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2016年2月25日 (木)

数式の姑息な読み方

 前の記事の「構造の世界」みたいな理系・技術系の本に数式はつきものだが、世の中に数式が好きな人は少ない。私も数式は苦手だが、幾つかのコツを覚えると、簡単な数式なら少しは楽しめるようになる。私が使っているコツは、だいたい次の4つだ。

  1. 定数は無視する。円周率のπや対数のeは「なかった」ものとする。
  2. 分子が大きくなると、同じ割合で結果も大きくなる。
  3. 分母が大きくなると、同じ割合で結果も小さくなる。
  4. 二乗や三乗があると、変わり方が極端になる。

 例えば、こんな式が「構造の世界」に出てくる。オイラーの座屈荷重を求める式で、柱などを曲げるのに必要な力を示す。ぶっちゃけた言い方だと、柱がどれぐらいの重さに耐えられるかを表す。

P=π(EI/L

 それぞれの記号は、こんな意味だ。

  • P:オイラーの座屈荷重(→Wikiedia)。柱の強さ。
  • E:ヤング係数(→Wikipedia)。大雑把に言うと、柱の材質の硬さ、または材質の曲がりにくさ。
  • I:断面二次モーメント(→Wikipedia)。太さや形などで変わる柱の硬さ。太い柱は硬く、細い柱は弱い。
  • L:柱の長さ

 これを、先の4法則に当てはめよう。

 まず、最初の「π」は円周率で定数なので、無視だ。二乗してるけど、どうせ無視するんだから気にしない。すると、こんな式になる。

P=(EI/L

 少し簡単になった。私は、上の数式から次の事を読み取る。

 Eはヤング係数の意味で、分子だ。そこで第2法則を使うと、こうなる。「ヤング係数が大きくなると、同じ割合でオイラーの座屈荷重も大きくなる」。かみくだくと、「強い柱が欲しいなら、硬い材質、例えば鋼鉄を使え」となる。

 Iは断面二次モーメントで、分子だ。そこで第2法則を使うと、こうなる。「断面二次モーメントが大きくなると、同じ割合でオイラーの座屈荷重も大きくなる」。普通の日本語なら、「柱は太いほど強く、細いほど弱い」だ。

 Lは長さで、分母だ。そこで第3法則を使おう。「長さが大きくなると、同じ割合でオイラーの座屈加重が小さくなる」。工学的には、「大きな座屈加重に耐えるモノが欲しいなら、長さを小さくしろ」となる。もっとわかりやすくすると、「柱は短いほど強く、長いほど弱い」かな?

 Lには二乗の印がついている。そこで第4法則を使う。「長さが大きくなると、オイラーの座屈加重が極端に小さくなる」。私なりの表現だと、「柱はちょっと長くしただけで、すんげえヤバくなる」となります。

 つまりは、出てくる記号(が意味するもの)の関係を掴むわけ。ヒトって、記号を覚えるのは苦手だけど、「お話の流れ」や「人物の関係」を掴むのは得意なんだよなあ。

 などと書いていくと、なぜヒトは数式が苦手なのか、わかってくる。文章だと、上の4パラグラフを使って説明せにゃならんほど多くの関係を、数式は "P=π(EI/L)" だけで表してしまう。それだけ、中身が濃いのだ。少ない文字数に沢山の意味を詰め込んだ、内容の濃い表現形式なんだから、中身を読み解くのに時間がかかるのが当たり前なわけ。

 そして、この「濃さ」が、数式の美しさでもある。散文では4段落も使わねばならない内容を、たった11文字で余すところなく表し、なおかつ、その意味する所については読者のイマジネーションに多くをゆだねてしまう。これほどまでに複雑な事柄を、これほどまで簡潔に表せて、かつ多くの余韻を残す表現を、「美しい」以外にどう評すればいいのか。

 次々と頁をめくっていくのも、読書の楽しみの一つだ。でも数式は、少し読むだけでも、沢山の時間を食いつぶしてしまう。この時間と進捗具合のアンバランスが、数式が嫌われる理由の一つだろう。これを意識して、数式が出てきたら「ここは読み解くのに多くの時間がかかる」と覚悟できれば、数式交じりの本も少しは読む気になれます。

 なお、この手口だと、定数を無視してるんで、実際に計算するには役に立たない。単に、数式が出てくる本でも少しだけ楽しめるようになる、それだけ。こうやって本読みは無駄な知識を貯えてゆく…と言いたいが、私のように脳ミソが劣化してると、読み終える度に内容を忘れていくので、結局は意味がないのであった。

 最後に、どうでもいい話なんだけど。私は最近のスマートでカクカクしててトゲトゲが沢山出っ張ってるガンダムより、昔のズングリムックリで丸っこくて下半身デブなザクの方が、壊れにくくて強そうに感じるんだけど、あなた、どうですか? だってさ、あのトゲって、すぐ折れそうでしょ。

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