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2016年5月13日 (金)

大澤昭彦「高層建築物の世界史」講談社現代新書

 本書のねらいは、以下の三点を示すことにある。

 まず一つは、歴史を通して、人びとがどのような高層建築物をつくってきたのかを振り返ることである。時代や地域ごとに、たどっていきたい。

 二つ目は、人びとがどのような動機で高層建築物をつくってきたのかを探ることである。高層建築物にどのような意味を見出してきたのかについて、時代的、社会的背景をふまえながら探っていきたい。

 三つめは、高層建築物の歴史を通して、「建物の高さから見た都市の歴史」を考える事である。建物が作る街並みの高さが都市において何を表現してきたのかについて考えたい。
  ――はじめに

【どんな本?】

 ピラミッド,セント・ポール大聖堂,エッフェル塔,そしてワールド・トレード・センターやブルジュ・ハリファ。大きく高い建物は、その時代や地域のシンボルとなる。

 それぞれの時代や地域には、どんな高層建築物があるのか。いつ・だれが・何のために作ったのか。それはどう使われ、どんな役割を担ったのか。それを作った背景にはどんな事情があり、同時代や後世の者から、どう見られたのか。

 古代のジッグラトから現代の摩天楼まで、様々な高層建築物を訪ね、その背景を探るとともに、それが地域や後世に与えた影響にも目を向け、または高層建築が「建てられなかった」事情にも思いを馳せる、一般向けの解説書。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2015年2月20日第一刷発行。新書版で縦一段組み、本部約399頁。9.5ポイント40字×16行×399頁=約255,360字、400字詰め原稿用紙で約639枚。文庫本なら少し厚めの一冊分。

 文章は比較的にこなれている。内容も特に難しくない。敢えて言えば、錬鉄と鋼鉄の違いか。大ざっぱに言うと、錬鉄は比較的に古い技術で製鉄でき、炭素含有量が少ない。鋼鉄は新しい技術が必要で、錬鉄より多くの炭素を含み、錬鉄より強くて硬い(鉱物たちの庭より19世紀中頃のヨーロッパ製鉄)。

【構成は?】

 流れとしては古代から現代に向かって時系列順に進むが、各章は比較的に独立しているので、気になった所だけをつまみ食いしてもいい。

  •  はじめに
    日常風景としての高層建築物/高層建築物を歴史のなかで見る/本書のねらい
  • 第1章 神々をまつる巨大建造物 紀元前3000年頃~紀元後5世紀頃
    • 1 古代メソポタミアのジッグラト
      ジッグラトとは「神の玉座」や「天へのはしご」/バベルの塔
    • 2 古代エジプトのピラミッドとオベリクス
      クフ王のピラミッド/太陽信仰/神殿を飾るオベリスク
    • 3 巨大・高層建築物の都市、古代ローマ
      パンテオン/凱旋門、娯楽施設/古代ローマは高層アパートが密集した都市だった/高層アパートがもたらした都市問題
    • 4 アレクサンドリアのファロスの大灯台
      旅行記が伝える巨大さ/学術都市と大灯台
    • 5 古代日本の巨大建造物
      前方後円墳/巨大な墓が作られた理由
  • 第2章 塔の時代 5~15世紀
    • 1 中世ヨーロッパの城塞
      土と木でつくられた城/木造から石造へ/領土拡張のための築城
    • 2 ゴシック大聖堂
      大聖堂とは/天井の高さの競争/塔の高さ/ゴシック大聖堂を支えた技術/キリスト教の布教/司教や国王の権威づけ/市民の競争心/建設費用の調達
    • 3 塔の都市、中世イタリア
      貴族間の争いと塔状住宅/シエナやフィレンツェの市庁舎/高さ制限を超えた部分は切り落とされた/塔と景観
    • 4 イスラームのモスク
      モスクとは/ミナレット(光塔)/ダマスクスのウマイヤ・モスク/螺旋状のミナレット/角塔のミナレット/宗教的な対立とモスク/オスマン帝国下で
    • 5 日本の仏塔
      仏塔とは/日本初の本格的仏塔 飛鳥寺の五重塔/国立の仏塔 大官大寺の九重塔/東アジアにおける仏塔の高さ競争/鎮護国家の象徴としての仏塔 東大寺大仏殿と東西の七重塔/信仰の対象から装飾としての仏塔へ/幻の出雲大社
  • 第3章 秩序ある高さと都市景観の時代 15~19世紀
    • 1 ルネサンス都市における高さ
      ゴシック大聖堂の衰退/サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂/中世の城塞都市からルネサンス理想都市へ
    • 2 宗教都市ローマの大改造
      教皇シクストゥス五世によるローマ改造/サン・ピエトロ大聖堂とオベリスク
    • 3 ロンドン大火と都市復興
      五日間続いた大火/幻の復興計画案/建築物の高さ制限と不燃化/セント・ポール大聖堂の再建
    • 4 国民国家の都市改造
      パリにおける都市改造/オスマンによるパリ大改造/都市改造時に実施された高さ制限/ナポレオン一世のエトワール凱旋門/ワシントンD.C.におけるアメリカの理念の表現/ディケンズの皮肉/連邦議会議事堂のドーム問題/ワシントン記念塔
    • 5 近世・近代日本における「都市の高さ」
      天守の誕生と発展/織田信長の安土城/豊臣秀吉の大阪城/慶長の築城ブーム/一国一城令/江戸城と大阪城/再建されなかった天守/城下町における高さ/身分制に基づく三階建て禁止/明治維新後の天守破壊と高さ制限の撤廃/文明開化と疑洋風建築物/銀座煉瓦街計画による街並みの統一/丸の内の赤煉瓦オフィス街「一丁倫敦」/正岡子規が描く400年後の東京の高さ
  • 第4章 超高層都市の誕生 19世紀末~20世紀半ば
    • 1 鉄骨、ガラス、エレベーター
      鉄とガラスの進化/エレベーター技術の発展
    • 2 万国博覧会と巨大モニュメント クリスタル・パレスとエッフェル塔
      クリスタル・パレス(水晶宮)/エッフェル塔/エッフェル塔への拒否反応
    • 3 シカゴ・ニューヨークにおける摩天楼の誕生と発展
      摩天楼の誕生/シカゴにおける高さ制限/摩天楼の中心はニューヨークへ/スカイラインの変化/ウールワース・ビル/フロンティア精神/1916年には高さ制限が/広告塔としてのクライスラー・ビル/エンパイア・ステート・ビル
    • 4 第二次世界大戦前のヨーロッパの超高層建築物
      ル・コルビュジエによるデカルト的摩天楼/ミース・ファン・デル・ローエによるガラスの摩天楼/ヨーロッパにおける高層建築物と高さ制限/大聖堂への眺めを守るための高さ制限/空襲を生き残ったセント・ポール大聖堂
    • 5 全体主義国家における高層建築物
      ローマの歴史的遺産を利用したムッソリーニ/コロッセウムとヴェネチア宮殿を結ぶ直線街路/サン・ピエトロ大聖堂へのアプローチ道路の整備/ヒトラーによる都市改造計画/ヒトラーが巨大さを求めた理由/スターリンによるソヴィエト宮殿/七つの摩天楼
    • 6 第二次世界大戦前の日本の高層建築物
      望楼建築ブームと浅草12階/永井荷風と三越百貨店の高層ビル/丸の内の「一丁紐育」/と100尺の高さ制限/軍艦島、同潤会アパート、野々宮アパート/国家プロジェクトとしての国会議事堂
  • 第5章 超高層ビルとタワーの時代 1950~1970年代
    • 1 アメリカの鉄とガラスの摩天楼
      「中庭・ピロティ+超高層」のレヴァー・ハウス/「広場・超高層」のシーグラム・ビル/容積率制限の導入とタワー・イン・ザ・パーク型高層ビル/「スーパーブロック+超高層」のチェース・マンハッタン銀行本社ビル
    • 2 高さ世界一を競って ワールド・トレード・センターとシアーズ・タワー
      ワールド・トレード・センター建設の背景/ミノル・ヤマザキによる設計案/ツイン・タワーの意味/映画で表現された超高層ビル/シカゴによる高さ世界一の奪取、シアーズ・タワー
    • 3 ヨーロッパの超高層ビル
      100メートル超の高層住宅ペレ・タワー、ヴェラスカ・タワー/ガラスの超高層、ピレリ・ビル
    • 4 日本における超高層ビル
      戦後のビルの大規模化/31メートルの高さ制限撤廃と容積制導入/霞ヶ関ビルの誕生と三菱一号館の解体/新宿副都心の超高層ビル群の誕生
    • 5 西ヨーロッパにおけるタワー
      イギリスのクリスタル・パレス送信塔/西ドイツで生まれた鉄筋コンクリート造のテレビ塔/鉄筋コンクリート造テレビ塔の波及
    • 6 共産圏におけるタワー
      モスクワのオスタンキノ・タワー/ベルリン・テレビ塔
    • 7 北米におけるタワー
      北米で自立式テレビ塔が少ない理由/フランク・ロイド・ライトの幻のタワー
    • 8 日本のタワーブーム 1950~1960年代
      日本の三本のタワー/日本初の集約電波塔、名古屋テレビ塔/東京タワーと正力タワー構想/通天閣/横浜マリンタワー/昭和築城ブームと天守再建
    • 9 高層化がもたらす影 1960~1970年代
      安全性 ロンドンの高層住宅の爆発事故/治安 セントルイス市の高層住宅が爆破解体されるまで/パリの超高層ビルと歴史的景観/京都の景観と京都タワー/東京の皇居濠端の景観をめぐる美観論争
  • 第6章 高層建築物の現在 1990年代~現在
    • 1 グローバル化する超高層ビル
    • 2 アジアにおける高さ世界一の更新
      ペトロナス・ツイン・タワー/イスラーム文化との関係/台北101/振り子型制御装置と高速エレベーター/副都心「信義計画区」の歴史と台北101
    • 3 中国における超高層ビル
      経済成長/国際金融拠点としての上海、浦東新区/北京の変容
    • 4 ドバイとサウジアラビアの超高層ビル
      石油価格の高騰とオイル・マネー/ドバイの象徴ブルジュ・ハリファ/サウジアラビアの1000メートルビル/二聖モスク/メッカ・ロイヤル・クロック・タワー・ホテル
    • 5 ヨーロッパでの超高層ビルの増加
      2000年代以降、超高層ビルが次々に/ロンドン・シティの超高層ビル/パリにおける規制緩和と超高層ビル開発
    • 6 日本の超高層ビルの現在
      臨海部の超高層ビル開発/バブル後の規制緩和と超高層ビルの都心回帰
    • 7 自立式タワーの現在
      東京スカイツリー/広州タワーとスカイツリー/変わる東京タワーの存在/クウェートとイランの電波塔が示すもの/イランの情報統制のためのタワー
  • 終章 高層建築物の意味を考える
    1 権力/2 本能/3 経済性/4 競争/5 アイデンティティ/6 眺め/7 景観
  • おわりに
  • 参考文献

【感想は?】

 書名は「高層建築物の世界史」だが、実際には「都市と高層建築」みたいな内容だ。

 と、いうのも。高層建築物は、都市と深い関係がある。大抵の高層建築物は、都市にあるからだ。そのため、高層建築物は、都市の象徴やランドマークとなる。

 また、都市は、権威や権力が居座る場所でもある。よって、高層建築は権威や権力とも深い関係がある。

 そもそも高層建築物を建てるには莫大な費用が必要なわけで、当たり前の話なのだが、そういった事情もあって、この本では高層建築物そのものに加え、それが建っている都市の政治・行政・経済事情の話もふんだんに入っている。

 最初に出てくる都市は、ローマだ。なんと紀元前からインスラ(→Wikipedia)と呼ばれる「六階から八階建ての高層アパート」で庶民は暮らしていた。増えた人口を収容するためだ。当然エレベーターも水道もないんで、「市民は水場まで水を汲みに行く必要があった」。眺めはいいんだろうけど、かなり不便だなあ。

 中世ヨーロッパでは、教会が高層建築の代表になる。教会が高い建築物にこだわった理由の解釈が面白い。都市住民の多くは多神教の元農民で、巨木に畏敬の念を抱いている。

そこで、キリスト教会側は、失った巨木の森林の象徴としてゴシック大聖堂を建設することで、住民のキリスト教化を図っていったとされる。

 信者獲得用の広告塔みたいな効果も狙ったのね。

 ここでは出雲大社の話も出てくる。その本殿は「平安時代の中期から、鎌倉時代の初期にかけて七回も倒壊したとの記録が残っている」。友森工業古代出雲大社48m復元CG遷宮に、CGで再現した画像があるんだが、確かにあぶなっかしい感じがする。もちっと下半身デブなピラミッド型にするとか、考えなかったのかなあ。

 さて。高層建築物が一つだけなら、それは都市のシンボルになる。シンボルとして定着すると、これは都市に別の影響を及ぼし始める。

 この影響がよくわかるのが、ロンドンのセント・ポール大聖堂(→Wikipedia)だ。SFファンにはコニー・ウィリスの「空襲警報」などでお馴染みの建物。ザ・シティの象徴となったのはいいが、その景観を守るために、今でもロンドンでは高層建築物の規制の基準となっている。

 この根っこにあるのが、「図」と「地」の理屈。低い建物ばかりの所に、一つだけ高い建物があれば、とても目立つ。でも周りに高い建物が沢山できたら、景色の中に埋もれてしまう。都市計画のなかで、そういったバランスを考えながら開発を進めていこう、そういう配慮が、次第に芽生えてくるわけです。

 ロンドンでは市民が中心となって規制を進めたが、日本の江戸時代は対照的に幕府が規制を加えている。このため、自然とお城の天守閣がランドマークとなっていく。こういう都市の景観も、お上にひれ伏す日本人の意識構造に影響を与えたのかなあ?

 やがて産業革命以降に進んだテクノロジーが生み出した鉄筋コンクリートと電気とエレベーターは、より高いビルを建築可能にし、また利用可能にもしてゆく。

「オフィスの仕事と運営を変えつつあったタイプライターと電話の発達がなかったなら、摩天楼は利益をもたらさず、事業としても成り立たなかった」(エドワード・レルフ「都市景観の20世紀」)。

 情報機器も高層化に大きな役割を果たしたんだなあ。

 摩天楼のもう一つの特徴は、民間の資本が作っていること。かつては王や教会など権力者でなければ建てられなかった高層建築物が、民間でも建てられるようになった。と同時に、シカゴやニューヨークではニョキニョキと高さの競争が始まり、スカイラインは一変してゆく。

 ところが、今世紀あたりから、新しい高層建築物が、アジアや中東で次々と建ち始めた。「資本主義経済を導入しつつも、国の関与が強いため、トップダウンで建築が進められていった」。ドバイのブルジュ・ハリファが、その代表だろう。普通に考えたら高すぎて採算が取れそうにないんだが、高い事に意味があるんだろうなあ。

 笑っちゃうのが、イランのミーラード・タワー。イスラム主義のイランじゃ、情報を統制したい。ってんで、1995年に衛星放送受信禁止法を決めた。「勝手に西側の衛星放送を見るな」って法律だ。ところが、コッソリとパラポラ・アンテナを買って衛星放送を見る人が絶えない。そこでミーラード・タワーから妨害電波を出している。ご苦労なこって。

 各章には、同時代の日本の事情も書いてあって、東京タワー誕生秘話とかは実に日本らしいゴタゴタが面白かった。高層建築物を通し、世界に共通する都市の事情と、逆にお国や都市ごとの違いが見えてくる、少し変わった視点から見た歴史と地理の本。

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