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2016年5月18日 (水)

「G. ガモフ コレクション 1 トムキンスの冒険」白揚社 伏見康治・市井三郎・鎮目恭夫・林一訳 2

「いろいろな動物のジャンプの高さを、そのからだの大きさは問題にせず、同じふつうの物差しで測定してごらんになれば、どんな動物でも地面からほぼ同じ高さまで跳びあがることがおわかりになるでしょう」
  ――第2話 筋肉の浜

「あの人は、自分がこの機械の主人だと思ってるんですが、実際のところは、あの人はこのぼくの召使いにすぎないんですよ」
  ――第8話 マニアック 人工頭脳の話

腹いっぱい食べたニワトリはもうついばもうとしませんが、腹がすいていれば、ふたたび穀粒をついばむようになります。しかし、極端に飢えてくると、穀粒がなくても地面をついばむようになるのです。
  ――第9話 脳みそ

 「G. ガモフ コレクション 1 トムキンスの冒険」白揚社 伏見康治・市井三郎・鎮目恭夫・林一訳 1 から続く。

【どんな本?】

 理論物理学者ジョージ・ガモフ(→Wikipedia)が一般向けに著した、おとぎばなし仕立ての科学解説書シリーズ。銀行員のトムキンス氏が奇妙な国に迷い込み、不思議な体験をする形で話が進む。

 この本はⅠ部とⅡ部からなり、Ⅰ部では主に相対性理論と量子力学を、Ⅱ部では生物学を扱う。Ⅰ部の元本が出たのは1940年、Ⅱ部は1953年といささか古いが、その分、現代科学の基礎になっている話題をじっくり説明してくれるのが魅力。

 Ⅰ部では、奇妙な国から帰ってきたトムキンス氏が、次の章で「教授」に不思議な現象の謎を解いてもらう形式だった。これだと怪奇現象が幾つか続き、その後で解説がダラダラと続く形なので、読者の記憶力が試される。

 だがⅡ部では、その道の専門家がトムキンス氏の旅行ガイドとして随行し、その場で様々な現象を解説する形なので、疑問がすぐ解決するため、かなり読みやすくなっている。

【Mr Tompkins inside himself】

 おとぎ話としては、第1話「血流の流れに乗って」から、相当にぶっ飛んだ仕掛けで始まる。

 なにせ、トムキンス氏が凄まじく小さくなり、自分自身の体の中に入っていくのだ。「ミクロの決死圏かい!」と突っ込みたくなるが、それ以前に、「自分の体の中に入る」って、どういうことだ?

 などと野暮な突っ込みは控えて読もう。

【ヘムとグロビン】

 お約束どおり血管内に入ったトムキンス氏は、赤血球に乗り、ヘモグロビンを調べ、その素材であるアミノ酸(→Wikipedia)とタンパク質(→Wikipedia)の構造へと迫ってゆく。

 アミノ酸というと一種類の物質のようだが、実は様々な種類がある。ところが「さいわいにも、自然はタンパク質分子を作るのにたった20種類のアミノ酸しか使わない」。とすると、アミノ酸が沢山つながったのがタンパク質なのか。

【筋肉聖者】

 次に訪れるのは筋肉の浜。ここでは筋肉大好きな先生が筋肉のウンチクを語る。ここでは科学者が行ったケッタイな実験や作った変態装置が楽しい。

 例えばアリ寒暖計。冷血動物は暑いと活発に、寒いと不活発になる。「海の魚は、温かいメキシコ湾流にはいると、泳ぐ速度がいくらか速く」なる。そこで、アリが歩く速度を測って、気温を測るって仕掛け。

 メカノケミカル・エンジンも笑える。タービンにせよピストンにせよ、熱を仕事に変えるエンジンはエネルギー変換効率に難がある。筋肉はもっと効率がいい。そこで、物質の化学エネルギーを直接仕事に変換するエンジンを考えた。

 コラーゲンは塩類に触れると縮む。そこでコラーゲンの紐を塩水と真水に交互に浸るようにすると、紐は塩水で縮み、真水で塩水を洗い流すので元に戻る。これに滑車を組み合わせると、回転するエンジンがれきる。作ったのはイスラエルのバイツマン研究所(→Wikipedia)の三人の科学者。ねじまき少女の世界だw

 ケッタイな事を考えるなあ、などと思ったけど、渡り鳥はえらく長い旅をするわけで、効率を考えると将来的にはアリかも。

【時間】

 「時間は、ある期間をへだてて、周期的に出発したときの状態に帰るようなできごとによって測られるのじゃ」

 時間と一言で言っても、大きく分けて二種類がある。宇宙時間と体内時間だ。宇宙時間は時計で測る時間で、体内時間は生物の体が持っているリズム。これが狂うと時差ボケになる。ややこしい事に、体内時計は複数あるらしい。ここでは時差ボケの実験をしている。約10時間の時差だと…

反射時間はその日のうちにサイクルを現地時間に合わせるようになり、脈拍と血圧は四日で、手のひらからの発汗は八日間で現地時間に合ったサイクルを行うようになりました。

 個人差はあるにせよ、時差ボケの苦しみは一週間ぐらい続くようだ。

【マニアック】

 第8話では、当時の大型コンピュータが登場する。なんと真空管だ。現代の基準からみると性能は微々たるものだが、ここで語られる原理は今でも通用する事柄が多い。

「ぼくの召使いが、問題をコード化するのに要する時間のほうが、ぼくがそれをとくために使う時間よりもずっと長いんですからね」

 なんてのは、多くのプログラマが泣いて同意する話だろう。それでも一度でもコードが走ればまだマシな方で、たいていのコードは一度も使われずに寿命を迎えたり。それ以前に、問題をキチンと定義する時間のほうが…

 ここではもう一つ、やっと最近になって進歩が見えてきた分野の話が出てくる。「比較的に単純なルールだけで動くシロモノでも、巧く組み合わせれば複雑な事ができるんじゃないか?」という話だ。ここでは機械仕掛けのカメだが、その子孫はルンバだろう。

【脳みそ】

 昔から不思議に思っていた。アメーバみたいな生き物は、脳も神経系も持ってない。でも、動ける。どうやって動いてるんだろう? この謎は海綿が教えてくれた。

海綿には神経がありません。筋肉細胞それ自体が水の化学成分などに敏感で、それらに反応して収縮したり弛緩したりします。

 つまりエンジン自体にセンサーと制御系がついてるわけだ。賢いじゃないか。

【おわりに】

 さすがに出版が古いため、この本では不明となっているのが今では分かっていたり、現代科学では間違いが判明した事柄もある。例えばコンピュータは大型化ではなく小型集積化に向かい、また一か所に計算センターがあるのではなく随所にコンピュータが溢れる方向に向かった。

 とまれ、科学の世界は広い。基本的な事柄をおさらいするには、なかなか役に立つ本だった。

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