SFマガジン2016年2月号
戦場に人間の出る幕はない。
――ジェイムズ・L・キャンビアス「契約義務」中原尚哉訳「いやなことがあっても、これも話のネタになると思えば、やり過ごせちゃうんです」
――早瀬耕「有機素子版の中」
376頁。今回の特集は三つ。まずは映画「スターウォーズ/フォースの覚醒」公開にあわせ、スターウォーズ特集。次もやはり映画「オデッセイ」公開にあわせ、「『オデッセイ』と火星SFの系譜」。そして冲方丁 PRESENTS 新人クリエイター発掘企画として、「冲方塾」小説部門マルドゥック・コース優秀作10編を掲載。
小説は読みきりが2本、ジェイムズ・L・キャンビアス「契約義務」中原尚哉訳と、早瀬耕「有機素子版の中」に加え、連載が川端裕人「青い海の宇宙港」第7回,夢枕獏「小角の城」第36回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第7回,小林泰三「ウルトラマンF」第2回。
スターウォーズ特集。堺三保のアメリカン・ゴシップ特別編では、ノベライズを手がけたSF作家をリストアップしてるんだが、中には「この人に書かせて大丈夫なんだろうか」と思うような人も。グレッグ・ベアは変な設定を持ち込みそうだし、テリー・ビッスンは田舎の片隅でのんびりしそうだし、K・W・ジーダーに至っては…
ジェイムズ・L・キャンビアス「契約義務」中原尚哉訳。太陽系の惑星系に人類が進出した未来。ヤマダ大尉と六体のロボット兵機は、作戦開始に備え目覚め始めていた。目標はアンファ・ハビタット、直径1kmの巨大な球形をしている。金星を60度先行した軌道上にある。輸送船を装って接近したヤマダ大尉らは…
現在でもドローンは自律的に航路を選べるし、シリアやアフガニスタンでは無人航空機が空を飛び偵察や攻撃を請け負っている。イージス艦やF-22ラプターなどは戦場の情報を多数の兵器で共有できる。この調子で宇宙用の兵器が進歩したら? なんて発想の作品。メカ視点の描写がクールで気持ちいいと感じる私は変態かもしれないw
川端裕人「青い海の宇宙港」第7回。周太がもどってきた。駆たちが夏休みの話をすると、「ずりー!」と文句をいいっぱなし。久しぶりに宇宙探検隊の四人が周太の家、岩堂エアロスペースに集い、屋根の上で天体観察を始める。今日は、ハイタカ3の地球スイングバイの観察だ。
今回は「計算」の話が面白かった。軌道脱出速度のように、ある程度は微分方程式で簡単に解ける問題と、三体問題に代表されるように、シュミレ-ションで近似的に解くしかない問題と。今使えるロケット・モーターの能力と、持ち上げる荷物の質量がわかれば、どんな軌道に投入できるかという工学的な問題が、綺麗に解が出るのに対し、宇宙に出た後の軌道という物理学的に解けそうな問題を、モンテカルロ法とニュートン法を組み合わせた泥臭い手法でやってるとは。
小林泰三「ウルトラマンF」第2回。実験の事故に巻き込まれてしまった富士隊員は、隔離検査室に閉じ込められる。目覚めた富士隊員は大声で呼びかけるが、何の返事もない。体にはモニター用のケーブルが多数取り付けられている。それらを外して歩きだそうとするが…
当時の怪獣物番組は勢いで作っているような所があって、真面目に考察するといろいろと困った点が出てきてしまうのは、「空想科学読本」でネタにされている。が、そこを何とか理屈をつけて辻褄を合わせようとする、この作品の姿勢が楽しめる回。体積と体重の問題も、思わず「そうくるか~」と唸ってしまった。
冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第7回。バロットは、自分の将来に向け前向きに歩き始めている。だが、同じ頃、ハンターも着々と計画を進めていた。新たに仲間に迎えた者たちも含め、メンバーに五段階のステージから成る計画を説明する。その第一段階は…
マルドゥック市の裏社会に、突然出現した<クインテット>と、そのリーダーであるハンター。彼が何を望みどこを目指しているのか、その一端が明らかにされる回。沈みがちなイースター・オフィスに比べ、<クインテット>の描写は自信と希望に満ちているのが皮肉で、おもわずハンターを応援したくなるから困るw
続く「冲方塾」小説部門優秀作10編は、マルドゥック・シリーズの二次創作を集めた特集。うち前の七編は真面目にシェアード・ワールドした作品なのに対し、後ろの三篇はメタがかかったもの。
私が一番気に入ったのは坂堂功「マルドゥック・スラップスティック」。タイトル通り、阿呆なアイデアで突っ走るギャグ作品で、毒づくバロットに大笑いした。加えて、この作品独特の"/"で区切る文体も、「こう使うか~」と妙に納得w にしてもウフコック、何集めてんだw 続く渡馬直伸「マルドゥック・クランクイン! ―if―」も、「こう料理するかー!」と発想に感心。
鹿野司「サはサイエンスのサ」。「電気で生きる生命を発見」なんてニュースを元にしたコラム。この発見にも驚くが、電気生物が持つ「電極タンパクをもつ細菌はありふれて」いるってのも驚き。とすると、木星の大気中にもケッタイな生物がいるかもしれない。
早瀬耕「有機素子版の中」。ぼく北上渉は、下関駅から釧路へと向かう寝台列車で、彼女と出会った。尾内佳奈は、左手の薬指に包帯をしている。バー・タイムの食堂車で相席となり、共に食事をしている時、思わぬ失言をしてしまう。「つまらない」
「グリフォンズ・ガーデン」の後日譚。恋人たちの会話が独特だった「グリフォンズ・ガーデン」に、見事な設定を仕掛けた作品…と書いた時点で、既にネタバレしちゃってる気がする。にしても、日本で長距離の列車旅行をしようと思ったら、こういう特別なルートにしないと難しいのは、便利なような寂しいような。
長山靖生 SFのある文学誌 第44回 『浮城物語』をめぐって 政治小説の終わりと近代文学のはじまり。明治の議会開催をきっかけとして、活発に出版された政治小説群に対し、坪内逍遥の「小説神髄」に端を発した純文学側の批判。こういう構図は直木賞vs芥川賞とかニューウェーヴvsLDGとか、アチコチで見られるんだよなあ。そもそも、創作物に一つの普遍的・絶対的な評価基準を当てはめようとするのが間違っていると私は思うんだが。
鳴庭真人 NOVEL&SHORT STORY REVIEW 宇宙SF。「恒星間航行を扱った作品に贈られるカノープス賞」なんてのが始まったのか。楽しみだなあ。今回のネタの一つは、それにノミネートされたアレックス・シュヴァーツマン「アルカディアへの競争」 The Race for Arcadia、なんとロシア出身の作家。ついにロシアから本格的宇宙SFを書く作家が出てきた!
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