかも。なにせ今は軍用の無人航空機が実用化されているし、身の回りにもコンピュータが溢れ、それぞれがネットワークで繋がっているので、「ロボット」という言葉で想像するモノや性質が、当時とは大きく違う。

 この物語に出てくるロボットは、それぞれが完全に独立してモノを考える。そういう意味では、鉄腕アトムに出てくるロボットに近い。間違っても集合知性なんか持ってない。ただし指揮系統はハッキリしていて、上位のロボットの指示に従って動く。とても我慢強く優秀で忠実だがセクショナリズムに凝り固まった頭の固い輩と思ってください。

【収録作は?】

 それぞれ タイトル / 初出 の順。作品はシリーズ中の時間軸に沿って並べてあり、最初の「長い暁」は司政官制度の初期、最後の「限界のヤヌス」は制度が下り坂へと向かう時期となっている。

長い暁 / SFマガジン1980年2月号~9月号
 数万の島が散在する惑星ミローゼンは孤立した位置にある。連邦も軽視しており、軍も小部隊を置くだけだ。島に住む原住民は閉鎖的で、人類との交流は進んでいない。司政官のヤトウ・PPK・キーンは軍に呼び出された。三時間ほど前に、漂流中の原住民二名を保護したという。駐屯隊長のカーマイン・PSS・ロックボウ=BAは提案する。保護した原住民を故郷に送り返し、これを機に原住民との交流の糸口を作ろう、と。
 冒頭では、発足したての新制度である司政官と、充分な実績がある軍との力関係を説き、圧倒的な劣勢の中で、時として陰険な手口も使いながら主導権を奪く機会を伺う司政官ヤトウのしたたかで野心的な計算をじっくりと描いてゆく。ヤトウの一人称で語られるその内心は、常に権限の拡張を狙う役人の本性がよく出ている。
照り返しの丘 / SFマガジン1975年2月号
 惑星テルセンには大陸が一つだけある。そこを支配するのはS=テルセア、ロボットだ。かつて住んでいた知的生物がテルセアを作ったが、テルセアを残し知的生物は滅びたらしい。大陸には柵で囲まれた大きな森がたくさんあり、その森に知的生物の遺跡が残っているようだ。
 かつて連邦軍は強引に森に侵入を試みたが、テルセアに撃退される。人類との関係は悪化したが、ロボット官僚が根気強くテルセアと交渉し、やっと司政官ソウマ・PPK・ジョウに大陸への上陸を許可した。
 今回のエイリアンはロボット。何かとやりかたが強引なのが軍の性格だが、この話では司政官がその尻拭いをさせられる形になっている。オチはなかなかに皮肉が効いていて、司政官とロボット官僚の関係は、お役所にありがちなアレを模してるんだなあ、とわかる仕掛け。
炎と花びら / SFマガジン1971年10月臨時増刊号
 司政官クロベ・PPK・タイジは、惑星サルルニンに赴任した。時折、星系パトロール隊長がタイジを訪ねてくる。彼の意見は、かつて軍の花形だったカルガイストと同じだ。「もっと積極的に開発を進めろ」と。ここサルルニンにも知的生物がいる、サルルニア。
 エイリアンのサルルニアの生態が、実に奇想天外で魅力的な作品。一応は植物ってことになっているが、同時に鮭のようでもあり、渡り鳥のようでもあり。
扉のひらくとき / SFマガジン1975年7月号・8月号
 定期航路に組み入れられた惑星ゼクテン。連邦軍はこの星を軽視し、それが幸いして開発が遅れ、原住民のゼクセアとの接触もなかった。間もなくゼクセアの定期移動の時期だ。定期運航貨客船の船客の一人が、司政官シゲイ・PPK・コウへの面会を求めてきた。
 これもまた、エイリアンのゼクセアの生態が魅力的な作品。一見、穏やかに見える草原や森林も、よく見ると植物同志が光や水を求めて激しい競争をしてるし、のどかに見えるタンポポにしても、その綿毛の大半は芽吹かずに終わるわけで、生きていくってのは、そういう事なんだろうなあ。
遥かなる真昼 / SFマガジン1973年2月号
 惑星ネネギンは厚い雲に覆われ、雨が降り注ぐ、灰色の昼と暗い夜の惑星だ。赴任した司政官オキ・PPK・ナスカは極彩色の幻覚に襲われる。これは色彩に乏しいネネギンの、いわば風土病だ。そのためか入植者も幻覚の虜となった落伍者ばかりだ。支配種族のネネギアは両生類で…
 これまでの作品では存在感のあった連邦軍は完全に影を潜め、かわりに民間人である入植者がクローズアップされる作品。頑固ではあるが、序列がハッキリしていて、また統制もとれているため、要所を抑えれば制御もできる軍に対し、様々な思惑を抱えた者が群れている民間人のウザさが際立つ。
遺跡の風 / SFマガジン1973年5月号
 惑星タユネインは花が咲き誇り、住む人はその豊かな香りを楽しんでいる。先住種族は遺跡を残して消え、植民者も穏やかであり、ベテラン司政官カゼタ・PPKB・モロを煩わせる問題も少ない。タユネインでの暮らしを楽しんでいたカゼタに、近く客が訪れる。待命司政官の実習生と、巡察官だ。
 この作品集の中では、珍しく平穏な雰囲気の作品。明るく花が咲き誇り、かぐわしい香りが漂う大地と、そこに住む穏やかな人々。こういう所を司る者が、これまた野心も枯れたベテランとなれば、そりゃもう楽園と言っていいんだが。
限界のヤヌス / SFマガジン1974年1月号・2月号
 金属資源が豊かな惑星ガンガゼンには、知的種族ガンガゼアがいる。多くの生物はケラチンと金属が混じった硬い外殻を持ち、定期的に脱皮する。ガンガゼアも表皮が硬化するが、脱皮はしない。硬化した者は<ド>として指導的役割を果たし、寿命を迎える。司政官セイ・PPC・コンダは新しい<ド>の叙任式に出席し…
 ラリイ・ニーヴンの作品に出てくるパク人を思わせる<ド>が魅力的。冒頭の「長い暁」ではお飾りだった司政官が「遺跡の風」では大きな権威となったが、この作品では権威ゆえに煙たがられる存在となっている。ちょっとアメリカ合衆国の建国までの歴史を連想してしまった。
児島冬樹「司政官制度概要」/あとがき/中村融「司政官の登場」

 最後の「限界のヤヌス」で明らかになるように、このシリーズには歴史上の植民地支配を匂わせる記述もチラホラ。人類側も、軍と官僚と民間人で争いがあり、原住民も勢力争いがあるあたり、実に生々しい。組織を描く眉村卓の描写力を、改めて実感させてくれる作品集だ。

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