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2016年3月 3日 (木)

SFマガジン2016年4月号

高橋良平「ジャンルというのは極北の傑作だけではいけないんですよ。小学生のためのジュヴナイルもあれば、中高生がいちばん面白がるライトノベルも、大学生が楽しむフィクションもある。だからSFのすべてを同じ物差しではかることなんてできないんですよ」
  ――「早川書房70周年記念カフェ」トークショー採録 ランキングで振り返るSF出版70年
    高橋良平×塩澤快浩

「これではない別の何か」「ここではない別の何か」を求める気持ちを抱きながらも、不安に戸惑う人々の背中をあと一押しするのは、しばしば「かつては○○だった」という物語(神話、偽史)なのだ。
  ――SFのある文学誌 第45回 ファンタスチカ・ジャポニカ 長山靖生

 376頁。特集は二つ。まず2015年の総まとめの「ベスト・オブ・ベスト2015」は、「このSFが読みたい!2016年版」の上位入賞者7人の読みきり作品を一挙掲載。次いで、なんとデヴィッド・ボウイ追悼特集。ミュージシャンの特集なんて初めてじゃなかろか。

 小説は豪華14本。

 特集2015年「ベスト・オブ・ベスト2015」から7本、円城塔「override」,ケン・リュウ「鳥蘇里羆(ウスリーひぐま)」古沢嘉通訳,牧野修「電波の武者」,パオロ・バチガルピ「熱帯夜」中原尚哉訳,谷甲州「スティクニー備蓄基地」,グレッグ・イーガン「七色覚」山岸真訳,倉田タカシ「二本の足で」。

 デヴィッド・ボウイ追悼特集も、ニール・ゲイマン「やせっぽちの真白き公爵の帰還」小川隆訳。連載は夢枕獏「小角の城」第37回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第8回,小林泰三「ウルトラマンF」第3回,川端裕人「青い海の宇宙港」第8回に加え、久しぶりの草上仁の読みきり「突撃、Eチーム」。新連載の酉島伝法「幻視百景」は、あの禍々しいイラストに小文をつけたもの。

 円城塔「override」。イーサン・ハフマンは、世界で初めて思考の壁を破った。それに付き合ったのは吉備正臣だ。光速は理論的に越えられない。だが音速は物理的な制限だし、越えられる。では、思考速度の制限はどっちなのか。

 スペースオペラの書き手は、独自の超光速航法を持っていなくちゃいけない、なんて話をどっかで聞いたが、これはその超光速航法が生まれる瞬間の物語…かと思ったら、やはり円城塔だった。 

ケン・リュウ「鳥蘇里羆(ウスリーひぐま)」古沢嘉通訳。1907年2月。機械馬を連れた五人の男が長白山脈の原生林へと分け入る。そこに鳥蘇里羆がいる。シベリアトラすら獲物とする、獰猛で巨大な羆だ。帝国陸軍は羆の軍事利用を望み、かつて羆に家族を奪われた中松教授を中心に、探検隊を派遣した。

 ドクター中松と伊藤四朗が満州で羆と戦うスチームパンク…ってのは冗談のような、そうでないような。舞台は「デルス・ウザラ」を思わせ、状況は「羆嵐」を思わせる、相変わらずトボけた雰囲気のわりに細かい芸が沢山仕込み、鮮やかなオチまでつけた、ケン・リュウらしい作品。才人だなあ。

 牧野修「電波の武者」。母が告げる。「電波の武者を集めなさい」。そしてルドルフは部屋を出た。電波の武者を探し出し、世界を救うために。そして最初に見つけたのは…

 久しぶりに牧野修を読んだが、今でも彼の作品を読むと頭がオカシクなる←ほめてます。特に終盤のバトルの場面は、体調が悪い時に読むとアッチの世界に引きずり込まれそうで怖い。にしても、「あ、あたためまそか」には笑った。ところでタイトルはT・REXの「電気の武者」と関係あるのかな?あの中じゃ Cosmic Dancer(→Youtube)が好きだなあ。

 パオロ・バチガルピ「熱帯夜」中原尚哉訳。ジャーナリストのルーシーは、水不足で滅びかけているフェニックスに留まり、取材を続ける。今はシャーリーンの仕事を手伝い、郊外に来たところだ。お目当ては、太陽光パネル。

 「神の水」のスピンオフで、ジャーナリストのルーシーが廃品回収業者のシャーリーンと親しくなる話。ポツポツと暗い穴が開く、フェニックスの夜景が印象に残る。

 谷甲州「スティクニー備蓄基地」。火星の衛星フォボス(→Wikipedia)の地底深く、航空宇宙軍が設けたスティクニー備蓄基地に勤務するのは、波佐間少尉とバルマ一曹のみ。近くの軌道上で突貫工事しているためか、最近は異様にデブリの衝突が多い。基地は地下深くにあるため危険はないが…

 めでたく復活した「航空宇宙軍史」に連なる作品で、視点は航空宇宙軍側。軌道上の衝突ってのは相対速度が凄まじくて、それだけにエネルギーも半端なく、危険極まりない。似たような問題は、高層ビル建築でもありそう。やはり土木の谷甲州らしく、「現場あわせ」なんて言葉にも思わずニヤリ。

 グレッグ・イーガン「七色覚」山岸真訳。12歳の誕生日に、従兄のショーンが<虹>アプリをくれた。視覚インプラントを改造し、赤・青・緑の光の三原色以外が見えるようになる。大人でもアプリを入れられるけど、視覚信号をを処理する脳が適応できるのは、若い者だけだ。

 光が赤・青・緑の三原色と言われるのは、ヒの目にある錐体細胞が三種類だから。現実に四種類の錐体細胞を持つ人もいるらしい(→Wikipedia)。一般向けのデジタル・カメラはRGBの三色だけに反応するけど、学術研究ではもっと多くの波長を捕らえるマルチスペクトル・カメラが活躍してる。そういう感覚を持つ人は、どんな世界を見てどんな人生を送るのか。 

 倉田タカシ「二本の足で」。21世紀なかばの日本は、多様な移民で多民族国家となる。ここ二週間ほど大学に顔を出さず、連絡も取れないキッスイを心配して、ゴスリムとダズルは集合住宅を訪れる。あっさりとドアは開き、明るい声が招き入れる。どころか、部屋の中からはにぎやかなざわめきが聞こえ…

 今でも捨て看板は珍しくないが、これが人型になって話しかけてきたら、そりゃウザいよね、などとユーモラスな状況で始まった話は、思わぬ深刻な未来の日本の社会を描き出したかと思ったら、唖然とするオチへと突進してゆく。確かにアレは、しばらくはそういう手に出るだろうし。終盤のスリリングな描写といい、この号では最も楽しめた作品。

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第8回。バラバラに分かれた<クインテット>の8人のメンバーは、それぞれ異なる組織へ潜り込み、組織同士の対立を煽る工作を始める。その間、リーダーのハンターは三匹の犬だけを連れ、命からがら逃げ回っていた。

 前回に続き、<クインテット>が大活躍する話。手玉に取られるギャングたちが可愛そうになってくるから不思議だ。いやヤクの密売や売春や殺人とか、ロクでもない事ばっかやってる連中なんだけどw

 小林泰三「ウルトラマンF」第3回。富士明子は目覚めた。荒野にいる。そして目の前には巨人兵士が現れた。言葉をかける。「わたしは敵じゃないわ」。だが、出たのは地響きのような音だった。巨人兵は撃ってくる。あまり痛みはないが、この調子でダメージを受けたらマズい。

 今回は是非とも映像化を。冒頭だけでいいから←をい。何かと科学的には無理のある怪獣物に、怪しげな屁理屈をつけてどうにかするのも、この作品の楽しい所。ウルトラ・シリーズのお約束の三分間まで守ってくれるとは。

 川端裕人「青い海の宇宙港」第8回。ロケットの打ち上げに向け、宇宙探検隊は動き始める。周太は軌道計算に余念がない。希実と萌奈美は帆の畳み方を工夫している。他にもやる事は沢山あるが、それに頭が回るのは駆だけだ。仕方なく大人を巻き込むべくアチコチに相談するが…

 ジュブナイルのフリをしながら、出てくるネタの濃さはハンパないこの作品、もしかして笹本祐一への果たし状じゃないかと思えてきた。今回もロケット関係が充実しているのに加え、打ち上げ場近くの植生なんて細かいネタまで飛び出す。とことんマニアックなのに、小中学生でも楽しめそうな語り口の柔らかさが凄い。

 ニール・ゲイマン「やせっぽちの真白き公爵の帰還」小川隆訳。解説によると、タイトルはステイション・トゥ・ステイションの一節かた取ったもの。「彼」は何者で、何のために、どこから来たのか。それを夢想するファンタジイ。

 久しぶりの草上仁「突撃、Eチーム」。ヒトの遺伝子地図が完全に解明され、また生まれる前に子どもの遺伝病治療はおろか能力や性格までデザインできるようになった未来。ヒトは誰もが知的で善良になったが、まれに変わり者が生まれてくる。そんな世界で、おれたちEチームは特殊な能力を持っている。

 どう考えても「特攻野郎Aチーム」のパロディだが、どんな凄い能力を持っているのかと思ったら、そうきたかw そんな彼らの最大の脅威が、これまたw はい、いつものユーモラスでテンポのいい草上節です、はい。にしても、「早川書房の金庫には草上仁の未発表原稿が眠っている」って噂は本当だったんだ。

 Media Showcase/Drama 武井崇は、なんとあの「幼年期の終わり」が映像化されたそうな。ただし今は第一話のみの放送で、他の二作品と人気投票で競い、トップになったらシリーズ放送になるとか。制作はどうなってるんだろ?

 「早川書房70周年記念カフェ」トークショー採録 ランキングで振り返るSF出版70年 高橋良平×塩澤快浩。1960年の「国鉄が貨物で配送」って所にピクンときた。今はPDFで地域の印刷工場に送ってるのかな? 鉄道が国を一つにするってクリスティアン・ウォルマーの主張(「世界鉄道史」)を実感する所。

 NOVEL & SHORT STORY REVIEW 七瀬由惟、「今回は、デジタル技術で視覚や聴覚などの感覚が拡張された人類の姿を描いた作品」が中心。そういう技術が普及したら視覚障害者や聴覚障害者はいなくなるね。ジェフ・ヌーン「ピクセル・ゼロ」は金を出せば高解像度の視覚を得られる世界が舞台で、「ピクセルを稼ぐ」って表現が気に入った。

 サはサイエンスのサ 鹿野司。やはり病気で死にそうな目に合ってるってのに、入院して体中にセンサを張られてるのに「今は心電モニタは無線でデータを飛ばすので、コードが少なくていいね」とか、テクノロジー回りの観察に余念がないあたりは職業病かw 私も医者にかかると「お、いいMac使ってるな」とかマジマジと見ちゃうけど。

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