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2016年1月17日 (日)

ギレルモ・デル・トロ&チャック・ホーガン「ストレイン 暗黒のメルトダウン 上・下」ハヤカワ文庫NV 嶋田洋一訳

「武器には名前をつけなくてはならない。呼びかけることのできない相手では、信用することもできないからな」

「映画だ。どう終わるかはわかっている。悪役がヒーローと対面し、絶体絶命のピンチに陥る」

【どんな本?】

 「パシフィック・リム」などの特撮映画で有名な映画監督ギレルモ・デル・トロが、作家チャック・ホーガンと組んで発表したホラー・サスペンス・シリーズ三部作の第二段。

 2010年9月24日、ベルリンを出発しニューヨークJFK空港着陸した後、応答を絶ったボーイング777旅客機。その原因はテロでも疫病でもなく、もっと恐ろしい存在だった。当局が原因を把握しかねる間に、同日の日蝕などを利用してソレは機から市内へと広がる。

 突発的な災害と見られた災厄だが、その裏には周到に準備された計画があった。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は The Fall, by Guillermo Del Toro & Chuck Hogan, 2010。日本語版は2012年9月15日発行。文庫本縦一段組みで上下巻、本文約275頁+273頁=548頁に加え、小島秀夫の解説「ギレルモ・デル・トロ監督との出会い」8頁。9.5ポイント39字×16行×(275頁+273頁)=約341,952字、400字詰め原稿用紙で約855枚。文庫本1冊か2冊か迷う分量。

 文章はこなれていて読みやすい。内容も特に難しくない。ただし、続き物なので、できれば前の「沈黙のエクリプス」から読もう。

【どんな話?】

 疾病対策センターのイーフリアム・グッドウェザー(イーフ)は、同僚のノーラ・マルティネスと共に老いたエイブラハム・セトラキアンと出会い、災厄の正体を掴む。だがCDC局長のエヴェレット・バーンズの裏切りにより、凶悪犯に仕立てられ、イーフの忠告は無視されてしまう。

 有害動物駆除業者のヴァシーリ・フェットと共に問題の根源へとイーフたちは迫るが、根絶には至らなかった。絶望的な戦いを続けるイーフたちの前に、意外な者たちが現れ…

【感想は?】

 前作の終盤は、世界の終末を予期させるものだった。このパートでは、敵の周到な計画が明らかになってゆく。

 主役のイーフ君は、更に過酷な運命を背負い込む羽目になる。奥さんのケリーが敵の手に落ち、加えて愛する一人息子のザカリー(ザック)君まで執拗に狙われる始末。

 圧倒的な存在感を放っていた悪役の「マスター」、このパートでは更に恐ろしげな力を見せ付けてくる。前の収容所の場面などでも冷徹で悪辣かつ傲岸な奴だったのが、第二部の終盤に至っては…

 「マスター」の手下も、実に相応しい連中で。徹底した利己主義に描かれていたエルドリッチ・パーマー老は相変わらずの冷酷非道ぶりで、この巻では彼の身勝手さを物語るエピソードが幾つも用意されている。同じ人間であるだけに、憎たらしさに限ればマスターを超えるキャラクターだ。

 といったボスキャラの緊張感漂う恐ろしさもあるが、このパートでは派手な集団戦が堪能できるのが美味しいところ。わらわらと無数に群がって襲ってくる奴らに対し、日頃の鬱憤をぶつけるかのように嬉々として戦いへと突入してゆくのは、前巻でも少し顔を見せた奴に率いられた、意外な連中。

 前巻でも意外な形で登場し、大活躍を見せたヴァシーリ・フェットは、引き続きここでも活躍してくれる。既に彼の仕事だったネズミ退治は完全に失業状態ではあるものの、鍛えたハンターの腕は更に磨きがかかり、戦闘場面では最も頼りになる戦士へと成長してくれた。何かと気持ち的に不安定なイーフとは対照的。

 やはりフェットが得意とする戦場である地下は更に広がり、ニューヨークの複雑な地下鉄網を舞台として、意外な展開を見せてくれる。古くから発展した街は、どこでも似たようなモンなのかもしれない。

 メキシコ出身のギレルモ・デル・トロながら、前巻では不良のガスことオーガスティン・エリザルディが出てくる程度で、かなり「控えめだったのが、このパートではだんだんとメキシコならではの味が染みてくるのも嬉しいところ。そう、上巻の終盤で登場する銀の天使ことアンヘル・グスマン・ウルタード。

 元はプロレスラー。といっても、ただのレスラーじゃない。メキシコじゃプロレスが大人気で、国民的な娯楽だ(→Wikipedia)。その大きな特徴は、レスラーの多くがマスクを着けている点。アンヘルもご多聞にもれず、「銀の天使」として大人気を博していた。ばかりでなく、多くのアクション映画にも出ているのがメキシコ流。

 こういう融通無碍なところがメキシコ風というか、日本じゃ仮面ライダーや戦隊物のヒーローの役割りを、メキシコじゃプロレスラーが演じているらしい。大昔に流行ったカンフー俳優みたいな立場なのかな?

 が、しかし、膝を壊して肝心のリングに上がれなくなり、落ちぶれ果てて流れ着いたのがニューヨーク。今じゃ…と、登場場面では悲惨な姿を晒すが、そこはそれ。やはりメキシコ出身のためか、ちゃ~んとアンヘルの見せ場も終盤に用意してあるから嬉しい。いやあ、こういう、過去を背負った男の一発勝負ってのは、最高に燃える。

 そんなアンヘルと共に、年寄りの執念と底力を見せ付けてくれるのが、エイブラハム・セトラキアン老。

 前巻では彼の生い立ちが簡単に語られたが、ここでは更に血塗られた運命が明らかにされる。なぜ彼が執拗にマスターに執着するのか。いかにして奴らの秘密を掴んだのか。奴らを追いつめ、戦う中で、どのように変質していったのか。そして、彼が求める古文書「オッキド・ルーメン」には何が書かれているのか。

 ヒタヒタと絶望が迫ってきた第一部を受け、第二部ではド派手なバトルが展開し、一気に動きが活発になる。敵が用意した周到な計画に対し、イーフらに対抗策はあるのか。第三部が楽しみだ。

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