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2016年4月29日 (金)

SFマガジン2016年6月号

 鏡の中に現在を見ることはできない。光にも速度があるので、鏡像は過去である。
  ――早瀬耕「月の合わせ鏡」

「井出、人類が触れてはいけない領域などないのだよ」
  ――小林泰三「ウルトラマンF」

 376頁の標準サイズ。特集は前回のデビット・ボウイに続くミュージシャンを取り上げ、「やくしまるえつこのSF世界」として、作品レビュウやイラスト,短編小説など。

 小説は10本。まず連載は連載の夢枕獏「小角の城」第38回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第9回,小林泰三「ウルトラマンF」最終回,川端裕人「青い海の宇宙港」第9回。

 加えてやくしまるえつこ特集のひとつとして北野勇作「ラジオ温泉ユートピア」。単発は早瀬耕「月の合わせ鏡」,上遠野浩平「双極人間は同情を嫌う」,松永天馬「牡蠣の惑星」,トマス・オルディ・フーヴェルト「天地がひっくり返った日」鈴木潤訳,アリエット・ドボダール「失踪した旭涯(しゅうや)人花嫁の謎」小川隆訳。

 特集「やくしまるえつこのSF世界」。囁くような声なので、ライブじゃ苦労するかも…と思ったら、とんでもない。「ミスパラレルワールド」をかけながら、隣の部屋に行った時、奇妙な事に気づいた。スピーカーから数メートル離れるとギターやドラムの音は聞こえないのに、彼女の歌声はキッチリ聞こえる。不思議な声だ。

 北野勇作「ラジオ温泉ユートピア」。辺境の出張所にいる時に、折悪く会社が倒産してしまった。幸いにしてすぐ次の仕事にありつけた。「勤務とは名ばかりで寝ていればいいだけで給料はヒト並みの簡単なお仕事です」。そんな美味い話があるのかと思ったら…

 やくしまるえつこ&北野勇作って組み合わせが謎すぎるが、いずれもどっか正体不明な所があるのが共通しているのかも。相変わらずゆらゆらふわふわな風景が続く芸風で、「いつもの北野勇作か」と思ってたら、そういうオチかw

 早瀬耕「月の合わせ鏡」。もし月に鏡があったら、そこに映るのはいつの自分だろう? そんな事を思いついたのが、この実験の始まりだった。実験の費用をひねり出すため、同じフロアの南雲教授を訪ねる。モニタと小型ビデオカメラはすぐに来たが、肝心のコンピュータ本体は、なんと80年代に作られた有機素子コンピュータだという。

 デビュー作「グリフォンズ・ガーデン」,短編「有機素子板の中」に続く、有機素子コンピュータのシリーズ。ローブナー賞(→Wikipedia)なんてマニアックなネタが楽しい。にしても、この有機素子コンピュータのメモリ・システムは、なかなか魅力的かも。コンパイラをどう作るのか、とか下世話な事を考えると頭が痛くなるけど。

 川端裕人「青い海の宇宙港」第9回。ロケットは次第に形をなしてきた。今までのんびりしてた加瀬さんも、張り切って楽しそうだ。他の大人たちも本気になっている。でも、滞ってる所もある。肝心のセイルが巧くうかない。希美と萌奈美が体育館で悪戦苦闘しているんだけど…

 冒頭のロケットの配管の動作確認から迫真感たっぷり。かなり綿密に取材したんだろうなあ。セイルを広げるのも、簡単なようで、迅速かつ確実に広げるのは難しそう。にしても、燃料の重さを面積で換算するおやじには感服した。こういう風に、別の何かの別の単位に換算しようって発想には、いつも驚かされる。

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第9回。ハンターは<ストレッチャー>を倒し、<ホスピタル>を捕えた。だが、邪魔者は<ストレッチャー>だけではなかった。<天使たち(エンジェルス)>。異様な風体の面々が、動物じみた声を上げながらやってくる。

 落ちぶれ果てたかに見えたハンターの一味クインテットが、逆襲に転じる回。ここ数回の連載はずっとクインテット視点のためか、読んでるこっちもクインテットを応援したくなってくる。肝心のウフコックはほとんど動かないし。にしても、論理的なエリクソンと軽口が止まらないラスティのコンビは見事なミスマッチw

 小林泰三「ウルトラマンF」最終回。暴れまわる闇の巨人たちに、ウルトラマンは…

 最終回だけあって、展開は二転三転。やはり最終回らしくあのお方も登場し、思う存分に暴れまわってくれる。京阪神地域にお住いの読者は大喜びだろうなあ。しかも、ウルトラマンの正体にまで迫るオマケつき。

 上遠野浩平「双極人間は同情を嫌う」。学校からの帰り道、コノハ・ヒノオは視線を感じた。どうも遠くに見える病院らしき建物が怪しい。近づくと、その四階からヒノオを見ている者がいる。ヒノオと同じぐらいの年頃の少女だ。「あんた――あれでしょ、ウトセラのペットでしょ?」

 ブギーポップと同じ世界を舞台に、製造人間ウトセラ・ムビョウと無能人間コノハ・ヒノオを描くシリーズの第三弾。「幼女キター!」などと喜んでいたら、見事に肩すかしを食らった←あたりまえだ。まあ、この人の作品だし、素直な人が出てくるなんて期待する方が間違ってるw

 松永天馬「牡蠣の惑星」。わたしは秘密クラブで先生に出会った。新宿歌舞伎町一番街原子力発電所建設予定地の地下十三階。これから死のうとしているわたしを、先生はスカウトした。「実は僕は君の担任です。今日から君の通う学校を紹介します」

 「ガラス板をシコシコ」だの「PCに描かれた銀の林檎は毒林檎」だの、表現がいかにもこの著者らしい。でも流石に「時の魔法」はこれ(→Youtube)じゃないよなあ。

 トマス・オルディ・フーヴェルト「天地がひっくり返った日」鈴木潤訳。この二日間で、世界は二度もひっくり返った。一度目はきみがこう言った時。「あなたのせいじゃない。わたしが悪いの」。二度目は、カウチに横たわっていた時。天地がひっくり返ったんだ。人々は天井に叩きつけられ、屋外にいた人は空へと落ちていった。

 突然に重力の方向が逆転した世界で、フラれた彼女に金魚を届けようとする青年。終末感漂う世界なのに、主人公がまず考えるのは元恋人ってのが、ちと情けない…と思ったけど、元恋人を妻や娘に置き換えると、まっとうすぎて面白くないよね。

 それ以上に、逆転した世界の描写が圧倒的で、読み終えて暫くは三半規管の調子がおかしくなった。ここまで空間感覚が混乱したのは、クリストファー・プリーストの「逆転世界」とA・K・デュードニーの「プラニバース」以来。乗り物酔いする人は避けたほうがいいかも。

 アリエット・ドボダール「失踪した旭涯(しゅうや)人花嫁の謎」小川隆訳。今日の依頼人は品のいいご婦人だ。金欠の今、払いのいい仕事は歓迎だが、難物の匂いも漂う。依頼は失踪人調査。七日間も返ってこない娘を探してほしい、と。娘は16歳で、婚約者の所にもいっていない。誘拐防止用の追跡インプラントは空きビルに捨ててあった。

 別の歴史を辿った世界を舞台にした、ハードボイルド探偵物。北米西海岸は中国の明が征服し、中米のアステカは明から文明を仕入れてスペインを撃退し、白人の入植はロッキー山脈の東に留まった。世界観は独特だが、物語の形式はストレートなハードボイルド物で、ビンボなお尋ね者だがタフで狡猾な探偵ブルックスの追跡劇は、とっても読みやすい。

 大野典宏「サイバーカルチャートレンド」。今回は、どうやって LIGO が重力波を検出し(→国立天文台の「LIGOによる重力波の直接検出について」)、それがノイズでなく重力波である事を確かめたのか、というお話。とんでもない精度で、よく検出できたなあと感心してしまう。どうやってノイズを取り除いたんだろ?

 長山靖生「SFのある文学誌」ベインのインド・ファンタジー 松村みね子の幻想世界1。英国生まれでインドのデカン・カレッジで歴史学教授を務めたフランシス・ウィリアム・ベインの作品を翻訳した松村みね子の紹介。ベイン氏、インドの古詩という触れ込みで作品を発表したが、実はインドの古典を下敷きにした創作だったって話で始まる。その芸風は…

インドラをはじめシュリー、ヴィシヌス、ラーダなど、お馴染みの神々(魔神、怪物)が登場する。その知識は正確なのだが、カオスの度合いが低く、筋立てが理性的で近代的なのである。

 なんて評されてる。カオス度が足りないんですな。逆に言えばカオスあってのインド…と思ったが、インドに限らず、神話や伝説の類って、原型はたいてい混乱してるんだよなあ。

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