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2016年5月17日 (火)

「G. ガモフ コレクション 1 トムキンスの冒険」白揚社 伏見康治・市井三郎・鎮目恭夫・林一訳 1

私たちの世界と同じ物理法則が支配するけれども、古典的概念の適用可能な限界を定める、物理定数が異なるような世界においては、現代物理学がひじょうに長いあいだ苦心して研究した結果、やっと到達した空間や時間や運動の新しく、正しい概念が常識的な知識となってしまうだろう。
  ――はじめに

【どんな本?】

  ロシアに生まれアメリカで活躍した20世紀の理論物理学者、ジョージ・ガモフ(→Wikipedia)による、一般向け科学啓蒙書シリーズの一冊。原書が出たのが1940年~1967年と相当に古いため最新の成果は含まないが、その反面、現代物理学・生物学の基礎となる知識をわかりやすく伝えている。

 この本は二部からなる。Ⅰ部の Mr. Tompkins in Paperback は物理学で、相対性理論と量子力学が予言する奇妙な世界を扱う。Ⅱ部の Mr. Tompkins inside himself では生物学に焦点を当てる。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 成立過程は、少々ややこしい。原書は次の順番で発行した。

  1. 1940年 Mr Tompkins in Wonderland(不思議の国のトムキンス)
  2. 1944年 Mr Tompkins explores the atom(原子の国のトムキンス)
  3. 1953年 Mr Tompkins learns the facts of life(生命の国のトムキンス)
  4. 1965年 Mr. Tompkins in Paperback : 1. と 2. の合本
  5. 1967年 Mr Tompkins inside himself : 3. を加筆訂正したもの。Martynas Ycas と共著。

 この本は、上の 4. と 5. を合わせ、翻訳したもの。4. が Ⅰ Mr. Tompkins in Paperback に、5. が Ⅱ Mr. Tompkins inside Himself にあたる。

 日本語版は1990年4月30日第一版第一刷発行、私が読んだのは1991年11月20日発行の新装版第一刷。単行本ハードカバー縦二段組みで本文約446頁に加え、「あとがきにかえて 私の通俗科学書」4頁。9ポイント26字×22行×2段×446頁=約510,224字、400字詰め原稿用紙で約1,276枚。文庫本なら2~3冊分の大容量。

文章は比較的にこなれている。内容のわかりやすさは、Ⅰ部とⅡ部でだいぶ違った。

 物理学を扱うⅠ部は数式、それも微分方程式がアチコチに出てくるので、まじめに読むとかなり苦労する。が、ハッキリ言って、数式は全部読み飛ばしても大きな問題はない…んじゃ、ないかな。もちろん、私は読み飛ばした、はい。

 生物学を取り上げるⅡ部は、まれに分子式が出てくるぐらいで、かなり読みやすい。面倒だったら分子式も読み飛ばして構わない。

【構成は?】

 Ⅰ部とⅡ部は完全に独立しているので、どちらから読んでも構わない。

  •  Ⅰ Mr.Tompkins in Paperback
  • 第1話 のろい町
  • 第2話 相対性理論に関する教授の講演
  • 第3話 休息の一日
  • 第4話 空間の湾曲、重力および宇宙に関する教授の講演
  • 第5話 脈動する宇宙
  • 第6話 宇宙オペラ
  • 第7話 量子玉突き
  • 第8話 量子のジャングル
  • 第9話 マクスウェルの魔
  • 第10話 陽気な電子群
  • 第10.5話 講演のうち居眠りで聞き漏らした部分
  • 第12話 原子核内の世界
  • 第13話 原子核彫刻師
  • 第14話 真空に穴がある話
  • 第15話 トムキンス氏、日本料理を味わう
  •  Ⅰ Mr.Tompkins inside Himself
  • 第1話 血流の流れに乗って
  • 第2話 筋肉の浜
  • 第3話 左右あべこべ
  • 第4話 遺伝子に会う
  • 第5話 獣番号 遺伝のからくり
  • 第6話 ある航海
  • 第7話 宇宙時計と体内時計
  • 第8話 マニアック 人工頭脳の話
  • 第9話 脳みそ
  • 第10話 湖上の夢
  •  あとがきにかえて 私の通俗科学書
  •  著者紹介・略年譜

【感想は?】

 今のところ、物理学を扱う Ⅰ Mr. Tompkins in Paperback しか読んでいないので、そのこまでの感想を。

 ここでは、前半で相対性理論を、後半で量子力学を扱い、一般の人に親しみやすいように、物語形式で読者を「奇妙な世界」へと案内してゆく。

 主人公はトムキンス氏。初登場時は独身の銀行員だ。若いにも関わらず、いささか毛髪に不自由しているあたりに親しみが持てる(←をい)。彼が物理定数の違う世界へと迷い込み、不思議な体験をした後に、物理学教授が不思議な体験の種明かしをする構成だ。

 この構成はまるきしSF小説とその解説みたいな関係になっていて、SF小説のネタを探している人には実にありがたい形じゃなかろうか。また、トムキンス氏が迷い込む世界も実に摩訶不思議で、うまくアレンジしたらゲームの舞台として使えそうな気がする。

 最初にトムキンス氏が迷い込むのは、光速が極端に遅い町。相対性理論では光速が物理現象に様々な制限を課しているんだが、光はとても速い(真空中で秒速約30万km、→Wikipedia)ため、私たちは相対性理論の効果を体で感じることはない。

 そのため、相対性理論が予言する効果を私たちは不自然に感じるんだが、ここでは光速を極端に遅くすることで、相対性理論の効果を大げさに表現し、不思議な世界を作り出している。

 自転車は速く走るに従い短くなり、ペダルは重くなる。また速く走ると道は短くなり、町の時計に比べ自分の時計は遅れがちになる。長あいだ列車に乗って移動している制動手は孫娘より若く見え…

 いずれもSF者にはお馴染みの効果だ。これに光の波長の変化も加えれば、ずっとカラフルになったんだが。

 それでも相対性理論は連続的な変化なので、まだ体感的についていけるんだが、次の量子力学になると、明らかに人間の直感とは大きく異なる世界になってしまう。有名なシュレディンガーの猫(→Wikipedia)だ。全てが飛び飛びの値で、しかも確率的な話になってくる。

 ここでは、量子論の後半、原子の構造の話が面白かった。まずは電子になったトムキンス氏は、楽し気に原子核の周りを巡るのだが…

 核分裂でアルファ粒子(ヘリウムの原子核、→Wikipedia)が出てくる理由もなんとなくわかった。原子核の形にも安定した形と不安定な形がある。そして「二個の陽子と二個の中性子が結合したアルファ粒子は、きわめて安定」しているので、原子核が割れる場合も、その中のアルファ粒子は壊れないわけ。

 もっと驚いたのが、中性子の性質と中間子の話。

 電気的にマイナスの電子が、電気的にプラスの原子核にまとわりつくのは、なんか納得できる。プラスとマイナスは引き合うからだ。だが、プラスの陽子と電荷のない中性子は、なんで離れないのか。なんと、陽子と中性子には、意外な関係があるらしい。

ニュートロン(中性子)はふつうは白色で、つまり電気的に中性なわけですが、赤色のプロトン(陽子)にかわろうという傾向が強いのです。

 と、この本によると、核内の陽子と中性子は、常に陽電子を交換して、陽子になったり中性子になったりしているのだ。この交換が、陽子と中性子を強く結びつけている。これが湯川秀樹が予言した中間子(→Wikipedia)らしい。

 加速器の形も、私は完全に誤解していた。大型の加速器って丸いから、粒子が円周上を何度も回るんだと思ったら、そうとも限らない。当時は蚊取り線香に近い渦巻き型だった(→Wikipedia)。これだと…

粒子の速度が増してゆくとともに円形軌道の半径、したがって一周軌道の全長がやはり比例して増してゆく。

 渦巻き型の加速器=サイクロトロンは、円の中心から円周に向かう直線状に、粒子を加速する電気装置を置く。粒子は電気装置を通過するごとに加速するが、同時に回る円周の距離も長くなる、そのため、電気装置は一定の間隔で粒子に刺激を与えればいい。

 ところが Wikipedia を見ると、今の大型加速器は円周上で加速するシンクロトロン(→Wikipedia)っが主流らしい。制御技術が進歩したためだろうか。

 光速の遅い町にいったり、電子になったり、日本酒を飲んだりしたトムキンス氏。後半では人体に潜り込みミクロの決死圏へと向かい、彼の冒険はまだ続く。

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